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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第2章 三ツ星戦闘団、遊弋す
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78話 そろい踏み

ルロの町からの帰路における爆睡発生事案については、寝れるほど乗り心地が良い!という評価と共に有耶無耶にされ、寝顔をからかわれるという後遺症のみを残した結果となった。

その後は試運転と称した試乗会が連日催されているが、昨日は『大勢の騎兵達に守られた複数台の馬車』と行き交ったのである。

それは、基地の西に位置する旧街道を、北から南下してきた一団だった。

普段はそもそも他人と行き交わないので、旧街道のど真中をひたすら走る続けるのだが、今回は念の為にその姿が確認された時点で、彼らの邪魔にならない様に道の脇に車を止めやり過ごすようにした。

その脇を走り抜ける十台の馬車全てにブリタニアの紋章があった為、モルトランド王国の換金馬車と当りを付ける。

すれ違う時は、それこそ従士や騎士といった連中からほぼ全員でガン見されたが、無害な風を装い、皆でにこやかに手を振る。

すると、呆気に取られながらも僅かに手を振り返す輩がいる。

存外、剛毅な奴らもいるもんだ。

もちろんその一団が車の脇に停まるというような事は無く、粛々とルロの町を目指して通り過ぎて行った。

その後、試作馬車の方に乗っていたトシは、皆に護衛任務の時期が近い事を知らせる。

そんな三人だが、今回の任務では、前回の反省からナベの絶界で『使節団全員が寝泊まり可能な宿舎』を持っていく計画を立てていた。

前回の任務ではそこまで頭が回らず、大規模なテントや毛布の類、屋外調理用の道具等を大量に持って行ったが、これが持って行った当人達--特にナベ、トシ、タツヒロの三人--に大変不評だった。

曰く、『絶界で持って来れるのに、何でメイサを持ってこなかったんだよ、俺? まともな料理を作って食いてーよ、いい加減!』

曰く、『料理もそうだが、風呂が無いのは困りもんだな。汗を流せないのは不快感が増す!』

曰く、『っていうか、止まる度にいちいちトイレ作んのメンドクセー。毛布敷いても背中がイテー。オフトゥン、カモーーーン!』

曰く、『『『出来ない事なら我慢するが、出来る事ならすぐにやろう!』』』

・・・という訳で、宿舎を作って持っていくという話しになり、二十日以降はその準備に追われていた。

概要としては、一階に食堂と厨房とトイレと風呂(露天風呂付き)、二階にオリオン商会用の寝室十五部屋、三階に護衛する使節と随行員用の寝室十五部屋とし、外には二十頭収容可能な馬小屋を置いて、屋根付きの駐車スペースも併設しておく。

その仮称・遠征用宿舎が明日には完成するのだ。

既に宿舎本体の工事は終わっており、あとは什器類の設置と外の馬小屋、駐車スペースを作れば作業終了である。

もちろん、商館の方から厨房を任せる為に、シェフのピエトロとコミシェフのパブリツィオを同行させる手筈だ。

馬に合わせての工程になるので、片道で凡そ十日から十二日位の旅程となるだろう。

その間の食料も含めてピエトロ達に手配させている。

そして翌日、遂に仮称・遠征用宿舎が完成した。

夕方近かったが、中を確認する。

道中の宿としては申し分ない出来で、ゲルンの腕に今更ながらに賞賛を贈る。

グレインも、ロートアイアンの手すり等の部品作成で協力してくれたと、こちらにも惜しみない拍手を贈る三人。

後は出立の連絡を待つだけたった。


ーーー


次の日の昼、四月最後の市が立つ三十日の昼過ぎにナガヨシから連絡が入る。


<御三方様、宜しいでしょうか? つい先程ですが、東シアーラの使節が到着された様です。明後日にはセルディアの方々も到着されると同じ頃に先触れが参りました。出立が五月の一日に決定致しましたので、取り急ぎご報告を。町務会議からは、四月末には町に入って欲しいとの言付けを頂いております>

<じい、芳俊だ。町務会議の方には承ったとだけ伝えてくれ>

<承知致しました>


遂に日付が決まった。

トシはタダツグの元へ向かう。


「タダツグ、護衛任務の日付が決まった。派遣小隊の選別は済んでるはずだが・・・、どことどこに決まった?」

「はい、防衛班と哨戒班から一つずつ出します。防衛班はトモエの第二小隊、哨戒班は、タカマルの第一小隊を選別しました、が、御三方様のお眼鏡に適いますやら・・・」

「その二人のところなら、良いんじゃないか? それで決定だな。二人にもその旨伝えておいてくれ」

「畏まりました」


トシはナベとタツヒロに連絡を取る。


<ナベ、タツヒロ、日程が決まった。五月一日出立で、前日の四月末にルロに入る。護衛で連れて行くのは防衛班のトモエの隊と哨戒班のタカマルの隊だ。それと商館から厨房スタッフでピエトロとパブリツィオの二人。オリオン商会からの随行人員は、全部で十五人だ。それと、基地からの出発は三十二日の午後、昼食後とするつもりなんだが、二人はそれでいいのか?>

<明後日の昼か、問題無い>

<俺も問題無し~>

<分かった、この内容で周知を図るか・・・。ところで二人は何してるんだ?>

<準備>

<ナベに同じく>

<なるほど・・・>


そのままタダツグに向き直り、今決まった事を伝え、皆への周知を徹底する指示を出してトシも、ふと思いついた自分の準備に向かうのであった。


---


二日後の昼下がり、護衛任務に向かう一行が車に乗ったり、騎乗したりで出発する準備が終わる。


「御三方様、道中お気を付けて。トモエ、タカマル、御三方様を頼んだぞ?」

「タダツグも留守の間、しっかり頼む」

「タダツグ、留守居は大事な役割だ、しっかりな」

「タダツグにもお土産買って来るからね~」

「「タダツグ様、行ってまいります」」

「「「気を付けて~」」」


今、基地に残ってる皆でのお見送りだった。


「開門!」


タダツグの号令で跳ね橋が下がっていく。

そして下がり切ったところで、マローダーが静かに走り出し、後部乗用馬車--試作馬車とかけん引馬車とか言われていたが、ナベの一声でこの名称に決まった--を引き連れて基地を出る。

騎兵となった五人も車両の後について基地を出た。

そのまましばらく見送った後、跳ね橋が名残惜しそうにゆっくりと上がって行った。


護衛任務の一行を乗せた車列は、順調に進み何事も無くルロの町の郊外に着く。

そこは既に大兵力の駐屯地となっており、国ごとと思しき三つの塊でそのうちの一つがまだ慌ただしい。

到着したばかりな様子から、カタロニアのセルディア大公領の兵と思われた。

到着前に連絡していた為、既にフェビアンとナガヨシが門から離れたところでこちらの到着を待っていた様だ。


「前乗りには少々早いと思われますが、無事到着しました」


ナベが代表して、フェビアンに挨拶する。


「短きとはいえ、道中お疲れ様でした。間も無く天幕を用意して顔合わせを行おうかと思っておりました。先方にも伝えておりますので、天幕が出来次第お出でになるでしょう。おい、全員揃った! 作業開始だ!」

「「「へい!」」」


後ろに控えていた連中にフェビアンが声を掛けると、一斉に作業を始める。

しばらくして、屋根だけの簡易な天幕が街道の少し脇に出来上がる。

すると中にテーブルや椅子、コンロなどが用意され、お茶の用意が始まる。


「さあ、オリオン商会の皆さま、近くにいた者の特権です。お茶にしちゃいましょう」


フェビアンの掛け声で、天幕の中に入りそれぞれ椅子に腰を下ろす。

ナベ、トシ、タツヒロと並び、その後ろにナガヨシが並ぶ形で席に着いた。

中央には大きな円卓、というか輪卓というべきものが置かれ、それぞれの方角に椅子が二つずつ並んでいた。

そこに二人の人影が現れる。


「お待たせしたようですかな?皆さん」


そう言って一人の禿頭の男がどっかと椅子に腰を下ろす。

フェビアンから紹介の声が掛かる。


「ブリタニア連合王国、モルトランド王国外務卿、タイグ・マカテイン様でございます」

「どうも、タイグと申します。三ヵ国の合同になりましたが、皆さま宜しなにお願いしますよ? あ、こちらは今回の随行員として連れて来ました、甥のエマーソンです。エマーソン、ご挨拶を・・・」

「今回の使節随行員を拝命しましたエマーソン・マカテインと申します。今回の護衛任務よろしくお願いします」


そこへ、ひょろっとした男がずかずかと入って来る。


「お~、なんじゃモルトランドの使節はお主じゃったか」

「そのうるさい声は・・・、やはりティベリウスであったか、納得じゃ・・・」


すかさずフェビアンが絶妙の間で割って入り紹介を済ませる。


「東シアーラ帝国、次席外務官、ティベリウス・モディウス・カッシアヌス様でございます」

「ティベリウスじゃ、皆の者、護衛任務よろしく頼むぞ? むさいジジイが二人もいるが、まあ我慢してくれ」

「ティビー、むさいは余計じゃ」

「小タイグよ、事実は事実じゃ、仕方あるまい」


そのまま漫才でも始まるのか?と思った矢先に、息を切らせて走って来た若者が席を掴んで肩を上下させている。

そのままフェビアンが紹介を始めた。


「カタロニア王国、セルディア大公領二等渉外官、アウグスト・クレメンテ様でございます。併せて、まだ紹介の終わっていないお二人の随行員の方を改めてご紹介いたします。東シアーラ帝国外務補佐官、クイントゥス様、カタロニア王国、セルディア大公領、三等渉外官、ゴンサロ様、以上でございます」


とにかく、まずは挨拶だ。


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