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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第2章 三ツ星戦闘団、遊弋す
74/84

74話 冬籠りの終わり

先週の73話で第一章は終了です。

ホントは幕間を数話挟んで、第二章開始!の予定だったんですが・・・

幕間のネタ帳と半話分のデータが飛んでしまい、昼の仕事が忙しすぎたせいで補完するような原稿もままならず、疲れの為夜は早々に眠気に襲われ、そのまま休んでいましました。

すみませんでしたm(__)m

その後は、幕間で使う予定のネタを少しずつまとめて、この第二章の序話的な話しにつながりました。

データが飛んだショックもさることながら、土日は全く手を出せず、投稿は今日になってしまいました。

大変お待たせしました。それではどうぞ!

 少し冷たさの残る風が、伸び始めた麦の穂を優しく撫でていく。

 アルゴー・ルロ基地にも春が来ていた。

 

 昨年秋の基地の落成式典の後も、基地の整備や畑の作業、鶏や羊、黒牛といった家畜の世話など戦闘団は地道な発展を続け、着実にその内情は豊かになっていった。

 十一月に入ってすぐにあった、初の換金馬車の護衛任務もつつがなく終了し、現地のドワーフ達とも、グレインのお陰で繋がり(コネ)を持つことが出来、大成功と言ってよかった。

 

 そもそも護衛任務と言っているが、換金馬車の護衛任務は一般的な『敵に対して護衛をする』のとはちょっと違う。

 その理由は、換金馬車と呼ばれる代物は建前(・・)として、

『“換金をするアルゴー近隣(=ルロの町)の者”と“その機会に便乗してドワーフの里・白銀山荘に向かう各国の外交使節”が一緒に向かう車列』

だからなのである。

 何故、換金を希望する各国が直接行かないのか?

 答えは簡単で、各国の使者が直接出向いても換金は出来ない(・・・・・・)のである。

 換金対象であるところのDK(ドワーフ・コボルト)金貨は、過去にアルゴー金貨と呼ばれたモノが元になっている。

 そもそもはアルゴー連合王国の通貨なので、鋳造依頼を出せるのは国民のみという決まりが今でも白銀山荘で生き残ってているのだ。

 お陰で、DK金貨と呼ばれるようになってからも、鋳造依頼はアルゴー大森林の近隣の者--実質的にルロの町の者--に限られている。

 発行する側にそんな事情が有る一方で、ウェストル全域からオランタルにかけての広い地域で、この金貨が流通しているのもまた事実なのである。

 利に聡い商人が、この『偽造防止の呪いが掛けられた金貨』での払いを求めるため、各国共にこの金貨を流通の軸に据え、自ら金貨を鋳造することはしなくなっていった。

 そして、金貨が欲しい各国と、金貨の鋳造依頼が出せるルロの町の利害が一致し、換金馬車の護衛という形での仲介手数料がルロの町に落ちる。

 それ以外にも、各国の馬車を護衛してきた兵達がルロの町付近に駐屯するため、換金馬車は町の経済にも潤いを与える、大事な大事なお客様でもあった。

 その辺りまでを含めて、オリオン商会が初の仕切りを行い、町の治安、護衛任務、共に町務会議から合格点をもらっている。

 

 戦闘団の陣容も様変わりしていた。

 落成式典の翌日、朝食後の食堂で組織変更の発表をする三人。

 口火を切ったのはトシだった。

 

「これから昨日話していた通り組織変更の発表をする。通常編成と戦時編成の二種類だ。ではまず、通常編成の方から」

 

 ルロの町に常駐する名代一名

 

 兵務統括の指揮下で、

 ・近衛班を編成する。

 ・諜報班を編成する。

 ・防衛班を五個小隊編成し、二個小隊を昼勤、二個小隊を夜勤、一個小隊を休みとし、ローテーションしながら基地内の守衛を担当する。

 ・哨戒班を六個小隊編成し、四個小隊を勤務、二個小隊を非番としてローテーションしながら基地の外周を警ら・遊弋させる。外敵の補足・撃滅と獲物の狩猟・捕獲が担当だ。

 

 農工統括の指揮下で、

 ・土建班を二個小隊編成し、土木・建築全編を担当する。

 ・農業班を三個小隊編成し、基地内外の農地での生産を担当する。

 ・家畜班を編成し、基地内での家畜類の世話をさせる。

 

 内製統括の指揮下で

 ・布革班を編成し、織物の生産と皮のなめしを担当する。

 ・縫製班を編成し、服飾全般を担当する。

 ・鍛冶班を編成し、鍛冶業務全般を担当する。

 ・採集班を二個小隊編成し、森の中で採集や、畑の収穫補助を担当する。

 

 調理統括の指揮下で

 ・調理班を編成し、日々の調理や保存食の作成等、調理全般の実務と他への指示を担当する。

 

「次は、戦時変成を発表する。戦闘態勢の宣言以降は、速やかにこの戦時編成に移行してもらいたい」

 

 ナベを指揮官とする前衛隊

 ・歩兵五個小隊

 ・槍兵四個小隊

 

 トシを指揮官とする後衛隊

 ・魔術兵一個小隊

 ・輜重隊二個小隊

 ・工兵三個小隊

 

 タツヒロを指揮官とする遊撃隊

 ・弓兵三個小隊

 ・斥候二個小隊

 

 いずれは歩兵と槍兵から騎兵を編成しようと考えている三人だが、今のところはこの編成で充分だ。

 

「これから名代と各統括を発表する。併せて指揮下の人員表を渡すので、各統括はそれぞれのメンバーを把握しておくように。また、皆にも分かりやすいように、後ほど戦時編成のものと併せてそこの壁に掲示しておくので、通常編成、戦時編成共に、各自しっかりと確認しておいてくれ。それでは各統括を発表する。

 ルロの町の名代、ナガヨシ。

 兵務統括、タダツグ。

 農工統括、ジャレン。

 内製統括、オリヒメ。

 調理統括、ジェイソン。

 ナガヨシを除く四名は名簿を渡すので取りに来てくれ。以上だ」

 

 こうして組織の改編を行い、より目的を達成しやすくすると共に、戦時編成を組んだことで非常時に戦闘態勢への切り替えがスムーズに出来るようになった。

 そのすぐ後、防衛班と哨戒班から小隊を六つ動員し、演習替わりに一気にルロの町の大掃除を行った。

 冒険者ギルドの諜報要員と衛兵の全面協力の下、悪辣さが際立つ二集団を即座に殲滅し、一罰百戒とする為方々に喧伝する。

 その後はギルドと協力して諜報網を築き、共同運営に当たっている。

 歓楽街の風紀も若干ながら改善の方向に傾いた為、まずまずの成果と言えそうだった。

 

 その状態で換金馬車--遠くグレンシア半島を治めるブリタニア連合王国のハイランド公国からの換金馬車だった--を迎え、無事に任務を終えられたのは幸先のいいスタートだったのだろう。

 昨年はその馬車が最後の換金馬車で、冬の間は来なくなるらしい。

 それなりに雪も降るため、(移動の手間を考えると)春になってから再開されるのが通例の様だった。

 そのお陰と言おうか、この冬はしっかりと修行に打ち込めたなと、三人は共に感じていた。

 絶剣をカオスが依代にしたせいで、言葉通り(・・・・)カオス(混沌)な状況が生まれていたが、三人的には好影響であった。

 タエの力を借りる形でしか姿を現すことが出来なかった師匠が、カオスの力の影響で短時間なら実体を持つことが出来るくらいにその存在力(・・・)が強化されていた。

 完全にタエとは別の存在として、絶剣の小柄を宿り木と定めた様子で、小柄が置かれた台の脇で、典膳が技の指導をするようになっていた。

 もちろんその指導を受けるのは三人のみではなく、今や完全に三ツ星戦闘団の指南役となっていた。

 それに伴って、皆の得物も、日本風になってきており、グレインは刀の作り方を覚えるのに一苦労していた。

 幸いにも冬の真っただ中に、借金で奴隷落ちした西和人の鍛冶師、与兵衛をフェビアンから買い付ける事が出来た事で、グレインは無事に苦行から逃れる事が出来た。

 その後は、ヨヘイが刀や包丁、農具を、グレインが剣や槍、簡単な防具と製鉄を受け持つようになった。

 こうして、長剣持ちが刀持ちになっていき、神子上流兵法は三ツ星戦闘団のお家流の様な存在になって行った。

 その中でも、典膳の技を記憶や想いと共にそのまま受け継ぐナベ、トシ、タツヒロの三人は抜きん出た存在となり、他の追随を許さない実力を身に付けていた。

 

 そんな修行が続くある日、三人それぞれが同時に声を聴いた。

 

<先日、追加要請のあった従絆路(ダウンコネクト)構築(リンキング)が完了しました。従絆路(ダウンコネクト)連携(セッション)数が規定値を超えたため、絆路(コネクト)の帯域を拡張します。これより拡張を開始します。この措置に伴う運用制限はありません」

 

「ん?、また何か聞こえたぞ?」

「・・・だな、俺も聞いた」

「帯域の拡張?、何それ・・・」

 

 昼下がりの出来事だったのでその場では何もせず、夕飯も済んで風呂も終わった頃、思い出したようにトシが話しを始める。

 

「昼の言葉の件だけど、今までダウンコネクトなんて、何か機能してたか?」

「特に記憶に無いな」

「あ、俺も俺も」

「だよなあ・・・」

 

 それから十日後の夜、またしても三人それぞれに同時に声が響く。

 

従絆路(ダウンコネクト)の帯域の拡張作業が完了しました。単位時間当たりの情報処理量がおよそ十倍程度に増加しました。従絆路(ダウンコネクト)の情報処理量が設定値を超えた為、スキル・技神の派生アビリティとして御恩と奉公インタラクティブ・サイクルを獲得しました。これより拡張された帯域を解放します。帯域の開放に伴い、魂域(バッファ)との接続も強化され、連携(セッション)先の全ての相手(ノード)に対して、意志、概念、記憶、視覚の伝達が可能です。我々技神が絆路(コネクト)の運営を支援しますので、いつでも使用可能です>

 

 その声が終わった瞬間、湧き上がるように何か(・・)が、体の奥の方から溢れ出て来る。

 それは体外に放出されると同時に、また体内に吸収され循環が始まるが、その勢いというか濃さがいつも以上である。

 それが時間と共に慣れていき(・・・・・)、いつもの勢いに戻っていく。

 その翌日から、鬼人達やハイオーク達に変化がやって来ていた。

 クラススキルや、純粋なスキルが現れた者が出始めた。

 後で聞くと、三人の技神経由で簡易の授与の儀(あらはし)を受けれるようになり、それで顕現したらしい。

 クラススキルが現れ始めた事で、皆が目の色を変えて修行に打ち込むようになった。

 そうやって修行をこなしていく内に、新しいスキルやアビリティに目覚めるものも多く、非常にいい循環が回り始めていた。

 冬の寒い中は、これを機会にと食堂で座学もやり始め、三人もそれぞれ得意とする分野で講師を買って出ていた。

 座学に関しては、冒険者ギルドにも支援を要請し、読み書きや算術といった基礎的な分野から、魔術や精霊術等を開花させた者への修行対応も抜かりなく行っていく。

 

 三ツ星戦闘団初の新年の祝祭では、オリオン商会のメンバーも基地に呼び寄せ、合同で行うことにした。

 その準備の最中、両拠点で厨房を預かるジェイソンとピエトロは、ふとしたきっかけでナベのレシピの片鱗に触れてしまい、二人をしてナベを師匠と呼ぶ気にさせる貴重な機会となっていた。

 ナベの秘蔵の胡椒や味噌、製造が間に合ったウスターソースも惜しげも無く提供したため、料理は皆から大絶賛されていた。

 もちろん、お互いに初めましてのメンバーも多いがそこは祝祭、次から次へと出て来る料理や酒に、最初に会った時の様な垣根はスパッと取り払われ、大いに楽しんだ様子だった。

 

 そういえば冬の間に、オリオン商会ではルロの町では初の喫茶店を作っていた。

 カフアの実やお茶の葉など、材料はしっかり手配すればそれなりに届くことが分かり、ナベの、カフェでコーヒー飲みたい!の我儘もあって、喫茶店を開くことにしたのだった。

 最初の内は、出前をメインに考え店内の設備は、座席として一人掛けの椅子を十席と四人掛けテーブルを五つだけ置くことにした。

 だが、すぐにそれは足りなくなった。

 思い切って座席数を倍にしてみたが、それでもしょっちゅう満席になっている有様で、本来の予定と違う、と嘆くナベだったが、売上成績はいいのでそれ以上に文句は言えなかった。

 各地のお茶とミルクたっぷりのカフア、そしてちょっとしたお菓子を手ごろな値段で楽しめるとあって、ルロでは今ちょっとした人気スポットとなっているのであった。

 

 そして先日、ナベが槍と鎖の、トシが組打ちと小太刀の、タツヒロが弓と組打ちと小太刀で、典膳より師範の印可を受けた。

 

「ふぉっふぉっふぉっふぉ、三人ともここまでよく頑張ったのう。じゃが、儂が教えたことは所詮、儂の技じゃ。兵法家として大事なことは、自らの技を編み出し、己をさらに磨き上げていくことじゃと儂は思って居る。それ故、そなたらはそなたらの武の道の端緒に着いたばかりじゃ。その事をゆめゆめ忘るるでないぞ? 儂からの餞はこんな所じゃ。今後はそなたらの弟弟子や妹弟子たちを鍛えておく故、期待しておれ。必ず、そなたらの助けになる筈じゃでな」

 

 今後も指南役を続ける旨の言葉に、その有り難さで頭が下がる。

 

「師匠、その小柄は生涯、師匠にお預けします。今後ともよろしくお願いします」

 

 ナベが何となく代表して締めの挨拶をした。

 

「おう、偶には修練にも顔を出せ。兄弟子じゃ、歓迎するぞ?」

 

 典膳も、茶目っ気たっぷりに企み顔を浮かべ三人に相対する。

 こうして、修行の期間は終わりを告げ、果無き自己鍛錬の修行が始まるのだった。

 

 そしてそれに合わせて、戦闘団も本格的な活動を始める時期に来ていた。

 その始まりを告げる連絡、春の合同換金馬車の護衛の話しが、ルロの町の町務会議より届いていたからだ。

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