59話 しっぽ
体調不良のため、昨日(22日)はお休みをいただいてしまいました。
現在は復調っぽい感じなので、投稿を再開します。
活動報告等でもご案内が出来ず、大変失礼いたしました。
ナベとタカマルが武具屋を出て宿屋へ向かおうとした時、トシから連絡が入る。
<ナベ、タツヒロ、何か面白いことになって来た。さっき、チンピラくさいのが絡んできて、何ちゃらいうやつが用があるから、ちょっと付き合えと言われてな?、オリヒメと一緒に向かってる。まあ、何か知らんが監禁とかされたらまた連絡する。ナベは、とりあえずこっちをモニターしててくれ。タツヒロはナベと合流して、踏み込む用意しててくれ>
<分かった、一度タツヒロ達と合流する。その後は近くで待機してるか・・・>
<ナベ、こっちはもう宿だから、こっちで待ち合わせにしよう>
<分かった、宿へ向かうわ>
<じゃあ二人とも、待機よろしく~>
<何か楽しそうだな、トシ>
<いや~、だってさタツヒロ、何気にうちの名前出してこられたよ? 三ツ星戦闘団ってのはてめえらか?ってな。名指しで売られた喧嘩は、ほら、買わないとさ>
トシはそのまま機嫌良く、連絡を終えた。
ナベはタカマルを振り返り、今の連絡の内容を告げる。
「そういう事だから、一度宿に戻るか。タツヒロ達と合流しよう」
「了解しました」
二人は宿への道を急ぐ。
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宿に着くと、グレインとタツヒロ、ヤシャマルが宿の入り口の所で待っていた。
「まあ、みんな聞いてたと思うが、そういう事だ。せっかく、名指しで喧嘩売ってきたんだから、買ってやんねーと申し訳ねーってもんだ」
三人を見つけて開口一番、ナベが迎撃宣言を口にするとタツヒロが続く。
「チンピラ、とか言ってたし、まあ自業自得でしょ」
タツヒロの言葉にうなずくタカマルとヤシャマル。
「まあ自業自得以外の何物でもありませんね」
「しかし、知らずとはいえ某達に喧嘩を売るとは、少しだけ同情しますな」
ナベが思い出したように、グレインに告げる。
「そうだ、グレインはまだうちのメンバーじゃないからな。宿で万が一に備えて欲しい。オークや丘ゴブリンどもを守ってやってくれ」
「むう・・・、所属の話をされると反論が難しいのう。分かった、今回は宿で留守番をしておることにしよう」
「よし、時間のある内に武具屋へ行こう。こうなるとヤシャマルも得物を新調した方が良いな。お前だけ持ってないのも具合が悪い」
ナベの一声で再び武具屋へ向かうと、店主に今度は長剣類を見せてほしいとお願いする。
「長剣か・・・、もしやと思うがさっきの弓と同じ墓所から出て来た妙な剣がある。それも魔剣であると伝えられ、その使い手は未だに現れぬが、お主等ならあるいは・・・」
そう言って店主が出してきたのは、赤黒く光る刀身を持つ細身のバスタードソードと黒い棒に把手の付いた物だった。
「こっちの剣は、いわゆるバスタードソードじゃな。この束から、50フィルほど刀身の中心が刳り抜かれて二股になっておるが変わったところはそのくらいか? こっちの黒い棒は網目状に筋が盛られておるが、補強のためかのう・・・。性能などはイマイチ判らぬが、一緒に紐で縛られておった。組で使う、と見てはおるが、はてさて・・・」
店主の言葉が終わらぬうちに、ヤシャマルは剣を手に取る。
その瞬間、剣から様々な映像や音が流れ込み最後にその銘を伝えられる。
「クリムゾン・ブレイズ、またの名を紅蓮・・・」
そう口に出した瞬間、剣に命が吹き込まれたように赤黒い光を発し、刀身から緋色の炎が滲み出る。
そのまま、黒い棒も手に持ち先ほど知ったその銘を口にする。
「そしてこれが、東方より伝わる神器と呼ばれしソードブレイカー、雷公鞭」
その瞬間、雷公鞭の表面にチリチリと放電が起きるがすぐに収まる。
そのまま、紅蓮の脇に雷公鞭を添わせて気を入れる。
「そして、これが我らにのみ使える秘剣、炎雷剣!」
その名を口にした瞬間、紅蓮の刳り抜かれた刀身の中に、雷公鞭がキレイに収まり炎の色が一段濃くなる。
「炎雷剣!? まさか、これが!? いや、そんなはずは・・・」
その銘を聞いた途端、店主が驚き、呻き声を上げる。
「店主、炎雷剣とは何だ? 見た目には中々の剣に見えるが・・・」
店主の驚きぶりに、怪訝な顔で問いただすナベ。
その気の抜けた問いかけに、店主の方がびっくりする。
「あんた、炎雷剣を知らんのか?」
「ん? あれはもしや有名な剣なのか?」
「もはやおとぎ話と言っても過言ではないほど、その実在性が疑われてきたが、あれはいにしえの国盗り衆の筆頭、ボリスの愛用した剣だ。雷帝と呼ばれたボリスの炎雷剣がこういう剣だったとは・・・事実こそ奇なりとはまさにこのこと・・・。あのソードブレイカーの様なものがなあ・・・」
店主が一人、納得し悦に入っていると、
「雷公鞭!」
ヤシャマルがまた雷公鞭の名を呼んだ、すると炎雷剣に光があふれ、それが収まった時には、紅蓮と雷公鞭の二振りの武器に戻っていた。
「誠人様、弘樹様、これで某にもしっくりくる武器が手に入りました」
そう言って、満足気に右手に紅蓮、左手に雷公鞭を構えるヤシャマル。
その姿を、これまた満足気に眺めるナベが、店主を振り向いて声を掛ける。
「店主、先ほどの弓と合わせて全部で金貨十枚で手を打とう。どうだ?」
店主は思案する。
先ほどの弓もそうだが、この武器とて結局のところ、呪われた武器として転々としていたものを好奇心で引き取ってだけであり、そもそも仕入れに原価は無い。
いつか解呪できれば中身も調べようと思っていたくらいである。
それに、ここは恩を売ってこの連中とつなぎを作っておく方が得策だと考えていた。
「お客人、先ほどの弓と今回の炎雷剣、二つの武器が渡るべき処に渡ったのも何かの導きだろう。そもそも今回の武器は、仕入れに金が掛かっておらんからな、最初からこちらに痛む財布は無い。それでお代を頂戴したとあっちゃあ夢見が悪い。どうだろう、今回はお代は要らねーから、次回以降も当店を贔屓にしてくんな、悪くねー話しだろ?」
「そうか・・・。そういう事なら今回はお言葉に甘えさせてもらうが、次回は少し多めの発注をお願いしよう、防具も武器もそれなりにな」
「おう、心待ちにいてるぜ、お客人」
「ああ、今日は世話になったな」
ナベ達一行は武具屋を後にし、一路トシの反応の近くに急ぐ。
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警戒監視を続けながらトシに近付くナベ達。
どうも敵意の反応が一つの建物に集まっていそうだ。
別な場所でも反応しているのだが、数ではこの建物内が圧倒的だ。
近くの飲み屋で聞き込みしてみると、どうやらルロでも程度の低い地回り一家の建物らしかった。
表向きは口入屋との事だが、ルロの人々には地回りとして名が通っている。
すると、トシから連絡が入る。
<ナベ、何かヒマになって来た。これ以上の収穫は無さそうだから、このまま踏み込んでいいよ。俺らは地下牢に入ってるから上片付いたら下によろしく~>
<了解! じゃあ始めるぞ>
「トシから連絡が来た。そろそろ始めよう」
そう言ってトシが建物の正門をガチャガチャと揺らす。
施錠を確認した後、徐に剣を抜き門を一刀で切り裂く。
そのまま歩いて中に入る四人。
「一応注意事項だ、面倒になるから殺すな。みんな出来るだろ?」
ナベの呼びかけにそれぞれ答える三人。
やり取りが終わり、左に折れて中庭に入っていくと、音を聞きつけた思しき下っ端がやって来る。
「今の音はなん・・・何だてめーら、どっから入ってきやがった!」
「おい、何者だてめーらは」
「なんだ、四人で襲撃か?」
口々に誰何の声を上げるが、言い終えて掛かって来るとそのまま左右に吹き飛ばされて気を失う。
ナベに蹴られ、後ろのやつもろとも壁に飛ばされて目を回す。
ヤシャマルの裏拳でそのまま中庭の壁に激突。
タカマルの回し蹴りで建物の壁に飛んでいく。
下っ端が出て来たのが入り口の様だったので、静かになった中庭を後にし建物内へ入っていく。
そのまま全員の無力化を狙って、人の居る方へ居る方へと向かう四人組。
二階建てだった建物の一階部分は苦も無く制圧した。
ほんの二十人ほどしかおらず、屋内だったため武装も最低限で特に障害になってくれなかった。
建物の中央に階段がありそのまま二階へと足を進める。
最初は地下への階段を見つけ先に救出しようと思っていたが、制圧してからでいいかと開き直り、二階へと向かうナベ達。
二階に上がって、それに気付いた二階の連中が、次々に誰何の声を上げ襲い掛かって来るが、誰何以上の会話がまだ出来ていなかった。
二階も、一階と同じく、人の居る方へ居る方へと進み門番が立ってる部屋まで来た。
「おい、その部屋にここの一家の親玉はいるか?」
「ほう素手で来るとはいい度胸だ、こいつで切り刻んで・・へぼ!」
「御託はいいんだよ・・・、じゃあお前だ、この部屋に親玉はいるか?」
「たとえ居たとしても、てめーらにいう訳ねーだろうが!」
「まあ、そりゃそうなんだが・・・」
尋問しながら、一撃で門番を倒すナベ。
そのままドアの方を向き、型の練習の様に躊躇なくドアを蹴り破る。
中に入ると、若干上等な衣服の中年とそれを囲む手下達、それとそれよりは使えそうな男が二人、こちらに身構えていた。
「三ツ星戦闘団の者だが、うちに喧嘩売ってきたのはてめーらか? うちの団員二人、返してもらいに来たよ」
ナベの口上に衣服の上等な中年が応える。
「素手の四人とはな・・・、俺達もとことん舐められたもんだぜ。ジョンソン一家を甘く見てるとこうなるってとこを思い知らしてやれ! 先生方!、構わねーからやっちまってくれ!」
「良いのだな?」
「・・・心得た」
「「やっちまえー!」」
ナベも仲間に最低限だが指示を出す。
「ヤシャマル、タカマル、あの二人とやってこい、俺は周りを掃除する。タツヒロはおの親分らしきやつを確保だ。」
先生と呼ばれた二人と対峙するヤシャマルとタカマル。
ヤシャマルの前にはノッポの剣士らしきやつが、タカマルの前には年かさの盗賊らしきやつが立っていた。
「それでは行くぞ!」
ノッポの剣士の声を聞き、対峙した四人が一斉に動く。
が、すれ違いざまにタカマルとヤシャマルから、鳩尾にいいやつをもらい、仲良く後ろへ吹っ飛んで行き、そのまま動かなくなる剣士と盗賊。
その脇ではナベが、瞬行を駆使して襲い掛かり、立っていた者が次々と消えるように壁に吹っ飛んで行く。
愚かにも、その様子を呆気に取られて見ていた親分らしきものは、タツヒロの弓で服を壁に縫い付けられ、首筋に放った最後の矢で気絶したところだった。
そのまま部屋に興味を失い、地下への階段を探し始めるナベ達がそれを見つけたのは一階の奥の部屋だった。
特に隠す様子も無く階段部屋と言った体で、堂々と視界の隅に階段が見えている。
それを降りると、独特のにおいが充満している。
すると、地下牢の奥の方から声が聴こえてくる。
「おおナベ、やっと来たか。もう退屈しててさ、変な匂いしかしないし、早く帰ろうか」
「余裕があんのは悪い事じゃねーが、呑気な時はとことん呑気だよな・・・。それと、待たせたなオリヒメ、大丈夫か?」
そう言いながら、地下牢の扉を絶剣で一刀両断にしていく。
「ナベ、付き合いついでにもうちょっと待っててくれ。色々と調べたいんだよこの建物の中」
そう言いながら、トシは地下牢から出ると、ナベを連れて部屋と言う部屋を開け放ち、書類や巻物の類を次から次へと目を通して、選り分けている。
その間、タツヒロ達は下っ端共を縛り上げ、一応、建物内に転がしておく。
二階の部屋に行くと、親分の机と思しき大きめの机を見て目を輝かせ、片っ端から探しまくる。
隣の部屋は書庫の様なものだったらしく、そこもしつこいくらい検分し、選り分けていく。
「ナベ、いいぞ。粗方終わった、欲しいものは手に入ったよ」
「トシ、何探してたんだ?」
「ナベ、地下牢見ただろ? こいつらももぐりの奴隷商人さ」
「ほほう・・・」
「それを束ねる元締めも判った」
「誰なんだ?」
「ギャビン、この町の重鎮の一人だよ」
そう告げるトシの顔は、すっかり感情が削ぎ落とされていた。
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