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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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72話 オリオン商会の設立

冒険者ギルドを出てお互いに合流し、白銀の麓亭で昼食を取ろうという話になる。


「おお、いらっしゃい久々だね。昼飯かい?」

「こんちわナミルさん、昼飯食いに来たよ」

「まあまあ、座って座って」


久しぶりのナミルにタツヒロが挨拶し、早速注文を出して昼飯を堪能する六人。

ちなみに本日の日替わりメニューは、鶏のカリカリハーブ焼きとスープとパンだった。

食後のお茶の時間は、自然と冒険者ギルドでの提案が話題となる。


「~という訳で、前向きに考えてくれと仰せつかって来たんだが、皆はどう思う?」


トシに振られ、おずおずとジュズマルが口火を切る。


「そうですね、私個人は御三方様の御心のままに、と考えておりますが・・・」

「・・・ん?、ジュズマル、続きは?」

「は、請ける事が出来れば戦闘団全体の利益には寄与するのかな、と愚行致しました」

「確かにそうだ。他には?」

「私も、ほぼジュズマルと同意見です」


トモエがジュズマルの意見に乗る。


「トモエもジュズマルと同じ、と。ウシワカは?」

「ん〜、自分としてはもう少し詳しい条件を聞きたいですね。どのぐらいの馬車が来るのか、随行人員は何名なのか、判断を下すにはその根拠がちょっと足りません」

「ということは、ウシワカは保留だな」

「はい」


ウシワカもやる事前提、なんだがもう少し慎重な意見だった。

これで鬼人達の意見が出揃い、後は主たる三人が残る形となった。


「他には? ナベはどう思う?」

「師匠の修行を終えた後なら、文句無しで賛成だな。今の段階だと、それなりに人員を割かねーといけねーんじゃねーかと・・・」

「条件付き賛成か・・・、タツヒロは?」

「俺もナベの考えに一票、だな。さっきはあんなこと(・・・・・)言われたけどさ、それはあくまでも向こうの評価だし、俺らの自己評価とは違うよね。俺らの内情は俺らが一番良く知ってるからさ」

「ふむ・・・」


ナベが最後にトシに振る。


「そういうトシの意見も聞いてみてーなあ。どうなんだ?トシ」

「俺か?、・・・俺は実のところ、今回の提案は全面賛成なんだよ」

「全面賛成ときたか・・・。その根拠は?」

「そうただな、まず第一に内外に広く名を上げられる事、第二に町中の拠点を確保できる事、第三に定期的に仕事が確保できる事、第四にドワーフ達と繋がりが持てる事、第五に・・・」

「分かった、オッケー、ストップ。トシの言いたい事はぼんやり分かった、メリットが大きいって事だな。ただなあ、ウシワカの指摘もあったが、人員の数なんかはどうするつもりなんだ?」

「人員? それなんだがな、実質は俺ら三人で充分なんだよ。お釣りが来るぐらいだな。もちろん、マローダーの使用が前提だがな」

「あれ使うのかよ?」

「ああ、アーティファクトって事で押し通すさ。っていうか、こっちに全部お任せなら絶界に入れれば済むんだが、そうはいかんだろうからな。ちゃんとあれに積んで運ぶ積もりでいる」

「・・・分かった。正式に、三ツ星戦闘団としてギルドの提案を受けよう。タツヒロもそれでいいか?」

「俺は構わない。トシがそこまで言うんだ、反対する理由なんかあるわけ無いさ」

「流石ナベだ、そう来ないとな。タツヒロもありがとな。でだ、諸々の詳細は、既にある程度考えてある。まず、三ツ星戦闘団の傘下という位置付けで、オリオン商会という組織を作るつもりだ。なので、取り急ぎその設立の準備に入ろうや。代表は俺達だが、名代兼窓口として“じい”にこっちに詰めてもらおうと思ってる。あとは訓練がてら、防衛班と哨戒班からの選抜メンバーで組んだ小隊を、十日毎に交代で常駐させて商館の守衛を担当させる。じいにスマホ持たせれば連絡も万全だろ」


いつ頃からか、三人の間では白髪の総髪という見た目からナガヨシを戯れで『じい』と呼ぶようになっていた。

呼び始めた当初は冗談半分だったはずが、予想以上にお互い馴染んでしまい、今では当たり前の様にじいと呼ぶようになっていた。


「そうと決まれば動こうぜ。昼飯も食ったし、後はギルドだ」


タツヒロの一言が締めとなり、皆が席を立つ。

旨かったよ、と挨拶を残して白銀の麓亭を出ると、六人そろって冒険者ギルドに向かっていった。

ギルドで先ほどの提案を受ける旨をリリイに伝えると、このまま商工会に付き合ってくれと言われ、ギュンターを伴って商工会に向かう。

商工会ではギルドからの提案を正式に受ける旨を伝えると、即座に緊急の町務会議が開かれ、緊急議題として『護衛任務の町からの委託』を三ツ星戦闘団に出す決議が全会一致で可決された。

その後は詳細の詰めに入り、

・三ツ星戦闘団はルロの町郊外に開拓中の敷地を基地とし、常時駐屯する

・三ツ星戦闘団は窓口として、下部組織『オリオン商会』を設立し、ルロの町に常駐する

・前任者の持つ権利・義務の全てを継承し、契約の任務を速やかに遂行する

・関連組織は、任務の遂行に際し最大限の便宜を図る

の四点が、取り急ぎ定められた。

また、その場でオリオン商会の設立手続きが進められ、三人が共同代表となる事、窓口担当を常駐させる事、旧ギャビン邸が商館として登録される事、旧ギャビン邸の雇用人員を出来るだけ維持する事、等が三ツ星戦闘団と商工会、町務会議、冒険者ギルドの四者間で取り決められた。

ギルドの二人とはそこで別れ、六人は商工会のフェビアンとレグスの案内で旧ギャビン邸に向かう。


旧ギャビン邸では、あの時の惨状の痕跡はすっかり拭い去られ、本来の威容を取り戻していた。

話しを聞くと、使用人の八割は残っているとの事で、屋敷の運営に不安は無さそうである。

そのまま応接に入り、フェビアンが使用人を全て呼び出し、話しを始めた。


「以前より申し出のあった再雇用に関してだが、この度後任が決まり、ここに居る全員が無事に再雇用の運びとなった。まずはそれを伝えておこう」


フェビアンの言葉に安堵する一同。

その中から白髪混じりの紳士が前に出てフェビアンに話しを始める。


「この家で執事をしておりましたグラハムでございます。フェビアン様この度は・・・」


カチャッという音がしてグラハムの言葉が止まる。

ナベがいつの間にか剣を抜き、グラハムの首筋に当てながら指示を出す。


「タツヒロ、地下の奥の部屋にグラハムさん(・・・・・・)がいる。もう既に虫の息だが、タツヒロならいけると思う。処置を頼む」


その言葉に脱兎のごとく駆け出すタツヒロ。


「これは何の真似ですか! 何を訳の分からない話しを・・・」

「黙ってるんだな・・・、それとも死に急ぐか?」


タツヒロを見送りながら、グラハムと名乗る男は抗議の声を上げるが、ナベに睨まれ口を噤む。


「相田殿、これはどうした事かな?」


理解が追い付かない展開に、レグスが声を上げるがナベからの返答は帰ってこなかった。


「おい、お前の目的は何だ? 何の為に入れ替わった?」

「・・・」


ナベの殺気が本気と分かったのか、その後は何も語ろうとしない。


「ジュズマル、ウシワカ、こいつを縛り上げろ」


指示通り、ジュズマルとウシワカはメイドから紐を借り、しっかりと縛って横に転がしておく。


「フェビアンさん、レグスさん、こういった場合、ここからどうするのがいいんだ?」

「・・・相田殿の申し出が正しい、としてだが、基本的な流れは衛兵を呼んで彼らに委ねる、になる。だが今回はちょっと微妙だな。もちろん野放しには出来んので、収監になると思われるが・・・」


フェビアンが思案しながらナベに返答する。

少しすると、タツヒロが戻って来た。


「ナベさすが!、グラハムさん死にかかってたよ。胸を一突き、だったんだけど幸い心臓は外れてた。失血が激しいので十日は要安静だな。今は地下でそのまま寝かせている。後で担架っぽいのを持って行って回収しよう」

「お疲れ、タツヒロ。とまあ、そういう事だからもう一回聞こうか。お前は何者で、何のためにグラハムと入れ替わった?」


その問いを発してすぐに、トシがグラハムと名乗る男の元へ行き、その額に手を当てる。


「ナベ、こう聞いて見てくれ、誰の命令だ(・・・・・)と」

「なるほど、分かった。おい、誰に頼まれてやったんだ?。何を狙ってやったのか・・・、そもそも、お前は誰だ?」

「ほほう・・・。分かった、こいつはもう用無しでいい。依頼主は、この前オーガやノールと一緒に襲ってきたやつがいたよな、あいつ(・・・)だ。目的は護衛任務のそのものの妨害で、先触れの口上を聞いての犯行だな。なあジェレミー(・・・・・)


トシが呼んだ最後の名前を聞いた瞬間、グラハムと名乗る男はクワっと身を見開き舌を噛んだ。

それを三人は感慨の無い表情で見つめ、縄を解き始める。


「なるほど、そういう世界(・・・・・・)の住人か」

「ああ、いわゆるプロだな」

「後で周りを掃除(・・・・・)しとかないと・・・。このまんまじゃ、じいに任せられないよねえ・・・」


周りはまだ自死の衝撃から立ち直っていないようだが、仕方がないのでナベが先へと促す。


「あ~、ゴホンッホン。フェビアンさん、レグスさん。続けて下さい」

「あ!?、ああ、そうだったな。何とも衝撃的な下りだったが、先ほどの話しを続けよう。これより委託契約並びに継承手続きを執り行う。レグス様!」

「・・・あ~、まあ、何だね。ああいう事があったのでいつもの調子が出ないが、それは置いておこう。ではこれより任務の委託契約、並びに資産継承手続き、雇用契約を取り交わす。立会人は法務委員レグスが務める。ではまず委託契約から」


この儀式の開始を宣言するレグスの声と共に怒涛の(・・・)サイン大会が始まる。

三人が共同代表なので、一つの書類に町務会議の代表でフェビアンのサインと三人のサイン、そしてレグスのサインが並ぶ。

が、その写しを作りお互いに持つ規約の為、サインは二倍。

同じことを資産継承手続きでもやるのだが、問題は雇用契約だった。

被雇用者のサインと三人のサインと法務委員のサインが並ぶ書類を、原本と写しと作り、それを人数分取り交わす。

その様相はもはや、地獄のサイン会であった!!(後日、ナベ談)

病床のグラハムの意向は確認できているので、書類自体は後回しとなり、現時点を持ってすべての書類関係の作業は滞りなく終わった。

その後はレグスから被雇用者の紹介が続くようだ。


「バトラーのグラハムが居ないので、私の方から名簿を見ながらで恐縮だが紹介していこう。ますはバトラー・・・、は飛ばして、ハウスキーパーのエリザベス、シェフのピエトロ、スーシェフのアルフォンソ、同じくスーシェフのドリアーノ、・・・」


流石にトシ以外は、いっぺんに二十四人もの名前を紹介されても覚えきれず、しばらくは名札を付けてもらう事で事無きを得た。

その後、トシが代表で挨拶に立つ。


「今後は我々三人が、君等の雇用主となります。聞いての通り、商会の商館への勤務という事で、旧雇用主とは色々とやり方なども変わって来ると思いますが、早く新しいやり方に慣れて頂き、しっかりと仕事に励んで下さい。それから、我々は普段はここにはいません。ここへは我々の名代を置くことになります。普段はその者が上司となるので、その者の指示で動くようにして下さい。また名代の部下として守衛も置こうと思っています。彼らの世話もお願いすることになりますが、そちらも併せて皆さんの仕事になります。頑張って下さい」


挨拶が終わった後は一旦解散し、ギャビンの執務室だった処に向かう。

レグスから目録が手渡され、目録記載の品目の確認をフェビアンと共に行う。

膨大な資産が確認されるが、全て継承出来るらしい。

よほど、護衛任務は重要なのだろうとトシは考えを巡らせる。


(拠点、というか駐屯地になってしまった新拠点と町の屋敷の二つが使えるようになった。これは大きい。ここでじっくりと足元を固めておく必要がある。まずは駐屯地の運用開始を目指し、その上でルロの町で掃除を行う。そうこうしている内に護衛の仕事が始まる筈だ。護衛は四個小隊ぐらいを考えておこう。グレインに頼んで皆の得物を早急に整備しないとな。防具の類は今回は買いそろえるか・・・。意匠を揃えて発注しよう。ドワーフに防具の職人っているのか?、グレインに聞いてみるか・・・)


考えはしばし、尽きる事が無かった。

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