2章 5話 続 邂逅
今回、サトルとヒルダの対面を第三者視点(主にシス目線)で見ると言ったことのために、文章を少しだけ変えています。
ヒルダが目の前に突如現れた青年を呆然と見ていた状態から元に戻る。そして、改めてもう一度観察する。
納戸見ても自身と同じくらいの年齢にしか見えない。その際に、えっ? 人っ?! 男の子ぉっ!? と思わず口に出してしまったものだから、せっかくの対面も無駄になってしまう。
実は、ヒルダの反応はごく普通のものだ。この世界の常識では、ダンジョンは自然と発生するものでかつ人などの生物がコントロールするものではないからだ。
さらに、現れたのが年も若い青年と言うのがよくなかっただろう。魔法使いとしては年を負っている方が熟練者であると言うイメージが強いこの世界では、やはり中年や老年の男性であるほうがこういう場にはふさわしいし貫禄も出ると言うものだ。
それが自身と同じ青年の人物であったから、ヒルダは先ほどまでの畏まったような態度を一切やめて砕けた言葉遣いになってしまっていた。
そんなヒルダ言葉を聞いて、サトルが馬鹿にされたような気持になったのも仕方ないだろう。
本来、サトルは自身を低く見られることについてはあまり気にしない。しかし、明らかな手のひら返しがあった後では流石に思うところがあると言うものである。
「なんだよ」
サトルがぶっきらぼうにそう言うと、言われたヒルダの方は自分が態度を変えてしまっていたことに気づいたが、目の前の年齢の近そうな青年との間にそこまで上下の関係などないとどうしても思えて、つい言い返してしまう。
「あ、あなただって私と同じくらいの年じゃない。
言葉くらい、い、いいじゃないの!」
「確かに年齢は同じくらいだ。
つまり、この国の貴族は見た目の違いで態度を
変えるんだな?
俺を侮っているから言葉遣いを変えたんだな?」
「そ、それは……」
実際にヒルダがやってしまったミスをはサトルに突かれ、たじろいでしまった。しかし、ヒルダもこのままではいられない。
「だってしょうがないじゃない!
まさかダンジョンに人がいるなんて思わないもの。
あなただってさっさと出てきたら良かったじゃないの!
そうすればこんなことにはならなかったかもしれないわ。
それとも何? 出てこれないやましい理由でも?」
言い返しが言い合いに発展しまう。
そんな中、ヒルダとサトルを見ていられなかったシスが部屋に手にしてきて、二人の間に割って入った。
「そこの騎士! サトル様に命を救ってもらった身の上で
なんてことを言うのですか!
如何なる事情があろうとも、救ってもらったことは事実。
命を救ってもらった相手にそのような態度、貴族として
恥ずかしいと思わないのですか!」
急に現れたシスにメイド!? と驚くヒルダだったが、サトルとの口論で急激にヒートアップしてしまったため、謝罪をするところか今度は矛先をヒルダに向けた。
「命を救ってもらったって、そもそもこんなダンジョンを
作らなければ救ってもらう必要もなかったのよ!
そこんところ、どうなのよ!」
今度はシスとヒルダの言い合いになる。
他人が興奮して言い合っている姿を見てサトルは冷静になった。とりあえず一息ついてから、二人にまあ落ち着け。と声を掛けると、
「「あなたは(サトル様は)黙ってて!(ください!)」」
二人がハモって言い返してきた。そしてさらに言い合いを続ける。
女性特有の高音の言い合いを聞いて、いい加減頭が痛くなってきたサトルはもう一度深呼吸をしてから、大きな声で、
「二人ともうるさい!」
二人は急に隣から大きな声を発されて、流石に言い合うのをやめた。目を大きく開き、サトルの方を見てきた。
言い合いしてても仕方がないので、ちゃんとした話し合いの場を設ける必要があると思ったサトルは、イスを2つ作成し1つに足を組んで座る。
目の前のが何もないところからイスを作り出した。その事実にヒルダはここ一番の驚きを見せた。どうやったのかが気になってしまう。
「自己紹介をしよう」
イスに座ったサトルがそう言い、シスとヒルダの二人とも我に返って椅子に座った。
ヒルダはさっきは言い合いの結果ああ言ってしまったが、助けてもらった恩はちゃんと感じていたので、まずは自分からと自己紹介を始めた。
「聖騎士のヒルダです」
続きを言おうとしたところで、
「「知ってる(ます)」」
サトルとシスの二人に自己紹介を止められてしまった。
思えば、先ほど一生懸命自分のことを話した後だったのだ。顔を赤くして下を向いてしまう。しかし、二人とも自分のあの長い告白とも言える話をしっかり聞いてくれたんだと思うとほんの少しだけ嬉しい気分になった。
サトルが自己紹介をする。
「サトル・サウザンツだ」
それだけ言って一旦止める。
本来ならヒビキサトルと名乗るところだが、せっかくなので前回シスと決めた自称貴族の名前を名乗ることにした。
そして、この後自身がダンジョンマスターであることを告げるかどうか迷っていた。
迷っている最中に、自己紹介を止めてしまったことに疑問を持ったヒルダが上目遣いでこちらを見てくる。
ヒルダはサトルに全てを話してくれたのだ。その思いにも応えたいと思い、改めて言い直した。
「サトル・サウザンツ、ダンジョンマスターだ」
自身の秘密を打ち明けたサトルだったが、ヒルダはダンジョンマスターと聞いても意味がわからないらしく、キョトンとしている。
それもそのはず、ダンジョンマスターと言う存在はこの世にサトルしかいないのだ。今までなかった者のことを誰も知るはずなどない。
サトルはそれに気づかなかったので、シスがこっそりと小さな声で促した。
「サトル様、この世界でダンジョンマスターはあなた様のみの
呼称ですから、この世界の人に話しても通じませんよ」
ようやく気づいたサトルは、ダンジョンマスターの説明から1から始めた。
ダンジョンマスターとは、ダンジョンを成長させ、モンスターを召喚し、冒険者をダンジョンに呼び込む。侵入してきた冒険者や倒されたモンスターによってダンジョンマスターは成長し、更に強いモンスターを召喚し、宝物を設置してまた冒険者を呼び込む。そうして成長していく職業のことだ。ダンジョン内であればあらかたのことはできる。と伝える。
先ほど椅子を作成したのもダンジョンマスターの能力だと知ったヒルダは目を輝かせていた。
ヒルダはサトルの話を聞いて、人間のためにコントロールできるダンジョンと言う認識を持った。
なぜなら、今のサトルからは善意しか感じなかったからだ。言い合いをしてしまったが、誠実であることはわかるからだ。
ただし、1点だけ気になることがある。このダンジョンでとある冒険者のパーティが全滅している。それについてはどう思っているのだろうか。サトルには隠された本性と言うものはなさそうだが、聖騎士として確認しなければならない。そう思い、口を開く。
「ね、ねえ……このダンジョンで全滅したパーティのことは、
どう思っているの?」
サトルは少しだけ考えた。全滅させらえたパーティと言うのは犯罪者だらけのあのパーティのことだろう。事前の噂や、ダンジョン内での会話,データの結果から、間違いなく殺人をおかしていた。
そのことを漏らさず全て伝えてやると、ヒルダはほっと安心してした。
ヒルダ自身はあの冒険者パーティのことは冒険者ギルドから聞いていたが、犯罪者と確定していることは知らなかったし、サトルはそれを知らずに全滅させていたかもしれないので、確認は必須だった。
今度はサトルが聞いた。
「ダンジョンマスターとしてのことをさっき説明したわけだけど、
俺はダンジョン内のモンスターに決して人を殺させようとはしなかった。
君は、どうして会話が成立するモンスターを全て倒してしまったんだ?
ゴブリンロードが死ぬ前に、君にも聞こえる声を出していただろ」
サトルの質問にヒルダが眉をひそめた。
サトルには聞こえていたゴブリンロードの最後の言葉は、ヒルダには聞こえていなかったからだ。
「え? ゴブリンロードは、ずっとウゲエとか、グエエみたいな
うめき声しかあげてなかったけど……。
少なくとも、私には会話できるようには思えなかったわよ?」
ゴブリンロードの声が聞こえていたのは自身とシスの二人だけだった、その事実を聞いて……ゴブリンロードを倒されたことへの感情に区切りをつけた。この感情の向く先は誰かであってはいけない。ゴブリンロードへは、感謝を持って今後を生きていくことを決めた。
安心して話せるようになったこの青年との出会い方の悪さはなんだったんだろう、と思うように二人は好意的な感情をお互いに持っていた。
以前、世界観を知りたいと言う話を頂きましたので、10話以内に世界観についてのことを書きたいと思います。




