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1章 12話 国と貴族

このタイミングで、今いる村とこの国との関係の話をしました。



冒険者ギルドを出ると辺りは暗くなっていた。

先ほどまで準備中だった居酒屋兼料理屋もすでに開店していて賑わいを見せている。

腹が減ってきたのを感じ宿屋に戻ることにした。


宿屋に戻るとカウンターに店主はいなかったため、小間使いに木の札を渡し鍵と交換する。

1階の食堂が稼働していて、いくつかのテーブルには酒を飲み食事している人の姿があった。

俺は連れ合いがいないのでテーブルではなくカウンター席に座る。


「おう、お帰り。

 冒険者ギルドでは有意義な話が聞けたか?」


カウンターの向こうから話しかけてきたのは店主だった。

料理を小間使いにテーブルへと運ばせていたから、厨房も扱っているんだろう。


「行って良かったよ。いい情報が聞けた」


「そりゃあ良かった。

 ところで、飯、食べるんだろ?銅貨2枚だ。

 うちの酒はそんなに質はよくないが、飲むならジョッキで

 銅貨2枚、ハーフジョッキなら銅貨1枚だぜ」


夕食以外に酒を勧められる。正直、飲みたい……酒は割と好きな方だ。しかし鞄には銅貨は4枚しかない。明日の朝食で1枚、帰る時に布の切れ端も買って帰りたいから、後銅貨2枚しか使えない。

頭の中で銅貨の計算していた俺を、悩んでいると勘違いしたようで店主が続けて言う。


「もしかして金がなくて迷ってるのか?

 それなら夕食は質を落として銅貨1枚にすることも

 できるぜ。

 そうすりゃハーフジョッキがつけられる」


酒も飲みたいが、クッキーだけの食事に飽き飽きしているんだ。せっかくのご飯なら、しっかりと一人前食べたい。

俺が夕食だけにすると言う意志を固めていると、隣の席に誰かが腰を下ろした。


「貴族の旦那、お帰り。武器屋はどうだった?いいものはあったかい?」


店主の顔が隣に腰を下ろした者に向いた。つられて見ると、黒く染色された麻のシャツに短めに揃えられた金色の髪。そして整った顔の青年がいた。

間違いなく良い所の出の人間だとわかる。


「はは、貴族なんて名だけですよ。

 辺境貴族の4男ですし、特に裕福なわけでもないですから。

 しかし、この村は武器の質が結構いいですね。

 でも僕が求めてる武器の質はないみたいです。

 良い武器を手に入れるには鉱山まで向かう必要がありそうですね」


上品そうな微笑を浮かべている。裕福ではないと言うが、染色された麻の服を普段着にしていたり、髪の毛を整えるために香油でも使っているのか良い香がするのもあり、貴族と民との差を感じた。

貴族の青年をずっと見ていたせいか、気づいてこちらに顔を向けてきた。


「こんばんは。宿屋に泊まってる方ですか?」


「今日この村に来たばかりで、ここに泊まってるんだ」


俺が返事をすると店主が会話に入ってくる。


「旦那、こいつに酒の一杯でもおごってやってくれよ。

 あんまりにも金がないから、酒を注文するかどうか

 悩んでるみたいなんだよ。

 貴族の4男って言っても、酒一杯奢るくらい平気だろ?」


なんと、俺の意見を無視して奢ってやってくれと青年に言い出した。いや、もし本当に奢ってくれるんならありがたいんだけど……。

青年はほんの少しだけ考えて、なんといいですよ。と言った。


「長旅で人との会話に飢えていたんですよ。

 酒は話の相手になってくれる代金ってことで」


銅貨4枚を支払い、ハーフジョッキを二人分と夕食を注文していた。

俺はお礼を言い、自身の分の夕食代の銅貨2枚を払う。

すぐに小間使いが酒の注がれたハーフジョッキを2つ持って出てきた。


「自己紹介をさせて頂きますね。

 ノースランドにある辺境貴族4男のリイムと申します。

 貴族名もあるのですが、独り立ちしたら名前のみになるので、

 名前だけ名乗らせて頂きますね」


「俺はサトル。

 落ち着く先を探してこの村まできた旅人なんだ」


お互い簡単に自己紹介を終えると、乾杯した。リイムの自己紹介はとても上品だ。自分のことを説明する際に、どこの領のどういう立場の……と言う言い方をするのは、貴族の独特の言い回しなんだろう。

ジョッキに入っている酒は果物を発酵させたもので、アルコールの度数はそこまで高くなく甘みも残って

いて飲みやすかった。

少し口をつけたら今度は互いの自己紹介に対しての質問になった。


「リイムって呼べばいいか?ところで、貴族名ってなんだ?」


「構いませんよ。

 貴族は個人名と貴族名があるんです。

 言わないつもりでしたけど……私の本当の名は、

 リイム・ヴァーサと言います。このヴァーサが貴族名です。

 貴族名は貴族の血族のみが名乗ることを許されているんですよ。

 なので、冒険者になる私は今後個人名だけになるんです。

 上級貴族になるとさらに名誉名と言うのが後ろにつきますよ」


リィムの説明はわかりやすかった。

つまり、ファーストネーム+セカンドネームだったらただの貴族。更にサードネームもついたら、上級貴族と言うことだ。

今度はリイムから質問が来る。


「私もサトルと気軽に呼ばせてもらいますね。

 サトルはどこから来たのですか?」


とても困った質問をされた。苦しいが適当に返してみる。


「この領内にあった村からきたんだ。村は不幸があって……」


自分で言っておいてそれ以上言葉が繋がらなくなってしまい、語尾を弱めて話すと、リイムは勝手に察してくれたようでそうですか、とそれ以上突っ込んで聞かなかった。


会話が若干気まずくなったが、ちょうどいいところに夕食が届いた。


「はいよ、会話盛り上がってるかい」


店主が木でできたトレイを置くと、その上には拳より少し大きいパン、野菜のスープ、そしておまけ程度に、肉の切れ端を刻んだものが乗っていた。

パンは焼きたてではなかったが、出す前に少し軽くあぶってくれたのか温かみを感じるし、スープも出汁をとっているのか香りが良かった。そして、肉だ。この世界の肉。一体どんな味なんだろうと興味が尽きなかった。


リイムとはその後色んなことを話した。

ノースランドの領主が治める領都レイアムに行った時に、とても美味しい葡萄酒を飲んだことや、王国西にあるウェストランド出身の王国最強の騎士がいるだとか、南にあるサウスランドにはとても辛い食べ物があるとか。

リイムの多くの話の中で今いる王国のことを学ぶことができた。

今いる国の中心には、ホーリィセントラルと言う王都がありそこを中心として北にノースランド、東にイーストランド、西にウェストランド、南にサウスランドと俗に呼ばれる地方があること。

ここはノースランドの領都レイアムから北東に向かった先にある鉱山との中間村であること。

俺の中で簡単な地図が出来上がった。

そして夜も更け、今はリイムの人生の目標を聞いていたところだった。


「だから僕は王都の聖騎士団に入ることを目標に頑張ってるんだ。

 運よく剣技に少しだけ才能があったみたいでね、叶わない夢では

 ないと思うんだよ。

 あれ、酒もなくなったね。ちょっと酔ったし、これで解散かな」


酒も入り最後にはリイムの口調も少し柔らかくなっていた。しかし、せっかくちびちびと時間をかけて飲んでいたのに酒がなくなってしまった。

リイムは椅子を引いて立ち上がり、俺に向けて手を差し出した。


「今夜はいい出会いだったよ。

 また会う機会があったらまた飲みましょう」


「俺もだよ。良い武器が見つかることを祈ってる」


リイムの手をとり強く握手して別れた。リィムは本当にいい奴だった。出来ればまたどこかで会えるといいなと思う。

それにしても今日はいい情報が聞けた。部屋に戻ってベッドに倒れ込むと酒が入っていることも手伝ってか、すぐに眠気が来た。

眠気の心地よさを受け入れて俺は意識を手放した。




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