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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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69話 拠点鋭意建設中、だけど用足しも忘れずに

内容的に切り処に迷い、ちょっと長めになりました。

土日二日分です。

 建築現場でまず着手しなければならないのは、何と言っても基礎工事である。

 そのため、まずナベは運河の掘削予定地を掘り起こし、大量の土砂を絶界に収納すると、今度はメイサの丘の建築予定地の木々を片っ端から絶界へ収納し、空いた大穴を土砂で埋めていく。

 そして木々が無くなると、もう一段重ねるように改めて土砂を撒き、高さや勾配を調整し、丘の上の広場、その下の生活棟エリア、その下の広場エリアと三層の整地を行い、その間を道路でつなげる。

 道路も砕石の上に岩石を組み合わせて並べ、石畳にしてあるので、車輪の運用がすぐに可能になっている。

 二日で周りをある程度片付けた後、やっと拠点三棟の基礎工事に入れるのだ。

 ベタ基礎にする為、間取りに応じて一段掘り下げ、その上に砕石を敷き詰め一体打ち使用の型枠を並べていく。

 それと並行して鉄筋を敷き詰め、それを針金で固定していく。

 それが終わり、いよいよコンクリートの打設だ。

 樽に一つ分位を複製の元として作成し、それを次々と魔術で複製して基礎の部分に流し込み、それを延々と伸ばす作業。

 行程的に途中で止められない為、一棟につき丸一日近い作業になった。

 都合、五日掛けて基礎工事は終了し、無事ゲルン達に引き渡す。

 その後は、丘の頂上から北門までの道を、作り始める。

 木々を抜いては土砂で埋め、石を撒いては岩石を敷く。

 それを繰り返して道を作っていくのだ。

 それが終わると今度は運河の掘削準備である。

 予定の場所の木々を抜き、西門から南門に掛けての運河予定地の脇に植えていく。

 そこが埋まれば、今度は西門から森に掛けて植えていき、そこも埋まれば、南門から川岸までを木々で埋め尽くす。

 こうして、運河の内側に並木を設けて目隠し代わりにしていく。

 その後は最後の仕上げで、門から中央までの道を作る。

 これも同じ様に、砕石の上に石を並べて道にしていく。

 こうして、ようやくナベの仕事が終わる頃、トシとタツヒロも仕事を終えた。


 ナベが基礎を作っている最中も、タツヒロはひたすら、只ひたすら材木と板を作り続け、トシはゲルンに地球世界の工法を伝えながら建築作業全体を監修し、最初の建築となる生活棟の仕上がりを細かく修正していく。

 その間も、トシは釘やボルト類の創成・複製を続け、道具を生み出し、ゲルン達を支援していく。

 ゲルンにしても、初めて見聞きする工法で最初こそ戸惑うが、理屈を聞き実地で見てみると実に理に適っており、面白くなってきていた。

 自分から、どんどんその考え方や方法論を吸収し、自らのものとしていったのである。

 そして、二棟目となる職務棟はゲルン達だけでほぼ最後まで仕上げ切った。

 細かい所でまだ甘いところがあったので、その都度そこだけを指摘し、ほぼ独力で完成させたのである。

 その頃には、資材関係の作成が既に終わっていたので、三棟目である居住棟1は間取りも単純である為、完全にゲルン達に任せることにした。

 ナベの方は基礎工事の後は周りの地形やら植え込みやらを一人、黙々とやっていた。

 一昨日までに防護壁を除く、粗方の外構を仕上げ終わり、運河の一部を本掘削し始めている。

 三人とも、担当作業の負担は軽くなっており、このチャンスに用足しを終わらせて来ようとのタイミングで

 その間、三人はもう一度ルロの町へ行ってくるつもりでいた。

 一つには、狩猟でたまった皮を換金してこようと計画していたのである。

 そろそろ資金の補充が必要になってきたので、これは少し急いでいた。

 売るものが着々と貯まっているので、一度売却しても問題ないとの結論に至ったのもある。

 ホントはなめして使いたいのだが、まだそこまで手が回らないのでもうしばらくは売って革を買ってくる方式でやるしかない。

 もう一つの目的は、トシの精霊術の鑑定というか、盟約の儀を済ませてくる事だった。

 ナベとタツヒロの二人に契約が可能だったので、あわよくば・・・、とのことでこれも済ませてくることにした。

 最後は、グレインの使う鉄材と石炭をそろそろ仕入れよう、ということでそれの仕入れも必要だった。

 ここまで来るのに二十日近くを要していた。

 予定よりは早く進んでいるが、もう既に十月も半ばを越えている。

 トシはいくつか現金収入を得られる手段を模索しているが、どれも時間がかかりそうで、その準備が整うまでは、狩猟とギルドの仕事辺りを上手く回していくしかないか?とも割り切っていた。

 何はともあれ、三人が出かけても問題なさそうなところまで来たので、一度ルロの町に行ってくることにした。

 早ければ日帰りも可能である。

 その為、今度の随行員は前回とは違う人員を連れていくことになり、相談の結果、ジュズマル、トモエ、ウシワカの三人を連れていくことにした。

 早速、毛皮を用意して向かう準備に取り掛かる。

 今回は、アイアンボアが十五頭分、オラント鹿十頭分、レッドボア三十頭分、グラスボア二十頭分、イタチが二十六匹分、雪ウサギが五十四頭分、デスフォックスのシルバー種三頭分とアンバー種五頭分、そして“ブラックウルフ”として珍重されている、ハウリングウルフのジェット種が二頭分と、前回より多めに持って行く計画だ。

 全てを絶界にしまい込み、六人はまたマローダーに乗り込む。

 今回は、念のためタツヒロも自分の車をナベに持ってきてもらっていた。

 何かあってもすぐに別行動を取れるように、備えだけはしておいた方が安心だ。

 そして六人は拠点を離れる。


「ここの呼び名も何か考えないとな」

「そういやそうだな、何か考えないといけないなあ」


 ナベの一言にトシが反応する。

 その後、ルロの町まで様々な案が出るが結局決まることなく、すべては保留とすることにした。

 もはやナベもトシも隠す気が無くなったのか、門の手前で車を降りる。

 ガヤガヤと騒ぐ周囲を他所に、六人は何食わぬ顔で北門に入っていくのだった。

 その後は、そのまま冒険者ギルドに行き、カウンターで用向きを伝える。

 その職員は、そう、あの(・・)リリイだった。


「やあ、リリイさん。今日は買取と、盟約の儀をしに来たよ」

「三ツ星戦闘団さんですね。買取はまた(・・)前回ぐらいですか?」

「前回よりよっと多いかも」


 トシの代わりにナベが答え、そのまま裏に回ろうとする。


「あ、今日はサイロンさんお休みなので、サイロンさんの弟子のカインさんに用向きを伝えて下さい。リリイから言われたと言って頂ければ・・・」

「カインさんね、了解」


 リリイからの指示を聞き、今度こそナベ達は裏に向かった。

 カウンターにはトシが一人残り、改めて盟約の儀を受けたいと申し出る。


「盟約の儀ですね?、畏まりました。ただいまサブマスのギュンターさんを呼んできます」

「お願いします」


 一応、本人達から直接伝えられた訳ではないので、只の女性職員(・・・・・・)さんとしてリリイに対応するトシ。

 リリイが二階に消えてからすぐにギュンターが降りてくる。


「これはこれは芳俊さん、盟約の儀でしたね? どうぞこちらへ」


 トシの姿を見たギュンターは、そう言って奥へ向かう。

 トシもその後に続き、盟約の儀を行う部屋の前に着く。


「中で要領をご説明しましょう」


 その言葉と共に中へ入るギュンターと一緒にトシも中へ入り、ナベ達が受けた説明を一通り受けると、そのままギュンターは外へ出る。

 そして薄暗くなった部屋で、一人になったトシが盟約の儀を始める。


(これがその石か・・・、これに手を当て精霊力を流し込む・・・か)


 石に手を当て精霊力を注ぎ始めると、それほどかからずに石が光り始めた。

 そして教えられた言葉を唱える。


「盟に応じるものよ、出でませ出でませ。契約能うものよ、出でませ出でませ」

 

 その言葉を言い終えた途端、巨大な精霊力を一つ感知した。

 

<我、汝の盟に応ずるものなり>

<我が名はイフリート>

<我が名を呼び給え 其が契約の証なり>

 

「イフリート! その力を我に!」

 

<契約は成り、盟は結ばれた、が・・・、これは面白い。実に面白い! 芳俊よ! 我が加護(・・・・)をくれてやる! お主が死ぬまで、よろしく頼むぞ!>


 そう言った瞬間、イフリートはその姿を透明にし、トシの体に重なる。

 その瞬間、体の内側から凄まじい力が噴き出してくる様な感覚が、トシを襲う。

 だが、その力はしっかりと把握でき、その奔流のような流れを容易に収めることが出来る、気がする。

 体の隅々に力が行き渡り、漲りながら直ぐに治め得る様な不思議な状態。


<これほど容易く扱うとはな! そなたの資質の前には我が力も形無しだな!>

<こ・・・れは?>

<我が加護を受け得る唯一の者(・・・・)よ! それは我が力の一端なり。我が力とそなたの力が混じり合い、混然となっている故に感じる得る感覚よ! そなた自身を我が依り代と致す。 我が力、存分に使うがよい!>


 そう言い終えて、イフリートの声は消える。

 若干、興奮が収まらぬまま部屋を出る。

 外に出ると、終わるのを待っていたギュンターが近付いて来るが、途中でその歩みを止める。

「あなた・・・は、本当に芳俊さん?」

「ん? どうしたんです、ギュンターさん」

「芳俊さんから・・・、精霊王の力を、イフリートの力を感じるんですが・・・」

「ああ、その件ですが、イフリートと契約できましたよ」

「それは・・・、何となく想像つきますが・・・それだけですか?」

「何やら、加護・・・とやらを頂きましたよ?」

「加護・・・ですか? 精霊王が、加護・・・、聞いたことがないです・・・」

「あ、そうなんですか・・・、ギュンターさんに聞けば分かるかと思ってましたよ・・・」

「・・・すみません、力になれなくて・・・」

「じゃあ、私はこれで・・・」

「また何かありましたら、どうぞ・・・」


 何となく(・・・・)、何故かお互いに気まずさを感じて、そのまま別れることにした二人だった。


 裏手に回ったナベ達は、職人の詰め所に声を掛ける。


「カインさん、ってのはいるかい?」

「ああ、俺だよ。あんたらは?」

「リリイさんにこっちに回ってくれって言われてね。買取希望の者だ」

「素材の買い取りか、じゃあこの辺に出してくれ」

「分かった・・・、もうちょっと・・・、よし、これで全部だ」

「・・・ずいぶんと、・・・多いんだな」

「ああ、前回もこっちに回ってくれって言われたからな。この素材全部が買取希望だ」

「分かった、算定するからちょっと待っててくれ」


 ナベとタツヒロは、通りに出てタバコを吸い始める。


「前回を超えられると、ありがたいんだがなあ」


 ナベがふと呟くと、タツヒロがそれに答える。


「だねえ、この前みたいなレッサー・オーガはいないけど、数は今回のが多いから、その辺で何とかなると助かるんだけど・・・」

「今回連れてきた三人にも、何か得物を用意してやれるといいんだがなあ」

「ああ、トモエなんかはこの前オークの村行ったときに見たけど、得物をかばって使ってたからねえ」

「ああ、あれタツヒロも気付いてたか」

「まあ、ね」

「ジュズマルもウシワカも、その傾向が見られたよな」

「鬼人達の装備は、その基準を一段上乗せ(・・・・・)して考えないといけないんだろうなあ・・・」

「誠人様、弘樹様、算定が終わりましたとのことです」


 おしゃべりをしていると、ジュズマルが呼びに来る。

 二人は呼ばれるまま、カインの所に戻った。


「終わったと聞いたが・・・」

「ああ、終わったよ。今回はアイアンボア十五頭分で金貨三十枚、オラント鹿十頭分の皮と八頭分の角、併せて金貨十六枚と銀貨四枚、レッドボア三十頭分で金貨十二枚、グラスボア二十頭分で金貨十枚、イタチ二十六匹分で金貨三枚と銀貨九枚、雪ウサギ五十四羽分で金貨三枚と銀貨二枚、銅銀貨四枚、デスフォックスはシルバー種三頭分で金貨四十五枚とアンバー種五頭分で金貨二十五枚、そして“ブラックウルフ”二頭分で金貨二十枚。締めて金貨百六十五枚と銀貨五枚、銅銀貨四枚だ。これで納得いくなら受け取りにサインをくれ」

「よし、こ、れ、でよしと」

「ほい、これが買取金だ。金額を確かめてくれ」

「分かった・・・、・・・あとは、・・・ああ、間違いない。確かに」

「デスフォックスとブラックウルフは人気の材料だ、数が多けりゃ色付けてやるからよ、また頼むわ」

「分かった、見たら狩ってこよう」

「毎度あり~」

「んじゃ、また」


 そのまま道路に出て、ギルドの正面入り口の方に向かおうとした矢先、トシが建物から出てくる。


「トシ!、終わったのか?」

「ああ、終わったよ。ナベ、そっちはどうだ?」

「トシ、もしかして契約したのって精霊王のイフリート?」

「!?、タツヒロ、よく分かったな・・・」

「いや~な? トシの体からビシバシと火の精霊力を感じるから、当てずっぽうで言ってみたら当たったパターン、かな。その後アナイティスやニンリルにも確認して、ほぼ間違いなかろうと」

「ああ、俺はイフリートと契約出来た」

「あれ? トシ、これで俺達三人だけで地水火風に原初の精霊まで、全部と契約出来たの?」

「ああ、そうだ。何かすごそう・・・なんだが、よく解らん」

「俺も、これはすごい事だと思うんだけど・・・、どうなのかねえ」


 トシとタツヒロが自らの強さを計りかねていると、ご機嫌そうなナベの一言が聞こえきた。


「細けえこたあ、いいんだよ。俺達ゃ確実に、強くなってる。それでいいんじゃねえか?」

20170609:工事関連の日取りを調整(ルロの町へ行く日付が10月16日となるよう調整)

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