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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第2章 三ツ星戦闘団、遊弋す
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75話 合同換金馬車

 町務会議のフェビアンから書状が届いたのをナガヨシからの音声伝達によって知ると、三人は早速ルロの町の商館へと向かった。

 商館に到着すると、すぐにナガヨシの執務室に通され報告が始まる。


「~という訳で、今回は三ヵ国合同での換金馬車となるようです。聞いた話しでは春先は合同となる方が一般的だとか・・・。その分実入りの方も期待できそうですぞ」


 届いた書状の内容をナガヨシが説明し、自身の見通しも語ってくれる。

 それを聞き、トシがナガヨシに確認した。


「なるほどな。冬明けはその辺も混むって事か。で?、じいは何と返した?」

「まずは取り急ぎ連絡を取り、御三方様が揃い次第詳しい話しをお伺いに参ります、とだけ返したおきましたが・・・」

「分かった、すぐに先触れを出してくれ。すぐにでも打ち合わせに入りたい」


 そしてナガヨシの手配した先触れが商館に戻り、伝言を告げる。


「名代様、旦那様方、フェビアン殿よりの伝言です。『皆様を晩餐に招待したいので、明日の夕方屋敷の方までお越しいただきたい』との事でした」

「相分かった。その方もお勤めご苦労。下がってよいぞ」

「はは、ではこれにて失礼します」

「・・・、御三方様は明日まで如何なされます?」

「そうだな、挨拶がてら冒険者ギルドに顔出してくるか・・・」


 トシは冒険者ギルドに行くという。


「俺はちょっと武具屋に行きたいなあ・・・」


 タツヒロは武具を見たいらしい。


「じゃあ、俺は問屋街をうろついて来るか。届いた荷物があれば受け取って来る」


 ナベは買い物の様だ。

 見事に三人バラバラの予定になり、苦笑いしながらナガヨシがまとめる。


「・・・御三方様それぞれに用事がおありのご様子。では夕食と部屋を用意しておきますので、ほど良き頃にお戻り下さいませ」

「そうしよう」

「了解」

「夕方までには戻る」


 そう言いおいて、三人はそれぞれの用事に向かっていった。


 ---


 トシが冒険者ギルドに着くと、丁度カウンターの所にギュンターが居た。


「おお、芳俊さん、ご無沙汰でしたね」

「これはギュンターさん、こんにちわ。ちょっとお時間ありますか?」

「お?、何かご相談ですか?」

「ええ、ちょっと情報取集をと思いまして・・・」

「ん?、ああ、あの件(・・・)ですか。大丈夫ですよ、丁度良く用事も終わりましたし。どうぞ、私の部屋に行きましょう。すみません、お茶を二つお願いします」


 そのまま、トシはギュンターの後を付いて二階へと向かう。


 部屋へ入って、直ぐにお茶を持ってリリイがやって来る。

 持ってきたのは、お茶が三つだ。


「さあ、始めましょうか」


 そう言うや、さっさと椅子に座ってシレっとお茶をすするリリイ。

 二人も顔をお見合わせ、苦笑いしながら座る。


「何というか、相変わらずだねリリイさんは」

「あら、ご挨拶ねえ。これは、そうね、言ってみればあなた方を信頼してる証よ?」

「それはありがたい事なんだけど・・・」

「そう言えば、新年の時に田舎(・・)に帰ったんだけど、あなたからもらった依り代のお陰で大いに面目を施せたわ。兄上や父上すら持って無いぐらいの逸品みたいで、か・な・り鼻が高かったわよ?」

「おお、それは何よりだった様だ」

「それでね?、ちょっとお願いがあって・・・」

「・・・ああ、何か話しが見えて来た・・・」

「もう!、そう言わないでさ。お小遣い稼ぎだと思ってさ・・・、っと、有った。これ!、 と、これ! この二つを依代にして欲しいのよ。もちろん手間賃は預かって来てるから、即金で! ね?」

「まあ、リリイさんの頼みで、しかも即金と聞いちゃあ断れないよね」

「やったー!、助かるわ~芳俊さん」

「詳しくは、こっちの話しが終わったら聞かせてくれ」

「分かったわ、もう何でも聞いてね。必要なら“耳”も呼ぼうか?」

「ああ、その辺は話の流れ次第で」


 耳、とは冒険者ギルドの諜報部門の一部隊の呼称であるが、それを知るのはギルドでも幹部の一部のみである。

 情報分析班を耳と称し、調査潜入班を目と呼んでいるが、この二班が諜報活動の柱である。

 それぞれのギルドの支部ごとにいるが、その存在が明かされることは無い。

 トシは、昨年のルロの町の大掃除の時に、耳からの情報を使って円滑に事を進める事が出来た為に知った、ギルドの重要機密であった。

 そんな秘事中の秘事に関する話しをあっさり流す辺り、トシもただものでは無い。

 それはさておき、とトシは話しを続ける。


「もう既に耳にはしてると思うけど、今度の換金馬車は各国の合同らしい。それ関係でちょっと話しを聞きたいなと思ってさ」


 ここまで言葉を発していなかったギュンターが口を開く。


「ああ、もうそんな時期ですか。お聞きかと思いますが、春先の最初の換金馬車はほぼ毎回合同になってます。やはり冬の間来れないので、この時期はどうしても金貨の需要が高くなりがちなんですよ」

「なるほど」

「それこそ、どこでも逼迫し始めるので、その緩和のために一気に換金馬車が向かって来るので、ルロの町からは毎年合同になってますね」

「そういう事ですか」


 トシの推測通りだが、それを口にしてしまうほど無粋ではない。


「普通の場合との違いや、気を付ける事はありますか?」

「そうですねえ・・・、護衛任務自体は変わりませんね、あなた方の場合」

「我々の場合?」

「ええ。普通に馬車に積むならば、持っていくインゴットの量が三倍から四倍ほどになるので、必要な馬車の分の人足や馬匹、食料などの経費の部分が嵩んでしまうのが一般的ですが、オリオン商会の場合、マローダー(あれ)がありますから普通の換金馬車と変わらないんですよ。まあ、外交使節も増えるので、その辺の各国間のさや当てが、面倒と言えば面倒でしょうけどね」

「確かに、マローダー(あれ)があれば積み荷の点では普通と変わらず運べますからねえ」

「芳俊さん、前に聞いた話しだとマローダー(あれ)って六百グアンド(=六t)ぐらい積めませんでしたっけ?」

「六百グアンド?、ああ、そうですね、六百五十までいけますよ」


 暗算で地球世界の単位に換算しなおすトシ。

 一グアンドがほぼ十キログラムなので、マローダーの積載量六t半は、この世界では六百五十グアンドになるのだ。

 ちなみに、

 1ゲイルが1グラム

 1グアンが100グラム

 1グアンドが10キログラム

 という風に換算できる様だ。

 また、金貨のみで使われる単位として、DK金貨は一枚一デュカルト(1D=十五グラム)と呼ばれる重さが基準になっており、それが額面として刻まれている。

 だが、ルロの町に限らず、金貨を主要通貨として使わない階層にとっては金貨は枚数呼びするのが普通なのであった。

 話しを元に戻そう。


「各国の換金馬車が持ってくるのは、各国でせいぜい延べ棒を一万デュカルトでしょう。一万デュカルトは十五グアンドですから、兎にも角にもマローダー(あれ)があれば馬車は増えません。が、使節の馬車が増えるので、そこが少々面倒ですね」

「なるほど、荷物はまだしも、人の事があったか・・・」


 前回、つまり最初の換金馬車は、マローダー一台と二頭立ての馬車が一両、脇に警護の騎乗兵が五人という構成で向かった。マローダーの中にはもう五人兵士が乗っており、護衛兵は全部で十三人で編成した。

 それに驚いたのはハイランドの次席外務官、ブランドン・レイノルズだ。

(前任者--ギャビンと言ったかな?--の時は二十人からの人間が隊列を組んでこれ見よがしに護衛し、仲介料をせびって来たものだが・・・)

 だが、三人に取ってはそれでも多かった感触がある。

 本音を言えば、一切合切マローダーに積んでふっ飛ばして行きたい。マローダーに取っては日帰り可能な距離なので、その思いは尚更だった。

 まあドワーフに知己も出来たので良しとしているが・・・


「ええ、それなりに馬車は増える筈ですよ」

「なるほど。そういう事なら新型馬車を試してみるか・・・」

「新型、ですか?」

「ええ、マローダー(あれ)でけん引する形の乗用馬車です。まさかこんなタイミングでテスト運行になるとは・・・」

「上手く行くといいですねえ、新型」


 その後も話しは弾み、トシは思いのほかギルドで長居してしまった。


 ---


 いつもの武具屋にタツヒロが一人で入っていく。

 今日は先客が居た為、店主が空くのをしばらく待つ事になった。

 弓のコーナーを眺めていると様々な弓が置いてあるが、その中でも一つの弓に目を引かれる。

 それを手に取ろうとして、声が掛かる。


「いらっしゃい。店に来て、いきなりそれに目を付けるとは、やっぱりあんた方は特上の客(・・・・)だな」


 店主に取って、三ツ星戦闘団の関係者は己が眼力を証明してくれる、鑑定士の様なものだった。


「そいつはエルフが訳あって手放した弓と聞いている。数種の木材を張り合わせた複合弓だが、一番の特徴はその弦だ。何とミスリル銀を束ねた特製の弦らしいぜ」

「なるほどねえ・・・。実はさあ、俺の弓ってこういうのなんだけど、店主さんこれ作れる人っていない?」


 そう言って背負った袋から取り出したのは、滑車付きのコンパウンドタイプと呼ばれるアーチェリー用の弓、タツヒロの愛弓だった。


「!?、なんだこりゃ!? おい、何だこの弓!? あっと・・・すまねえな、俺とした事がちょっと興奮しちまった様だ」

「まあ、見たこと無いだろうから、そうなるのも判らないでもないよ」

「そういってもらえると救われるぜ。で、だ。これを作れる弓職人って事か?」

「そう。このタイプの弓は照準が付けやすくて便利だからさ、うちの正式装備として採用したいんだよねえ・・・。店主さん、作れそうな人知らない?」

「この弓なあ・・・、心当たりが無い事も無いが・・・」

「ん?、無い事も無いが?」

「ああ、ちょっと変わってる人なんだよ。しかも、住んでるのはヴィエネラだ。ここからはそれなりに距離がある」

「あ〜、確かに遠いよね・・・、でもその人なら出来そうなの?」

「出来るかどうかは確約が出来ねえ、だがこういったからくり(・・・・)の類は好きなんだよ。それで、出来るかなあ?と思ったんだが、はてさて・・・」

「何て人なの?」

「その人か? まあ一応、御貴族様でな、ロッシーニ家のレオナルド様だ」

「ロッシーニ家のレオナルド・・・」

「こういうモノには目が無い方だから、伝手を辿れば会うだけなら段取れるだろうが、その先はレオナルド様の食いつき次第だな。俺としちゃあ、食いつくと思って名前を出したんだか、こういう事は蓋を開けるまで分かんねーのが世の常だ。まあ、そん時は諦めな」

「なら、俺らがヴィエネラに行くことが判ったら段取り頼むよ」

「ああ、良いだろう。そん時は任せな」


 その後はエルフの弓の話しになり、エルフの事ならギルドのサブマスに聞くのが一番だというので、改めてギュンターに会おうと心に決めるタツヒロだった。


 ---


 ナベだけが特に収穫も無く、商館に戻ってきていた。

 頼んでいたモノの着荷を確認して回っていたが、どこも『間もなく届く筈なんだが・・・』と判で押した様な答えを返され、掘り出し物も見つからずで、結局得る物無く商館へ帰って来たのだ。

 珍しく、コーヒーを飲みながら一人、ヒマそうにトシやタツヒロを待つナベなのであった。


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