61話 拠点
宿に帰り、グレインに顛末を聞かせながら遅い夕食を取る戦闘団の一行。
明日発つことを事を告げると、グレインから話しが出る。
「ゲルンのやつには話しをして、言質は取ってある。じゃが、明日発つのには間に合わんじゃろうなあ・・・」
それを聞き、トシから提案が出る。
「そういう状況であれば、明日は下見だけにしようかと思うがどうかな?」
トシの言葉にナベが確認を取る。
「下見と言うと、打ち合わせで言ってた、いわゆる引っ越し先の事か?」
「ああ、その件だ」
ナベにトシが返事をし、皆の方を見て話しを続ける。
「ルロの町に来た目的の一つに、我々の拠点となりうる土地を探す、というのがあったのを覚えてるだろう? ここへの往路と周りの地形図を見て、この辺か?という当りを付けてる場所がある。そこの下見を、先にゲルンを連れて済ませて来るつもりだ。もちろん、皆も連れていく。それぞれの視点で、評価をくれ」
「なるほど、時間をかけて見て廻って、良さ気ならもう決める腹積りか・・・。そういう事なら明日は皆で遠出だな」
タツヒロの言葉に皆も賛成し、翌日の予定が決まった。
トシはナミルにそれを告げ、昼食に持ち出せるものを頼んで了承を得る。
グレインは明日の予定を告げにゲルンの元へ行き、そのまま明日の朝二人で来るというので頼むことにした。
「くれぐれも飲みすぎないように」
笑いながらタツヒロが告げると、
「まあ、ほどほどにしておこう」
とにやけた顔で返すグレイン。
飲む気は満々の様だ。
そのままお開きとなり、明日に備えて皆も部屋へ戻る。
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翌朝、食事中にグレインがゲルンを連れてやって来た。
「皆に紹介しよう。こやつがゲルン、腕のいい大工じゃ。ジャレンの親父さんの弟子でな、まあ何でもこなす。皆もよろしく頼む」
「儂がゲルンじゃ。グレインから話しを聞き、三ツ星戦闘団に世話になる事にした。大抵の物は作れる故、何でも頼むとよい」
自己紹介が終わると、それぞれの元へ向かい、握手をしながらお互いの挨拶をしている。
ヤシャマルの所では炎雷剣の話しになり、グレインと共にひとしきり盛り上がり、紅蓮と雷公鞭を手に取って冥途の土産が出来たと興奮していた。
その後は打ち合わせを行い、オークと丘ゴブリンはこのまま宿で待機、戦闘団の六人とグレイン、ゲルンそしてオークの一人が出かける事に決まった。
連れていくことにしたオークは、村で畑の開墾や水利等の農業関係を仕事にしており、その辺の意見も欲しくて着いてきてもらう事にしたのだ。
そして丘ゴブリン達だが、昨夜の段階で戦闘団への合流が決まった。
主従の誓い、までは至ってないが戦闘団に雇ってもらうという形で話しが着いたのである。
なので、丘ゴブリン達も戦闘団の一員として、そのまま宿に残る事にしたのだ。
「どうぞお気をつけて」
昼飯を手渡しながら、ナミルが挨拶してくる。
「ああ、残った皆を頼むよ」
ナベが昼飯を受け取りながら挨拶を返す。
そしてそのまま宿を出て、北門に向かっていった。
北門を出てしばらく歩き、この辺でいいだろうという辺りでマローダーを出す。
その威容にゲルンとオークはしばし固まる。
「こいつがグレインの言っておった、馬無し馬車か・・・。しかし、何ともごっついのお」
「グレイン様、これは魔物・・・、ではないんですよね?」
「二人とも安心せい、ただの乗り物じゃ。馬無し馬車じゃ。ほれほれ、早う乗らんか」
そう言って、グレインが二人を後ろから急き立てる。
今回は助手席はトシが座っていた。
皆が乗り終えたのを確認し、
「じゃあ、出発だ」
のナベの声で下見のドライブが始まった。
そのままトシの指示する方向に向かい、一時間もかからない内にトシの目当ての場所へと到着する。
「この辺だ。皆で降りて、周囲を見てくれ」
そう呼びかけた場所は、ディレル川にほど近く、北から南に向かって緩やかに勾配のある森林が途切れる、平地との境目だった。
「大まかな計画だが、この付近を開拓して拠点としようと考えている。狩猟のための森に近く、灌漑のための川も近くに有って、農地に出来る平地もある。森から木を植え替えて平地を囲めば、西側にある街道からの目隠しにもなろうと考えているのだが、皆の評価や疑問点なども聞きたい。思いついたことがあったら遠慮なく言ってみてくれ。どんな小さな事でも構わない。何でも言ってみて欲しい」
「トシ、灌漑はどういう風にやるつもりだ?」
ナベが最初に質問してくる。
「詳細はしっかりとした調査が必要だが、もう少し北側でディレル川から運河を掘りそのまま西に延ばす。その後、この地の西側で南に曲げて、ある程度南下したら東に向かい、そのままこの地の南側を東に戻してまた川とつなげる計画だ」
「なるほど、運河で囲い込んでしまう訳か・・・、考えたな」
うなりながら納得するトシに続き質問の声が上がる
「トシ、森林と平地と両方を敷地と見做すの? それとも平地だけ、とか森林だけ、とかは決めてたりするの?」
次の質問はタツヒロだった。
「今のところは両方敷地として考えてる。しばらくは狩猟がメインになるだろうし、農業生産が上がっても、狩猟自体は積極的に行いたい、なので両方が敷地だ」
そこへオークが手を上げる。
「芳俊様・・・、でしたか。ここの農地はどのぐらい必要ですか? 言い方を変えると何人ぐらい暮らす事になりますか?」
「そうだな、ざっくりと百五十人ってところか? 増えたらその都度考えるが、取っ掛かりはその位だな」
次はゲルンが、足元を踏みながらトシに顔を向ける。
「芳俊よ、建物は平地に建てる、でいいんじゃろ? どのぐらい必要なのじゃ?」
「ゲルン、その事なんだが大きい建物が欲しい。三階建てくらいで二棟から三棟と考えている。内訳は皆の居住用の建物、仕事用の建物、生活用の建物の三棟だ。そしてなるべくコンパクトにまとめて配置したい」
「三階建てとな? 人足が充分におって材料があれば出来ぬでも無いが・・・。木材の問題がある故、直ぐには出来ぬな」
「建築用の乾燥した木材の調達が、やはりネックか・・・」
「うむ、こればっかりはのう・・・。無理に乾かせば、結局反りや割れが出て来るのでお勧めは出来んわい」
「材料と人足が確保できればどうだ?」
「そうさなあ、その二つがあれば・・・、一月半だな」
「一月半か・・・、何とか冬には間に合いそうだな・・・」
トシは少し考え込み、改めて皆に声を掛ける。
「どうだろう、この地に新たな拠点を作って行こうと考えているが、決定でいいだろうか?」
トシの問いかけに改めて皆が応える。
「粗方、状況は判った。これだけの土地条件ならいーんじゃねーのか?」
続いてタツヒロは、
「水が近いのはとても良い点だ。問題無いと思う」
鬼人達も口々に賛意を示す。
それを聞いてトシは締めとばかりに声を張り上げる。
「よし!、ではここを三ツ星戦闘団の本部とする! 戻ったらすぐに本部の設営に取り掛かるぞ!」
「「「おう!」」」
そのままトシは近くにいたゲルンに指示を出す。
「ゲルン、最初の仕事だ。ここの建設予定地付近に寝泊まりが可能な設備が欲しい。簡易なテントの様なもので充分だ。完成までの間、雨風をしのげる場所を作ってくれ」
「分かった、任せてくれい」
「資材は町に戻ったら調達しよう。ここへの資材の運搬はこちらでやるから設置作業をよろしく頼むよ」
こうして、記念すべき戦闘団の拠点が本決まりになった。