62話 新たな力
その後、昼食を取ってから予定地の北側に広がる森に皆で入ってみる。
北に向かって緩やかに登りとなっており、てくてくと歩くと二十分ほどで頂上付近に到着する。
頂上は広くメイサを設置して、広場を作るといい感じの空間になりそうだ。
この南側に居住棟、生活棟、職務棟を作る。
その先には畑や牧場、練兵場などを作り、その外側を木々で囲う。
ナベの絶界で平地と森を入れ替えれば、すぐにでも大まかな町割りは出来そうだ。
そして木々を壁に見立ててその外側に運河を通し、防御用の掘りの替りとする。
その運河の外側はさらに畑として開墾し、食料生産力を高めておく。
一方、北側の領域は森を残し狩猟と採集が出来る場としておく。
運河で区分けするが、運河の南側からメイサの丘までを採集場所として、運河の北側を狩猟場所とすることにしよう。
その場のメンバーで上記の様な町割りを話し合い、出来上がりのすり合わせを行う。
また、その準備作業として、縄張り用のロープと簡易テント用の資材を町に戻って調達し、ゲルンと丘ゴブリン達に前もっての設営をお願いすることにした。
その上で、
・我々は急ぎ戻り、数回に分けて団員の移動を行い、拠点設営を開始する。
・この冬までの目標として、居住区の三棟の建設を最優先とする。
等々の打ち合わせを行い、最後に川の様子を見に行く事にした。
仮称メイサの丘をディレル川に向けて下って行くと、十五分ほどで川岸に出る。
対岸までの距離もそれなりにあり、流量も豊富な様子だった。
将来は船付き場もありか?等と皆で話しながら、川岸を南へ歩く。
勾配は緩やかで、それほどきつさを感じずに平地へ抜けている。
運河の合流地点は、この辺りか?等と目星を付けながら見分を終えルロの町へ戻った。
町では資材の手配をゲルンに頼み、一度宿へ戻る一行。
宿に着いて、丘ゴブリン達に明日以降の仕事の内容を伝え、その後は夕飯まで休憩することにした。
そんな中、ナベとタツヒロはトシの勧めで冒険者ギルドに向かっている。
それは帰りの車中でしたトシとの会話が発端だった。
「町に着いたら、なんだが、ナベとタツヒロは冒険者ギルドに行ってみた方が良い」
「どうした急に、何の話だ?」
「いや、実はな?・・・」
そこでトシは冒険者ギルドでの魔術の修練の際のやり取りを説明する。
「っていうと、あれか? 俺らもそのギュンターって人に精霊術を習って来いと、そういう訳か?」
「ああ、そういう訳だ。せっかく術適性を持ってる身で、それを生かさないのは勿体無い。俺は二人より精霊術適性低いし、逆に高めの魔術適性持ちだからさほど問題無いとしても、ナベなんて初の術なんだから、しっかりと教わってこいよ」
「そう言われるとそうなんだが、どうにも思考が脳筋でなあ。今も言われて思い出したぐらいだ」
ナベの話しを聞いて、タツヒロが我慢できずに茶々を入れる。
「ナベの残念っぷりは分かったから早く向かおうぜ」
「・・・、じゃあ、行って来る」
元気なタツヒロがジト目のナベを連れて宿を後にする。
なんだかんだと言い合って落ち着いた頃、二人は冒険者ギルドの前に来ていた。
考えてみれば、うちの戦闘団って依頼とか請けないよなあ、等と考えながらタツヒロはギルドの扉を開ける。
そのまま受付カウンターへ向かいサブマスのギュンターを呼び出してもらう。
今日はいつもの女性職員はおらず、別の女性職員が対応していた。
「どうぞこちらへ」
そう呼ばれて、二人は二階の執務室へ通される。
「お客様をお連れしました」
そう言って女性職員が扉を開けると、ギュンターが立ち上がり出迎える。
「ようこそ、冒険者ギルドのサブマスをやっております、ギュンターです」
「突然押しかけてしまいましてすみませんでした。三ツ星戦闘団の相田誠人です」
「同じく、竜沢弘樹です」
「まあどうぞ、お掛け下さい」
ギュンターに促され席に着く二人。
早速、ナベが用向きを伝える。
「その節はうちの芳俊がお世話になりまして・・・。まずは一言お礼を」
「いえいえ、あの程度の事、初歩の初歩ですから気になさらず・・・」
「芳俊への魔術の手ほどきの際に仰られていたようですが、ギュンターさんは精霊術にもお詳しいとか」
「そうですね、魔術と精霊術両方の適性を持っておりますので少々は・・・」
「おおそうですか・・・。実はそういうギュンターさんに相談というかお願いがありまして・・・」
「何でしょうか?」
今度はタツヒロが話し始める。
「実は我々にも精霊術適性が若干あるのです。ですが適性があると知ったのが最近でして、教えを受けられる師もおらず、宝の持ち腐れかとも思っていた矢先に芳俊から、こういった方がいると教えられましたので、ぜひ精霊術をご教授頂きたく参りました」
「・・・、なるほど。まあ、どのように知ったのかはさて置き、精霊術は魔術とは少々勝手が違いますからね。その辺の違いからご説明しましょう」
「ありがとうございます」
「恐縮ですが、お願いします」
そう言って始まったギュンターの話しを総合すると以下のようになる。
・精霊術は精霊の力で世界に干渉を起こす術であり、精霊の出現に精霊力を使うが、干渉そのものは純粋に出現した精霊の力である。
・出現する精霊には二種類存在し、契約された精霊(契約精霊)と、一時的に力を借りるだけの精霊(使役精霊)に分かれる。
・精霊との契約がなかなか難しいため、一般的に精霊術と言えば、周りの精霊の力を一時的に借り受ける使役精霊によるものが主流である。
・精霊術も魔術と同じくイメージが具現化していくので、伝えたイメージ通りに精霊が干渉を発現させる
・使用する精霊力については、使役精霊の半分から十分の一ぐらいの精霊力で契約精霊は発現する。
・盟約石と呼ばれる、精霊力を閉じ込める事が出来るアーティファクトを使って盟約の儀を行う事で、属性に合った精霊を呼び出し、双方が合意すれば契約が可能となる。
「ざっとこんな感じでしょうか? 神法術はさすがに教会や寺院へ行かないとダメですが、魔術や精霊術であれば、大きめの冒険者ギルドで初歩の過程を習うことは出来るでしょう。ちなみにこのギルドにも盟約石はありますので、契約の儀は行えますよ?」
「あ、それはありがたいですね。この後、お願いできますか?」
ギュンターの言葉に、すかさずタツヒロが乗る。
隣で頷くナベを見ながら、苦笑いを浮かべつつギュンターは答える。
「ここまでお話ししたんですから、もちろん構いませんよ? じゃあ、お茶を入れ替えて休憩した後にでもやってみましょうかねえ」
そう言って、お茶を手配し、新しいのが行き渡るとギュンターが話しを始める。
「休憩という事で、私からお二人に質問なのですが、よろしいですか?」
「答えられる範囲でよければ・・・」
タツヒロの回答に頷きながら、ギュンターは話しを続ける。
「では、そうですね三ツ星戦闘団とはどういった集まりなのですか? 傭兵団と名乗らないので傭兵とも違うのかなと・・・」
「うーん、どう言うと判りやすいでしょうかねえ・・・。いずれは傭兵もやるかもしれませんが、それが本業とはならないでしょうね。そうですねえ、独立勢力、とでも考えて頂けると判りやすいのかな? あるいは大きなパーティーとか・・・」
「ん? 三ツ星戦闘団とは六人パーティーではないんですか?」
「ん? うちは九十人近い大所帯だよ?」
「あれ!? ということはあの六人は・・・」
「あ~、今の六人は選抜メンバー、ということなのかな? とにかく、うちの戦闘団の一部です」
「・・・、そうだったんですね~」
「ええ、そうだったんです」
そこでナベがふと思い立ち、ギュンターに話し掛ける。
「それと今後はルロの町にもちょくちょく来れると思いますので、依頼なんかも積極的に請けてみようと思います」
「? とおっしゃいますと?」
「今は拠点が森の中なんですが、もう少し南下して森の端っこの方に拠点を移すことにしたんですよ。なので今後はご近所さんになりますね」
「・・・、そうですか。こちらこそよろしくお願いします」
もっといろいろ聞き出すつもりだったギュンターだが、数を聞いた時点でなんだか力が抜けてしまった。
(あれが一部・・・、残りがその十倍以上・・・)
しかも拠点移設の話しも聞いてしまったので、余計に先送りの気持ちが大きくなってしまった。
だが腐ってもサブマス、気を取り直して話題を変える。
「さて、このままおしゃべりも何ですから、盟約の儀をやってみましょう」
そう言って席を立つギュンターに二人は着いていく。
そのまま、ギュンターは一階へ降り、奥の部屋の一室に入っていく。
そこは中央に台座があり、文様の刻まれた石が置かれていた。
「ここが盟約の儀を行う、専用の部屋です。その中央の石が盟約の石なので、それに精霊力を注入してください。その力を使ってこの部屋の中を精霊界と繋げる役割を持っています。精霊界と繋がると、その石が光り始めますので、そのまま精霊界に精霊力を放ちながら、盟約の言霊を発して下さい」
「やり方は凡そ分かりました。その盟約の言霊とは?」
ギュンターの説明にタツヒロが質問する。
「それはこの文言です」
そう言って壁の言葉を読む。
『盟に応じるものよ、出でませ出でませ。契約能うものよ、出でませ出でませ』
「これで出て来た精霊と契約が可能です。出てこない場合は、それが瞬時にわかります。この石の光が収まったら、反応した精霊はいなかったという事です。その時はそのまま出て来て下さい。自分の成長が感じられたら再挑戦が出来ます。どの属性が来るのかは、精霊側にしか判らない基準があるようです。今のところ、それは全く解明されていません。精霊術師の間では相性と解釈していますが、出て来た精霊が契約可能な、言い換えれば相性のいい精霊なのです。使役精霊の場合は相性とかは一切無くて、単純に周りにいれば使えますので、その限りでは無いんですがねえ」
「ほう、そういうものなんですねえ」
「はい、こればかりはどうしようもないようです。で、どちらから始められますか?」
「じゃあ、俺から行ってみます」
「タツヒロ先に行く? じゃあ、俺は後からでいいや」
「では我々は外に出ましょう。希望者だけでないと精霊が混乱しますので・・・」
そう言って、ギュンターとナベは外に向かい、室内にはタツヒロだけが残る。
ドアも締まっているため、部屋の中はかなり薄暗い。
気を取り直してタツヒロは中央の石に手を当てる。
精霊力を意志の中に流し込むイメージで注いでいくと、直ぐに石が光り始める。
自分の正面の空間が揺らぎ、色取り取りに変わる不思議な光景がそこにはあった。
そして先ほどの文言を口に出して唱える。
「盟に応じるものよ、出でませ出でませ。契約能うものよ、出でませ出でませ」
その言葉を言い終えた途端、巨大な精霊力を二つ感知した。
<<我、汝の盟に応ずるものなり>>
<我が名はアナイティス>
<我が名はニンリル>
<<我が名を呼び給え 其が契約の証なり>>
「アナイティス! ニンリル! お前たちと契約したい!」
<<契約は成り、盟は結ばれた>>
その言葉と同時に石から光が消え、タツヒロの周りを小さな精霊力が二つ飛び続けている。
そのうちの一つから言葉が流れて来る。
<弘樹よ、我ら精霊は物質界においては依代を必要としている。なるべく早めに依代で休みたいのだが、何か無いかえ?>
<ん? 依代、ですか・・・、どういうのがいいんです?>
<水の力や風の力を封じたものがよい。そういったアーティファクトを持ってはおらぬか?>
<アーティファクトですか・・・、急いで探してみますが、あとどのぐらい持ちます?>
<早々消えるものでは無いが、中々にしんどいのも事実。弘樹の力が強いので焦ってはおらぬが、概ね一月の内には欲しいのう>
<判りました。善処します>
精霊達との会話を終えて、扉を開けるタツヒロ。
外ではギュンターが今か今かと待ち構えていた。
「で、どうでした? 契約は出来ましたか?」
「ああ、二人と契約できた」
「!!!??? 契約を二人と、ですか? といいますか二人とは?」
「名前は、アナイティスとニンリル、だったかな? その二人だよ」
それを聞いた途端、ギュンターは何も言わず、どさっと床に崩れ落ちた。
トシが焦ってカウンターに事態を告げると、知ってる女性職員--リリイ--が寄ってきてギュンターを抱える。
「ギュンターさんがこうなると、しばらく目が覚めないんですよ。このまま休ませますのでお気遣いなく・・・」
そう言いながら、うんしょうんしょと二階へと担いで行った。
意外に力持ちな職員を見送りながら、ナベを探すとドアを開けたところだった。
「まあ、ああ言ってるなら心配は要らねーだろ。じゃあ、今度は俺が行ってくるよ」
そう言って部屋の中に消えるナベ。
それを、黙って見送るタツヒロであった。
部屋に入ったナベはさっきの話しを思い出し、石に手を当てて精霊力を伝える。
すると石は直ぐに光り始め、目の前の空間が揺らぎ、色取り取りに変わる不思議な光景がそこにはあった。
そして先ほど教わった文言を頭で念じる。
<盟に応じるものよ、出でませ出でませ。契約能うものよ、出でませ出でませ>
その言葉を念じ終えた途端、巨大な精霊力を二つ感知した。
<<我、汝の盟に応ずるものなり>>
<我が名はシフ>
<我が名はカオス>
<<我が名を呼び給え 其が契約の証なり>>
「シフ、カオス、我が元に出でよ」
<<契約は成り、盟は結ばれた>>
その言葉と同時に石から光が消え、ナベの周りを小さな精霊力が二つ飛び続けている。
そのうちの一つから言葉が流れて来る。
<誠人よ、我ら精霊は物質界においては依代を必要としている。なるべく早めに依代で休みたいのだが、何か有るかい?>
<ん? 依代・・・、特に持ち合わせは無いが・・・。どういうのが依代になるんだ?>
<大地の力を封じたもの、だな。そういうアーティファクトとか、いいねえ>
<アーティファクト、か・・・。なるべく急ぐが、持ってどのぐらいだ?>
<早々消えるもんじゃ無いよ、それなりにしんどいけど、誠人の力が強いからねえ、それほど焦っちゃいないよ。まあ、一月の内には欲しい、かな?>
<一月だな、分かった>
するともう一つの精霊力からも言葉が流れて来る。
<誠人よ、我はそなたの剣でよい>
<あんたはカオス、だったな>
<我は原初の精霊にて、普通であれば我の依代はこの世には存在しないのだが、誠人の持つ絶剣であれば話しは別だ。後で守護精とも話しを付けておく。我はあれに決めたぞ、誠人>
<分かった。だがタエの許可をちゃんと取れよ?>
<許可を取れ、か。面白い、了解した>
ナベの方も精霊達との話が終わり、取りあえず部屋を出る。
外にはタツヒロと先ほどの女性職員がナベを待っていた。
「どうでしたか?」
「俺もトシと同じで二人と契約した」
「・・・、ギュンターさんがぜひ結果を聞きたいと思いますので、目が覚めるまでもうしばらくギルドに居てくれませんか?」
その強い呼びかけに、(どうせ休憩時間に来ていただけなので)断る理由も無く、頷くしかない二人であった