79話 『顔』となる面々
土日月と発熱でやられ、またも投稿が遅れた事、申し訳ありませんでした。
今朝はすっかり本復しましたので、今日以降はまた投稿を再開します。
アウグストが落ち着くまでに数分を要したが、みな黙ってお茶を飲んでいる。
そして全体を見渡し、キリがいいと判断したのであろう、タイグが座ったまま口を開く。
「では到着順に改めて自己紹介と致そうか。タイグ・マカテインじゃ。モルトランドにて外務卿に就いており申す。まあ、外務卿といったところでほぼ換金専門じゃがな・・・。これは甥のエマーソン、今回の随行員を申し付けておる。ほれエマーソン、改めてご挨拶を」
「エマーソン・マカテインに御座います。今回は叔父上のお計らいにより使節の随行員を拝命しました。皆さま、宜しなにお引き立てのほどを」
二人が軽く頭を下げると、次は隣の二人組の番だ。
「ティベリウス・モディウス・カッシアヌスである。東シアーラ帝国にて次席外務官を拝命しておる。この度、皇帝陛下より今年初の換金馬車の使節を仰せつかった。前回来た時とは、護衛の顔ぶれが変わっておるようだが、フェビアン殿からは太鼓判を押された故、多少は期待しておる。それからこれが今回の随行員のクイントゥスじゃ。クイントゥス、ご挨拶を」
「クイントゥス・ルティリウス・ガイアヌスで御座います。今回、ティベリウス様の随行員を務めさせていただきます。気軽にクイントゥスとお呼び下さい」
二番目の二人が軽く頭を下げ、挨拶が終わる。
次は最後の二人組だ。
「カタルーニャはセルビア大公領より参りした、アウグスト・クレメンテで御座います。前任たる父は先だって大公閣下付きの外務顧問となり、それを受けて私がこの度、二等渉外官を拝命しました。誠に若輩ではございますが、皆様宜しくお引き立てのほどを」
「ゴンサロ・アンドラーデに御座います。先頃、アウグスト様がクレメンテ家の当代となられました。先代フェルナンドからも皆様に宜しくとの事でございました。当面は私が随行員を務めさせて頂きます。皆様、宜しくお願い致します」
これで使節の側の自己紹介が終わる。
続いては受け入れ側である。
「ルロの町より、町務会議庶務委員を拝命しておりますフェビアンで御座います。旧知の方もいらっしゃいますが、改めまして皆様、どうぞお見知り置きの程を・・・、なを、兵務委員のジェラルド殿は本日所用の為、明日の出立時にご挨拶させて頂きたいとの事でございました。そしてこちらが前回より護衛任務を請け負って頂いております、オリオン商会の方々で御座います」
「皆様、お初にお目にかかります。オリオン商会会頭、相田誠人と申します。今回も護衛任務を務めさせて頂きます。ご覧の通りの平民故、貴族様の作法も覚束無い不調法者でございます。任務中は、ご無礼の段平にご容赦を」
「同じく会頭をしております、斎藤芳俊と申します。精一杯務めさせて頂きます」
「同じく会頭をしております、竜沢弘樹と申します。道中の無事は我らにお任せあれ」
そう言って三人が軽く頭を下げる。
そのまま流れるようにナガヨシが言葉をつなぐ。
「オリオン商会にて、御三方様の名代を拝命しておりますナガヨシと申します。常より商館の方に詰めておりますので、普段の用向きは私めに。御三方様には確実にお伝え致します故」
そう言って、立ったまま左胸に右手を当て礼をする。
これがこちらでの最敬礼なのだ。
それを受けてタイグが話し出す。
「作法の件は気にせずとも良い、護衛中は無礼講で結構。それよりもオリオン商会とやら。其の方達は前回より護衛任務を請け始めたと言う事だが、前任者の方はどうなったのじゃ? ここ数年は、あのギャビンとか云う、いろんな意味で脂っこい男の所じゃったが、あのような男がそう易々とこの任務を手放すとも思えんが・・・」
少しばかり剣呑な空気を増した視線でフェビアンと三人を見る。
そのまま、フェビアンがその視線を外しながらタイグ以外にも聞かせるように顛末を語り始める。
「実は・・・、~中略~と言う訳で、どうやらもぐりの奴隷商売に手を染めていたようで、その関連のトラブルが原因と思われます・・・が、如何せん証拠が乏しく真相は謎のままです。その辺の事情も含めて経緯を知るオリオン商会さんに、資産と任務請負とを引き継いで頂きました」
フェビアンの説明にひとまず納得の表情をする使節の面々だった。
ティベリウスがしみじみと呟く。
「そういう事であれば、自業自得と言うしか無いのう。クイントゥスも心しておくが良い。死んで自業自得と言われる死に方はするなよ?」
「はい、心に留めておきましょう。しかし、奴隷商の鑑札などそれ程入手困難という訳でもありますまいに、何故もぐりで奴隷を扱おうと思うのか・・・」
クイントゥスの問いにタイグが答える。
「大方、違法奴隷で“濡れ手に麦粉”と目論んだのじゃろうが・・・、詰めが甘ければ善事ですらなし得ぬと言うにのう・・・」
「父にはひとかどの男と聞いておりましたが・・・、存外、愚物でしたな」
タイグの言葉にアウグストがとげのある感想で応え、ゴンサロも同調する。
「バレるまではそうだったんでしょうな・・・。飾るのは上手い、そんな奴らも居ない訳でありませんから・・・」
その辛辣な意見は、それなりに同意を得られた様子だった。
それを締めくくったのは、タイグの一言だった。
「まあ、悪例の一つとしてしっかりと教訓にしようではないか。まあ、世間話ばかりしていても始まらぬし、明日に備えて儂はそろそろお暇するかのう。エマーソン、確認事項があれば今のうちにしておくようにの」
「ふむ、少々癪なもんじゃが、小タイグの言う通りじゃ。クイントゥス、お主の方はどうじゃ?」
「確かにタイグ様の言う通りでございますな。ゴンサロ、うちはどうだい?」
使節本人がそれぞれの随行員に尋ねると、残って確認する旨をそれぞれが答え、先に使節達はそれぞれの護衛部隊に戻る事になる。
「ではオリオン商会殿、明日は頼みましたぞ」
まずタイグが挨拶しながら席を立ち、そのまま自部隊の方に向かう。
その後はティベリウスだ。
「ではオリオン商会殿、道中よろしくな」
最後にアウグストが席を立つ。
「当職は今回が初任務でございます故、慣れない部分も多くご迷惑をおかけするかもしれませんが、道中よろしくお願いします」
意外に丁寧なあいさつで自部隊に帰って行った。
そのままフェビアンの仕切りで打ち合わせが始まる。
「さて、御残りの随行員の方々にはいろいろと細かい話しもございましょう。念の為、天幕は締めさせていただきますね」
そう言って、新しいお茶と軽食を天幕の件と同時に部下に手配する。
天幕全周に壁替わりの布が垂らされ、一つの閉空間と化す。
それと共に、周りに兵たちの足音が響き、ある程度の距離で天幕を囲むように止まる。
新しいお茶の用意と軽食が運び込まれ、打ち合わせが始まる。
「まずは打ち合わせの前に、各国の換金予定額を確認させて下さい」
フェビアンの問いに、随行員達は自国の換金予定額を皆の前で発表する。
フェビアンより伝えられていた額と変わらない額であった。
百Dの延べ棒を十個並べた長方形の箱が通称“千箱”と呼ばれる基準の箱になる。
この箱で、今回は七十五箱になる計算だ。
「オリオン商会さん、千箱で七十五箱ですが、問題はありませんか?」
「問題は特にありません。うちの馬無し馬車で全て運ぶ予定です」
フェビアンの問いにトシが答える。
それを聞いて、今度は随行員の側から質問が出始める。
最初はゴンサロだった。
「では、まずは今回の旅程の概算日数をお聞かせください」
「今回予定している旅程では、行きで十日から十二日、滞在に三日から一週間、帰りにまた十日から十二日、合わせて最長で一月、最短でも二十三日と見ております」
トシの回答に、ほほうという声が聴こえ、次の質問に移る。
次に手を上げたのはクイントゥスだった。
「食料その他の必要物資は、その調達を含めて道中の分に関してはオリオン商会さんにお任せ出来る、でよろしかったですよね?」
「はい、その分も含めて道中は今までになく快適に過ごせるよう工夫を凝らしました。必ずやお眼鏡に適うかと」
トシの回答は、歓迎の言葉で迎えられ、質問は次に移る。
質問者はエマーソンだった。
「今回の護衛兵力は如何ほどでしょうか?」
「今回も旋回同様、騎兵が五名、歩兵が五名、我々が三名の計十三名です。ちなみに厨房スタッフも連れて行きますので、オリオン商会としては十五名体制で臨みます」
「少々少ない気がするのですが・・・。叔父上に聞いていた話だと、騎兵だけで二十名以上の護衛が居たと記憶しているのですが、その辺は大丈夫ですか?」
「兵とは数もそうですが、それを上回る質があれば何も問題ありません。前回も小規模の護衛で、充分事足りました。安心してお任せください」
「そうですか・・・、ではそういうことにしましょう」
そのまま、次の質問が続き、おおよそ一時間ほどフェビアンの回答も併せて、確認事項は出尽くした感じの様だ。
皆に疲労の色も見え始めていた為、そのまま打ち合わせは解散となり、明日の朝八時の出立と決まった為、朝七時にまたこの天幕に集まる事を約して別れた。
その後はフェビアンと共に、一度ルロの町に入り、商館で止まる事にする。
明日は、護衛組と入れ替わりに治安組が商館に入る。
三日交代のシフト制にしたため、普段来れない連中も町に入れるはずだ。
ナガヨシには商館の蓄えから、給料分を毎日即金で朝に渡すように言ってある。
治安出動が、ある意味ボーナス替わりとも言えるのだ。
手に入れた金で、無駄遣いするもよし、取っておくのもよし、とにかく好きに使えと言い含めてある。
鬼人達が何にどう金を使ったのか、帰ってからの報告を楽しみにしつつ、明日の為に早寝する三人であった。