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1章 11話 異世界村事情 冒険者ギルド

今回は冒険者ギルドのおねーさんとの会話回です。


店主がタライを持って降りてきた俺に気づく。


「言えば小間使いのガキを寄越したのに。

 おい!タライを持っていけ!」


小間使いの者がすぐにやってきて、俺からタライをかっさらうように持って行った。さっき部屋に来た少女とはまた別の人間だが、生意気そうなのは同じだ。店主は無言でタライを運ぶ小間使いを目で追っていた。話を聞く良いタイミングだ、情報を得るためカウンターに近づく。


「さっぱりしたみたいだな。ふん。

 とりあえず、臭くはなくなった」


近づいてきた俺の匂いを嗅いで、ニッと店主は笑っていた。


「レンの実、サービスって聞いたよ。ありがとう。

 ところで冒険者ギルドに行きたいんだけど、

 どう行けばいい?」


「いいってことよ。

 冒険者ギルドに行きたいなら、ここに来る途中の

 大通り沿いにあるよ。

 石作りの3階建ての建物だ。

 一番でかい建物だから行けばすぐわかるぜ」


元来た道には3階建ての建物なんて見当たらなかったから、あのまま真っすぐ進めば見つかるな。

ついでに他に聞きたかったことも聞いてしまおう。


「この村についても教えてくれないか?

 もしかしたら長居をすることになるかもしれないし、

 知っておきたいんだよ」


「そうかい。じゃあお得意さんになってくれるかも

 しれないな! 丁寧に教えてやろう!

 ここは100年くらい前に新たに起こした村でな、

 開拓村のはずだったんだが……この先の山に鉱脈が

 見つかって、鉱山とへの中間の村になっちまったのよ。

 ゆくゆくは街規模までなるはずだったのに、

 1000人っていう規模の村に収まったわけよ」


「なるほどなあ。もしかして冒険者はが多い?」


「んー……50人ってとこか?

 正確な数はわからないな。

 ちなみに、本格的な冒険者なんて奴らはこの村にはいないぜ。

 王都から騎士が派遣されて定期的にモンスターが討伐されてるからな。

 そこそこ強いやつらはモンスターを求めて鉱山の方に行っちまったよ。

 詳しい話は冒険者ギルドで聞いた方が早いぜ」


この村の周りは比較的安全らしい。そしてこの村には強い冒険者がいない。

もしかしたら下級の冒険者が育つのにはいい環境だとも言えるのかもしれない。


「あんた、ここに長居するかもしれないって言ったよな?

 それならこの村のことは全部俺から聞くのはよくねえよ。

 別に嘘をつくつもりはねえが、情報ってのは

 自分の目で見て耳で聞いたものが一番だ。

 若いんだから、自分の足で稼いでみな!」


背中と強く叩かれた。手加減ができておらず、叩かれた背中が痛いのと肺から空気が出されて咳き込んでしまった。


「ゴホッ……そ……そうか、そういうものかもな。

 冒険者ギルドに行く以外にも散歩がてら村を見て回ってみる」


「ああ、そうしな。だが、村の東側にはあまり近寄るなよ。

 東側は性質の悪いのが多いからな。捕まって身ぐるみ

 剥がされないように注意しな」


店主の言うことはもっともだ。頼りになる情報は自分で手似れてこそ。

1つの情報も多方面で確認することで見えないものが見えるようになるかもしれないから、言われた通り村のことも少しは自分で調べてみようと思った。


「さっそく冒険者ギルドに行ってくる。

 部屋の鍵はどうしたら?」


鍵を見せると店主は木の札を取り出していた。


「出かけるならこの木の札を代わりに渡すぜ。

 戻ってきたら返してくれ。

 そしたらカギを渡すからよ。札はなくすなよ!」

 

鍵と札を交換する。札を鞄に入れて俺は冒険者ギルドに向かって歩き出す。


「じゃあ、冒険者ギルドに行ってくる。夕飯には戻ってくるよ」


「おう。気をつけて行ってきな!」


宿屋を出て先ほどのメインストリートに向かう。

夕暮れが近くになったきたせいか、料理屋が準備を始めていていい匂いが漂ってきていた。

激マズクッキーしか今まで食べてきていないから匂いがたまらない。だが、今日は宿の夕飯が食べられる。我慢だ我慢。


裏門とは反対の方向に向かって歩くと、宿屋の店主が言った石作りで3階建ての建物が遠目に見えた。冒険者ギルドの近くが最も栄えているからなのかか、店もどんどん増えていく。一番目につくのは料理屋兼居酒屋だ。

まだオープンする時間には早いので客はいないが、本日のメニューを載せた看板がどこの店先に出ている。冒険者はこの看板を見てどこに入るか決めるのだろう。


他には、厩のある大きな宿屋がいくつかあった。この村は鉱山を往復する商人の寄り村になっていると言うことだったし、馬車で乗り入れることができる宿屋があるだとわかった。厩番もいる。銅貨では済まない額の宿泊料が必要そうだ。

歩きながら色んな店を見ていると近くで声が聞こえた。


「おっとごめんよ」


「どこ見て歩いてんだバカ野郎!余所見してんじゃねえ!」


こ……これは……有名なスリのやり取りではないか!

反射的にそちらに目を向けると、謝った方の痩せた長身の人間が東の方向へ駆けていく。怒鳴った方は冒険者らしい恰好だが、まだ財布をすられていることには気づいていない。怒鳴った後、仲間の冒険者と親し気に話し出した。

それを見て、俺は自身の鞄を抱え込むように持ち替えた。


色んな人、色んな店を眺めながらとうとう冒険者ギルドの前まできた。

改めて見るととても大きい。石作りの壁も、粘土でただ固めただけの物とは違って、コンクリートのようになっている。

入口から中を覗き込むと、正面に受付カウンターがあった。同じ格好をした三人の受付の女性三人が冒険者相手に働いている。

右手の方にはモンスターや魔獣の買い取り机が見えた。魔獣の毛皮を机に広げて、値段交渉をしている者がいる。

左手には壁に紙がたくさん紙のような物が貼り付けてある。依頼書だろうか。その近くには酒場もあり、依頼についての情報収集も兼ねて使われるのだろう。

まだ夜には早いが、すでに酒場には酒を飲んでる冒険者がいる。流石ファンタジー!少しだけ感動する。

一通り確認を終えて、中に向けて一歩踏み出す。後ろから声をかけられた。


「冒険者ギルドにどんな御用ですか」


振り返ると赤毛のボブカットで切れ長の目をした女性がいた。

20歳と言ったところか。受付の女性と同じくモノクロカラーの服を着ていて、佇まいがとても凛々しい。

旅人が訪れたのを不審に思っているのだろうか。

完全に隠しきれていない警戒を解くために、軽い感じで話しかけることにした。


「こんにちは。俺は旅人なんだけど、

 落ち着く村を探していて。

 この村の情報を教えてもらいたいんだけど、

 旅人じゃダメかな?」


「いえ、構いませんよ。

 良ければ私がお教えしましょうか」


「でも良いのかい?

 他の人は忙しそうにしているけれど」


周りのギルド職員、特に受付が忙しそうにしているのを目で促した。


「職員には各自役割がありますから。

 私は今日は建物周りの見回りと掃除です。

 時間はありますよ」


そう言いながら受付近くの机に案内してくれた。

ギルド職員が先に椅子に腰を下ろしたので俺も腰を下ろすと、早速質問された。


「この村のどんな情報を必要としていますか?」


先ほどより、少しだけ笑顔になった気がする。


「まずは、この村の業種的な人口割合を

 教えてもらいたいんだ」


まずは本当に聞きたいこととは関係ないことを聞く。


「正確な割合はわかりかねますが、

 この村全体を10とした場合、農民は8くらい。

 商人は1か少し多いくらい。冒険者は1もいないくらいですね」


開拓村の名残だろうか農民が多い。鉱山へ食料を卸す役目もこの村に課されているのかもしれない。

農民メインの村なので、店も最低限の数しかないのであればなんとなくは納得ができる。冒険者も、村を守れる最低限の人数と言うことか。


「なんで冒険者が少ないんだ?」


宿屋の店主にも聴いたが、改めて聞く。


「この村は作られてから約100年経つそうですが、

 ギルドに残っている書類を見ても、過去一度して

 強いモンスターの発見報告はありませんし、

 街道は王都から来た騎士が監視してますから賊もおりません。

 とても安全であるから冒険者が少ないのです」


宿屋の店主の話以外には、賊のことについても聞けた。


「村の周辺が安全なのはありがたいね。

 安全な村のほうが絶対に住みやすいよね」


「安全なのはこの村の誇れる部分でしょうね。

 ちなみに商人の方も完全に王都を信用しているわけではなく、

 護衛を雇っていますよ。

 鉱山で取れた鉱石を領都や王都に運ばないといけませんからね。

 飢えた魔獣ならともかく賊ならとてもこんな場所で襲ったりしません」


なるほど、と思った。


「もう1つ。悪く言うつもりはないんだけど、

 そんな安全な村なのにどうしてこんなに大きい

 冒険者ギルドなの?

 もう1,2周り小さくても業務に支障は出ないんじゃ?」


俺の質問にギルド職員は少しため息をついた。


「はは……厳しいところを突かれましたね。

 確かにこの大きさは必要ありません。

 この村を興す際の事情で、大きく作ったと言う話も

 あります。冒険者ギルドの見栄と言う話もあるのですよ。

 でも、森の方にダンジョンを見つけたと言う冒険者が

 いましたから、ようやく役立つ時が来たのかもしれません」


その言葉に"欲しい情報が来たぞ"心の中で喜んだ。

出来るだけ表情を出さないようにして、その情報を絞るために再度質問をする。


「ダンジョン?え、それは大丈夫なの?」


「ご安心ください。

 冒険者の報告では、規模も小さいので

 近寄らなければ大丈夫みたいですね。

 ただ、冒険者ギルドから調査のため冒険者を

 派遣します。あなたも安全が確定するまでは

 近寄らないようにしてください。

 行かないとは思いますが」


近いうちにダンジョンに冒険者が訪れる。しかも、先日の見習いではないだが下級冒険者と言ったところなんだろう。強い冒険者はいないみたいだし。


「そうですか、貴重な情報ありがとうございます。

 もうちょっと村の周りを見てみたかったけど、

 気を付けることにします」


お礼を言って立ち上がろうとしたところに職員さんが、


「ところであなた……」


俺を品定めするような目で見ながら、机の向かいから横にくる。

冒険者でもないのに、村の安全のことばかり聞きすぎたか?と少し焦る。


「喋り方はともかく、旅人にしては学がありそうですね。

 どこかの学校で学んでいたりしていましたか?

 もし読み書きも出来るようであれば、

 ギルドから仕事を斡旋することもできますけど、

 いかがですか?」


情報を聞きすぎたことを疑われたわけではなく、質問の内容等を評価されただけだったようだ。

職員に再度お礼を言い、読み書きはできないことを告げて俺は冒険者ギルドを出た。


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