56話 決着
結局、順番を決めて見張りを立て、休むことにした。
火を見ながら交代で見張りを続けて、最後のトシの番になる頃にはすっかり夜が明け始めていた。
もう少し日が昇ったら皆を起こすか、と思いつつ火をかき混ぜる。
にしても、とトシは考え始める。
町に来て一つ分かったことがある。
俺達は、どうやら特異な存在の様だ。
自分のマナの流れについて判ってから、トシやタツヒロ、他の鬼人達の体も見ていたが、
町に来て他の人々との違いにハッキリと気付いた。
体の作りが決定的に違っていたのだ。
俺達三人は、体内のマナの増幅機関(おそらくチャクラと呼ばれるものだろう)が八つある。
体外からマナを取り込み、チャクラを経て増幅され体外に放出される。
鬼人達の場合、ゴブリン時代はともかく、今は人により二つ、または三つのチャクラが稼働しているようだ。
ロードに達した者は、全員が三つ。
それ以外では、オリヒメ、イオリ、アワユキ、ホタル、オニマル、ムサシ、コジロウ、インエイ、インシュン、ヨイチ、オニワカ、タメトモ、ヨシモリ、タダノブ、マユミ、クモマル、サユミらが三つのチャクラに達していた。
それ以外は二つのチャクラだった。
その事から、人によりチャクラの稼働数は異なる、との結論に達していたが、町に出てそれが覆されてしまった。
いや、実は町に来る前から気になってた事でもあったのだ。
オークは全員一つだった。
ドワーフも一つだった。
そして、町に着いて見ていくと、エルフも人間も・・・皆、チャクラらしきものは一つしか動いていない。
逆の言い方をすれば、我々三ツ星戦闘団の団員以外で二つ以上のチャクラ持ちを、ついに見つけられなかったのだ。
マナも、この世界の人々は体内に貯め込んでいるようだが俺達は違う。
俺達は、マナを循環させている。
いわば、纏っているような状態だ。
見た目は一緒の人間に見えるが、体内の作りはかなり違っているのだ。
トシの計算だと、三人の扱えるマナの量は普通の人間とは桁が違うし、供給も無限に近い。
はてさて、どうしたものか・・・。
少なくとも、この事実は必要が生じた段階で仲間にだけ教える、というのがいいかもしれない。
皆を起こす時間が迫っているのを思い出し、トシは思索の時間を終了したのだった。
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皆を起こして回り、出発の準備をする。
このまま門の前まで行って、開門を待つことにした。
箱の中からは、未だ目覚めた形跡が感じられず、眠り薬や眠りの魔術の影響がまだあるのであろうと判断出来る。
結局、町の中に入ってから様子を見て目覚めさせていくのがよかろうとの事で、町の中の広いところに運んでから荷解きをすることにしたのだ。
腹が減って来ましたな、とヤシャマルがぼやくと、儂もじゃ、とグレインが応じる。
周りからもぶつぶつと愚痴らしきものが聞こえて来た辺りで、やっと開門の時間になった。
門衛にさらっと挨拶をし、馬車を中に運び入れる。
トシは冒険者ギルドの裏庭を思い出し、そこで荷解きが出来ないかどうか相談する為、冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの建物に着くと、すでに幾人かの冒険者らしき人影がいくつも入り口のドアの所にいる。
ギルドは既に開いていた。
トシはそのままカウンターに向かう。
「あ、リリイさん、おはようございます」
「おはようございます、今日は早いですね」
「ちょっと込み入った事情が有りまして・・・、ギュンターさんはおられますか?」
「サブマスですか? すみません今日は午後から来る予定ですねえ」
「おっと・・・、そうですか・・・」
「どうかなされましたか?」
「いえ、ちょっと裏の敷地をお借りしたいなあと思って、ご相談に伺ったんですよ」
「裏の敷地、ですか? 何にお使いですか?」
「・・・、他言無用でお願いしたいんですがいいですか?」
「他言無用・・・、分かりました。でも内容を確認した上で、貸す貸さないは別途判断しますよ?」
「そうですよね、そうなりますね。分かりました、それで結構です」
「ではこちらへどうぞ」
そう言って、リリイは受付の奥の方に向かっていく。
トシもその後を追いかけ、その他のメンバーは、一度馬車に戻って待機する事にした。
小さな部屋にテーブルと椅子が四脚、それだけの殺風景な部屋に通される。
リリイがお茶を持って入って来ると、トシに椅子を勧め、自分もその対面に座る。
「ここなら、込み入った話も出来るかと思いますので、詳しくお聞かせください」
「実は、昨夜この町を出たもぐりの奴隷商と思しき者を捕らえ、眠らされている違法奴隷を保護しています」
「え!?」
「また、違法奴隷達は一人一人が箱詰めにされており、その中から助け出す必要があります。その作業場所として裏の敷地、裏庭?をお借りたしいんですよ」
「・・・、そういう事情であれば、詰め所の衛兵も呼んで、ギルド職員と共に立ち合いの元で作業して下さい。この条件であれば、すぐにお貸しします」
「立ち合いは構いません。ではその条件でお願いします」
そのまま二人は部屋を出て、一人は詰め所へ、一人は表へと向かう。
「ナベ、裏に回してくれ。許可が下りた」
「さすがトシ。場所はどこなんだ?」
「こっちだ」
トシの先導で、馬車がギルドの裏手へと向かう。
とりあえず、馬車自体を三台とも敷地内へ入れて、目覚めの兆候を待つことにする。
もちろんだが、敷地へ来た途端に目覚め始める、という事も無く、六人は交代で飯を食いに行くことにする。
そのまま時間が経ち、朝飯から昼飯へと時間が移り変わり、衛兵やギルド職員も四回目の交代が終わって、太陽が中点を過ぎた頃、一つの箱から物音がし始める。
六人は急いで音の出ている箱を開け、中の者を助け出す。
最初に気付いたのは、オークの村の者だった。
「ん?、ここは?・・・」
「おお、気付いたか。よう頑張ったのう、もう大丈夫じゃ、安心せい」
「おお、グレイン様。ではグレイン様の手筈通りに事が運んだという訳ですな? いやー、良かった良かった。これで一安心できます」
その後もオークや、茶色いゴブリン達(どうやら丘ゴブリンと呼ぶらしい)は次々と目覚め、箱から出されて枷を外されていく。
結局、獣人の四人だけが最後に残った。
獣人達が気が付き始めたのは、そこから更に待たされた夕方になってからだった。
しかもその間に、大事件が起きていた。
解放が一段落して、忘れていた奴隷商を衛兵たちに預けると、『あいつシャキールだ・・・』『あれが奴隷商?』などと小声でささやかれながら詰め所に連行されていった。
やつの扱いは完全にこちらの手を離れた。
面倒そうなのは、他人に任せるに限る、六人は誰もがそう思っていた。
そして、先ほど衛兵に伝令が来る。
その連絡を聞いた衛兵は、ギルドの職員とトシを呼ぶ。
「伝令、復唱せよ」
「は。先ほど、収監中の無許可奴隷売買の容疑者シャキールが死亡しているのが見つかりました」
「は!?」
「な!?」
何とも言葉の繋ぎようが無かった。
伝令の報告の続きを聞くと、何やら毒殺が疑われているらしく、その後も調べを続けているとの事だが、これではっきりした事がいくつかある
容疑者死亡ということは、それ以上の追及は物理的に無理で、この件は基本的に迷宮入りが濃厚だ。
そして、この事件の背後には、『衛兵の詰め所に収監中の容疑者を殺す』程の何かが潜んでいる事が推測出来る。
後は、まだ目が覚めていない獣人達の方で、何か新しいことを聞けるかどうかになってしまうが、果たして・・・
最初に目が覚めた獣人は、グレインの旧知であるズークだった。
「うお!? お主が一番とはの。おい、“悪たれ”ズークよ、分かるか?、儂じゃ、グレインじゃ」
「・・・ああ? “酒樽”がどうしたって? ん?、あの酒樽が歳食ったようなのがおるなあ・・・。もう少し飲ませムニャムニャ・・・」
「お主は何も変わらんのう、はようシャキッとせい、ズークよ」
「ん?、・・・ぬお!? グレインがおる・・・、しかもホントに年取ってるし・・・、ちゅうかここはどこじゃ?」
二人のやり取りを見て、トシが丸投げを画策する。
「グレイン、その人が今の状況を掴めた様なら教えてくれ」
そう伝えている内から、次々と他の獣人達も目覚め始める。
やっと全ての違法奴隷が目覚め、タツヒロの見立てでも、全員身体的な病気やケガなどは負っていないようだった。
とりあえず、全員奴隷から正式に解放出来たようで、その意味では重畳だった。