63話 トップ会談
何とか時間が取れましたので、こんな時間ですが投稿!
明日は無理かなあ・・・
その後、一時間もしない内にギュンターは目を覚ました。
すぐにギュンターはナベとタツヒロ、そして女性職員を部屋へ呼ぶ。
四人にお茶が行き渡り、一息つくと同時にギュンターは腕輪を触り、言葉を発する。
「静謐なる風壁」
周囲に風の精霊力が強まる気配がした。
「周囲に音の壁を作りました。ここでの話が外に漏れることはありません。如何なる内容も・・・」
若干ながら緊張を感じさせる口調で、ギュンターは自分の行為を説明すると、そのまま自己紹介を始めた。
「改めまして、私が当ギルドのサブマスをしております、ギュンター・ヴァイス。そして、こちらが当ギルドのギルマス、リリアナ・カーディナルです」
呆気に取られる、ナベとタツヒロにそのままギュンターは話しを続ける。
「びっくりされるのも当然ですが、この事は内密にお願いします。ギルド職員の間でも、一部の人間しか知りませんから」
それを聞いて思わずナベが聞き返す。
「おいおい、それを俺達に言ってどうすんだよ。まあ、言うなと言われりゃ、そりゃ他人に言う事は無いが・・・」
「それは、あなた方には隠し事をしませんよ、という意思表示ですよ」
「なるほど・・・。なら俺達としては、ここはこう聞かないといけない訳だ。何を聞きたい?」
ギュンターを脇にどけて、リリアナが答える。
「ここからは私が話します。まず、こちらが知りたいのは、あなた方が何者なのかという事です」
「と言うと? 何者とはどういう意味合いで言っているのか・・・」
「もちろん、言葉通りの意味です。あなた方は何者なんですか? 三ツ星戦闘団とはどういう存在なのですか?」
「見た通りの人間です、・・・と言ってもそれだけではダメなんだろうなあ・・・」
「確かに、あなた方三人は見た目は人間ですが、その存在感は人間のレベルをはるかに超えています。普通に考えると『何者かが人間を装っている』はずなんですが、それにしては余りにも自然過ぎるのです。まるで、そう・・・別の世界から来たのではないかと考えてしまうぐらいに・・・」
「もし仮に、我々がそうだとした場合はどうなるんだ?」
ナベの言葉尻に、若干の刑事臭さが滲み出て来る。
また知らずに気勢も上がるが、相手の顔色が悪くなるのを見て、慌てて抑える。
それに気付いたギュンターが、青い顔をしつつもナベに目で謝意を伝える。
リリアナもそれに気付いた様だ。
「・・・、ふう。そのぐらいに抑えてもらえると助かるわ。その気勢も人間離れしているのよね。で、別の世界から来た、つまり渡り人であるなら便宜を図り協力するように言われています」
「なるほど。言われていますという事は、それを指示する存在がいるという事だが・・・、間違いないか?」
「まあ、間違ってはいないわ。なにせ先祖からの言い伝えだから」
「言い伝え?」
「そうよ。『渡り人には便宜を図れ』、ぶっちゃけて言うとね、敵対するなって事よ」
「そういう意味での便宜を図れ、か・・・」
「ええ、歴代の渡り人は、それこそ十人十色で違っていたらしいわ。巨大な力を持つ者、何の力も無かった者、様々いたらしいのよ。で、そういった違いを踏まえて残ったのがさっきの言い伝え、『渡り人には便宜を図れ』なのよ」
「なるほどな。そういう事ならこっちも助かるってもんだが・・・」
「・・・、便宜を図るべき相手の様ね、あなた方って」
「まあ、今更だがそういう事だ。だが、こちらからこの件を言いふらす積りはないんでね、その辺はしっかり弁えてもらいたいと思ってる」
「分かったわ、口外はしないと約束しましょう。でもね、もう一つ気になる点があるの。それも併せて解消してくれると助かるんだけど・・・」
「内容次第、だな」
「じゃあ・・・、君達の仲間の鬼人と言ったわね・・・。彼らは何者? 私が生きてきた中で、鬼人という種族は聞いたことがないのよ。何者かが進化でもしたのかと考えているんだけど・・・。もう一度聞くわ。彼らは何者なの?」
「進化したのだとしたら、何から進化したと思う?」
「覚えのある気配なんだけど・・・、ん? よもや、ゴブリンじゃないでしょうね?」
「だとしたら?」
「だとしたら? 彼らはどう見てもホブゴブリンじゃないわ・・・!? まさかロード種が発現したの?」
「そういう意味合いで言えば、今はもう違う」
「・・・どういう事?」
「今は鬼人だ」
「???」
「ゴブリンロードとハイゴブリンから鬼人に変化した。本人達は、超えたと言っていたがな・・・」
「「!!!???」」
「過去に国盗り衆とかいうのがいたらしいが、それ絡みでごちゃごちゃ言われるのが面倒でな、鬼人という種族を名乗らせたら、ホントにそれに変化したようだ」
自嘲気味にナベが顛末を語るが、衝撃に打ちのめされている二人には聞こえているのか怪しい様子だった。
その様子を見ながら、今度はタツヒロが口を開く。
「今度はこっちの質問にも答えて欲しいなあ」
「え?、あ、ああ、そうね。答えられる範囲で、になるけど・・・」
「さっきの話しって、ギルマスとしてのものなの? それとも、君の個人的な、というか君の一族に伝わるような話しなの?」
「どういう意味かしら?」
「君の正体が何かは知らないけど、君も普通の人間じゃないよね? ってか、ぶっちゃけ人間じゃないよね?」
「・・・」
「まあ、正体を探る気はないから安心してよ。要はさ、ギルドがそう動くのか、君の個人的な範囲での話しなのか、それの確認だからさ」
「そういう事なら、ルロの町の冒険者ギルドとして便宜を図る、と約束するわ」
「よかった。そう言ってもらえると助かるよ。なんせ今度はご近所さんだからね」
「ご近所さん?」
リリイが怪訝な顔で聞き返すので、ギュンターがすかさずフォローする。
「あ、その件は先ほど伺ってます。拠点を近くの森に移すそうで、今よりも来易くなると言っておられました」
「なるほど、そういう訳ね。もちろん、こちらに否やは無いわ、今後ともよろしくね」
「そうだ、先ほどは倒れてしまって続きを聞けてませんでしたが、誠人さん。あなたも契約出来たのですか?」
「ああ、俺の方はシフとカオスと言ってたな」
「・・・二人とも規格外過ぎますね。ギルマス、誠人さんは聞いての通り、弘樹さんはアナイティスとニンリルだそうです」
「精霊王クラスか・・・、何とも常識破りというか、何と言うか・・・」
「そうか精霊王クラスなのか・・・。それなりに大きな存在だとは思ったが・・・、そうか・・・」
二人の会話を聞き、合点が行ったかの様に頷くナベ、タツヒロも脇で同じように頷いていた。
それを機にナベとタツヒロは会話を切り上げ、通り一遍の挨拶を残してギルドを辞する。
そんな二人を見送った後、ギュンターとリリイが言葉を交わす。
「リリイ、正体を気取られた様ですね」
「そうね、ああもあっさりと見破られるとは・・・、ここ百年見破る者がいなかったというのになあ・・・」
そうぼやくリリイの表情は、口にしている言葉に反して楽しそうだった。
「兎にも角にも、彼らの正体が判明しました。今後は接触の回数を増やして、さらなる監視を続けましょう」
「そうね、ギュンターもそうだけど、今後は私も直接動く事にしましょう。彼らに敵対するような馬鹿が現れた場合は、全力で双方をフォローしないと、大変な事になりそうだからね」
渡り人の力が、どれほどのものなのか?
それを十分に知っているドラゴンのリリイは、ギュンターに言い聞かせながら、自分でも心に刻み付けているのであった。