68話 段取り八分
新しい拠点の建設予定地、通称“現場”に着いて、皆で車を降りるとゲルン他数名が出迎えてくれる。
「おお、やっと全員揃った様だの、旦那方」
「ああ、これで全部だ」
ナベがゲルンに答えながら皆の元へ向かうと、一緒に来た最終組のメンバーもそれに続く。
「ゲルン、今はどんな状況だ?」
「仮設テントは出来ておるし、その中の住環境も整いつつある様じゃ。あとは、仮設テントが終わってヒマじゃったからな?、今は森で材木の伐採と食料の調達に行ってもらっておる」
「なるほどな。ならば、皆には今日はそのままで一日動いてもらおう。ゲルンとジャレンとマタエモン、それとサクエモン、イエモンはこれから拠点の正式な縄張りを始めるから付き合ってもらうぞ。飯が終わったら、集まってくれ」
トシの指示で、動くのは昼食後と決まった。
ナベは興味が湧いたのか、ジェイソンの所でメニューを見ながらああでもないこうでもないと料理談義を始めた。
それを横目にトシとタツヒロは仮設テントの方に向かう。
真ん中に広場、そこを通るように道路が十字に取られており、その道路で区切られた区画に二棟ずつ仲良く並べられて設置されていた。
その北側、道路の突き当りにメイサを持って来ようとトシとタツヒロは相談し、ジェイソンの所からこっちに向かって来るナベに伝える。
ナベは二つ返事で賛成し、そのままメイサを設置した。
そのまま、丸太で作ったテーブル類も設置し、体裁を整えるとナベが一服と称して座り始める。
トシも、それなら一服がてら打ち合わせしようとお茶の用意を始めた。
トシがお茶を持ってきて、ナベとタツヒロは一服しながらトシの言葉を待つ。
「午後から、俺とナベで本格的に縄張りを始めるんだが、手順としては平地側をやってから森に入ろうと思う。その間に、タツヒロはゲルン達が切り倒した丸太を材木にしててくれ」
「「了解」」
「縄張りと言うか、完成形は凡そは頭の中に入ってるからそれで進めるんだが、現場の細かい処はゲルンやナベに任せたい。どんどん指示してくれ」
「分かった。細かい所は現場で、だな」
「明日以降は、森から木を持ってきて、その木を植えた所の土地を森へ戻す作業をナベに頼む。絶界なら造作もないだろ?」
「造作もないんだが、往復量が大変そうな作業だ」
「まあ、その辺は勘弁してくれ。そうでないと木が育つのを待つことになりかねないからな。それと並行して、整地作業も頼むだろうから、その時はそっちを優先してくれ」
「トシ、俺の方はずっと材木?」
「だな、タツヒロはしばらく材木だ。ある程度貯まったら、板材に移ってもらうけどな」
「板材か・・・、練習しなきゃ・・・」
「トシ、基礎の時も俺の出番だろ?」
「ああ、ベタ基礎にするつもりだからモルタルの材料だけでも、結構な量が必要だと思うが・・・」
「シフにも確認してるが、量の問題よりも距離の問題の方が大きいな。欲しい岩石が遠いと時間がかかるぞ?」
「なるほど、近くに有る事を祈るしかないか・・・。とにもかくにもコピー元になりそうな量が作れれば、あとは俺の複製魔術で何とかするわ」
「トシはもしかして、縄張り終わったらずっと部材作成か?」
「まあ、それやらないと予定が後ろに行くだけだからなあ・・・」
「確かにな。この辺の技術で作ればもっと簡単だったかもしれんが・・・」
「移設も簡単でないと困るからな。だから、最初に気合入れて作って後から楽になる作戦だよ」
「そろそろ昼飯らしいよ、二人も向こうに行こうぜ」
「おう、そんな時間か」
「じゃあ、行くか」
タツヒロの声で、ナベとトシも打ち合わせを切り上げると、三人は連れ立ってジェイソンの小屋の方に向かって行った。
そのジェイソンは、調理道具のための小屋で奮闘していた。
調理班に指示してジェイソンを手伝わせているが、まだまだ配膳が関の山の様だ。
丸太で作った簡易テーブルが並ぶ食事スペースで、皆が一斉に食べ始めている。
三人も皆と並んで食べ始める。
今日のメニューは三種のサンドイッチとスープだ。
小屋に隣接している石組みは石窯らしい。
パンもそこで焼いているようで、屋台を超えて店の規模で料理を作ってもらってる様だ。
皆がサンドイッチに満足しながら昼食を終え休憩が終わる頃、トシが前に出て話しを始める。
「今日から本格的に拠点の整備を始める訳だが、それに先立って業務指示を出しておくので注意して聞いてもらいたい。まずは建築班と土木建築班はゲルンの指示で動いてくれ。その時々に応じて、土木やら建築やらの仕事を振る。農業班の二班も土木作業のみ参加してくれ。次に哨戒班と狩猟班、採集班は森で食料の調達。防衛班は周囲の警戒、調理班はジェイソンの元で調理修行だ。最後に縫製班と布革班は冬服の準備と材料が届き次第、仮設テントの補修を行ってくれ。各班、不明な点はあるか?」
やる事が判らないものはいない様だった。
「よし、では各自持ち場で仕事を始めてくれ」
トシの締めの一言に、おうと応えてぞろぞろと持ち場に向かう団員達。
三人もそれぞれの持ち場に向かう。
トシとナベは、ゲルン、ジャレン、マタエモン、サクエモン、イエモンらを乗せてマローダーで出発する。
まずは、仮称メイサの丘から真っ直ぐ南に向かって森が切れたところに移動する。
ここを起点とする為、ナベにポールの様なものを土中から出してもらい、車を降りてトシが説明を始めた。
「この棒を起点に全てを決めていこう。まずはこの丘の南側の斜面が、建築現場だ。ここに三棟の建物を作り、その周辺を広場にしていく。その上の方も広場にして、あのメイサを設置するつもりだ。そしてここから南側は練兵場を設置し、そこから先は畑と牧場を作る」
周囲を見回しながら、トシは全員に説明する。
ゲルンやイエモン達は既に聞いているが、鬼人達は初めて聞く計画に感心しきりだった。
その後は、また車に乗り、今度は南に真っ直ぐ移動する。
車内のカーナビを見ながら、トシの指示で車を止める。
そのまま外に出てトシの話しが続く。
「ここが丁度、南門になる辺りだ」
そう言いながら、ナベにまた目印のポールを出してもらう。
そして皆に広さを確認してもらう。
次は西に向かい、またカーナビで当りを付けポールを設置する。
ここは西門になる予定だが、ここから見た南門のポールの位置からすると、当初の予定よりかなり広くなった気がする。
ざっくりとだが、半径で三百から四百といったぐらいありそうだった。
「小さいものを大きくするよりはましだろ」
というナベの一言で、このままいくことが決定したが・・・
そのまま、一度仮設テントに戻りテーブルで詳細を詰める。
メイサの丘の北側で運河を掘り、設置予定の北門から西門、南門の外側を通って川へ戻す。
その運河の外にも畑を作る予定である。
ちなみに、東門は作らない予定だ。
将来、船着き場等が出来ればその段階で考えようという話になり、門の設置は見送られている。
その後は、北門の予定地を決めてポールを設置し、丘の上からそこまで道を作る事にする。
もちろん、北側斜面は森のままの予定だ。
そして話しは建物の話しへと移っていく。
今回の建物の設計を清書した図面を見せながら説明し、ゲルンの理解を得る。
細かい所の疑問もゲルンと話してすり合わせを行い、明日以降実際に仕事を始めるられるように段取る。
ナベにも、建物の建築予定地の基礎工事を最優先する旨を伝え、明日からの仕事がそれぞれ決まったところで夕飯にする。
夕飯が終わったとも、メイサでしばらく打ち合わせをするが、ある程度で切り上げて明日に備える事にした。
---
そして翌日。
本格的な工事が始まり、まず土木関連と建設部材作成が動き出したのだった。