表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
57/84

57話 グレインの当て

 グレインの紹介で、アルゴーの森に住む獣人、灰狼の族長ズークと知己を得た戦闘団一行は、ルロへの途中で出会っていたその他の獣人三名とも、改めてお互いに自己紹介をし、色々な行き違いや勘違いが解消されていた。

 最初に出会った三人は、ズークの娘アルメイダと、その守役のノード、そしてノードの娘でアルメイダの近習を務めるオルレアであった。

 ノードなどは恐縮することしきりで、

 

「いや~、すまなんだ。あの時は完全に、新手の追手か何かかと身構えておってな・・・」

「まあ、不幸な行き違いじゃったと言うだけで、遺恨が残った訳でもない。今日の所は『勘違いだったな、ワハハハハ』で双方とも問題無かろう?」

 

 ノードの言葉を途中で遮り、グレインが両者に問うてくる。

 戦闘団の一行は特に含むところがある訳もでなく、察するに余りある状況でもあったため、代表でやり取りをしているトシは同意する他ない。

 

「確かにな、グレインの言う通りだ。我々としてもこうして知己を得られた訳だし、何の問題も無いな」

「そう言って頂けるとありがたい。だが、あれだけの傷の治療をしてもらったにもかかわらず、これを無視ではそれこそ恩知らずと成り果てる。いささか些少ではあるが、これをお納め下され」

 

 ノードがトシに向かって礼をしながら、何やら細長い箱を出してくる。

 受け取った瞬間にズシリと重さを感じるその箱を開けてみると、中には金貨が入っていた。

 

「これは・・・。これは余りに過分な礼では?」

 

 さすがに怪訝に思ってトシが正すと、ノードは苦笑いしながら答える。

 

「いやいや、これは族長を救うために持参した金貨の一部。皆様方がおらねば、そもそもこれは敵の手に渡っておったもの。姫も我が娘もケガで既にこの世になく、某と族長だけが奴隷になっておったはずでな?、それが全て解決されて今ここに至っているのは真に重畳。この金貨はせめてもの感謝の証、族長からくれぐれも渡すようにと仰せつかっておるでな。ささ、受け取られよ」

「ううむ、・・・そういう事情ならこちらとしても渡りに船。有り難く使わせていただきましょう」

 

 その後も雑談はしばらく続き、その勢いで“皆で夕飯を!”となり酒場へ繰り出していた。

 その場の勢いもあったが、オークやゴブリン達も併せた人間と亜人たちの大宴会へと発展し、酒盛りは白銀の麓亭に場所を変えて、夜更けまで続いていた。

 

 ---

 

 次の朝、乾いた喉を潤そうと、トシが宿の一階に降りてくる。

 昨夜はどうやって帰ったか全く覚えていないが、今朝になって目が覚めた(・・・・・)のは(ちゃんと)自分の部屋だった。

 

「・・・おはようございます」

 

 まだ眠気眼でナミルに挨拶する。

 挨拶されたナミルも、昨夜はしこたま飲んでいた。

 どうせなら皆でパーッとやろうという事で、ナミルも奢りの対象となり、久しぶりに浴びるほど飲んだ。

 鬼人達は『ドワーフの本気を見た』と言って笑っているし、ナミル自身こういう飲み会は機会が少ない。

 存分に、はっちゃけた。

 その代償と戦っている真っ最中の顔で、トシに挨拶を返す。

 

「・・・ああ、お客様、おはようございます。あ、水などいかがですか? 私も丁度飲みに来たところで・・・」

「同じく、です・・・、水下さい」

 

 二人で並んでぐびぐびと水を飲む。

 そこへ、晴れ晴れとした顔をしたナベが現れ、挨拶もそこそこに二人と一緒に水を飲む。

 そして徐にトシに向き直ると、

 

「トシ、ちょっといいか?」

「・・・なんだ、ナベ、どした?」

「昨夜の宴会中だが、この町で昨日の宴会メンバーの他に、俺達を知ってるやつ(・・・・・・)が居そうだぞ?」

「ん?、なんだそりゃ」

「突然、強烈な敵意(・・・・・)を感じた」

「・・・、何人いた?」

「二つ、二人だな。それとかなり低めのが一つ。全部で三人は確実だ」

「そうか・・・。ナベ、もしかすると俺達にはもう一波乱(・・・・・)あるかのもしれんな」

「やはりそう思うか?」

「まあな・・・。昨日の雑談の最中に出て来た話しを思い出せ」

「ノード達を捕らえた、ノールを従えた(・・・・・・・)人間、か」

「俺達は、そいつらに全く気付かな(・・・・)かった・・・」

「確かに。少なくとも、俺の探知範囲(・・・・)にはいなかった訳だ」

「向こうは俺達を知っているが、俺達は向こうを知らない。そして、俺達を巻き込まない様に間合いを測る周到さもある。面倒な事にならないように祈るしかないな・・・」


 

 その後、皆が起き出して、ナミルも食事の準備が出来たらしく、朝食となった。

 どうやら客は我々だけだったようで、気持ちよく貸し切りとなっている。

 その席で出たのが、丘ゴブリン達の処遇だった。

 そもそもの住処はここからかなり遠いらしく、本人達も帰りたいのはやまやまだが、路銀の問題や途中の旅程の問題も含めて、帰れる気がしないと嘆いており、皆も困り果てている。

 そこにナベがしゃしゃり(・・・・・)出てきて丘ゴブリン達と話しを始める。

 

「ちょっといいか? お前らの得意な事ってなんだ? 村に居た頃は何の仕事してた?」

「俺らの村ってのが、山の近ぐにあってな? そごに住んでだドワーフの村の下働きをして食い扶持稼いでだんだな、これが」

「んだな。いろいろやってだったな。岩砕ぎ、フイゴ拭ぎ、鍛冶仕事もやってだったけな」

「そういう事なら好都合だ。しっかり働くのなら俺らで面倒見てやるぞ? 鍛冶が出来るやつを探してたんだよ。どうだ来るか?」

 

(タツヒロ。また始まったぞ、ナベの悪い癖)

(トシ、いつも言ってるけど、こうなったら止まんないから)

(まあ、解ってて言ってんだけどな・・・)

 

「ちょっと考えさせでけろや。結論出だら伝えっから」

「ああ、後で返事聞かせてくれ」

 

 そう言って丘ゴブリン達九名は一つの机に集まり、話しを始めた。

 それを横目に、戦闘団は今日の予定の打ち合わせに入っている。

 延ばし延ばしにしていた買い付けと、グレインの言う当て(・・)の処へ話しに行かないといけない。

 買い付けはオリヒメとナベ、トシ、タカマルが出かける事にし、グレインの当ての所へは、グレインとタツヒロ、ヤシャマルが出かけ、オーク達はその間は宿で待機とした。

 

 ---

 

 グレインは久しぶりに会う、同郷のドワーフを思い出していた。

 

(ゲルンか・・・、数年ぶりじゃが元気にしておるのかのう)

 

 数年前に会った時に住んでいた工房は確かこっちの方だったな、と記憶を頼りに通りを歩く。

 だんだんと金鎚の音が聞こえて来始め、目的地に着く。

 

(おお、まだこの町に居てくれたか)

 

「ヒロキ、ヤシャマル、二人はここで待っていてくれ。儂が話しを付けてくる」

「そっか、分かった」

「分かりました」

 

 そう二人に伝えると、グレインは工房のドアを開けて中に入っていく。

 工房に入ると、奥の方でドワーフが一人、組み上げた箱の前で何かを吟味していた。

 

「ゲルン!、儂じゃ!、グレインじゃ!」

 

 呼ぶ声を聞き、ゲルンと呼ばれたドワーフはこちらを身て破顔する。

 

「おおおお、グレインか! 久しいのう、達者でおったか?」

「何の! ゲルンこそ釘と間違えて手を打ってはおるまいな?」

「抜かせ! お主こそ、鎚が上がらず、鉄ではなく足を打っておるのではないか?」

「わははは」

「がははは」

 

 ひとしきり旧交を温め、ゲルンが工房内の作業台にエールを用意する。

 

「さすがはゲルンじゃ、こうでなくてはドワーフではないな」

「当たり前じゃ! 他の者が来たならまだしも、あの“酒樽”が来たのならこれしか出すものはあるまい」

 

 グレインもゲルンも当然の様にエールを飲み干し、次のを小樽から注いでいく。

 二杯目に口を付けながら、グレインが本題に入る。

 

「実はのう、今日はお主に頼みがあって来たんじゃよ」

「ほほう、頼みとは珍しいのう。何じゃ、儂に出来る事か?」

「ああ、お主と見込んでの頼みじゃ」

「ならば、話しを聞こうか」

「ジャレンは知っておるな?」

「ああ、師匠の息子じゃろ? 確か今は族長か何かになってなかったか?」

「ああ、最近までは・・・な」

「ん?、何かあったのか?」

「・・・この間、レッサー・オーガの襲撃があった・・・。村は壊滅、北西にあったゴブリン達の村へ、命からがら辿り着けた者は、僅かに十六名。つい昨日も、村の連中を奴隷にしていたやつを捕縛して、僅かに十五人ながら取り返すことが出来た。今確認できてる生き残りはそれだけじゃ・・・」

「何と・・・、師匠の村は百五十からオークがいたはずじゃが・・・」

「襲われたときは二百を超えておった・・・。さすがに生き残りが三十人で、村の建物もほぼ全てで建て直しが必要ともなれば、村の復興はほぼ絶望的じゃな・・・」

「う~む、師匠の村がのう・・・」

「そこで、儂は考えたのじゃ。そのゴブリンの村に合流しようかとのう」

「オークがゴブリンの村にか? 正気か? オークが納得する訳無かろうに・・・」

「ところがそうでもない・・・。そもそもゴブリンの村ではなくなっておった(・・・・・・・・)んじゃよ」

「・・・要領が掴めんのう。どういう事じゃ?」

「ゴブリン達は三人の人間の主を戴き、村ごと(・・・)戦闘団になっておったのじゃ」

「・・・俄かには信じられん話じゃが・・・」

「まあ、そう思うのも無理はない。この目で見た儂とて信じられんかったからのう・・・。話の肝はここからじゃ。帰ってからジャレンを説得しようと思っておるが、儂ら村人全員もその戦闘団に加わろうかと思っておる」

「・・・正気か? ゴブリンの戦闘団なぞ、森の中では“獅子に踏まれるアリ”以下ではないか。そのような処に入ったとて、どうにかなるとは思えん」

「その主たる人間の中に、レッサー・オーガをものともしない剛の者がおったとしてもか?」

「は!? それは余りにも荒唐無稽すぎる! あの(・・)レッサー・オーガじゃぞ? 我らは何と教わった?」

「儂もこの目で見るまでは、そう思っておった。この目で見るまではな・・・。実はその人間の一人とゴブリン(・・・・)の一人を連れてきておる。その目で見た上で、本物か紛い物か判断してくれい! そしてお主の目に適うならば、一緒に戦闘団に入ってくれぬか? お主の腕が必要なのじゃ! その親父さん仕込みたる大工の腕がな! どうじゃゲルン、お主の師匠の村の者達を助けると思って着いてきてくれぬか?」

「・・・師匠の村がその状況じゃ、そういう身の振り方も必要じゃろう。儂に出来る事なら、手助けするのは全く吝かではない・・・。じゃがその戦闘団とやらはのう・・・」

 

 ゲルンが言葉を切ったので、そのまま周囲に沈黙が流れる。

 瞑っていた目を開き、ゲルンがグレインに告げる。

 

「分かった、その者達と会ってみよう。お主の頼みじゃ。会わずに帰すわけにもいくまい。じゃがな、着いて行くかは別問題。その辺はしっかりと値踏みさせてもらおうぞ?」

「おお、会ってくれるか。値踏みとやらは存分にやってくれ。実は外に待たせておるでな、今すぐここに連れて来る」

 

 そう言ってグレインは工房を出て、表へと向かう。

 グレインの帰りを待っていた二人と何やら話した後、三人は工房に入って来た。

 

「ゲルン、こちらが三ツ星戦闘団の主が一人、ヒロキ。で、こちらが元ゴブリンで今は鬼人(・・)、鬼庭一族のヤシャマルだ」

「初めまして、竜沢弘樹です」

「お初にお目にかかります。鬼人、鬼庭一族が一人、鬼庭夜叉丸でございます」

 

 それぞれから手を出され、しっかりと握り返すゲルンだが、その顔には驚愕と疑問の表情が交互に浮かんでいた。

 そして、意を決したように口を開く。

 

「儂が大工のゲルンじゃ。儂の師匠がジャレンの親父さんでな、その縁で今回の話しになったとグレインから聞いておるが・・・、お主等は一体何者(・・)じゃ?」

「俺は分かりやすく言うと、渡り人(・・・)です」

「某は御三方様に忠誠を誓い、進化にて鬼人となりましたゴブリンです」

「・・・信じられん。鬼人と称しておるが、お主は間違いなくゴブリンロードであろう? いにしえの昔に国盗り衆と呼ばれた・・・」

「昔はそう呼ばれていたと聞いておりますが、今は鬼人として(・・・・・)生まれ変わっております。ゴブリンロードとやらよりも恐らく格が上(・・・)かと・・・」

「ふうむ、さらに上、とな? そして、それを従える渡り人・・・。何とも面白い事になって来たのう」

「分かるかゲルンよ、儂がお主を誘った訳(・・・・・・・)が!」

「応よ、実際目にするまでは疑っておったが、それは勘弁せい。よかろう、グレイン! 儂を連れて行け! ルロで燻っておるより、よっぽど面白そうじゃ!」

 

 ゲルンがグレインの背中を叩き、豪快に笑う。

 

「・・・何だかよく分からないけど、スカウトには成功した、のかな?」

「は、そのように見受けられますな」

 

 若干、以上に蚊帳の外の二人が着いていけぬまま、ゲルンの戦闘団入団が決まっていた。

20170518:ナベとトシの会話シーンに若干の加筆を行いました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ