71話 仕事のお話し
いつもよりも早めですが、投稿!
その分、続きの執筆を進めねば・・・
トシ、タツヒロ、ジュズマルの三人が再び冒険者ギルドに入ると、リリイさんがわざわざこちらにやって来て話しを始める。
「あ〜、良かった。行き違いにならずに済みました。実は皆様を探しに人をやるところだったんですよ」
何やら用があったらしいが、トシ達には見当が付かない。
「何やら我々に用事があったみたいですが、何事ですか?」
三人も仕事を探しに来ていたが、先方で用事があるらしいので先に片付ける事にする。
「そうですね、どうも込み入った話しになりそうなのでまずはこちらへ」
そう促されて、一階奥の打ち合わせ部屋の方に向かう。
「今、サブマスを呼んできますので、少々お待ちを」
そう言ってリリイが出て行った為、とりあえず待つ三人。
その内に、リリイがギュンターを連れてやって来る。
一緒にお茶も運ばれて来たので、黙って座っているとお茶が並べられ、全員が席に着いた。
「ギュンターさん、先程はお世話様でした」
「あ、いえいえ、お気になさらず・・・。ただ、加護の件は後で話しを聞かせて頂けると助かるんですが・・・」
聞きたいオーラが怪しい程出まくっているように感じられた為、後で話す約束をしてしまうトシだった。
「その件はともかく、今はあの件が先ですよ、サブマス」
どうやら、別件の話しがあるらしく、ギュンターが釘を刺されていた。
その後のギュンターの口から出た話しは、驚愕の内容だった。
要約すると、先日のギャビン並びに関係者殺害の件の余波で、換金馬車の護衛の仕事が宙に浮いているらしい。
それをギャビンの後を継ぐ形で引き受けてもらえないか、という話しだった。
何でも、ギャビンは口入れ屋としてはそれなりに仕事の出来る男だったらしく、その弊害と言おうか他者が参入出来ない程、しっかりと仕事や人を握っていたらしい。
今はそれが仇となり、後釜に据えられそうな者が皆無らしかった。
そこで冒険者ギルドからの推薦という形で、三ツ星戦闘団そのものにギャビンの後釜に入ってもらい、来月に来る予定の換金馬車の護衛をお願いしたい、というのがギルドとしての意向だった。
「およその内容は掴めましたが、そういった護衛任務であれば、そもそも冒険者に仕事として振っても良いのでは?」
トシが話しを聞いて一番疑問に思った事を、即確認する。
それに対する回答はこうだった。
「それは、換金馬車を送ってくる依頼主にもよりますが、基本的に認めていない依頼主がほとんどです。バラバラの冒険者達ではなく、護衛に関わる人員が一つのチームである事が求められるのです。今までは、ルロの町とギャビン商会が護衛を請け負って、ギャビン商会が護衛を行っておりました。仕事を請ける者と実行する者が同じである必要があるのです」
そうなると、もはや町としてお手上げの状態らしかった。
ギルドはダメ、他の口入れ屋もいない、町の兵士は出せる余裕が無い。
そんな状況で三ツ星戦闘団に白羽の矢が立てられるのは、ある意味必然なのかもしれない。
「後釜に、と仰いましたが、具体的にはどのように?」
トシの確認にリリイが答える。
「ギャビン商会の業務をそのまま引き継いでもらえるのが、理想かしら。屋敷、使用人、業務内容、全てね。もちろん、財産も含めてよ」
普通に考えれば、これは詐欺だ!、と断言出来るぐらい旨い話しだった。
「これほどの話しをどうして我々に? 他の口入れ屋がいないと言っても、町として一丸となって動けば、それなりの形になったのでは?」
「それだと体裁は整うけど別の問題が出てくるのよ」
「別の問題?」
「ええ、逆に言うと整うのは体裁だけなのよ。実力が伴わない限り、護衛は任せられないわ。当たり前だけど、護衛任務の基本は、想定される障害を排除出来る実力を持っていること。実力もあって、請け元に成れて、その上である程度の信用もあるのは、あなた達三ツ星戦闘団だけなのよ。他に選択肢は無いわ」
「そこまで買って貰えているとは光栄なんですがねえ・・・」
「はっきり言って、あなた方の実力、というか戦力は一国を凌駕していると言っても過言ではないわね。それだけの評価を、我がギルドは下しています。だからあなた方しかいないのよ、ギャビンの後を継げるのは・・・」
「・・・分かった。ちょっと考えさせてくれ。皆にも諮ってみる」
「是非、請ける方向で考えてみて。こちらからの話しは以上よ。で、あなた方の用事は?」
「あ〜、その件か。実は我々でも出来そうな仕事の依頼を探しに来たんだが・・・、今の話しを聞いてそれどころじゃなくなったよ」
トシは笑いながらリリイに用向きを話し、用件そのものが無くなった事を告げた。
その後は、自然にトシの得た加護の話しになっていく。
「私もエルフとして生まれて、はや二百五十年。それなりに長き時を生きてきましたが、それでも精霊からの加護とは初耳です。聖職者達が神々から加護を授かるのは、ハッキリ言って枚挙に暇がありません。それだけの事例を見聞きしてきましたしね。ですが、今回の精霊の加護は初めて聞きました。今まで見た事も聞いた事も無いのですよ。なので、ぜひその内容を知りたいのです」
「なるほど、そういう訳ですか。とりあえず、今分かっている事だけで構いませんね?」
「それはもちろんです。今の段階で分かる範囲で結構です」
「まだ仲間にすら報告出来ていないんですが、この場では特別に今分かっている事だけお伝えしましょう。私が得た加護の中身ですが、・・・」
そう言ってトシが語り始めた加護の中身は、この世界で初めて発生した精霊の加護の驚異的な効果だった。
トシの話しをまとめると以下の四点に集約される。
・高温無効化
・焔身
・火炎無効化
・秘匿真言の解放
高温と火炎の無効化は、読んで字の如くで、その種類の干渉の影響から解放される様になる。
自分が高温と思った時点で、それ以降、その影響を受けなくなる。
また、あらゆる種類の火炎にも影響を受けなくなる。
秘匿真言とは、火の精霊王を表すルーンとサンスクリット、そして秘匿を表すルーンとサンスクリットが使えるようになる。
これを使う事で、アーティファクトの制作に劇的な変化が現れる。
火の精霊術を封じたアーティファクトが作成可能となり、その記述そのものを秘匿出来る様になる、との事だ。
最後に焔身は、その体を火と化す事が出来、その間は物理攻撃が無効となる。
「これほどとは・・・」
ギュンターはそのまま言葉を発せず、打ちのめされた様に茫然自失な様子だ。
リリイなどは言葉も無い。
タツヒロだけが一人、
「何かさあ、変な実でも食ったのか?って感じだよねえ」
と、トシとタツヒロにしか分からないツッコミを入れるのみであった。
そんなタツヒロをスルーしてトシがギルドの二人に尋ねる。
「話しは変わって、一つ質問なんですが、こういったものを持ち込んだ場合、どれぐらいで引き取って貰えるものでしょうか? あるいはオーダーで作った場合はいかほどの価値になりましょうか、教えて頂けると有難いのですが・・・」
そう言って、タツヒロの持っていた石ころ製のアナイティスの依り代を渡してみる。
トシの問い合わせに、気を取り直した二人が依り代を受け取りしげしげと眺め始めると、突如クワッと目を見開きじっくりと見定める様な視線に変わる。
その内、ギュンターがハッとした顔をした後、急いで部屋を出て行く。
少しすると、ドタバタと音がしてギュンターが戻ってきた。
その手には、拡大鏡が握られており、ドアを閉めるやいなや席に着いて、リリイから奪わん勢いで依り代を借り受け、改めてじっくりと眺め始める。
「そんな、穴が開くような勢いで眺められても困りますよ。あくまでもこれは試作品ですから」
そんな苦笑い混じりのトシの言葉は華麗にスルーされ、またしばし無言と無音の時間が過ぎた。
タツヒロが外にタバコでも吸いに行こうかと思案しだした時、ギルドの二人の方からため息が聞こえる。
「まず率直にお聞きしたい、これはどのようなアーティファクトですか?」
若干、疲れて気怠そうな空気をまといながら、ギュンターがトシに尋ねる。
「これは契約した精霊の依り代として、その辺の石を加工した依り代の試作品です。あくまでも試作品ですので、後日、ちゃんとした材料で作り直そうとは思っていますが・・・」
「その辺の石・・・、ですか・・・」
「ええ、適当な材料が無かったので、落ちてた石にルーンを書いて器にし、そこに精霊力を溜め込みました。その状態で精霊に頼んで、その精霊の依り代にしたのですが、何かまずかったですか? 出来はどうです?」
「・・・もはや何と言っていいのか・・・、言葉が浮かびませんね・・・」
「???」
「芳俊さん、私から一言良いですか?」
「あ、はい。これにどこかダメなところがあればご指摘下さい」
「あ、それは何の問題もありませんよ?、というか非常に優秀な出来ですね。ですが我々の見ているのはそこではありません」
「・・・というと?」
「この中に満ちている精霊力が、非常に膨大な量であることは我々でも容易に判別できます。この試作品とやらは、既にディバインクラスのアーティファクトなのですよ」
「ん!?、これで!?」
「普通のアーティファクト制作者であれば、依り代の製作に使うのは水晶である事が多いですね。そしてそのクリスタルに精霊紋を刻み、依り代とするのですよ。このようにね」
そう言うと、リリイが首元から何かを取り出す。
リリイが首元から取り出したそれは、紐で飾り結びされた親指の先ぐらいのクリスタルだった。
そのクリスタルには何やら模様--これが精霊紋らしい--が刻まれ、火の精霊力が感じ取れる。
「これが私の契約精霊、サラマンダーの依代です。この依代で代金は確か、金貨八十五枚でしたよ。そのレートでこの試作品とやらを計算すると、どのくらいになると思いますか?」
「・・・相場が判らないので、見当が付かないですね」
「金貨で計算すれば、一万から二万枚相当でしょうね・・・」
「!!??・・・」
今度はトシが絶句する番になった。
「鑑定する術は持ってますが、金銭的な目利きには使えなくて難儀してたんですよ。そうですか・・・、それほどしますか・・・」
「ええ、あれの価値はそれほどになると思います」
「だが、それはそれで困った事になる。高すぎて売れないんじゃ、本末転倒も甚だしい・・・」
「物は相談なんですが、もっともっと程度の低いものを作れませんか? それなら金貨百枚程度で売りに出せるかと・・・。もちろんオーダーであれば予算次第になるので、相手の予算に応じて性能を調整できますが、店売りされるのであれば、もっと抑えた性能の物が良いでしょうね」
突如、ギュンターが思い出したような表情で部屋を出ていき、また直ぐに戻って来る。
どうやら自室に行って、また何か持ってきた様だ。
「芳俊さん、これが一般的な大きさの依代用クリスタルです。ギルドでの販売用に発注しようと思っていた在庫品ですが、これを使ってこの場で一つ作ってみてもらえませんか? 性能の加減をお教えします」
「ふむ、ではこの精霊紋とやらも教えて下さい。これを導入して作ってみます」
「判りました。今資料をお持ちします」
そう言ってギュンターは再度、部屋を飛び出して行き、資料を抱えて戻って来る。
そこでギュンターからリクエストがあり、クリスタルでの試作品は水の精霊用の依代で、との事だった。
トシは水の精霊紋と必要と思われるルーンをクリスタルに書き込み、魔術でルーンを発動させながら精霊力を注ぎ込む。が二~三秒ぐらいで直ぐに作業を止められた。
「芳俊さん、その辺でいいです。それでも想定より多いぐらいですよ」
そう言われて出来上がった依代を見ると、精霊紋のせいか最初から水の精霊力に満ちた状態で
仕上がっていた。
「おお、この精霊紋ってのはいいな、勉強になった」
そう、独り言ちるトシを余所に、ギュンターは出来上がった依代と、自身の懐から取り出した依代を比べて羨ましそうに見ている。
「ギュンター、クリスタルの材料はまだあるの?」
「ありますが、どうしました?」
「もう一つ、持ってきてちょうだい」
「分かりました」
そう言って、部屋を出ると手にクリスタルを持って戻って来る。
「芳俊さん、次はこのクリスタルで火の精霊用の依代を作ってみて下さい」
「・・・、分かりました」
何をしたいのか、薄々察したトシだが何も言わずに作業を始める。
先ほどの手順通りに行い、止められたと思った辺りで精霊力の注入を止める。
「このぐらい?」
「いいですね。その辺りが流通させ得る限界です。今の加減を覚えておいて下さい」
「出来たの? 見せて見せて」
何故か?嬉しそうにリリイが手を出してきたので、勢いに釣られてクリスタルを渡してしまうトシ。
その後はギュンターと一緒で、悦に入ったように二人でクリスタルを見つめている。
その様子をじっとりと見つめる三人の視線に気付き、慌てた様に反応する二人。
「あ、あのこれは、その、別に深い意味は無いですよ? 早くうちの子を入れてあげたいなんて、これっぽっちも思ってないですよ?」
自白していた。
「ギルマス・・・、もうばれてるかと・・・」
「何を言っているのか・・・失礼ですよ、ギュンター。こちらは試作品ですし、売却用の品物でもありませんので芳俊さんさえよろしければ、二つ合わせて金貨二百枚で買い取りますが、どうですか?」
「突然、どうですか?って期待に満ち満ちた笑顔で言われても・・・」
「あ、あの・・・、お願いします! 売って下さい!」
突如、リリイが土下座し始める。
壊れた様だ。
違う、そこまでしても売って欲しいらしかった。
トシとしても、余興レベルで見せた技に高値が付くのは悪い気はしない。
結局、リリイの言い値で売る事にした。
確実に商売になるネタと保証されたようなものだ、この程度惜しくもなんともない。
というか、トシにとってはいくらでも作れる雑多のものに過ぎなかったのだ。
その後は二人とも急いで金を用意してきたらしく、二人で百枚ずつ渡してきた。
一応、その場で改め、問題が無い事を確認する。
「じゃあ、定期的に来ますので今後ともよろしくお願いします。ある程度のオーダーも受け付けますので、その辺りも宣伝よろしく~」
帰り際にしっかりと営業する、ホクホク顔のトシであった。