3章 4話 ヒルダの帰還4
実は、パンケーキのシーンは実際にパンケーキを食べた日に書いていたわけですが、その割に美味しそうな表現方法を全く出さなかった。と後で読み返して思いました。
今日は、ヒルダが領に帰る日だ。ヒルダから事前に一緒の馬車に乗り込むように言われている。
今までの行いを昨日許されたわけだが、それでも申し訳なさがあり拒否することができなかった俺はそれに従うのだが、正直に言うと早くダンジョンに帰りたかった。
(ダンジョン、もうかなり長い間放ってあるんだよな……)
長く王都滞在するつもりはなかったから、ダンジョンの管理をシスに任せてきたわけだが、流石に1週間近く放置するとなると心配になって仕方ない。
ダンジョンマスターの権利は俺のままであるから、シスがダンジョンを無事にダンジョンを運営できているかが気になる。俺なんかよりよっぽど優秀なシスであるから、もし運営できているなら問題ないが権限と言う意味でシステムを無事使えるかわからないのだ。
とは言っても、今は現地にいないので心配するだけ無駄になってしまうから、大人しく騎士舎の入口から少し離れた辺りでヒルダを待っていた。
騎士舎の、その中でも聖騎士達が住むところからヒルダが出てくる。服はこの間会った時と似たり寄ったりだったが、両腕にいっぱいの花束を抱え、更に後ろに付き従う従者がプレゼントらしき物を大量に持っていた。
(流石聖騎士団でTOPの人気を誇るだけあるな……)
聖騎士団に数人しかいない女性聖騎士。しかもその上上級貴族で、可愛くて性格もよくて……数え役満みたいな存在だ。人気があって当然だとしか思えない。
あの花やプレゼントを渡される時に、何人の男性がヒルダに告白をしたのかと考えると彼らが可哀そうで仕方ない。
前が見えないほど荷物をたくさん持つ従者もいて、どうやって歩いているのかはわからず不思議に思っていると、馬車の前にいた俺に気づいてヒルダが持っている花束を前の見えな従者のプレゼントの上に積み重ね、俺に小走りで寄ってきた。
「サトル、お待たせ。
さ、行きましょ。あの馬車よ」
ヒルダが指を差した先には、見たこともないほど豪華に拵えられた馬車があった。
言われるがまま、ヒルダと並んでそこに向かうと、
「お嬢様、お待ちください。
そのような私どもが知らぬ輩を馬車に入れては、
お館様に叱られてしまいます。
どうか、私どもと一緒に馬車に乗りください」
従者の中で一人だけ荷物を持っていない者、おそらく従者たちの長だろう。今回の、王都からの帰省を取り仕切っているのだと思われる。
帰省に対し、目的とは無関係な人物を入れるのは当然御法度だろうし、更にそれが異性ともなればもっともだ。
「この人は護衛よ。それに、私より強いの。
なんなら、騎士団長より強いかもしれないわよ?
そんな人を差し置いて、あなたたちが馬車に乗るって
どういうことなの? 盗賊の襲撃でも成功させたいの?」
かの有名な聖騎士団長より強いかもしれない、その一言に従者の長は冷や汗をかいていた。その言葉が示すのは、この国最強の存在を目の前にしていると言うことだ。
しかし、聖騎士団長より強いと言う言葉は正直眉唾ものだろう。だが敬愛するヒルダの口から出た言葉と言うこともあってか、従者はそれを否定することはなかった。
「け、決してそのようなことは……」
従者の長はそれだけ言い、俺と一緒に馬車に乗るヒルダを見送るしかなかった。
「いいのか? 従者をあんなに無下にして」
返って俺の方が申し訳なくなる事態に、恐る恐るヒルダに質問をすると、
「いいのよ。
どうせ、お父様に言われてきただけなんだから。
それにこれで私の自由が確約されたわけだし、
サトルと一緒にダンジョンをどうするかの話し合いも
できるから、旅も飽きないと思うの」
そっちが本音か! でも、馬車の旅なんて話す相手もいなければ実際つまらないだろうから、仕方ないと思うことにした。
馬車が動き出し、ヒルダとダンジョンの話をしまくった。馬車の中では問題ないが、馬車から降りて休憩の時間に入る途端に従者たちから厳しい目を向けられた。
彼らの気持ちもわからないではないが、そこはきっとヒルダがフォローしてくれることだろう。
旅は順調に進んで、領に着く1日前のことだ。休憩時間のティータイム中に、従者の長がヒルダに話しかけてきた。
「ヒルダ様。
明日の予定をお伝えしておきます。
明日は朝早くに領につき、その後すぐに食事をとりながら
ヴィム様に帰宅のご挨拶。午後からお見合いとなっています。
一週間後にヒルダ様の誕生パーティと なっていまして、
その日にヴィム様が婚約者を決定するとのことです」
落ち着いてお茶を飲んでいたヒルダが、不満を露わにして立ち上がる。
「ちょっと! 戻ってきたばかりでもう婚約者決定って!」
しかし従者の長は少しも揺るがない。
「これは、ヴィム様の指示ですので。
申し訳ありませんがご不満がある場合は、
公爵様に直接お伝えください」
言いたいことだけ告げると、従者の長はテーブルから離れて行く。
ヒルダは何も言えず、そのまま立ち続けていた。領主の娘であれば、婚約者は父に勝手に決められる。俺の前世の記憶でも、そういった話が昔はよくあったのを記憶している。
こちらを向いて不安そうにしているヒルダに対し、俺は何も声を掛けられず……ヒルダは声も出さずに従者に頷いていた。
俺が何も言わなかったせいか、ヒルダはこの後馬車の中で何も話さなかった。
無事領についたが、馬車から降りる際、ヒルダはこちらを向くことなく何も言わずに降りていった。
俺はその背中を見送ることしかできずに、改めてこの世界は異世界なのだと思うのと同時に、自分はこの世界にどう関与していきたいのか考えることになった。
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