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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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60話 最後っ屁

 トシを見ながら、ナベは難しい顔をしてトシに尋ねる。

 

「そうは言っても、向こうから『はい、私がやってました』とか認めるようなタマじゃねーんだろ?」

「だろうな。こうやって返り討ちにされたとはいえ、先制攻撃は向こうからだ。決断の遅い無能、では無さそうだ」

 

 トシの返答にタツヒロが反応する。

 

「なら、どう動く? 俺等に面と向かってちょっかい出してきた訳だしさ。とりあえずの火の粉は振り払ったけど、ほとぼりが冷めればまた来るだろうし、既に動いてる可能性だってあるよね?」

「そうなんだよ。だから、出来る事ならこの機会に潰しておきたいところだが・・・。まずはこの状況を利用するか。タツヒロ、ちょっと衛兵を呼んできてくれ。こいつらをもぐりの奴隷商人として収監してもらう。その上で、ギャビンの名を出してみよう。そこまで行ったら後は臨機応変に、だな」

 

 タツヒロとヤシャマルを送りに外に出ると、既にとっぷりと日は暮れ、夜の静けさが町を包み始めていた。

 その後、衛兵の詰め所からどやどやと人が乗り込んできて、伸びてる連中を慌ただしく詰め所に連行していく。

 トシは当直の責任者の尋問を受け、併せて建物内で見つけた資料を渡し、この奴隷商の上にギャビンが居る事を告げる。

 最初は半信半疑だった当直の衛兵も、出て来た資料や筆跡から上役であるところのギャビンに嫌疑を向けざるを得なくなり、非番の衛兵全員に非常招集を掛けに詰め所へと戻って行った。

 ナベ達六人も、衛兵に協力(・・)を願い出てギャビンの元へ向かう支度をしていた。

 その後、ナベ達の感覚でいう三十分ぐらいで全員が揃った。

 そのままギャビンの邸宅へ向かうが、着くなり様子がおかしい事に気付く。

 衛兵たちは開け放たれた門を通り過ぎ、静かに邸宅へ踏み込み中を窺うが、そこには既に惨状が広がっていた。

 ギャビンの部下と思しき連中や、どう見ても裏街道(その道)の者と思しき連中の死体が、転々と横たわっている。

 そのまま邸宅内へ進むと、一階の方から人の気配がした。

 その部屋の扉を開けると、そこは広いホールの様になっており、中にはこの邸宅の使用人らしき連中が老若男女問わず、ロープでグルグル巻きにされて転がされていた。

 動きが見られるため、一応生存しているものと思われる。

 全員をロープから解放し、事情を聴くがどうにも要領を得ない。

 ただ、共通するのは起きたら(・・・・)ここに居た、という証言だった。

 ほとんどが、何かをしていた所までは覚えているが、気付いたらグルグル巻きでここにいたらしい。

 トシは魔術であろうと見当をつける。

 衛兵の隊長も同様の見解の様だ。

 皆に主たるギャビンの事を聞いたが、今日は二階の自室から出て来ていないらしい。

 執事に教えてもらった間取りを頼りに、二階へ向かう。

 取りあえず、一階の死体は後回しだ。

 惨状は、二階にも広がっていた。

 一階のもそうだったが、何かで殴られてつぶれている死体がほとんどだった。

 トシはその打撃面から大きめのウォーハンマーと推測している。

 その死体を追って奥へ向かうと、ギャビンの自室と思しき部屋に着く。

 部屋の扉は開け放たれており、その中に惨状は続いていた。

 そして部屋の中で、部屋の主の変わり果てた姿を発見した。

 執務机の椅子に座り、机に突っ伏したままで息絶えているギャビンがそこに居たのだ。

 後頭部からの一撃であろう致命傷で、完全に頭部がつぶれている。

 その周りには資料の類が散乱しており、賊が何かを探していたことを物語っていた。

 だが奇妙なことに、ギャビンの手に握られている袋の中身--金貨だった--には手が付いておらず、金目当てではない様だった。

 トシはナベとタツヒロと相談し、後を衛兵に託してここを辞することにした。

 思ってもみなかった幕引きであった。

 

 ---


 宿に戻る道すがら、ナベが立ち止まり突如叫ぶ。

 

「敵襲! 前に三人、後ろに四人、上に一人だ」

 

 その言葉で六人は直ぐに態勢を整える。

 前にはナベとタカマル、後ろにはタツヒロとヤシャマル、中央にオリヒメとトシ。

 そこに上から声が掛かる。

 

「君達が三ツ星戦闘団、とやらか?」

「だとしたら?」

 

 ふざけている様な、バカにする様な口調で聞き返すトシだが、相手もそう簡単には挑発に乗らないらしい。

 

「そうだな、聞いたこっちが野暮だったよ。実はねえ、君等には我々がここを離れるにあたってぜひとも意趣返し(・・・・)をしておきたくてねえ・・・。正直、ここまで計画が狂ったのは初めてだったからねえ、腸が煮えくり返る思いってやつを味わったよ・・・。あれは二度とご免だねえ。それでね?、今後の事も考えて、我等の邪魔にならない様に君等を殲滅しようという事になってねえ。まあ、そういう事だから。短い間だったけど、さようなら~」

 

 しゃべり終わると同時に、一気に前後から仕掛けてくる。

 中々に速いし、作戦も息もこの状況にぴったりだ。

 かなり優秀な指揮官らしい。

 殺すのは(・・・・)惜しいな・・・。

 そう思いながら、ナベは指示を出らす。  

 

「トシは上、それ以外は前後の連中だ。全員始末していいぞ! 殺さずに(・・・・)な」

 

 その声と同時に、上の方から詠唱が聞こえて来る。

     

「逆巻く火炎、紅蓮の炎、我が手に顕れ、かの地を滅せ・・・な!?」

 

 その詠唱が完成することは無かった。

 

「魔力が・・・、消えた!?」

「さすがにさあ、指を咥えて魔術の発現を見ている訳がねーよなあ、普通」

 

 トシが不敵に笑って、上の男に対峙する。

 その間に前後の敵の正体が判明する。

 犬型獣人と似て非なる存在が前に二人、後ろに四人。

 その中でも後ろの一人は一際大きな体躯だった。

 ウォーハンマーを両手に持ち、こちらに向かって来る。

 そして前の一人も大きな体躯の持ち主だった。

 この辺では珍しい、オーガである。

 

「ナベ!、タツヒロ!、こいつらはノールだ! それと前の一人はオーガだ! くれぐれも油断するなよ?」

「ああ、一応、気合は入れとく・・・」

 

 トシの呼びかけにそう答えると、ナベは正面のオーガに狙いを定め、無造作に間合いを詰める。

 その脇をタカマルの矢が通り過ぎ、二人のノールが相次いで戦線を離脱する。

 致命傷には至っていないが、両腕を中心に瞬く間に矢を五~六本浴びたら、普通に考えて戦闘継続は無理であろう。

 結局、オーガとナベの一騎打ちになりそうだ。

 同じころ、後衛ではすでに決着がついている。

 タツヒロとヤシャマルはお互いに得物を分け合い、すでに二人ずつ倒していた。

 大きなノールの方はウォーハンマーの一撃をするりと躱され、ヤシャマルに一撃で吹き飛ばされて気を失っている。

 もう一人の方は、その大きなノールが吹き飛ばされた方向におり、完全にとばっちりだが一緒に吹き飛んで仲良く気絶中だ。

 そして、タツヒロの弓は、二人のノールの肩口を破壊し、その威力を皆に知らしめていた。

 その頃には、オーガとナベの一騎打ちも勝負が付いていた。

 ナベは練習とばかりに、剣を構えるオーガに組打ちで向かっていく。

 一瞬、呆気にとられたような表情をするが、直ぐに改め剣を構えるオーガ。

 その構えを見た途端、トシは瞬行を使いオーガの脇に出る、と見せかけてオーガがこちらを向いた瞬間には後ろに現れていた。

 オーガが自分を見失ったことを確認して、直ぐに首筋に腕を回し絞めに入る。

 ものの数秒で締め落としたナベは、オーガを脇に投げ捨て周りを見渡す。

 その数十秒レベルのやり取りを見ていた上の男は、あきらめるように声を上げる。

 

「くっ!・・・、撤収!」

 

 潔いとも言えるほどの指揮に興味が湧き、トシが思わず声を掛ける。

 

「これで終わりか?」

「悔しいが、今日はここまでだ。只の意地(・・・・)で仲間を失う訳にはいかない」

「ずいぶんと優秀な(・・・)指揮官だな」

「・・・今は皮肉にしか聞こえんな」

 

 その言葉を最後に、物陰から飛び出してきた者達が前後のノールやオーガを回収し、そのまま町の中に消えていく。

 ナベが警戒監視で様子を窺い、完全に撤退して行った事を告げると、誰ともなくふうっと息を吐く。

 

「タツヒロ、あれ(・・)見たよな」

 

 トシがタツヒロに確認すると、

 

「見た。今更遅いんだろうけど、ギャビン達を襲ったのは、間違いなくあいつ等(・・・・)だな」

 

 ナベも思い出したように呟く。

 

「獣人達が見た、ノールを従えた人間ってのも・・・」

 

 トシが言葉を継いだ。

 

「ああ、間違いなくあいつ等だろうなあ・・・」

 

 結局、何者なのか、どういう組織なのか、が全く分からないまま、あいつ等は姿を消した。

 ナベの一言が、その場の皆の一致した気持だった。

 

「ありゃあ、いずれまた絡んで来そうだな・・・」

 

 そのまま足早に宿へ戻り、明日の帰り支度を始めるナベ達だった。

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