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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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70話 光明(装備と嗜好品的に)

「いらっしゃい・・・、おっと、あんたらかい。あんたら用(・・・・・)かもしれないのがまた入ってるんだよ。後で見てってくんな」

「今日は、普通に武具を買いに来たつもりなんだが・・・、まあいいか。じゃあまずはそっちを見せてもらおうか」

 

 冒険者ギルドを出た後、ルロの町お使い六人組はこの前の武具屋に来ていた。

 普通に武具を見に来たはずなのだが、この店主はまた何か怪しい代物を仕入れたらしい。

 ふらっと入って来たナベを見るなり、すかさず店主が売り込みを始める。

 少々呆気に取られながらナベが反応すると、いわゆる『数寄者』の一種なのであろう店主が、若干のドヤ顔で店の奥から持って来たのは、少々変わった形をしている、留め金で止める何やら防具っぽいモノだった。

 

「前回の炎雷剣や誘いの魔弓は、適当に“曰く知れず”で仕入れたんだが・・・、こいつはな、かの拳聖の篭手と伝えられている篭手なんだ。呪われていると聞いてるが、呪いの中身が炎雷剣や誘いの魔弓と同じ(・・)でな?、で、もしやと思って取り寄せてみたのさ」

「これが篭手、なのか?」

「ああ、そう聞いてるが・・・、まあ少々変わった形だなーってのは、俺も否定しねーよ」

「少々と言うか・・・、前もって篭手と教えられねーと篭手だと思わねーな、こりゃ」

 

 そこへジュズマルが声を掛ける。

 

「誠人様、差し支え無ければ、私が試してみても?」

「ん?、ああ、着けてみるといい」

「では、失礼します」

 

 ジュズマルはそう言って、篭手を腕に着け始める。

 

「実は、こういった目立たない武具を探しておりまして・・・」

 

 着けた感じ、不都合は無さそうだ。

 どうだ?、と一声掛けようとすると、ジュズマルから突如気勢が上がる。

 篭手を見ると、篭手の表面に丸く気が集まっているが、その密度はナベも驚くほどだった。

 その後は、握りしめた拳の部分が光で覆われたり、炎で覆われたり、チリチリと放電が走ったり、見ている分には面白い画が続いた。

 

「・・・ふむ、なるほど、こういう訳ですか。これは面白い・・・」

 

 しばらくいろいろと試していたジュズマルが、一息つきながら気勢を抑える。

 

「どうだ?、使えそうか?」

 

 ナベがジュズマルに確認すると、気持ちのいい笑顔で答える。

 

「はい、これは素晴らしい装備になりそうです。かなり使えそう(・・・・)ですね」

「そうか、なら決まりだな。店主、これもいつもの様にもらっていこう」

「畏まりました。他には何かご入用で?」

「ああ、この二人の得物を見繕って欲しい」

「こちらの女性の方は槍、そちらの男性の方は剣ですかい・・・」

「お前ら、何か希望はあるか?」

「槍は、穂先がもう少し長いものが良いです」

「自分は長剣とヤシャマルが持っていた鞭がいいですね。それと厚手の短剣かナイフが欲しいです」

「・・・という事らしいので、頼む」

「少々お待ちを」

 

 少しして、店主が奥から出て来る。

 

「まずはそちら様用の剣と、鞭を改良したソードブレイカーです。あとはナイフを三本ほどお持ちしました」

 

 そう言って持ってきたものを机に置いて、また奥へと向かう。

 ウシワカは、机の上に置かれた剣、ソードブレイカー、ナイフ、それぞれ三本ずつを吟味し始めた。

 その内、また奥から店主が来る。

 

「今度は穂先が長めの槍をお持ちしました」

 

 そう言って、テーブルの脇に数本の槍を立てかける。

 トモエが店主に断りを入れ、順番に外で振り回して具合を確かめるが、今一つ表情が冴えない。

 

「トモエ、何か注文があれば何でも言えよ? しっくりくるものが一番だからな」

「・・・、分かりました。あの~、もう少し重めのモノはありますか?」

「重め、ねえ・・・。あれとあれか?・・・」

 

 もう一度、店主が奥から別の槍を持ってくる。

 一つは普通の槍だが、もう一つは少々変わった穂先をしていた。

 トモエは変わった穂先の方に早くも惹かれたらしい。

 先にそっちを試しに外へ行く。

 店の外に様子を見に行くと、満面の笑みを浮かべたトモエがそこにいた。

 槍を扱く度に鳴る刃風だけで周りが切れそうだ。

 

「旦那、あの女性は何者です? あれは総鋼作りの鉄槍で、穂先の形から龍の涙と呼ばれてますが、大の男でもあそこまで扱える奴ぁ、そうそういませんぜ?」

 

 と店主が呆れながら見やる先には、喜々として槍をふるう涼やかな美女が、舞の様に演武を続けている。

 

「トモエ、どうだ、気に入ったか?」

「あ、誠人様。はい!、私はこれが良いです。これが欲しいです!」

「・・・という訳だ店主、あれももらっていこう」

「畏まりました」

「あとはウシワカか・・・」

 

 店の中に戻って、ウシワカの元へ向かうと、剣で悩んでいる様子だ。

 

「ウシワカ、何か希望は無いのか? 悩んでるなら、具体的に教えてくれ」

「あ、誠人様・・・、いやね、ソードブレイカーはこれで決まったんですが、肝心の剣で少々悩んでまして・・・。よし、店主さん、このソードブレイカーと同じ様な長さ、重さの片手剣が欲しい。お持ちかな?」

「どれどれ、少々拝借・・・。う~ん、これぐらいですか・・・、少々お待ちを」

 

 そう言って図った長さ、重さを基に店内も含めて色々な剣を見て回り、最終的に三本の剣を持って戻って来た。

 

「この辺りでしょうか・・・」

 

 そう言ってテーブルに置いたのは、両刃の細身のブロードソードと片刃のサーベル、そして日本刀だった。

 

「店主、これは?」

 

 思わずナベは、日本刀を指さして店主に尋ねる。

 

「これですか、これは和剣と申す東方は西和の剣です。その中でも厚みのある片刃の剣で、サーベルよりも反りがありますな。とにかく切れ味で有名な和剣ですが、これは切れ味を落として頑丈に打った剣だとか・・・お試しください」

 

 ウシワカが勧められて、和剣とやらを抜き、ソードブレイカーと比べている。

 その他の剣も順番に比べてみたが、この和剣がしっくり来る様だ。

 

「誠人様、この組み合わせが良いです。これをお願いします」

「ナイフとか言っていたのは、どうする?」

「この二つがあれば、ナイフは後回しでも・・・」

 

 これで、全員の得物が決まった。

 

「店主、これで用は済んだ。勘定を頼む」

「畏まりました。篭手の代金は結構です、槍の方は逸品ですので金貨二十枚、ソードブレイカーは金貨十五枚、和剣が金貨十枚、締めて金貨で四十五枚です」

「分かった・・・、確認してくれ」

「確かに、丁度で頂きました」

「店主、また何か面白そうなものがあったら頼むぞ」

「分かりました、今後ともご贔屓に」

 

 店主、久々の大商いだった。

 普通の客は、せいぜいが金貨一枚程度の買い物である。

 良いものは高くなる理由があって高くなるのだが、中々ひょいっと大金を出せる客は少ない。

 店主は先日の先行投資が、しっかりと帰ってきたことを実感していた。

 今日の品々も、仕入れたはいいものの、客が見つからず倉庫の肥やしになっていたものだ。

 改めて、自分の目利きと、それが判る客との出会いを神に感謝する店主だった。

 

 ーーー

 

 その後は、二手に分かれて用事を済ませる事にした。

 ナベとトモエ、ウシワカの三人は前にも行った皮革問屋へ、トシとタツヒロとジュズマルは冒険者ギルドへ向かう事にした。

 お目当ての皮革問屋の店先には、前回来た時よりも、毛皮が数多く置かれるようになっていた。

 そのまま店に入ろうとして、中から声が掛かる。

 

「いらっしゃいませ~、あ、先日の大口のお客様。本日はどのような物がご入用ですか?」

 

 相変わらず丁寧な接客だった。

 

「店主、今日はまた黒羊を頂きに来た。前回と同じ量は可能かな?」

「二百ですね? 大丈夫です。他には何か・・・」

「いや、今回言付かって来たのはそれだけだ。新しい買い物は、オリヒメを連れて来た時だな」

「畏まりました。では前回同様、お代は金貨十八枚です」

「うむ、・・・確認してくれ」

「・・・、確かに。毎度ありがとうございます。またよろしく~」

 

 店の前の黒羊の革二百枚を絶界に収納し、何食わぬ顔で店を後にする。

 その後は前回同様、布帛問屋に向かい、前回同様に生地類を買い込む。

 それに加えて今回は綿花を袋買いした。

 ジェイソンがちょくちょくルロの町に買出しに来るので、いつぞや伝言を頼んでおいた、その受け取りという訳である。

 その量は、何と麻袋で二百!、流石に最初は冗談か何かだと思われたらしい、が本気だと知ると別の意味でびっくりされ時間をくれと言われていた。

 その約束の期日から今日で三日経っており、しっかりと受け取る事が出来たのだった。

 その後は世間話をして店を出た。

 最後は食品問屋だ。

 ここも、前回同様に大口の買い物を済ませるが、そのかたわらでの世間話に余念がない。

 また、ナベ的には一つ重要な情報も入手できた。

 このようなものが無いかという世間話の中で、それなら薬種問屋にあるのではないかと指摘を受け、その後寄る事にした程であった。

 また来る、と挨拶してそそくさと店を出ると、教えられた通りに進み、薬種問屋の前に来ていた。

 

「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

 

 ナベが店の奥に向かって声を掛けると、奥から一人の婆さんが出て来る。

 

「はいはい、何かご入用ですか?」

「すみません、こちらにカフアの実があるとお聞きしたのですが・・・」

「カフアの実ですね?、ございますよ。いかほどご入用です?」

「いかほどお持ちですか?」

「え?、在庫ですか?、そうですねえ・・・、確か麻袋で二つほどこの前入荷したかと・・・」

「それはいい、全部下さい」

「は!?」

「在庫でお持ちの物を、全部下さい」

「それですと・・・、え~と・・・、金貨で三枚ほどになりますが、よろしいんですか?」

「全く、構いません。いずれ無くなったらまた発注したいのですが、その際はこちらで取り扱って頂けますか?」

「はあ、ご注文いただければ、その分はお取り寄せしますが・・・」

「素晴らしい!、では今日はある分をもらって参ります。後日また発注する際は宜しなに・・・、ではこちらが本日分の代金です」

「・・・、確かに頂きました。ではただ今持って参ります」

 

 その後、店頭で袋を二つ受け取り、収納する際のお約束のびっくりを見せられながら、薬種問屋を後にする。

 

「我ながら、良い買い物だった。カフアの実の焙煎が楽しみでもあり面倒でもあり、だがタツヒロも巻き込んでしまえば・・・、くっくっくっく」

 

 たかがコーヒーの焙煎でも手を抜かないナベであった。

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