7話 己が技を知る ~竜沢弘樹の場合~
タツヒロが魔術が使えるようになった事を認識した三人は、それぞれの感慨に浸りながらも、ゆるゆると思考を現実に戻す。
「タツヒロ、どうせなら他のも含めて、スキルやアビリティの情報を詳しく教えてくれ。全員のスキル情報の共有化が必要だな。魔術、とやらが現実に使える状態で存在している以上、この世界はそういう世界なんだと認識しておかないとマズいな」
冷徹な口調はそのままで、トシは二人に向き直る。
「ナベに剣士?とかいうスキルも来たことだし、この世界は剣と魔法の世界、とかそういうことなんだと思う。日本の常識はひとまず置いておいた方が無難だな。(・・・しっかし、ラノベじゃねーんだからよお・・・、何だこの状況は・・・)」
トシが、ふと普通の口調に戻り、最後には独り言のように声が小さくなっていく・・・
それをスルーしながら、タツヒロが確認する。
「じゃあ、流れ的に俺のスキルからの報告、でいいのかな?」
「ああ、紙にまとめてくれるとありがたい」
そう言ってノートを渡してくるトシ。
たたら製鉄のワークショッで使うノートらしいが、これに書けという事なんだろう。
「了解、ちょっと書き出してみる」
そう言って、トシの用意したノートにガリガリと書き込み始める。
しばらく待っていると、タツヒロのスキル資料が出来上がった。
それは凡そ、次のような内容だった。
~スキル:名医~
・見立て:患者の容態を触診、問診、目診、霊診により見極める
・施術支援:患者に治療術を施す際に、成功率を上昇させる
・毒物耐性:毒物が無効になる
・病原抵抗:病原の影響を少なくする
・分析鑑定(病原):対象物(病原)を分析、鑑定出来る。未知なる病原も推論と仮定で分析、鑑定が可能
~スキル:薬神~
・薬剤加工:素材を加工して薬剤を作成する
・分析鑑定(薬草):対象物(薬草)を分析、鑑定出来る。未知なる薬草も推論と仮定で分析、鑑定が可能
・分析鑑定(鉱物):対象物(鉱物)を分析、鑑定出来る。未知なる鉱物も推論と仮定で分析、鑑定が可能
・分析鑑定(毒物):対象物(毒物)を分析、鑑定出来る。未知なる毒物も推論と仮定で分析、鑑定が可能
・薬剤創成:魔術の創造術を使って薬剤加工が可能
・薬効抽出:薬剤加工の過程で薬効成分のみを任意の濃度で抽出することが可能
~スキル:医術者~
・見立て:患者の容態を触診、問診、目診により見極める
・外科医術:外科的治療術
・内気補正:患者の霊力(気の流れ等)を正し、整える
~スキル:狩人見習~
・弓術基礎:弓、または石弓を使った戦闘技術の基礎
・隠形基礎:姿や気配を隠し、相手の感知を防ぐ基礎
・解体基礎:獲物の下処理の基礎全般
・気配感知:周りの霊力、および妖力を感知する。使い込めば感知範囲が拡大していく
〜スキル:魔術〜
・創造魔術:魔術体系の一つで、魔力により物質を作り出す魔術。他の作成用の技術と連携して使われる事が多いが、独立して使うことも可能
・魔力感知:周りで発生した魔力を感知する。使い込めば感知範囲が拡大していく
・魔力遮断:自身の魔力を隠蔽出来る、魔力感知への対抗術。使い込めば隠蔽できる量が拡大していく
・魔力共有:自身の魔力を他社へ供与出来る。
「改めて見てみると、魔術を除けば、タツヒロがやってきたことが、そのまんま反映されてるって感じだな」
トシが、ノートを眺めて、しみじみ呟く。
それを聞いたナベも、素直な感想をタツヒロに伝える。
「タツヒロ、このリスト見ると、やっぱ魔術が目を引くよなあ。あとは毒物耐性とか病原抵抗とかが地味に羨ましいよな。しっかし、医者の能力って、こういう訳の分からん状況だと、ありがたいの一言だよな。外科医術、とか書いてるけど、こりゃ多少はケガしても大丈夫かもな」
「ナベ、そうは言うけど、手術道具とか必要な薬剤とか、持って来て無いぞ?」
「ああ・・・、そう言われりゃそうだったな。確かに、休みにそんなもの持ち歩く酔狂はいねーか・・・」
ぬか喜びしちまった、といった体のナベを他所に、トシが冷静にタツヒロに告げる。
「この狩人見習ってやつなんだけどさあ、ここの周りがどんな状況か判らないから、念のため先に言っておく。もし、この辺りが人里離れた場所だったら、それこそタツヒロの狩猟スキルが食料供給の柱になるからな? その覚悟でいてくれよ?」
トシの心配事の一つを明かされて、タツヒロは改めて、状況が厳しくなる可能性がある事を自覚した。
「ああ、そっか。・・・だよな。そう言われりゃそうだったよ。俺がガチの狩人か・・・。ケニヤにいた頃、遊びの狩りはやってたけど、今度は本気で狩りしてこないとまずいんだよな・・・。解体基礎とかあるけど、獲物捌けんのかね、俺」
「あとさあ、狩りの時に一緒に薬草とか探して取ってくりゃ、一石二鳥じゃね? 鑑定とか出来るんだからさ、こっちは“指示されたものを取るだけの簡単なお仕事”ってなもんだよ。そしたら魔術で薬剤創成だっけ?、それして見せてくれよ」
ナベが、ノートを見ながら提案する。
トシも、ノートとにらめっこしながら、タツヒロに話しかける。
「とりあえずの分担として、タツヒロには医療関連の作業と、狩猟関連の作業を担ってもらうことになるかな。後は、この創造魔術ってのが、単独でどの程度のモノを生み出せるのか次第・・・か」
タツヒロが、その言葉を聞いてトシに確認する。
「創造魔術? 薬剤創成の補助にしかならないんじゃないの? この“独立して~”って部分は、そんなに期待してなかったけどなあ・・・」
トシが、思案顔でタツヒロに答える。
「うむ、・・・その辺は、後でまとめて確認だな。・・・しかしまあ、タツヒロのスキルは、改めて見ると中々のチートっぷりだよなあ・・・」
トシの話を聞いていたナベが、ためらいながらトシに聞く。
「トシ、ちょっといいか? 聞きたいことがあるんだけどさあ、その・・・、チートって何だ? それと、さっき聞いてから、ずっと気になってたんだが、・・・ラノベってどういう意味だっけ?」
それを聞いて、トシの目付きが、だんだん生暖かい感じになりつつナベに答える。
「ああ・・・そうだったな、ナベは読んだことねーもんな・・・。チートってのは平たく言えば、そうだな~、“かなり優遇されてる”って感じの意味かな? ラノベってのは・・・、まあ、あれだ・・・、小説のジャンルの一つ、ってだけ覚えておいてくれれば、それでいいや」
「なるほど、そういう意味か。それでいうと確かにタツヒロはチートになってるな、うん。いや、良かった良かった」
トシに話しを聞いて、何種類かラノベを呼んだことのあるタツヒロは、勘違い感が満載のナベの言葉を、遠い目をしながら聞いていた。