6話 もたらされた技 2
その後、三人がそれぞれの確認を終え、内容を我先に報告しはじめる。
「アビリティ?とやらまで詳しくは調べなかったが、ざっくりと見てみた。俺に来たのは四つ。絶界、監視者、剣士、調理師見習ってやつで、剣士と調理師見習はクラススキルとかいうやつらしいな」
ナベが話し終えるとタツヒロが続く。
「俺に顕現してたのは、名医、薬匠、医術者、狩人見習の四つ。これって、ある意味妥当って感じなのかな・・・。医術者と狩人見習がクラスだった。っつか、日本での経験そのまんまだね、これって・・・」
余りにも、地球世界での経験通りだったので、苦笑いしながらタツヒロが報告を終える。
トシも続けて、
「まあ、その辺は技守りが言ってた通りだし、そういう意味じゃ、俺もタツヒロと似たり寄ったりだな。俺の方は、博識、賢者、登山家、兵法家見習の四つだ。登山家と兵法家見習がクラスらしいんだが・・・、登山家って・・・」
若干、ショックを受けたかの様な口振りで、タツヒロの苦笑いに苦笑いで答えるトシ。
「そういう意味なら、俺のスキルの監視者とかって、やっぱ刑事やってた流れなんかなあ・・・。アビリティは・・・気配感知、とか他の感知系もあるなあ。あとは、遠見?、遠くが見える系か? お?、隠形ってのもあるなあ・・・、何すんだこれ?」
それを聞いて、ふいに笑い始めるトシとタツヒロ。
「確かに刑事っぽいな。ナベ、それだけのスキルが有れば、地球に帰っても凄腕の刑事でやってけるんじゃね?」
トシが笑いを噛み殺しながら揶揄すると、タツヒロも負けじとナベを煽る。
「刑事、ってかスパイ大作戦!、とか潜入捜査とかもやれそうじゃね? あとは気配感知でさ、俺の後ろに立つな!的な」
それを聞いたナベが、お返しとばかりにタツヒロに突っかかる。
「勘弁してくれよ、っつうか、タツヒロだって医術者ってやつ、そのまんま医者だろ? 地球に戻ったら、ドクターなんちゃらとかいけんじゃね?」
ナベの切り返しに、矛先を変えようとするタツヒロ。
「ま、まあ、お互い判りやすくていいじゃん。それより、トシの登山家とか兵法家だっけ? さすがに医者ならそっちよりはマシな感じがするんだが・・・」
言ってる内からイメージが湧いて来たのか、薄笑いでトシに振ると、頭を掻きながら答えるトシ。
「ああ・・・、言いたいことは判る・・・。何より、俺もそう思う・・・、登山家ってなあ・・・」
ひとしきり、やいのやいの言いつつお互いのスキルとアビリティに突っ込みを入れていると、突如としてタツヒロが動きを止める。
<告知 旦那様、スキル:薬匠の派生アビリティとして、分析鑑定(毒物)を獲得しました。これでスキル:薬匠は、スキル:薬聖への変成が可能となりました。上位変成の実行を承認されますか?>
ギルマが執事らしい口調でタツヒロに問い合わせてくる。
「ん?、ちょっと待って・・・」
タツヒロの頭に響いたのは、訳の判らぬ解説と承認を求めるギルマの問い合わせだった。
「何か、ギル・・じゃない、さっきの声に変な事聞かれてるんだけど、どうしたらいいと思う?」
「変な事?、何の話しだ?」
トシが逆質問でタツヒロに答えると、タツヒロは頭に響いた言葉を思い出しながらトシに伝える。
それを受けてトシが、レイチェルに問い合わせる。
<レイチェル、タツヒロに起こっているこれは、さっき言っていた、お前達の持ってるアビリティの変成、とかいうやつなのか?>
<回答 はい、マスター。何らかの理由で変成条件が達成されたため、スキルの変成が可能になり、その実行承認を求める為の問い合わせ、と思われます>
<変成を承認するとどうなる?>
<回答 今回の、個体名:竜沢弘樹の場合、実行予定の変成が上位変成である為、下位スキルの内容を包含する形で変成が実行されるはずです。今回もそうですが上位変成の場合であれば、実施しても特に問題はないかと・・・>
レイチェルとのやり取りで、ほぼ状況を掴んだトシがタツヒロに説明する。
「要は、新しいアビリティが増えたので上位変成の条件が達成されました、と。で、変成を実行していいか?っていう問い合わせ、ってだけだな。上位になっても下位のスキルの内容は包含されるらしい・・・。やってみてもいいと思う。どうなるか、知りたくもあるし」
最後に、“興味が湧いた”といった笑みを浮かべながらの回答に、ちょっと引っかかりつつもタツヒロはトシの言葉に従ってみることにした。
こういう場面で、間違ったことをあまり言わないのが、昔から知ってるトシという男だった。
(ここぞ、という時の勘はすごかったしなあ、トシは・・・。まあ、普段はボケボケなんだけど・・・)
ふと、昔の出来事などを思い出しながら、タツヒロはギルマに指示を出す。
<ギルマ、さっきの変成を承認する>
<告知 畏まりました、旦那様。これより、スキル:薬匠の変成を開始します>
<告知 ・・・>
<告知 旦那様、変成が完了致しました。スキル:薬匠はスキル:薬聖へと変成致しました。併せて、派生アビリティ・薬効倍加、派生アビリティ・分析鑑定(鉱物)を獲得しました。これでスキル:薬聖は、スキル:薬神への変成が可能となりました。旦那様、上位変成の実行を承認されますか?>
「うげ、また上位変成の実行承認が来た・・・」
そんな声を上げたタツヒロに、今度はナベが答える。
「行け、行け~。全部承認じゃあ」
昔読んだ、ゲームのリプレイに出てきた主人公の如く、何も考えて無い様な顔でナベが煽ると、トシも同意してくる。
「だな。上位変成なら、行くところまで行っといた方が良いだろうし」
「じゃあ、承認するからな。何が起きてるのか、全く把握できないってのは、あまり気持ちのいい事じゃないんだけどなあ・・・」
最後の方は、独り言のように声を細めながら呟き、タツヒロは承認する。
<ギルマ、変成を承認する>
<告知 畏まりました、旦那様。これより、スキル:薬聖の変成を開始します>
<告知 ・・・>
<告知 旦那様、変成が完了致しました。スキル:薬聖はスキル:薬神へと変成致しました。併せて、派生アビリティ・薬剤創成、派生アビリティ・薬効抽出を獲得しました。なお、既存の薬効倍加は薬効抽出に統合されました。また、スキル:薬神の獲得に伴い、スキル:魔術が顕現しております。派生アビリティとして、創成魔術、魔力感知、魔力遮断、魔力共有を獲得しました。おめでとうございます、旦那様>
「え?」
「「え?」」
「・・・、え?」
タツヒロから、大事な事なので二回言いました、的な反応を返され戸惑う二人。
ナベが恐々と問いかける。
「あれ?、タツヒロ・・・、どした? 何か、あったか?」
流石に、煽った身として少々心配になったのか、普段より弱気な問いかけになっていた。
「ん!? タツヒロ、何て返事が返ってきたのか、正確に教えてくれ。なるべく言葉通りに」
急に、冷徹、という言葉がぴったりな口調で、トシの口から静かに言葉が紡がれていく。
これはトシの癖なのだが、頭が回り始めると、感情が全て削ぎ落とされたような口調に変わっていくのだ。
誤解されるから、なるべく出さないようにしろと、周りから言われていた癖だった。
(タツヒロのスキルの変成で、本人の想定外の結果が起こった・・・か、下位スキルを包含・・・、上位変成・・・、上位変成!?)
「タツヒロ、何か新しいスキルかアビリティを獲得してないか?」
自分の推測の精度が、アビリティのおかげでとんでもないものになっていることに気付かずに、トシはタツヒロに問いただす。
そんな二人をまじまじと見つめながら、タツヒロは自身の身に起きたことを告げる。
「訳が分からないんだが・・・、魔術を使えるらしい。顕現した・・・」
「「は?」」
「「・・・は?」」
今度は二人に取って、大事な事だったらしい。