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1章 2話 異世界生活の苦悩

現実目線で考えるとダンジョン運営って厳しいですよね。

"魔素"みたいなもので全て解決できる仕組みにしたら便利だけど、そんなことないだろって自分の中のもう一人が囁くんです。否定するんです。


前世……と言ってもいいのだろうか。あの時は仕事に追われてゲームもまともにプレイできなくなっていた。だから、このリアルダンジョン作成ゲームにはとてもワクワクした。


(ダンジョンと言えばやっぱり未知のモンスターとの遭遇、戦闘だよな。

 モンスターの項目は確か……)


「編集」


ダンジョン内の編集ができる編集コマンドを音声入力する。

ウィンドウがポップして急に今いる部屋が少しだけ明るく照らされた。どうやら壁に生えているコケが光っている。照らされたことでようやく今いる部屋がどのようなものなのかわかった。部屋は半円のドームに近い形をしていて、岩肌がそのまま露出している。岩肌に生えたコケは、どうやらヒカリゴケと言うらしい。ダンジョン内の魔素を吸収して光を放つと言う習性があり、魔素がない地上では光を発しないようだ。

先ほどまでは光ってなかったヒカリゴケが急にヒカリゴケになったのは、俺が編集を開始した時点でダンジョンとして活動を開始したからだろうか?

ポップしたウィンドウには、


・部屋、通路の作成

・障害物、罠、地形、階段の設置

・モンスターの召喚

・アイテムの作成


が書かれ、それぞれの内容がデフォルメ化されたようなアイコンがあった。

シスの説明の中にはなかった項目がある。これは俺が話を途中で止めてしまったから、説明されたなかったやつだな。


モンスターの召喚のアイコンを手で押し込むようにタッチすると、ウィンドウの中身が切り替わり召喚できるモンスターの一覧が表示された。一覧の右上には、ダンジョンポイント30と表示されていた。


モンスターはスライム,ゴブリンにコボルト,オーク,オーガ他にもたくさんあった。多くのモンスターのアイコンは灰色に塗りつぶされていて、アイコンに手を重ねると"ポイントが足りません"や"レベルが足りません"と警告された。

まずは様子見で、1ポイントで召喚できるスライムを召喚する。

スライムのアイコンを押すと目の前に光の柱が立ち、光が消えた直後に青い色をしたスライムがそこに存在していた。50cmの半透明な球体が少し潰れたような形をしている。

せっかく召喚したスライムだったが、動きは鈍かった。


「スライムなんてこんなものなのかな。

 こんなネバネバした物体が早く動いたらおかしいもんな」


スライムの動きが遅かったのがすごく気になった。この遅さでは侵入してきた冒険者と戦えるとは思えない。ただ嬲られるだけじゃないだろうか。

しかし、所詮1ポイント。そう思って納得することにした。

続けざまにスライムを2体召喚する。

これでスライムは合計3匹、消費は3ポイント。

座ってスライムを眺めていると、スライムの中に拳大の物体が浮かんでいるのが見えた。正四面体の形をしている。

なんとなくこれはスライムの核なのではないかと思った。もしスライムがただの粘性体であったならば、焼き尽くす等して存在を消失させることでしか戦いに勝つことはできない。非常に強力なモンスターとなってしまう。

次に動き方を観察すると一定の動きと言うよりはランダムに動いている気がする。知的生物ではないだろうし、基本はただ動き回るしか能がないのかもしれない。


更に追加で3ポイントで召喚できるゴブリンを召喚。

召喚の光から100cmほどの大きさのゴブリンが現れた。ゴブリンは汚れた布切れを腰に巻いていて、それ以外は裸だ。手には何も持っていない。爪が伸びてとがっていて体全体が少し汚れている。最悪武器がなくても、この爪でひっかくくらいはできるかもしれない。

深く考えずに召喚してしまったが、俺をマスターとして認識しているからか襲ってくることはなかった。「ギャ」とか「ギュ」とか鳴き声のようなものをかろうじて発していたが、意思疎通が図れるとは思えなかった。


(召喚したモンスターに襲われて死んだりしたら、

 ダンジョンマスターの名折れだった)


こればっかりはしっかり確認しておいたほうが良かったかもしれない、と少しだけ思った。

ゴブリンの召喚も終わり、この後どうしようか考える。

1つ大事なことに気付いた。

 

「食べ物とか飲み物……そう言えば寝る場所もないよな」


食べ物や飲み物はないのは困る。地面に直接寝るのも辛い。俺は早速追い込まれてしまい、シスにヘルプすることにした。


「シス!」


『どうされましたか、サトル様』


呼びかけに応じてすぐに頭の中に音声が響く。


「食べ物,飲み物,寝る場所なんだけど。

 なんとかならない?」


『食べ物,飲み物はアイテムの作成から作れます。

 寝る場所については、ご安心ください。

 ダンジョンマスターの部屋が別途存在しています。

 ダンジョンマスターはダンジョン内の全ての場所に自由に

 転移できますよ』


「そうだったのか。

 飢えながらゴブリンと添い寝かと思ったよ……」


『では、また何かありましたらお呼び下さい』


シスはそう言うといなくなる。音声しか聞こえないので、いなくなった気がするだけで常に近くに存在しているのかもしれない。

余計な考えは頭から追い出して、早速ダンジョンマスターの部屋に移動してみることにした。


「転移! ……でいいのかな?」


自身なげに転移と言ってしまったが、無事反応してくれたらしくマップがポップした。転移するには移動する場所を示す必要があるらしい。マップには俺が今いる部屋と、少し離れてダンジョンマスターの部屋と言うものが表示されていた。ダンジョンマスターの部屋は今いる部屋に対しとても小さかった。2畳なんて……寝るだけの部屋かよ。


ダンジョンマスターの部屋を示すと視界が揺れて別の場所に切り替わった。移動した場所は岩肌が露出したような壁ではなく、地面・壁共に濃い青の金属のようなものに見える。

触ってみると金属のように冷たいわけではなく、温かさを感じる。硬度も固めで、間違っても殴って壊せそうなものではなかった。

そして部屋にはベッドがあるだけだった。ベッドは木製の台に綿を詰め込んだ敷物と、布を数枚縫い合わせたような掛物。そして草を多く編んだだけの枕のようなものが置いてある。

 

「……これがベッドかよ。

 最低限の物じゃないか」

 

現代のベッドからしたらとてもお粗末な状態に愕然とした。正直、もう帰りたくなってきた。

ベッドはもう諦めるしかない。体を傷めずに寝れる場所があるだけマシと思うようにした。


少し腹も空いてきたような気がしたので、編集のアイテム作成から飲食物のアイコンを選ぶ。ポップしたウィンドウには水とクッキーだけが表示されていた。

水は0ポイント、クッキーは10枚ほどで1ポイントだ。

ベッドからしてあれだったのだから、まともな食べ物が出て来なくても当然だった。

食べ物まで最低ランクだったことに俺は肩を落とさざるを得なかった。食べ物は活力だ、これがまずくてはやる気に関わるのに……。格安なポイントであることだけが救いだろうか。

とりあえず、水とクッキーを作成する。木で作られたタンブラーのような器に入った透明な水と、透明な袋のようなものに入ったクッキーが出現したので手にとる。木の器を鼻に近づけてまずにおいを嗅いでみる。無臭だ。次に口に近づけ水を少し飲んでみる。


「あれ……思ったより……美味しい」


現代ではダムの水を浄化したものを飲んでいたからか、水がとても美味しく感じた。

次にクッキーを食べてみる。クッキーを袋から取り出すと、クッキーとは名前ばかりの小麦粉に水を混ぜてこねて、そこにわずかな塩を入れて焼いて固めただけのものだった。見るからに美味しくなさそう。


「まずい……水はいいみたいだけど、食べ物はこれかよ。

 地球でも昔は香辛料は高価だったって言うし、

 塩も本来はもっと高いんだろうな……」


自然にため息が出た。クッキーの不味さは本当にショックだった。

クッキーを口に入れて咀嚼する。水を口に含み、なんとか飲み込む。10枚のクッキーは罰ゲームのノルマのようだった。食べ終わると木の器と透明な袋は消えた。 


「……もう今日はいいや……寝よう……」


もう細かいことを考えるのが億劫になってしまい、少し早いが寝ることにした。

俺のダンジョンマスター1日目は、新しい人生に愕然とすることから始まったのだった。



水に小麦粉溶いたものを焼いただけのクッキー。

作ったことありますかね、すごいまずいです。


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