1章 19話 レベル3
今回はちょっとだけ幸せな回としているつもりです。
ゴブリンと主人公の団らんってどうでしょうか。
村の冒険者ギルドでは支部長が落ち着かない様子で机の前を右往左往していた。
事前の情報だとダンジョンにはゴブリンとスライムしかいないということだった。それが正しければ、冒険者たちがもう戻ってきていい時間を過ぎているのだ。
そんな時、支部長の部屋のドアが強く開かれた。
「来たか!」
ギルドマスターが開けられたドアの方に顔を向けると、呼吸を荒くした監視役のギルド職員がいた。
駆け足で戻ってきたのだろう、呼吸を荒くするだけではなく顔や首に汗をかき、服装が若干乱れている。その様子を見て理解した。
「まさか……失敗したのか……」
支部長が俯いて呟くとギルド職員は少しだけ息を落ちつけてから言った。
「冒険者はおそらく全滅です。
冒険者達がダンジョンに入ってから2時間半ほど待ちましたが、
出てくる気配がなかったため報告に戻ってきました」
「……領都レイアムに至急早馬を飛ばせ!
中級冒険者パーティの派遣を要請するんだ!」
ギルドマスターは顔を上げるとすぐ指示を飛ばした。
もう迷っている場合ではない。急いで対応する必要があるのだ。
ギルド職員は疲れた体に鞭うって、早馬を遣わすための準備に取り掛かった。
この話はすぐに村中の知れ渡るところとなり、村の森側の門は閉鎖となった。
ただ、あまり使われていないこの門が閉鎖されたことで困る人はいなかったが。
『サトル様、レベル3達成おめでとうございます』
俺の頭にシスの声が響いた。
またもや想定外のレベルアップ。しかし、今回俺はレベルが上がるような予感がしていた。
データの成果結果を開くと、
ダンジョンに訪れた冒険者: 20ポイント(4人)
冒険者に倒されたモンスター: 7ポイント(ゴブリン5匹)
冒険者の吸収(実績解放): 50ポイント
冒険者の吸収 : 60ポイント
合計:137ポイント
次のレベルアップまで:107ポイント
冒険者の質が上がったからか、訪れた冒険者のポイントが高い。冒険者に倒されたモンスターの計算は前回と同じだ。
今回実績解放になっている冒険者の吸収と言うのは、絶命した冒険者をそのままにしておいたらダンジョンに吸収をされたからだろうと推測する。絶命した冒険者を埋めるでもなく何もできずにいたところ、装備ごと黒い霧のようになって消えていったのだ。
俺はそれを目にしていたので、今回の成果もただで済むはずがないと思っていた。
「またレベルアップか……。
この分だとレベル4もすぐだな」
冒険者を殺してしまった気持ち悪さがまだ抜けず、どうしても自虐的な発言になってしまう。
『そうですよサトル様。レベル5だってすぐです。
この調子でお願いします』
シスがやけにレベル5を押してくる気がする。この間もレベル5がどうのと言ってた気がするが、レベル5になると何かあるのだろうか。
考えても仕方ないため、ロードと今後の話をするために1-Cに向かった。
「おお旦那、今回はお疲れ様です。完全勝利ですな」
俺を迎えたロードは勝利の余韻が抜けきらないらしく、若干興奮気味だった。
「ロード、今回俺はほとんど何もしていないよ。
もし何か俺にできることがあるなら
してあげたいと思うんだ」
ロードの労をねぎらうためにそう言うと、
「やめてくださいや。
俺たちは旦那の召喚モンスターですぜ。
俺たちの活躍は全て旦那の活躍です。
……とは言っても、断ったら旦那に申し訳がねえ。
ここは1つ、先ほど約束してくれた専用の部屋を
作るって奴を早めてもらうってことでどうですかい?」
ゴブリンロードと言えば、ゴブリンの貴族も同然だ。今まで何もないところでよく我慢してくれていたと思う。そう思って、その願いを全て受け付けることにした。明日にでも早速作ろう。
口には出さないがランサーやシャーマンの寝床も準備するつもりでいた。
レベル3になったことで新しくできるようになったことを確認する。
まずは何より食事関連だ。
アイテム作成を開くと、新しく作れるようになったのは以下だった。
・小麦のパン 3ポイント
・野菜のスープ 1ポイント
・中級葡萄酒 2ポイント
・低品質アクセサリー
・中品質小物
・低級家具
とうとう小麦のパンと野菜のスープが出た。これで現代人の最低ランクの食事が可能になった。まだ現代人の最低ランクでしがないが、そこにたどり着けたことに大きくガッツポーズをした。
中級葡萄酒と言うのは、おそらく普通の葡萄酒くらいではないかと思う。低級のものは甘みが完全に抜けきっておらず酒と言えるレベルのものではなかった。
低品質アクセサリーに関しては、鉄でできたネックレスや指輪,腕輪と言った類の物のようだ。流石に鉄製品の物をアクセサリーとは言えないレベルである。
中品質小物については、革の鞄などが作れるようになっていた。麻の鞄は、ひどい使い方をしたわけでもないがすでに擦れて糸が切れている個所もあったので、革製品が作成できるのはとてもありがたい。
また、家具も作れるようになった。簡易ベッドや棚等、生活に必要なものがたくさんあるのは間違いない。思えば、ダンジョンマスターの部屋でさえもまだベッドしかない。これを作れることによってかなり生活が向上することは間違いない。
すぐにでも新しい食事を試してみたかったので、夕食には少し早いが食事を作成することにした。
ダンジョンマスターの部屋に移動してから、机を作成し5ポイント消費する。
作る時にポイントが76になっていたのに気付くが、まずは食事を優先するため一旦置いておく。机は低級品質であるが、ガタがあるとかすぐに壊れそうだとかそういうことはなかった。
食事のメニューから小麦のパン,野菜のスープ,中級葡萄酒を作ることにする。
作成すると、机の上にそれぞれが現れた。
小麦のパンは焼きたての扱いのようで、ふっくらしているのが見てわかる。
野菜のスープに至っては湯気が上がっており、スプーンもついている。
あまりに美味しく見える食事に口の中に涎を貯めながら、まずはパンにかぶりつく。
村で食べたパンは酵母がそこまできいていなかったのか、膨らんではいたがふっくらと言うほどではなかった。あれでも美味しく感じたが、今食べた小麦のパンの比ではなかった。野菜のスープは、鳥や牛等の獣系の出汁は出てはいないものの、野菜をじっくり煮込んだことで野菜の旨味が出ていてとても美味しい。合間に葡萄酒を飲んでみるが、甘みは消えていて少しの渋みとしっかりとしたアルコールの度数を感じられた。たった一杯だがほろ酔い気分にもなれた。
気分をよくなったので、更に葡萄酒を一杯追加して気がつくとそのままベッドに倒れてしまっていた。現在63ポイント。
翌日、いつもとは違い良い気分で起きれた。
衣食住の内食が満たされたのだ。体が喜びをあげているのかもしれない。
起きて1-Cへ向けて転移。
ロード達はすでに起きていて、部屋を拡張するのを待っていた。
「旦那、今日も早いですね。
すぐに部屋を作ってくれるだろうと思って、
こちとら朝から待ちわびてましたよ」
ロードがとても嬉しそうに言う。
早速1-Cから続く1-Dを作成。1-Dは今後の拡張のことも考えて、大きな部屋にすることにする。もし大きすぎても後で何かを追加すれば良い。大は小を兼ねる。
作成した部屋の大きさは30m四方。20m四方を越えたためかポイントは30かかった。この時点で残存ポイントは133ポイントだった。
レベル3になって、ポイントの補充分も増えていた。
作った部屋に通じる通路は、いつもより幅広く3人が肩を並べて歩けるほどにした。
通路を通って1-Dに入ると、中にはまだ何もないが大広間と言った感じで少し感動した。現在128ポイント。
ロードの要望で、テーブルを4個,イスを多めに10個作成する。ポイントの消費は合計で50。テーブルが1つ5ポイントで椅子は1つ3ポイントだ。
既に残り78ポイントとなっているが、今日ばかりはいいだろう。
家具を作成すると、ロード達は嬉しそうにテーブルをくっつけ、椅子を並べ始めた。それだけでとても楽しそうな雰囲気になり思わず自身の頬も緩む。
次は寝床の作成だ。
現時点の人数分ベッドを作成する。これは簡易ベッドで、木の枠に複数枚縫った布を張り付けているだけと言った感じのものだ。
1つ5ポイントで5人分作成をする。これで残りは53だ。
最後に生活のために、水辺(水の透き通った),湿った土のエリア,ワイルドアップルの木を置く。ロードが下働きさせるゴブリンを欲しがったので、いなくなってしまった分の5匹を追加で召喚。
水辺は前回と違い新しく作れるようになった水の透き通ったものを作ったので多めに10ポイントの消費になった。残存18。
その日の夜はゴブリンたちにとって宴会のようなものが行われた。
シャーマンが炎の魔法を使えるので、ワイルドアップルの枝を集めて薪とし、細い枝を選んでワイルドアップルやゴブリンズマッシュを焼いて食べていた。
普段なら人間とは相容れない関係なのだろうが、ダンジョンマスターと言う立場のおかげでゴブリンの生活の一部をこうして見ることができる。
そんなことに幸せを感じながら1日を過ごした。
なお、サトルも酒飲んでご飯を食べているので消費6ポイントで
残存12ポイント。




