3章 7話 誕生パーティ SIDEサトル
感想にてお伝えいただいておりますが、ダンジョンマスターの割にダンジョン全然出てこないじゃん! と言うことをわかっているのですが、もう少し……もう少しだけお待ちください。
「サトル様は他の貴族などとは格が違うと言うことを
見せつけなければ私が納得行きません!
ですから他の貴族と同じことをしてはいけないんです」
ヒルダの誕生パーティに向けて作戦会議中だ。主に、シスが当日やることや起こるだろう自体を事前に教えてくれているわけだが、その中には私情がかなり入っている感が抜けないのはどうしてなんだろうか。
貴族は誰より先に着くことを誇りとしている反面、早すぎると相手の迷惑になることもあるので、ちょうどいい時間に誰が着くかを無駄に競っているそうだ。そんなことは遅れてやってくるヒルダには無関係であるから、堂々と遅くやってくることに意義がある。シスはそう語った。
俺にはこの世界の貴族のしきたりなんてわからないし、知ったとしても無理に取り繕うとすればどこかでボロが出ることはわかっているから、シスに従うしかない。とりあえずただ遅くいくだけなら何の問題もないし。
そしてほかの貴族と一切交流しない。どのみち他の貴族に知り合いなんていないわけだけど、交流する気がないこととを示すために、中央付近には行かないとのことだった。例え他人の成人の儀であろうと、貴族は横の繋がりを大事にするため皆と交流をとろうとする。交流する気がない貴族は中央にはいかずに壁近くに行くとのことだ。
貴族ではない俺がボロを出すことを防ぐ意味もあるのだが、そこまで徹底するとある意味すごいものがあると思う。
「サトル様があの花を贈ったとしても領主は認めないでしょう。
一応、その時のための保険も準備してありますが、
それさえも通じない可能性があります。
よってその後は実力行使になります。
サトル様の身は何が起きても私が守りますので、
自由に行動してくださって結構です。
とは言え、ただの騎士が何人集まったところで、
サトル様の敵にはなり得ないとも思いますけどね」
今回の計画で最も肝となる部分だ。
領主がすんなり認めてくれればいいが、認めてくれない可能性がある。あくまで可能性であるのにシスがこれだけ言うと言うことは間違いなくそうしてくるだろうと言っているも同然だ。
俺の影魔法はこの世界の理を外れた位置にある魔法。だから、初見で対処される可能性はゼロだろう。シスも近くにいてくれるわけだから、安全なのは間違いない。
「そして最も大事なのは、優雅さを忘れないことです。
サトル様、いいでしょうか。間違いなく今回のことで
皆パニックに陥るでしょう。
しかし、そこでサトル様のみが優雅さを忘れずにいたら
どうでしょうか。サトル様の素晴らしさが響きます。
ああ……なんてすばらしいことでしょう」
変なところに陶酔しているシス。だけど、その意見には同意するところもあるので忘れないでおくことにした。
「一番重要な局面で、サトル様が巷のダークストーカーで
あることをバラします。堂々として頂いて構いません。
そして、悪びれもせずに言ってください。
俺はダークストーカーだ、悪いことは何もしていない、と。
後は、事前に知らせてある通り、セルマ・ノルディーンが
巷の噂を否定します。
これで領主は沈黙せざるを得ないでしょう。
そこまで行ったらもう最大のチャンスです。これでもかってくらい
叩きのめします。
ダンジョンのこともバラします。これは領主にだけで結構です」
今までずっと隠してきたダンジョンのことを言う。このことに驚いてしまう。だが領主にだけ、その一言でまだ世間には知らせないことがわかる。
「これぜ計画は完璧になります。
サトル様であれば、間違いなく遂行できると思います」
シスの顔が非対称に笑う。なぜこういう悪そうな顔が異様に似合うんだろう。そう思わざるを得なかった。
当日、シスが作ったサウザンツ家の家紋―――ダークストーカーのローブに刺繍されたものと同じ物の入った袋で魔力の花を包む。魔力の花はすでに俺の魔力を吸い取った後であり、色は黒に近い灰色をしていた。
シスによって準備された豪華な馬車に乗り込み、後は領主の城に向かうのみだ。
パーティーには従者を連れて行くのが当たり前となっていて、大体5人まで連れて行くのが普通らしい。
俺には従者なんて存在しない。誰か適当に雇うことも考えようと思ったのだが、シスが有象無象を何人も準備する意味なんてありません、私一人で十分ですと言って聞かないので、シスだけを連れていくことになった。
魔力の花はシスの言い分に従いシャドウボックスに入れてある。
領城の少し手前で馬車から降り、ヒルダから受け取った招待状を門前に並ぶ衛兵に渡すとすぐに従者がやってきて城内に案内してくれた。
俺が最後だったようで、入った時に俺に視線が集中した。その視線には色々な意味が込められており、大半が良い気持ちにはならないものだったので無視することにした。
俺の前をシスが歩く。あくまで優雅な態度を崩さない。それが大事だった。
準備されている飲み物や食べ物をシスがとってきてくれて、今まで食べたことのない味に舌鼓を打ちつつ、シスと味について話をしていると壇上に上がったヴィムが演説のごとき話を始めた。
これがヒルダのお父さんかと思って見るのだが、ヒルダとは全く似つかない顔でヒルダは母親似なんだろうかと思ってしまう。ヴィムの口から、ヒルダの提案で最も価値のあるプレゼントをした者を婚約者に決定すると聞き、昨日のヒルダの言ったことがようやくわかった。
ヴィムが壇上を後にすると、続いてヒルダが壇上にやってきた。
今まで見たことのないような美しいドレスに身を包んだヒルダは、誰が見ても美しいお嬢様と言った感じだった。俺が今まで話していた時のような気軽そうな感じはなく、お姫様だったとしても不思議ではないくらいだ。
ヒルダは今回訪れた参加者に丁寧にお礼を言うと、にこやかに微笑んだ。目線は俺に向いている気がする。そのことに少しだけいい気分になった。
ヒルダが壇上を降りると、参加している貴族たちはこぞって列を作った。その光景を他人事のように見ていると、シスが少しだけ近づいて、当分は列に並ばなくて結構です。列が後5人くらいになったところで並んでくださいと、小声で教えてくれた。
その間俺はすることがないので、参加している貴族たちの観察と食事・酒の品評に勤しんだ。
参加している貴族の中に、一人だけ見知った顔がある。
確かヒルダの同僚のエリス・アンバー・ソイルと言う聖騎士だ。名誉名があると言うことは上級貴族の証拠である。
あの時はライトメイルだったが、ドレスを着こなし所作もしっかりしているところを見ると、流石お嬢様と言った感じだった。王都で俺に襲い掛かってきた姿が思い浮かばないほどだった。
こちらは横目で見ていたのだが、向こうは顔をこちらに向けていて明らかに俺を見ているのがわかった。なので、素知らぬ振りすることにした。
一刻ほど経ち、ようやく列をなした貴族も少なくなってきたので、シスを連れて並んだ。
最後の方に並ぶのは印象がよろしくない。シスから事前に言われていたからわかっていたのだが、並んでいる俺を見る目はあまりよろしくなかった。礼儀知らず、そう思われていることだろう。
俺の五つ前、今ヒルダに面会している者がプレゼントの説明をしているわけだが、商人が商品の良さを説明しているようにしか聞こえなくて、これをずっと聞いていたヒルダの苦労を早くねぎらってやりたい気がした。
ようやく俺の番。シス一人を連れて手に何も持ってない俺に、ヒルダは笑顔で微笑んでいた。周りにいるヒルダの家族や従者の目は冷ややかだが、レオンとヒルダの姉の顔は普通だった気がする。どちらかと言うと、俺と言う人間の値定めをしているようだった。
「ヒルダ譲のご機嫌麗しく……と、長い言葉はやめにしましょう。
何十回と同じ言葉を聞かされてお疲れのようでしょうし」
俺としてはヒルダに気を使った気持ちなのだが、ヴィムの気に障ったらしく、チッと舌打ちをするほどだった。
そしてシャドウボックスから魔力の花を取り出し、袋を被せたままヒルダの前に差し出した。
他の貴族は複数のプレゼントがあったのに、俺のはたった一つ。そのことにも更にヴィムが顔をしかめさせ、俺の評価が彼の中で落ちるところまで落ちたことがなんとなくわかった気がした。
ヒルダの目の前で包みをつまんでとると、俺の魔力の色をした魔力の花が露わになった。間違いなく美しいが、色のこともあってその本当の美しさはあまり伝わっていない。
花束をヒルダに渡すと、ヒルダは少し悪戯をした子供のような顔になって、受け取る。
魔力の花はヒルダから魔力を吸い取り、花弁は暗い色から青白く輝く宝石に変化した。ヒルダが魔力の花を見るのは二回目だが、何回見てもいいものなのだろう。先ほどとはまた違った顔で微笑んでいた。
この光景を見ていた者たちから、驚きの声があがる。この世界には存在しない花だ。それに美しいし、何よりその変化に驚く。俺も最初見た時そうだった。
ざわめきは収まることを知らない。俺は黙ってこの後の流れを思い浮かべた。
(間違いなくプレゼントの中では俺がダントツトップだ。
だけど、ヴィムは認めないんだったな)
そう思っていると、ヴィムが席を立ち俺に向けて叫んできた。
「貴様、何者だ!」
ヴィムとしては今までの俺への不信感もあってか、真っ先に疑いにかかったのだろう。
それを見越していたシスがすかさず俺の前に出て、手に持っていた書を広げて見せていた。
「サトル・サウザンツ・シャドウ様です。
王国より上級貴族の位を賜っております」
俺の名前って確かサトル・サウザンツにしたはずだったのに、いつの間にか名誉名がついている。
いつの間に……と思っていると、ヴィムがすかさず返した。
「王妃の印だと……本物だと言うのか?
しかし、サウザンツ家など知らないぞ。
実に怪しい、この男を捕まえろ!」
流れから、この書類は王妃が俺を上級貴族だと認めた書類なんだろう。しかし、いつのまに王妃と連絡を取り合うように? そんな疑問を抱えながら、事前に話をしていた実力行使の流れになったことに少し緊張する。
前にダンジョンで見かけたのと同じ鎧を着ている騎士達がやってきて、俺たちを囲んだ。人数は10人。昔だったらこの人数に囲まれたらうろたえていたはずだが、今はシスが隣にいることもあってか全く動揺していない。
あくまで優雅に、婚約者は俺だとアピールし、シャドウウィップでヒルダを引き寄せる。この間とは違う、正反対の流れにヒルダは驚きと嬉しさの混じった顔で俺に抱きついてきた。
「殺せ! 娘を攫う気だ!」
ヴィムの言葉で騎士達は抜剣すると、俺たちに向かってきた。俺の腕の中にはまだヒルダがいると言うのに気の早いやつらだ。
シスが一瞬だけこちらを見て、左の方から向かってくる五人の騎士達を見てから反対側の騎士に向かって行った。あっちをやれと言うことか。俺はヒルダを抱きかかえたままシャドウウィップを出し、騎士達に巻き付かせて無理やり倒す。多少傷つくかもしれないが、殺すことはしない。
俺とシスにより、一瞬にして騎士10人が倒されたのを見てヴィムが驚いていた。隣にいるレオンやヒルダの姉も驚いていた。
後はお芝居の時間だった。ヒルダを降ろした後、パニック状態になっているヴィムに、子供をあやすように今回のことを説明していく。
ヴィムの顔が絶望に変わるのにほとんど時間は必要なかった。
「俺を殺したらダンジョンさえも失うところだったぞ」
俺のとどめの一言。ヴィムは今まででもっとも驚き、そして手の打ちようがないとわかったのか完全い諦めたようで下を向いて何も言わなくなっていた。
この騒ぎを収めるために皆に退出の挨拶をし、あくまで優雅に、焦らずゆっくりと出て行った。
「90点です、サトル様。
ところどころ優雅さが欠けている場所がありましたが、
概ね満点に近いと思ってもいいでしょう。
私も貴族どもがサトル様に驚いているのを見れて、満足です」
門を出て待たせておいた馬車に乗り込むと早速シスが今回の批評をしてきた。俺的には演技も完璧だと思ったのだが、シスには不満があったらしい。
「しかし、俺が上級貴族だなんて……いつの間に?」
今回のことでもっとも不明な点をつくと、シスはしたり顔で教えてくれた。
「サトル様の身分がただの一般人と言うのは
私が納得できませんでしたので、事前に王妃と
親密な関係になっておき、上級貴族であることを
認めさせました」
全くシスには頭が上がらない。たまに何かしているなと思う時はあったが、まさか知らないうちに王妃と連絡を取り合っていたなんて。
「シルクの服を送ったら一発でした。
王妃もちょろいものですね」
王妃も領主も形無しだな、と馬車に揺られながらそう思った。
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