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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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64話 引っ越しとオークの選択

 冒険者ギルドを後にした二人は宿に戻り、早速トシに報告する。

 

「・・・とまあ、そんな訳で精霊と契約出来たよ。サブマスのギュンターさんだっけ?、あの人の話しだと精霊王クラスらしいよ?」

「アナイティスにニンリルがタツヒロの精霊で、シフとカオスがナベの精霊か・・・。しかし、ナベに大地の精霊とは、この世界でも“土建屋”の本領発揮だな、ナベ」

「そう、それそれ。俺もそれ聞いたとき、心の中で笑っちゃったよ。ここでも“土建屋”やるのかと思うと、ある意味、ブレが無いなと」

「まあな、今度は重機無しでもイケそうだしな。運河も開削することだし、まさに渡りに船だったよ」

 

 トシとタツヒロのネタに、マジレスするナベを二人はいつまでも生暖かい目で見つめていた・・・訳でもなく、トシからの報告がなされる。

 

「こっちからも少々報告がある。まずゲルン達の作業期間の食事を見てくれる料理人を雇った。まあ、ゲルンの紹介なんだが、現地で店を開いてもらう様な形で、ゲルン達に食事を提供してもらおうかと思ってる。それと併せてヤシャマルと話して、あいつに残ってもらうこちにした」

「ヤシャマルが?」

「何でまたヤシャマルに?」

 

 ナベやタツヒロには当然の疑問だ。

 だが、トシはその狙いを二人に告げる。

 

「一つには現場の周囲の警戒、もう一つには料理人の仕入れへの護衛だな。その両方が出来そうなのってヤシャマルだろ? なので、こっちで第一陣の到着を待ってもらう事にした。それ以外は急いで戻って、第一陣の編成と派遣を終わらせる。そのまま移転が完了するまで繰り返して、なるべく早く移転を完了させる積りだよ」

「そうだな、今の村ではどうせ冬は越せないしな」

「まあ、あそこも悪くは無いんだけど、ちょっと町に遠いしねえ」

「まあ、そういう訳だから、明朝もう一度資材を持ってゲルン達を現場に送って、その後オーク達を連れて村に戻ろう」

「分かった」

「了解」

 

 段取りを打ち合わせて、その日は休むことにする。

 

 ---

 

 明朝、宿にゲルンとグレインがやって来る。

 また二人で飲んでいたようだった。

 

「おう、旦那方。昨日頼まれた資材の手配は、既に済ませてある。あとは受け取りに行くだけだ。飯が終わったら出発しよう」

 

 酒量の調整は完璧な様で、一切酒の残っていない顔で元気に告げて来る。

 

「分かった、その辺で待っててくれ。用意を整えて来る」

 

 トシがゲルンに声を掛け、ヤシャマルを連れて二階へ行く。

 その間、タカマルとオリヒメは宿の裏に置いていた馬車を二両、北門へ引く準備をしていた。

 その後、用意を終えた三人とヤシャマルが降りてきてゲルン達と合流し、北門を出たところで待つ丘ゴブリン組と、資材を回収してくるゲルン組に分かれ宿を出た。

 ゲルン組が、無事にテント用の資材や建材などを回収し終え、北門を出たところに向かうと、つなげえ引くだけの状態にした馬車に丘ゴブリン達が乗り込んでいる最中だった。

 そのままマローダーを出して、馬車を固定していく。

 固定が終わり、全員の乗り込みも完了したので、タカマルとオリヒメに別れを告げ、すぐさま車を出発させる。

 

 現場に着くと、早速ナベが資材を出し、ゲルンが仮設テントの縄張りを始める。

 

「ヤシャマル、皆の命を頼んだぞ」

 

 ナベがヤシャマルの肩に手を乗せ、激励する。

 

「は、心得まして御座います」

 

 それに応えるヤシャマルの隣ではトシが確認作業に没頭していた。

 

「ゲルン、初っ端から大役を頼んですまん」

「芳俊の旦那、まあ、大船に乗った気でいてくれ。悪いようにはせん。ジェイソンのやつは道具持って、後からロバで来ると言っていたからな。夕方には着くだろう。今日はこのまま縄張りやって、明日から本組みだ。二十人テントを全部で八張だが、一日二張のペースで行けると考えている。まあ、楽しみにしてなよ、旦那」

「丘ゴブリンのやつらはどうだ? 使えそうか?」

「まあ、雑作業は色々と経験してる様だしな、何とかなるだろ」

「建物の概要は伝えたが、本宅的な設計は村からの移転が終わったら取り掛かろう。それまでは仮設のテント周りの設備をお願いしたい」

「おう、任しときな」

 

 その後、三人は空になった馬車を繋ぎ、ルロの町に戻る。

 宿に着いて、ナミルに礼を言い宿代を支払って頼んでおいた今日の昼食を受け取り、オーク達とグレイン、タカマル、オリヒメと合流し白銀の麓亭を後にした。

 町は、十日市(とおかいち)で賑わっており活気があった。

 ナミルの言では、十日市、廿日市(はつかいち)晦日市(みそかいち)がそれぞれ十日、二十日、三十日に立つらしい。

 各地からバザール商人がやってきており、それはそれは大賑わいだ。

 見たい気持ちをグッと抑えて、今回はしょうがないがいずれ来てみようという事で落ちが着き、そのままルロの町を離れる。

 

 ---

 

 北門を出て、しばらく離れたところで馬車をマローダーに繋ぎ、オーク達が乗り込む。

 考えてみれば、オーク達をずいぶん待たせてしまったが、そこは勘弁してくれ、とトシは心で詫びつつ出発する。

 途中、昼食の休憩をはさんで、夕方前には村の南の街道の所に着いた。

 そこから二手に分かれ、オーク達はタカマルとオリヒメの先導で村へ向かい、グレインが、道具を取って来たいと言うので、三人は車でオークの村に寄り道する。

 オークの村はこの前の大掃除の時のままになっており、中央広場の焼け跡には死体を狙うハイエナの様な獣が数匹居たが、三人の気配を察するとすぐに逃げて行った。

 グレインの道具を集め、ついでにグレインの鍛冶場ごとナベが絶界にて切り取る。

 

「使い慣れた仕事場の方がいいだろう?」

 

 の一言でグレインは納得した様だ。

 そのまま村に取って返して、皆に帰還の挨拶をする。

 トシは忙しなくて申し訳ないが、と前置きして皆を集めて欲しいとタダツグに告げる。

 は!、と一言返事をしたのち踵を返して村に触れ回り、直ぐにメンバー全員が集まる。

 

「数日開けてしまったが変わりないか? 今日は我々三ツ星戦闘団、オリオンの拠点を変更することを決定したので皆に伝えたい」

 

 おお、と言うざわめきが広がる中、それを無視してトシが言葉を続ける。

 

「ここから南、森が途切れる辺りに、我々の拠点とするに最高の立地条件の場所を発見した。そこには既に先遣隊としてヤシャマルと新しく仲間になったゲルンと言う大工が、仮設テント設営のために残っている。数回に分けて移転を行い、一刻も早く向こうでの生活を確立していきたい。この村の物もなるべく持って行って、向こうで使う資材にしようと考えている。第一陣は明後日の朝に出発予定だ。これからいうメンバーは直ぐに移転の用意をしてもらいたい。調理班、建築班、縫製班だ。各自の荷物を明日中に纏めておいてくれ。明後日の朝に出発する。以上だ」

 

 ついに新天地へ向かうのか、平地とはどういうところだろうなあ、等と言う声があちこちから聞こえる。

 

「皆の物、芳俊様の言葉を聞いていただろう。直ぐに取り掛かるのだ」

 

 最後はタダツグの言葉で締められ、皆は解散となる。

 そこへジャレンがエサニエを伴って向かって来る。

 

「また村の仲間が助けられたようだな」

 

 三人の誰に言うでもなく言葉を掛けるジャレン。

 それにナベが応じる。

 

「気にするな、グレインが一人で飛び出して行きそうだったのでな、ちょと手伝っただけだ」

「俺だけでなく、仲間まで救ってくれた。感謝に堪えない」

「今夜は助けられた連中を労ってやってくれ」

「ああ、その言葉に甘えさせてもらうよ」

「ありがとうございました」

 

 最後はエサニエも頭を下げてオーク達の所へ戻っていくのをグレインも追いかける。

 その様子を感慨深く見守る三人だった。


 その夜は久々にナベが料理をした。

 せっかく小麦粉が手に入ったので、パンを食いたかったらしい。

 こっそりとナミルに酵母を分けてもらっている辺り、食に関しては抜け目がない。

 ちょっと硬めのブール、といった感じのパンが二つ出来上がり、さっそくトーストにして食べる。

 最後の溶けるチーズを堪能して、


「牛乳、的なものを、どげんかせんといかん!」


 との締め?の言葉を呟くナベとそれを聞く半目の二人は、とりあえず早めに休む事で一致した。


 ---


 翌朝、久しぶりにメイサの自分の部屋で寝た三人は、それぞれ引っ越しに向けての準備を開始する。

 師匠には昨夜報告し、拠点移転の了解をもらっているが師匠との稽古が中々出来ない事に、それぞれの中で忸怩たる想いがある。

 だが、師匠は気にするなと笑って応える。

 

「お主等に必要な事が必要な時に起きるのじゃ。宿命(さだめ)とはそういうモノじゃ、気にせず移転とやらの準備を続けるがよい」

 

 その為にもしっかり準備をし、素早く作業を終わらせたい。

 その思いが三人を行動に駆り立てる。

 ナベはシフを呼び出し、広場の地面を盛り上げたりへこませたりしている。

 硬くしたり、柔らかくしたり、四角く、丸く、色々な地形操作をしてシフとの連携を確認している様だ。

 岩石を出したり砕いたり、出した岩石を調べたり消したり、とにかく思いつく作業を延々とこなす。

 タツヒロもアナイティスと材木から水分を抜く方法を模索中だ。

 建材は当然ながら木材がメインである。

 建材は全て森から調達するつもりなので、いかに速く乾燥させ得るかがカギになるのだ。

 そしてトシは、建物の設計に取り組んでいる。三階建ての木造集合住宅で、ワンルームと2L、3Lを混在させている。

 宿舎棟は全てワンルームで、生活棟の二階が2L、三階が3Lだ。

 生活棟の一階は食堂と厨房、洗濯室、風呂、共通居間にしてある。

 職務棟は一部を吹き抜けにし、縫製室、機織り室、食品加工室、鍛冶場、木材加工場、を作る。

 構造は重量木骨を主体にしたトラス構造を使って床を支える工法で、比較的広い空間が確保できる。

 壁は外断熱方式とし、一部石組みでセメントも使う予定だ。

 そういった作業をしているところに、ジャレンとエサニエ、そしてグレインがやって来る。

 

「ほう、これが噂のメイサか。見たことのない建物じゃなあ」

「ああ、あれは木造なのか?」

「でもきれいな作りよ?」

 

 口々にメイサの感想を述べながら、こちらへと向かって来る。

 三人の所まで来ると、グレインが口を開く。

 

「ジャレンから話しがあるそうじゃ、聞いてやってくれぬか」

 

 そう言ってジャレンに話しを振る。

 

「・・・あんたらに助けてもらってからずっと考えていたことがある。そしてそれを昨日連れて来てくれた者達にも確認して了解を得た。俺達もあんたらの、いや、旦那方の傘下に入りてえ。我等オーク一同の忠誠を持って旦那方の元に馳せ参じます。我らの主として、我らをお導き下され!」

「お願いします、我らをお導き下さい!」

 

 途中から膝を地面に付け、哀願と言った体で口上を述べるジャレン。

 エサニエも同じ姿勢になっている。

 

「誠人殿、芳俊殿、弘樹殿、どうかジャレンの願いを聞いてやってくれ。もちろん儂も、ジャレンと共に世話になるつもりでおる。儂は鍛冶の腕なら一端だと自負しておるし、こやつらは農業と大工には持って来いだ。必ず役に立てると思っておる。ジャレンの仲間を思う男気を汲んでやってくれ! この通りだ!」

 

 ついには、グレインまでもが跪き口添えしてくる始末だ。

 堪り兼ねて、ナベが止めに入る。

 

「おいおい、三人とも頭を上げてくれ。まずはそこからだ」

 

 三人が頭を上げると、ナベが三人の正面にしゃがんで語り始める。

 

「俺らは、いわゆる渡り人と言うやつだ。そして、主を求めるあいつら、ゴブリン達と出会った。どっちも世界のあぶれ者同士だからな、生き残りをかけて三ツ星戦闘団を結成した。お前達もそうだというなら、俺らに否やはねー。俺達を主として迎え、俺達に着いて来る気なら悪いようにはしねー、どうだ?」

「「はい!御三方様を主とし、村の一同、忠誠を誓います」」

「儂も、生涯協力させてもらおう。渡り人や鬼人相手なら死ぬまで面白い事が出来そうじゃからな。わっはっはっはっは」

 

 グレインの笑い声がいつまでも広場に響き、そしてそれを満足気に聞いている三人とオーク二人が笑顔で佇んでいた。

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