9話 己が技を知る ~相田誠人の場合~
ナベの発言を華麗にスルーしつつ、トシがナベに、路線変更をかける。
「ナベ、今度はお前が書く番だぞ。これにきっちりと書いてくれ。さっきサラっと聞いた印象じゃ、純粋な戦闘力はどうやらナベの担当っぽいからな。とにかく、詳しく書いてくれ」
「了解。どれどれ・・・」
ストーブから薪を取り出し、またタバコに火を点けながら、ノートに自身のスキルやアビリティを書き始める。
それを見てトシは思い出したように話し始めた。
「そうだった、ナベも書きながらでいいから聞いてくれ。非常に重大な問題がある。主にナベとタツヒロに取ってだが・・・。お前ら、これから先、タバコってどうすんだ? 手に入るかどうか、今後は全く判らなくなってしまってるぞ?」
それを聞いた瞬間、あっ、という顔をして二人は同時にトシを見る。この世の終わりが訪れた様な顔をしながら・・・
「・・・そうだった。めちゃくちゃ重大問題だった・・・ どうするタツヒロ・・・」
「いや、どうするもこうするも・・・、結局のところ“節約あるのみ”しかないだろ・・・ タバコの葉とかなんかが見つかるまでは、手の打ちようがないよ・・・。あ!?、俺の魔術で創成出来ないかな? 出来たら便利だよな・・・。これは最優先の検討課題にしよう・・・」
そこに、トシが割って入ってくる。
「そういうことなら、ガソリンとか軽油の創成も検討しててくれ。でないと、二人の車は、しばらく走った後に、寿命を迎えてしまう。まあ、タツヒロの車の場合は、そもそも走れるようなところが、あるのかどうか疑問だが・・・」
「うわ、それもあったか・・・」
「そっか・・・、っつーかすっかり忘れてたけど、俺の車って借り物じゃん・・・。これやばくね? 警官が借りパクだよ、どうすんだよ・・・(戻ってもクビ確定だなこりゃ・・・)」
クビの衝撃が癒えぬままのナベから、沈んだ声で出来たと声がかかる。
「・・・俺の方のスキルやアビリティは、こんな感じだった・・・」
その声に誘われて、トシとタツヒロが代わる代わるナベを慰めつつノートに目をやり、しばし内容を吟味する。
ナベのスキルやアビリティは、次のようなものだった。
~スキル:絶界~
・絶界:球形に空間を区切り、外からの干渉をそのまま反対側に素通りさせるように、空間の入口と出口と操る事で、全ての干渉を対象とする結界を作る
・絶界・透:絶界を展開後、外部の可視光線情報を内部に反映させる境界に変える
・絶界・反:絶界を円盤状に展開し、入口からの干渉を出口に流す絶界の発展版。その場で外部からの干渉が反射するように空間をつなげる事も可能
・絶界・封:入口のみ開けた術者独自の空間を作り、そこに外からの干渉を閉じ込める。術者によっては内部に閉じ込めた術などを分析・吸収することも可能
~スキル:剣士~
・剣術:剣を使った戦闘技術(神子上流兵法)
・膂力上昇:筋力を中心に力を向上させる。
・体力上昇:スタミナや抵抗力、持久力を向上させる
・霊力変換:霊力を戦闘力に変換する
~スキル:監視者~
・気配感知:周りの霊力、および妖力を感知する。使い込めば感知範囲が拡大していく
・魔力感知:周りで発生した魔力を感知する。使い込めば感知範囲が拡大していく
・精霊力感知:周りで発生した精霊力を感知する。使い込めば感知範囲が拡大していく
・法力感知:周りで発生した法力を感知する。使い込めば感知範囲が拡大していく
・遠見:視力を高め、遠くのものを見えるようにする
・隠形:姿や気配を隠し、相手の感知を撹乱する
~スキル:調理師見習~
・調理基礎:調理の基礎技術全般
・目利き基礎:食材の目利きの基礎全般
・解体基礎:食材の下処理の基礎全般
・並行調理基礎:同時思考、および同時作業の基礎全般
「うーん、調理師見習とか剣士とかは判りやすいが、監視者と絶界ってのは今一つイメージが湧かないなあ」
気を取り直してトシがそう呟くと、他の二人も同意してくる。
「正直、結界とか感知って言われても、何がどうしてどうなるのか想像がつかないよな」
「俺なんか、自分のアビリティなのに訳判んねーし。もちろん、使ってみりゃ判るんだろうが、字面じゃあ全然イメージが伝わってこねーよな」
「後は、剣士に見習いが付いてないって事は、まともなレベルに達してるってことなんだろうな。ナベって大会とか出てたっけ?」
同門という意味でも気になっていたトシが、改めてその辺を聞いてみると、ナベがハッとした顔をしてトシに答える
「ああ、それな。そういえば、トシに言うのをコロッと忘れてたんだが、夏前に剣術と組打ちは師範の印可もらったんだよ。槍と鎖も師範代までは来てるから、もし刑事やってなかったら、それこそ実家に住んで道場で教えてたかもな」
「トシ、師範て? ナベってそれなりに強いの?」
流石に得手な内容ではなかったのか、タツヒロがトシに確認している。
「師範ってのは、今でいう先生みたいな意味で、要は、弟子を指導できる力を持ってますよ、腕前も相当ありますよ、と認められたようなもんだ。師範の印可はそういう意味さ。ある意味一人前の剣士になりましたって証明にもなるし、流派に属するものが目指す最初の目標だな。まあ、その先の免許皆伝は、もっと大変なんだけどな・・・」
「神子上流兵法だとさ、軍楽も武術も含めて、全ての師範の印可をもらわないと、免許皆伝には届かない訳よ。二つっきりの師範じゃあ、まだまだでかい顔は出来ねーんだよなあ」
トシに続いて、ナベもその辺の仕組みをタツヒロに解説する。
それを聞いたタツヒロが、ようやく納得した様子で頷く。
「そういう事かあ・・・。まあ、ともかく、何となくだけど俺達の役割分担が見えてきたよな。この世界が特殊で、実は魔法だけの世界でした~、とかでもない限り、剣と魔法の、剣の部分は俺とナベが、魔法の部分は俺が、頭脳労働はトシ、ケガは俺、飯はナベ、この辺は決まりだよな」
「俺もその案で、概ね問題ないと思う。細かいことを言うなら、監視者を使ってナベが偵察?とかも出来そうだし、タツヒロの創成魔術も色々と作れるかもしれない。後は、ナベの結界とやらがどういう事が出来るか?、俺やナベに魔術は使えないのか?、とかこの辺は、この後少しずつ確認していこう」
「了解~、じゃあ一旦、後片付けだな。焼き肉の方は、夕飯とかでいいだろ? 飯の用意がここに有っても、邪魔になるだけだしな・・・、ってか水出ねーのか・・・。まあ、まとめてコテージの中に入れておこう・・・。あ!?、肉も冷蔵庫が動いてないんだったな・・・。困ったなあ・・・」
ナベが今更ながらの不便さを再確認し、とりあえず食器をまとめるだけにしようと二人に声をかけ、後片付けが始まった。
20170406:絶界・界を絶界・封に名称変更