表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第2章 三ツ星戦闘団、遊弋す
77/84

77話 事前準備はしっかりと

 翌日、朝食を終えてすぐに商館を発つ三人。

 頭にあるのは試作中の馬車だ。

 ああは言ったものの、走行テストがまだであり、文字通りのぶっつけ本番はさすがのトシでも憚られた。

 なので、急ぎ戻ってしっかり使えるものに仕上げようという話になり、今に至る。

 

「それでは御三方様、またのお越しをお待ちしております」

「じい、留守中は頼んだぞ」

「お任せ下され、誠人様」

「じい、昨夜伝えた内容で、ギルドのギュンターに話しを通しておいてくれ」

「はい、承知致しました、芳俊様」

「じい、次に会えるのは護衛の時だね」

「お待ちしておりますぞ、弘樹様」

 

 挨拶を済ませ、北門へ向かう三人はそのまま軽やかな足取りで町の外に出ると、急いで基地に帰っていった。

 

 基地の西門が閉じられている前で車を止めると、門の上の守衛兵から誰何の声が聞こえる。

 

「ここは三ツ星戦闘団のアルゴー・ルロ基地です! 用向きを伺いたい!」

「三ツ星戦闘団、団長の相田誠人、斎藤芳俊、竜沢弘樹の三名だ! 只今、ルロの町より帰還した! 開門願う!」

「確認した! しばし待たれよ!」

 

 そこで会話は途切れ、少しすると堀に跳ね橋が降りてくる。

 そのまま降りきるのを待って車で中に入ると、すぐに跳ね橋が上がり始めた。

 この一連の流れを経ないと、基地内へは誰も入る事が出来ない。

 普段は面倒だが大事な過程なので、守衛兵の任務として厳命してあるのだ。

 命令を決めた本人達も面倒だと感じているのだが、警察にいたせいかナベですら文句は言わない。

 その通過儀礼を終えてそのままメイサの駐車スペースに車を止め、大急ぎで職務棟に向かう。

 その職務棟の脇に、目的の物(・・・・)が埃除けの布を被って鎮座していた。

 

「<グレイン、ゲルン、直ぐに職務棟の脇の試作馬車の所まで来てくれ>」

 

 ナベが声と思念で呼びかけると、双方から返事があり程無く二人が駆け付けて来る。

 

「おう、どうした誠人殿」

「旦那方、お呼びかい」

 

 職人二人が到着すると、トシが話しを始める。

 

「こいつの進捗を聞きたい。換金馬車の件でルロの町に行っていたが、今度は合同らしくてな? こいつの出番という訳だ」

「・・・なるほど、そういう話しか」

「やっぱ合同だったかい」

「で、どうだ? どの辺までいってる?」

「そうさなあ、鍛冶班の担当範囲では細かい部分がまだ残ってる。手すりやらドアノブやらその辺だな。足回りは数回外に出して馬で引いてみたが、問題は無さそうだ」

「土建班の担当範囲からすると、内外装の仕上げだな。骨組みと構造板だけだからな、旦那方の言ってた断熱対策と最後のニス仕上げが残ってる」

「そうなるとだ・・・、グレインの方で仕上げ後にやる工程と仕上げ前にやる工程に分けて、仕上げ前の工程を最優先でやってくれ。で、それが終わったらすぐにゲルンに引き継いで欲しい。ゲルンはグレインから引き継いだら断熱対策と内外装仕上げを最優先で頼む。最終的にはグレインの最終工程の終了を二十日までに終わらせたい。この工程で可能か?」

「二十日まで・・・、って事はあと六日・・・。ゲルン、いけそうか?」

「う~~~ん、ニスの乾き次第だなあ。この時期は、どうしてもそれに足を引っ張られる」

「ニスの乾燥か・・・、それはこっちで何とかしよう。最悪、乾燥用のアーティファクト作ってもいいか・・・。じゃあそれでいこう! 二人とも苦労を掛けるが頼むぞ」

「おうよ、任しときな」

「そうと決まりゃあ早速準備だ。おい!、ジンゴロウ!、ウコン呼んで来い! 仕事だ!」

 

 二人は手分けして、馬車の最終仕上げに取り掛かり始める。

 冬の間に、マローダーでけん引する為の馬車として開発をしていたこの馬車は、定員が十人、総積載量で三t程度を想定して組み立てている。

 車輪はタツヒロのV90の車輪をトシが魔術で複製し、前後に四つずつの八輪車にしてある。

 サスペンションを装備し、左右の車輪に車軸を通していない、いわゆる独立懸架だ。

 そして二つのタイヤを前後に並べて一つのユニットにし、その真ん中をサスペンションに繋げる仮の車軸とする事で、より地面の凹凸に追随できる足回りに仕上げたのだった。

 内部は後部寄りにドアが左右に設けられ、ドアの後ろには荷物室が備え付けられている。

 椅子の配置は通勤電車の様に左右に向かい合う形で設置し、長さを四mにすることで余裕を持たせている。

 全体のイメージは、窓をそれなりに作ったので、まさに“路面電車”や“マイクロバス”といった風情だ。

 各種の段取りを始めた職人二人を見送りながら、三人はタダツグの所へ向かった。

 タダツグは師匠と共に頂上広場--当初、丘の頂上にメイサを置く予定で平らにしたが、結局メイサはその下の層に置くことにしたので平らにした頂上の用途が浮いてしまい、今では訓練用の広場と化していた--で剣術の稽古に励んでいた。

 

「師匠、少々タダツグをお借りしても宜しいでしょうか?」

「ああ、誠人か。うむ、連れて行くがよい。タダツグ、丁度良いのでしばし休憩じゃ。皆も休ませるように」

「はは! 皆の者、しばし休憩を取る。水分の補給と体の冷却を忘れぬように」

「「「はい!」」」

「御三方様、お待たせしました」

「では、メイサで話そうか」

 

 タダツグは三人と連れ立って、メイサに入る。

 トシがお茶を入れに行き、残った三人がソファに座って落ち着くと、ナベがタバコに火を点けながら話しを切り出す。

 

「タダツグ、稽古の途中で来てもらったのは他でもない。我々の二回目の換金馬車の護衛が決まった」

「昨年に続き、でございますな」

「そうだ。だが、今回は合同らしくてな?、都合三ヵ国がやってくる予定だ」

「それは中々の数、駐屯兵などは壮観でございましょうなあ」

「そこなんだよ、タダツグ。そいつらの御守り(・・・)をお前達にもお願いしたい」

「御守り、でございますか?」

「ああ、そうだ」

「そこからは俺が話そう」

 

 お茶を入れ終わったトシが、自分にはお茶、ナベ、タツヒロ、タダツグにはコーヒー--タダツグは意外にコーヒー好きだった。鬼人達の中で唯一、ブラックを嗜む本格派だ--を置いて、ソファに落ち着く。

 そして、そのままナベの言葉を引き継ぎ話しを続ける。

 

「御守りというか、治安維持に兵を出そうと思ってる」

「・・・それはもしや実地訓練も兼ねて?・・・」

「その通りだ、タダツグ。一応、冒険者ギルドの依頼として出されるものを、オリオン商会が請けるという流れになっている。もちろん、希望者がいれば冒険者登録したうえで参加しても良いんだが・・・」

「なるほど、その辺も含めて実地訓練という訳ですか・・・」

「うむ。人員は四個小隊、二十人を予定している。防衛班と哨戒班から二つずつ選んでくれ。それぞれのチームとしての仕上がりも見たい」

「承知しました。人選はいつ頃までに?」

「試作馬車の完成を二十日までと指示してあるので、同じく二十日までにしよう」

「二十日までですね? では早速その旨通達して、更に稽古を勢い付けてやりましょう。ちなみに、ギルドの依頼という事は、報酬は?」

「無論出る。今回は個人に配る形にしようと思ってる。なので、皆に励めと伝えてくれ」

「ほほう、これはこれは。あと五日程度ですが、稽古が楽しみです」

 

 トシとタダツグは、二人で顔を見合わせ、お主も悪よのうとでも言いたげな企み顔でクックックックと笑い合っている。

 その様は、まるで三人残ったどこぞの四天王の様だった。

 

 ---

 

 そして六日後、二十日になると馬車の完成が二人の職人から宣言される。

 

「これで完成でさあ! まあニスの乾燥にあのアーティファクトが使えたのが間に合った理由ですがね」

 

 ゲルンが、頭を掻きながら報告する。

 実はニスが思った以上に乾かず、トシが急いでヒーター(というかパネル型と筒形のヒーティングユニット)をアーティファクトで作り、馬車の内外に設置して乾燥させた。

 途中で三日ほど、グッと気温が下がり、これは危ないとトシが率先して作成したものだった。

 使ってみると、非常に暖かくもあり、グレインなどは職務棟の備品にしようとゲルンと一緒に狙っていたほどだった。

 相談、という名の交渉は実を結び、晴れて職務棟に備品として置かれることとなった。

 それはさて置き、最終試験としてマローダーでけん引することにしていた為、一度絶界に収容し、西門の直ぐ内側でマローダーに繋げてみる。

 しっかりと接合部分は機能しているようで、強度も申し分ないように見えるので、そのまま開門指示を出す。

 最終試験走行には、職人二人の他にオリヒメ、ハルナガ、それに子供達代表でツムギとイトがモニターになっている。

 

「じゃあ、全員乗ってくれ。なるべくばらけて(・・・・)乗ってくれるといいな」

 

 今日はトシとタツヒロも馬車組だ。

 タツヒロの指示で皆が乗り込み、合図と共にマローダーごと馬車も動き出す。

 慎重に走り出してくれたからなのか、非常に滑らかな走り出しだった。

 跳ね橋も設計強度としては大丈夫なはずだが、そこは机上の計算、実地に試すのが一番確実だ。

 そして実地テストが今まさに行われているが、跳ね橋は小動もしない。

 この強度の跳ね橋なら、攻城兵器にもある程度は耐えられそうだ。

 自分達の施した強化の設計が、上手く行ったことを喜ぶ職人二人組。

 そのままマローダーはルロの町へと向かう。

 進行方向を確認して騒ぎ出す子供達だったが、着いたらすぐに帰ると聞いて一気にシュンとする。

 その様子を見て、少しぐらいは寄り道しようかと心に刻むタツヒロだった。

 その後の道中はスピードを上げたり下げたり、走り出したり止まったり、大きく曲がったりジグザグに走ったりと一通り、考えられそうな挙動を馬車に与えてみたが、びくともせずマローダーに喰らい付いて来る。

 そのまま最後のテストとして時速六十キロ程度で巡行してみる。

 自重もそれなりにあるせいか、安定したままだ。

 三人はそれぞれの視点から馬車を観察し、期待通りの出来に満足していた。

 そうこうしている内にルロの町に到着し、タツヒロの説得で町中で一休みしてから戻ろうという事になり、特に子供たちは若干車酔い気味だったのが即座に元気になったのには、現金なもんだと笑い合う大人達だった。

 今日は、丁度『廿日市』が立つ日でもあるので町中は結構賑わっている。

 テスト要員たちは大人も子供も市を楽しみ、買い食いに走り回り、心地よい疲労と皆への土産を手に基地へと戻る。

 帰りはトシとタツヒロ、グレインは何とか耐えたが、それ以外は全て眠り男(サンドマン)の手に掛かり、夢の中へと旅立っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ