2章 2話 安否
おそらく、10話までに盛り上がる部分があると思うので、その話の時には思い切り長く書こうかなと思っています。
領都に早馬が到着した。ヒルダがダンジョンで生死不明の判断をされて、その日の夜のことである。
早馬に乗った者は、ずっと駆けていたため馬共々疲労の限界であった。だが、領主に伝えるまでは倒れるわけにはいかない。
領都の門兵に支えられながら、領主の部屋へと案内されていた。
「ヴィム様、村から早馬にて緊急の連絡があるそうです!」
領都付きの近衛騎士の一人がドアの前で言う。
レオンと共に領内の事業について話をしていたヴィムは会話を止めて、入れと告げた。
ドアが開き、近衛騎士と疲労の色が見えている兵士が入っている。
「何事だ。」
ヴィムがそう言うと、兵士は騎士に支えられたまま話した。
「聖騎士ヒルダ殿がダンジョン内で落とし穴に落下し、
生死不明!ダンジョンは未だ健在で残された者では攻略さえ
おぼつかない状況です。是非、ご助勢を!」
それを聞いたヴィムが執務机を激しく叩いた。あまりの音に部屋にいた全員が黙り込んでしまう。
机を叩いたヴィムの右腕は震えていた。呼吸も荒い。
その後、兵士に向けて叫んだ。
「なぜ娘の無事が確認できないんだ!言え!」
兵士が全ての根源であるかのように、怒りを滲ませた目をして言う。
問われた兵士はヴィムの怒りに恐怖を感じながら、それでも連絡すべきことを伝える。
「お、お供の騎士の皆様も撤退の最中だったようでして・・。
聖騎士殿が落とし穴に落ちる姿を見たのは遠目だったようで
それ以上確かめることができなかったそうです。」
まだヴィムの怒りは収まらない。流石にこのままでは話が進まなそうだと思ったレオンが口を挟んできた。
「父上、私が行って参ります。近衛騎士を5人ほど連れて行きます。」
そう言うと、すぐ準備しなければならないため頭を下げてから部屋を退室する。
「客間にて休んでもらえ!!!」
ヒルダの助けにはレオンが行った。これ以上の最善策等ないので、後はレオンに任せるしかない。
ただ、まだ怒りの収まらないヴィムは兵士への対処についても怒声を上げてしまった。
兵士を連れて来た騎士共々、おびえたように頭を下げてかた部屋を退室する。
ヒルダを溺愛するヴィムにとって、今日ほど聞きたくない話はなかった。
部屋を退室したレオンはすでに準備を始めていた。
まず最初に、村に向けて早馬を飛ばす。村にはヒルダが連れて行った騎士達がまだいるだろう。今から馬を飛ばせば、明日の夜には到着する。そのことを伝えるためだ。
次に近衛騎士が滞在する棟に行き、自分の部下から攻撃に特化した者を5名選ぶ。この選択には理由があった。
今回、ヒルダを救出することが目的となる。すでに生死不明であるから、いつも通りにじっくりとダンジョンを攻略する時間などはない。であれば、攻撃力の高さで被害を顧みずに進むしかない。そのための選択だった。
最後に、補給の確保だ。
被害を顧みずに進むならばポーションが大量に必要である。でなければ死ぬだけである。
レオンは持ち出せるだけのポーションを供の騎士に渡す。そして食料である。保管されている携帯食料を数食分持ち出す。
そこまで終わると、騎士達に馬房の前に集合!と言い、自らは急いで先に向かう。
馬房主の部屋で、村まで飛ばせる馬を準備するように馬房主に告げる。
馬房主は慌てて部屋から出て、目的の馬のところへ行き手綱を持って1匹を連れて来る。
レオンが馬に跨ったのを確認すると、次の騎士の馬を連れに行った。
馬房の前に、レオンと騎士5人が馬に跨った状態で揃ったのを確認すると、レオンが声をあげる。
「出発!」
すると、全員馬を駆けさせる。
すでに夜もかなり更けているため、領都を歩いているものはほとんどいない。
その時、偶然大通りを騎士の1隊が歩いているのを見かけた。
「レオンか?どうしたんだ。そんなに急いで。」
いたのは、エリスの聖騎士隊であった。北方領土への遠征のために丁度訪れてきていたのだ。
どうしたのか聞かれたレオンの隊は一旦馬を止めて、レオンは表情を変えることなく言う。
「隣の村に現れたダンジョンでヒルダが落とし穴に落ちた。
現在生死不明だ。助けに向かう。貴殿も来い。」
そう言うと、エリスの目が大きく開かれる。自分の妹も同然のヒルダが生死不明であると聞いて落ち着いていられない。
「後は任せたぞ!」
他の聖騎士に向けてそう言うと、レオンに馬を近づける。ヒルダを助けるために同行するつもりなのだ。
レオンが小さく行くぞ。と言うと、レオン、エリスを含めた7人の騎士は村へ向けて馬を再度駆けさせるのだった。
馬を駆けさせている間にエリスがレオンに尋ねる。
「レオン、ヒルダは一体どんなダンジョンで
落とし穴に落ちたと言うのだ?
仮にも聖騎士、ただの落とし穴等にはまる様な
訓練等してきてはいない!」
「落ち着け。わからないのだ。先ほど早馬で聞いた
ばかりだからな。村で詳細を聞くしかない。」
エリスはそれを聞くと黙り込んだ。今はただ村に向かって進むしかない。
それ以外にできることなどないのだ。




