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3章 2話 ヒルダの帰還2

せっかくのお盆休み中に全然かけなかったのがつらい・・・。

お盆休み開けてまた頑張っていきます。

よろしくお願いします。


「隊長! 私、今日は訓練休みますから!」


ヒルダはドアを強く開けてエリスの部屋に入ると、書類仕事をしていたエリスに向かって言った。


「え、今なんて……」


「訓練は休みますから! 絶対です! 休みますから!」


エリスに有無を言わせずに休む旨だけ伝えると、風のように出て行った。

残されたエリスは、開けっ放しのドアをただ見ていることしかできなかった。


「今日は、隊の皆もヒルダにあいさつをしたがっていたのに……」


誰に向かってでもなく言葉が呟かれた。




「全く! サトルは強引なのよ!」


指定されたカフェにヒルダが訪れての第一声。

俺はシスに言われて焦っていたこともあり、深く考えずに行動しまったことで王都に大変な迷惑をかけてしまった。大変バツが悪く、言われるがままになるしかない。

約束した手紙も送らない、連絡もせずに急に訪ねる、夜中に襲い掛かる。はっきり言って絶交される要素しかないわけだが、必死に謝ったこともあってかヒルダがなんとか許してくれたようだった。


「で、どうなのよ」


「ん? どうって何が?」


「だから! ダンジョンよ!

 手紙でやり取りできなかった分を、今ここで聴いて

 許してあげようと思ってるのよ!」


「ああ、そういうことか。

 じゃあ、ヒルダと別れた後から話すよ。

 少し時間かかるけどいいよな」


今日は時間もあるみたいだったから、俺はたっぷり時間を使うつもりで最初から説明した。

冒険者ギルドでの情報収集、ダンジョンの作成、冒険者の到来、そして魔術師ギルド長との邂逅。

魔術師ギルド,鍛冶ギルド,冒険者ギルドの和解。


「やっぱり、全部サトルの仕業だったのね。

 そうだと思ってはいたけど、あらためて聞くと驚きよ。

 特に! あの魔術師ギルド長のセルマ・ノルディーンを

 倒した話なんて!」


「シィーッ!

 ヒルダ、シィーッ!」


大声を出したヒルダに、唇に人差し指を当てて静かにしてくれと頼むと、ヒルダは自身が興奮していたことを理解してか、小さな声でごめんと謝ってくれた。世間ではセルマ・ノルディーンが敗れた相手はサトルではなく、ダークストーカーだと言うことになっているのだ。


「でも、おかげでノースランドも豊かになってるのよね。

 そこにはお礼を言わなくちゃ。

 サトル、ありがとね」


ヒルダの女の子らしい素直な礼を向けられるととても気分が良い。

そして、話はレイドシステムだ。レイドシステムは現在も進行形で俺が力を入れている項目だ。

話す内容にも力が入った。




レイドシステム。複数パーティが協力して同時にダンジョンを攻略するシステムである。

冒険者達はパーティごとにダンジョンを攻略しているのだが、このシステムを用いる場所は規定人数を超えないと攻略が難しいため、ある一定人数以上を推奨と看板に書いた。


「この先、16人以上の複数パーティ協力体制での攻略推奨」


一番最初に看板の文字を読んだ冒険者はこの意味を理解できなかった。言葉が理解できなかったわけではない、今までの人生の中で複数パーティでの攻略を推奨されたことが一度もなかったからだ。

だから、看板をいたずらだと思い無視して進んで行ってしまった。

4人パーティでダンジョンを攻略していた彼らは、看板の先にある大きな扉を開けると中にモンスターが1匹もいないことを確認してから全員が中に入った。


「なんだ、やっぱりあの看板はいたずらなんじゃねえか」


メンバーの一人がそう言った時、突然開けっ放しにしていた扉が閉まった。


「開かねえ!」


メンバーの一人が駆け寄って扉を開けようとしたが、とてつもなく強い力で扉が抑えられているように扉は開かなかった。

そして大部屋の中央からモンスターの軍勢が召喚されていく。

1匹……5匹……10匹……まだ増える。ゴブリン,コボルト,オーガ,ウルフ、種類も様々だ。


「ヒッ……」


目の前には増え続けるモンスターの軍勢,後ろには閉ざされた扉。冒険者達は死を覚悟させられた。

だが運が良かったのか、冒険者達は死ぬことはなかった。気絶した状態で大部屋の外で発見され,他の冒険者たちにより冒険者ギルドに担ぎ込まれた。

当然このことは冒険者ギルドで噂になり、冒険者達の言は証拠として冒険者ギルドのギルド長に届けられた。

そして、冒険者ギルドのギルド長から事実が冒険者たちに伝えられると、冒険者たちの反応は二手に分かれた。慎重派は行動派だ。

慎重派は、今回偶然生きていたのだと言って迂闊な行動を控えていたが、行動派は看板に書いてあったようにもっと大勢で参加すべきだと仲間を募り始めた。

冒険者と言う職業柄、失敗より成功を考えて行動する者が多かったのが良かった。すぐさまレイドシステムには新たな挑戦者が訪れた。

しかし、全体的に前衛が少なかった。今のレイドシステムにおいては前衛過多でいいくらいの調整にしてある。


「俺が連合パーティのリーダーをさせてもらうことになった。

 このダンジョンでまだ誰も踏破していない場所だ!

 どんなお宝が眠ってるかわからねえ。俺たちが真っ先に

 そのお宝を拝めてやろうぜ!」


今回だけの簡易パーティにしか見えないのだが、その割に全体の士気が高かったのは間違いなく手に入るお宝を考えてのことか、それとも元からパーティ同士の仲が良かったのかはわからない。

だが前衛不足のパーティであったにしても、十分な活躍を見せてくれた。


連合パーティのリーダーは、自ら率先して前に出て敵を倒す。その行動は連合パーティの皆に勇気を与え、モンスターの大群に囲まれているにも関わらずメンバーを奮い立たせた。

大剣を振るってゴブリンやコボルトを一撃で切り裂く強さを見せる活躍。疲れて行動が鈍った仲間に対しては、声をかけてもうひと踏ん張りだ頑張れと励まし、モンスターに追い込まれている仲間がいれば誰より先に真っ先に駆けつけて助けに行った。

一見、このまま行けば攻略できるのではないかと思えたが、リーダーが助けに入れなかった場所から瓦解していき、最終的に一人になってしまったリーダーも多勢に無勢、力尽きて倒れてしまった。

レオンやエリスのような剛の者がいれば、もっと簡単にクリアできただろう。

セルマ・ノルディーンのような大魔術師がいれば、範囲魔術で一気に殲滅することにより攻略も叶っただろう。ただ、それより弱い冒険者の集まりではこれが限界のようだった。

大部屋の戦闘の様子を見ていた俺は、もう少しだったのに! と実際に戦っていた冒険者達より悔しい思いをした。


ウィンドウの先では、すでにモンスターたちが倒した(正しくは気絶させた)冒険者たちに傷薬をかけて回復させ、扉の外へ運び出している。

今回の戦闘のことは仕方なく諦め、すでに次の戦闘のことを考えることにした。

以前もきた、あのヨーゼフとか言う冒険者たちが来てくれないものか。そう思っていた。


「彼らは多分来ると思いますよ」


一緒にウィンドウを見ていたシスが教えてくれる。彼女は俺の知らない個別の情報網を持っているから、勘で言っているのではなく事実として言っているに違いなかった。

そして、ヨーゼフたちはそれからそう日を空けずにやってきた。


「いいか、前のやつらが情報を出してくれたおかげで、

 攻略するにたる情報が全て集まった。

 俺たちの手でこの大部屋を攻略してみせるぞ!」


ウィンドウの向こう側で仲間に声をかけるヨーゼフの前には、10人以上のメンバーがいた。

もともと4人だったヨーゼフのパーティーは、エルフの二人を加え、ドワーフを加え、8人になっていた。更に、ほかにも2つのパーティを入れて合計16人で臨もうとしていた。


「前回、大部屋に挑戦したやつらにできなくて、俺たちにできることがある。

 それは上位魔術師であるエルフ二人の範囲魔術による殲滅だ。

 マルク、リネーア、頼んだぞ!」


「任せておけ。

 われらはこのような時のために研鑽を積んできたのだ。

 だから、分け前の方も頼んだぞ」 


「兄さん、せっかくいいセリフだったんだから、最後まで

 しっかりしめてよ。

 ヨーゼフ、任せておいて。あなたの期待を決して裏切らないわ」


二人に気力が溢ているのを確認したヨーゼフはドワーフに言って扉を開けてもらい、皆に合図を送ってから先頭に立って大部屋に入っていった。

部屋に入ったヨーゼフは、深くまで入り込まずに途中で止まる。


「いいか、決して広がるな。

 密集とまでは言わないから、固まって行動するんだ。

 遠距離攻撃はできるだけタイミングを合わせて撃て!

 数が多いから、細かく狙わなくても当たるぞ。

 マルク、リネーアの詠唱を妨害させるな!」


ヨーゼフに続いて入ってきたメンバーは前衛の者も弓を持っていた。完全なる殲滅は範囲魔法主体でその他の者は時間稼ぎをするらしい。

3~4人ずつ集まって、向かってきたモンスター達に矢やヴォルトの術を撃っていった。

狙いは雑だったが、モンスターの足や腕などどこかしらにはちゃんと当たっていて、モンスターたちはそのまま向かってくることができずに立ち止まったり倒れたりしていた。

時々、矢などに全く当たらずに近寄って来れたモンスターもいたが、ドワーフが斧を力強く振るい一刀に両断する。

エルフの二人はヨーゼフ達を完全に信頼しているようで、焦る様子もなく淡々と詠唱を続けていた。


それから1分近くその戦法で戦い続けた。足に傷を負って動けなくなったり、倒れ込んで動けないモンスターのせいで、モンスターの大群は上手く攻められずにいる。

そしてとうとう来た。マルクがリネーアの方を向くと、開いた両手から赤色の波動がリネーアに向かって流れだす。


「フレイムオーソリティですか。

 なかなか高等な魔術を使いますね」


俺には魔法のことはほとんどわからないので、シスが説明してくれる。

第4層の火魔術、フレイムオーソリティ。敵ではなく味方に掛ける魔術。掛けた相手の火以外の魔術の効果を弱くし、代わりに火の権威を高めてくれる。

火の魔術が1段階も2段階も強くなると言う高等魔術だ。詠唱は長いが、その分の効果はとても高い。

そして、当然それを掛けられたリネーアは攻撃の魔術を唱える。


「ブレイズアーム!」


掲げられた右手に、炎の巨人の腕が顕現する。

炎の巨人の腕によって部屋が突如明るくなり、準備ができたことをパーティのメンバーが知って、リネーアに道をあけるとリネーアは腕を振り下ろした。

巨大な炎の腕はもっともモンスターが固まっていた場所に落ちて、そして爆発する。

その威力は、ウィンドウ越しに見ていてもこちらまで爆発の余波がきそうに思えるほどだった。


爆発が収まった後、残ったのは倒されたモンスター達の魔石と、上手く直撃を逃れたわずかなモンスターだった。


「よし、今だ。掃討するぞ!」


ヨーゼフの声で皆が弓から近接の武器に持ち直し、次々に残ったモンスターにかかっていく。

大魔術を完成させたマルクとリネーアは、たった一度の魔術でかなり疲れていたようで座り込まないものの動けなくなっていた。

ヨーゼフは指示を出した後は、戦闘を確認しながら二人を気遣っていた。

全てのモンスターを倒し終わると、部屋の真ん中に豪華な装丁の大きな宝箱が出現した。

皆が宝箱の周りに集まり、罠の確認をしてからドワーフが開けると中にはいっぱいの魔石と、銅貨と銀貨、傷薬や金属製の鎧が入っていた。

いまだかつて見たことがないような報酬とその量の多さを見て、メンバーは沸き上がった。

抱き合ったり、感動でむせび泣いたり、大声で叫んだり、皆それぞれの喜び方があった。


「ヨーゼフ、やったね。

 私たちの初のダンジョン制覇だよ!

 こんな日が来るなんて思わなかった……」


ヨーゼフと初期からパーティを組んでいるカタリナからすれば、自分たちがまさかダンジョン制覇した冒険者の仲間入りをするなどとは思ってもみなかったようで、感動のため目には涙がいっぱいだった。


「俺もそうさ。それに、俺たちだけじゃダメだった。

 新しく加わった、仲間たちと協力してくれたパーティの力も

 あってのことだ。

 だから、今回のことはみんなの力だ。

 今後とも頼むぜ」


泣きながらヨーゼフと握手するカタリナ。周りの者たちもそこに集まってきて、あらためてみんなで握手したり笑いあった。

そして、ヨーゼフ達は冒険者ギルドにより上級冒険者の仲間入りとなった。彼らはここの力は決して強いわけではない。だが、仲間との絆,連携,チームワークが認められて上級冒険者になることができたのだ。

ノースランドでヨーゼフ達はあっという間に有名になった。当然王都にも噂は流れ、新たにダンジョンを制覇した冒険者として名が残ることになった。


本小説を読んでいただき面白いと思った方、ブクマ,評価,感想,レビューの方をよろしくお願いします。

また、同時連載中の「闇の女神教の立て直し」もよろしくお願いいたします。

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