2章 15話 嫉妬の卵
自分でも書いていてよくわからない回になってしまった気がします。
一応書く内容は決まっていたので主軸からは逸れてはいません。
その後も散歩を続ける。
布製品の店は店員が変わって当たりだったが、その他の店は前回来たときと何ら変わることはなかった。
シスが革製品が欲しいと言いだしたので、店に行き追加で革製品と毛皮を購入した。
まだ冬には早いが、夜が冷えるときもある。ダンジョン内にいると俺やシスは気温の影響を受けることはないので、寒くなることなどないのだが、外に出るときは必要になるのであって困ることはないだろう。
店を出た後で誰にも見つからないようにシャドウボックスの中に入れる。
最初は無意識に使ったシャドウウィップもイメージするだけで使えるので、シャドウボックスに手を入れる必要もなく非常に便利だ。
しかし今度は出て欲しくないときに出てしまうと言うことが不安に感じてしまうようになった。
革製品の店を出て大通りを歩いていると、一人で歩いているヒルダを見かけた。
「やあ、ヒルダ」
右手を挙げて声をかけたが、ヒルダは少しだけ顔を背けてそのまま歩いて行ってしまう。
「無礼な女ですね」
「何か理由でもあるのだろうか。まさかとは思うが、
レオンに見張られているのか?」
ヒルダにあのような態度をとられることに身に覚えがない。何かしただろうかと考えるが全く思いつかないため一旦置いておくことにする。
もしかすると、現状で知り合いであることがバレることによくないことがあるのかもしれない。
そのようなことと思うことにする。
そしてそのまま夜になるまで買い物をつづけた。
(サトルって、昨日は一人で宿に来てたのに朝はメイドと一緒に朝食を……。
昨日の夜に連れ込んだのかな? 私と話した後ってこと?
もしかして同衾してたとか?!)
ヒルダは先ほど見かけたサトルに対し想いを巡らせる。
そば仕えのメイドを宿に連れ込む、そういう貴族が多いのは間違いない。特に傍仕えのメイドが美しければ美しいほどそういう可能性が高い。
(んーでも、サトルってそういうキャラでもないし、実際どうなんだろう。
声掛けられたのに無視しちゃったから、直接は聞けないし会いづらいし……)
さっき、出会い頭にとってしまった態度が今になって悔やまれる。
出来るだけ冷静に勤めて、遠回しに聞けば済んだかもしれなかったのだ。
ヒルダは大通りを歩きながら複雑な表情をしている。通りすがりの人たちが何事かとヒルダを見ているのだが、ヒルダ自身は見られていることに全く気付いていない。それほど盲目になっていた。
とりあえずこれ以上考えても仕方ないし、見たい店は全て行ったため来てくれたエリスに会いに行くことにした。
ダンジョンに閉じ込められた後、エリスは一度宿屋に尋ねにきてくれたがこちらから会いに行ってはいない。今回、聖騎士団としての役目で来ているためエリスは高額な宿を使えず、ヒルダよりランクを落とした宿に泊まっていた。
宿に着くと、宿の裏から何かを振るう音がしたのでそちらへ行ってみる。
そこには広めの庭があって、そこでエリスがかなりの軽装でバスタードソードを素振りしていた。
下は軍属の修練着だったが、上はノースリーブである。
「エリ姉!」
流石にその恰好を見咎めてエリスに声を掛ける。
「おお、ヒルダか。体調は大分よさそうだな?」
素振りを一旦止めて、エリスが剣を地面に突き刺す。
右手で髪をかき上げると汗の珠が弾けた。
「なんて恰好で素振りしてるの!
ここは王都じゃないんだよ?」
「実は素振りの後に水浴びもしようと思ってな。
ちょうどいい恰好だろう?」
エリスのあまりの無頓着さに呆れ、深いため息をつく。
自身がどれだけ周囲の注目を浴びているかと言うことを理解していないせいで、今回のような行動を王都でもたびたびするのだ。
聖騎士団の中でも、目の保養……いや、目の毒だと言う者がかなりいることがヒルダの耳にも入っている。
「あのね!
エリ姉がそんな姿でいるから、周りの人たちが
困って視線を逸らしてるんだよ? 少しは恥じらわなきゃ」
「む?
そうだったのか。てっきり聖騎士の修練が珍しくて
見ているのだと思っていたのだが……」
ヒルダに言われて初めて気づき、周りを見渡して剣を持ってない方の手で胸を隠す。
先ほどと今の行動のギャップがあり、とても可愛いしぐさであるのだが、今そんなことを話している場合でもない。
「とりあえず部屋にはいろ!
水浴びは無理だけど、お湯で体を拭くくらいならできるし」
そう言ってエリスの腕を掴むと宿の中に引っ張った。
「すいません、部屋にお湯持ってきてください!」
ぶっきらぼうに宿の店主にそう言ってエリスの部屋に向かおうとすると、
「待て待て。
そんなに急がなくてもいいだろう。
一体どうしたんだ」
ヒルダがエリスのためにやっている行動を、そのような言葉でエリスにないがしろにされてしまった。
そのため無意識に更に深いため息をついてしまった。
「あのね……。
エリ姉は全くわかってないんだけど、とても美人さんなんだよ?
男性がえっちな視線で見てるんだからね?
もっと身だしなみとかに気を使わなくちゃ!」
「フフ。
お前はそう言ってくれるが、そのような言葉は
家族からしか聞いたことがないからな。
信憑性がないぞ?」
「あーもう!」
誰だエリスをこんな風に育てたやつは! という気持ちで憤慨する。
しかしそんなところがヒルダがエリスを好きな理由の一つでもあるのだが。
「今後は、外でやるときは最低限修練着だから!」
「王都にいるときもやっていたことなのだがな……」
「王都でも修練着以外禁止!!」
そんなやり取りの後、どちらからともなく笑い出す。
二週間も離れていたわけではないのだが、久しぶりのやりとりに和やかな気分になった。
部屋のドアが叩かれ、小間使いの者が湯の入ったタライを持ってきた。
エリスの代わりにヒルダがそれを受け取ると、小間使いの者に銅貨一枚をチップとして渡す。
渡された小間使いの者は、驚きの表情をしたが、すぐに戻ってありがとうございますと深々とお辞儀をしてきた。
ヒルダは当たり前のようにチップを渡したが、一般の宿ではチップ等必要としていないことを忘れていた。
「エリ姉、私が後ろを拭くね」
ヒルダがそう言うと、ありがとうとエリスは伝え、ノースリーブの服を脱ぐ。
布をお湯につけ、エリスの肌を傷つけないように優しく布で汗を拭いていく。
エリスは性格とは裏腹にとてもきれいな肌をしており、髪もとても細くそしてなめらかだ。
腰まで伸びているのがとても似合っている。
(私も髪の毛を伸ばしたらもっと……)
エリスの背中を拭きながらそのようなことを考えてしまうのは、先ほどのサトルの件があったからだろう。
今考えても仕方ないと思い、すぐに頭から消す。だが、完全に頭から消し去れていなかったのだろう。背中の拭き方に何かムラが出てしまいエリスが気づいた。
「ヒルダ? 何か心に陰りがあるな。
どうかしたのか」
聖騎士団に入ってからヒルダとエリスはずっと仲良かったこともあって、考え事などをよくエリスに見透かされていた。今回もそうだった。
ううん、なんでもないの。と言うと、そうか。とだけエリスは答えた。
(ごめんね、エリ姉。いつか言うから)
そう心の中でエリスに告げた。




