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1章 46話 急襲

次話から2章に突入します。


1-Bの調査が終わり、前回の調査から追加要素が何もないことがわったので、ヒルダは1-Cに繋がる通路に向けて歩き始めた。

前回来た時は、1-Cの部屋に入ってすぐのところに落とし穴があった。モンスターもいなかったけれど、今回はいるかもしれない。確認しなければわからないことがたくさんある。まだまだ警戒を解くことなどはできるはずがなかった。

通路を歩いていると、騎士達のライトに照らされて少しずつ奥の方が見えてくる。

しかし、ライトに照らされたのは1-Cの壁で、通路から見える範囲にはモンスターはいなかった。


ゆっくり歩いて1-Cに入ろうとするが、中からモンスターの気配はしない。中に入って確認をしても部屋には1体もモンスターがいなかった。

この外敵から守りやすそうな罠のある部屋にモンスターがいないと言うのはとても不思議だ。ここにモンスターを配置しないのであれば、一体ここはなんのために作られたのだろう。そう思うとこのダンジョンの不気味さが一層増す。

冒険者に罠の調査を指示し、すでに目に見えている入口の罠以外の調査をさせた。

案の定他に何もなく、後から来た冒険者パーティへここの部屋で待機を指示する。


ヒルダ達は1-Dへ続く通路に向かうため隊列を整えた。

先頭にヒルダ。次に騎士2人が並ぶ。その後ろに、罠等の調査役の冒険者2名が続き、最後に騎士3名がいる。それが主部隊で、次の分隊に残りの騎士5名がいる。

騎士達の方を見ると、すでに全員が次の部屋が決戦であろうことを理解しているようで、士気は高いようだった。


「わかっていると思うが、次の部屋が決戦のはずだ。

 行くぞ!」


ヒルダは周りの騎士や冒険者にではなく自身に向かって言い、1-Dへ続く通路に向かって小走りに駆け出した。

騎士や冒険者が続く。 少しだけ時間を空けてから分隊の騎士達も移動を開始した。

通路を駆けながら騎士達がライトを1-Dの部屋に向けて放った。放たれたライトは、1-Dの部屋に入ると部屋の天井近くで固定され、部屋の中にいたコボルトの軍勢を照らし出した。

今回もこの部屋が決戦場となることが決定した瞬間だった。

確認できただけでコボルトは15体いた。前回のゴブリンの軍勢と比べるとやや数が少ないが、それでもこれほどに数が多い敵と戦うこともそうそうないため、気を付けなければならない。


奥にボスだと予測される体の大きなコボルトがいて、ショートソードをそれぞれの手に持っていた。

その前にはコボルトアーチャーが4体並んでいて、目に入った時にはすでに弓を構えて射かけてきていた。

矢は全て騎士達に向かったが、騎士達の構えた盾に当たり地面に落ちる。

その隙に冒険者がヒルダの後ろに来て左側の少し離れた所に大きな落とし穴があることを教えてくれた。

しかし、そんなところに落とし穴があってもこちらが部屋に広がらない限り、何の効果もなさそうだが……。

とりあえずヒルダは冒険者に頷き、そのままコボルトの内の1匹に向かう。少しでも減らして隊の負担を軽くする必要がある。

駆けた勢いも乗せてコボルトに騎士剣を叩きつけると、コボルトはわずかに反応できただけで避けることはできずに頭から斬られ消滅した。

他の騎士達も次々とコボルトに当たっていく。ヒルダ達騎士が敵の最前衛を押さえた形になった。

すぐに分隊の騎士たちも部屋に入ってきて、隙間を埋めるようにサポートを開始する。騎士達によってコボルトが少しずつ倒されていき、敵の数が10体近くまで減らしていた。そんな時であった。コボルトのボスらしきヤツが甲高い鳴き声を上げた。


ピィィィィィィィィィィィ!!!


合図らしきその音の後に、落とし穴の方から大きな音がした。ヒルダはそちらを見ると、落とし穴だと思われていた場所からはコボルトが這い出てきていた。そして、今まさに騎士達を後ろから襲おうとしていた。


(敵の数が少なかったのはこのせいだったか!)


ヒルダの頭の中に警鐘音が鳴り響く。コボルトのボス側の隊の相手を副隊長に任せ、落とし穴から這い出てきたコボルトに向けてアイシクルランスを詠唱する。

ヒルダの頭上に氷柱が形成され、コボルトの1匹に向かって飛んでいく。

そしてサポートの騎士達に自分に続けと告げると、ちょうどコボルトを倒したところだった二人がヒルダに続いて落とし穴のコボルトに向かって駆け出した。

ヒルダが放った氷柱はコボルトを貫き、1体を消滅させた。

穴から這い出てきたコボルトは後7体だ。落とし穴からはコボルトだけでなく、弓を持ったヤツまで這い出してきていて、背中を向けている騎士達に矢を放っていた。矢は鎧に守られていない部分を狙われていて、流石に騎士達の何人かが矢を受けてしまった。更に二人が狙われ、肩口、腕、それぞれに矢が刺さる。

ヒルダは焦りを感じ、一番先頭にいたコボルトに向けて雑に剣を振るってしまった。大きくスイングして放たれた剣撃はコボルトにガードすらさせずに体を叩き込まれ、そして消滅させた。残りは6体。

なんとかなりそうだ。そう安堵した時に、後方から大きな雄たけびが聞こえた。

顔がそちらの方に向かされる。視界にはこちらに向けて駆けてくるオーガの軍勢がいた。


(ダメ……全滅する……)


そう悟った。絶望しか感じられなかった。

そして則判断を下す。


「撤退!撤退しろ!」


ヒルダの悲痛な叫び声が聞こえ、騎士達はすぐにそれに従い盾をモンスターの方に向けたまま後ずさりして下がり始めた。

それが確認できると、ヒルダはさらにコボルトを1体斬り伏せた。この中でもっとも強く、そして責任ある立場の自分が殿を務めなければならないからだ。

オーガ達がこの場に来るまで後数秒はある。少しでも多くコボルトを倒しておきたかった。

ヒルダは片手に持ち替えた騎士剣でコボルトを斬りつけながら、オーガの軍勢に向けてアイシクルランスを唱え、反対の手で氷柱を放つ。

オーガの軍勢とヒルダの間にはまだ距離がある。アイシクルランスが目に見えているのだから避けれるあずなのに、全く避ける行動をとらない。

先頭にいたバスタードソードを構えたオーガが胸を貫かれ消滅する。それでもオーガの軍勢は勢いが衰えない。

そして、全員がヒルダの方に向かってきていた。


ここまで来て初めて理解した。モンスター達の狙いはヒルダ一人だ。騎士達など眼中にはないのだ。

そして……ほかの騎士はともかく、ヒルダだけはもうこのダンジョンから逃れる術を持たないのだった。殿を務めるべく騎士達から離れていたヒルダは、オーガ達に追いつかれるより前に前の部屋へと繋がる通路に戻ることは不可能。

オーガ達はもう数歩のところまで近づいてきていた。ヒルダは、それなら……とオーガを減らすことだけに集中することにした。せめて、父から借りてきた騎士達だけは無事に帰さなければならない。その一心だけは残っていた。騎士剣を大きく構え、向かってくるオーガに向けて鋭く縦に振るう。先頭を駆けるオーガはやはり避けようとせずに、それをまともに受けて消滅した。しかし、すぐ後ろに控えたオーガから体当たりを受け、落とし穴があった方に吹き飛ばされた。

1m半くらいの深さの穴に転げ落ちると、穴の端に更に深い部分があることに気付く。

このオーガ達の真の目的は、ヒルダをここに落とすことなのだとわかった。そう思った時にはすでに遅く、穴まで追いかけてきていたオーガに再度体当たりをされる。なんとか間に騎士剣を差し込んで攻撃を加えた。剣は腹を貫いたが、オーガの勢いは止まらずそのままヒルダ共々落とし穴に落ちて行った。


通路近くまで撤退していた副隊長の騎士は、ヒルダが落とし穴に落とされ見えなくなるのを見て自身が代わりをしなければならないことを悟ったようだった。


「撤収!急いで撤収だ! 他の部屋の冒険者にも伝えろ!

 村に戻って早馬を飛ばさせるんだ!」


通路に入り、コボルトを防ぎながら叫んでいた。


今回の戦いはダンジョンのモンスター側の完全勝利となった。


ブクマ、評価、感想、レビューを頂けると山県が喜びます。

また、別作品の「闇の女神教の立て直し」の方もよろしくお願いいたします。

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