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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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54話 撒き餌

 ナベとグレイン、タカマルの三人が証言にあった通りの建物を見つけ、隠れながら近付いていく。

 ここはルロの町の最南端、畑や牧場などが並ぶエリアだ。

 それほど広い訳では無いが、乳しぼりや卵などのために、こうして町を囲む城壁の中に家畜を入れておく所は多い。

 入れておかないと、野犬やモンスターにすぐにやられるからだ。

 その牧場の塀に隠れながら、三人は小屋の様な建物へ近づく。

 ナベは、既に中の者達の気配を特定出来ていたが、グレインが渡りを付けることもあって、あえて近づいている。

 今のところ周囲に人の気配は無いが、油断は禁物だ。

 

 ゴンゴン

 

 ハチェットの柄で壁を叩き、小声で中に呼びかける。

 

「儂じゃ、グレインじゃ。ジャレンの村の者たちはおるか?」

 

 中でざわっと動きを感じる。

 

「グレイン様とは、何という天の配剤か! あの子と会いましたか?」

「ああ、儂の所で保護しておる。大丈夫じゃ、安心せい」

「良かった、それにしてもグレイン様と出会えるとは、我らの運も捨てたものでは無いな」

「それでな、今はお前らを助ける算段をしておるところじゃ。ここになるか、町の外に出てからになるか、まだどう転ぶか判らんでな、そなたらも、もうしばらくは我慢しおれ。じゃが近日中には何とかなるじゃろう、決して早まるなよ?」

「はい、その時を楽しみにしております」

 

 ほんのわずかな時間でやり取りを終え、建物を離れる三人。

 依然として、近くに人の気配は無く、何とか秘密裏に事を進められたはずとナベは安堵する。

 

 ---

 

 トシとヤシャマルは再度、冒険者ギルドに来ていた。

 

「すみません、朝から何度も恐縮です、サブマスのギュンターさんはおいででしょうか?」

「ああ、今朝いらっしゃった方ですね? おりますよ、少々お待ちください」

 

 今朝も世話になった、登録の受付の女性職員--リリイと呼ばれていた--がこちらに気付いてくれて、そのまま二階へと向かう。

 少しすると、リリイが降りてきてトシたちに告げた。

 

「どうぞ~、同じ部屋でお待ちです」

「ご丁寧に済みませんねえ」

「いえいえ~」

 

 型通りの挨拶を交わし、そのままトシたちは二階へと向かった。

 今朝と同じドアを叩くと、どうぞ~という声が聴こえる。

 

「すみません、何度も押しかけてしまいまして」

「ああ、構いませんよ。冒険者のサポートが我らギルドの本文ですからね。で、今回はどういったご用件ですか?」

「実は~」

 

 と切り出し、トシはごくごく一般的な対応としての奴隷の扱いを聞く。

 ギュンターの話しによると、奴隷の扱いには厳しくルールが定められており、通常は奴隷商の鑑札を持ってなければ商売が出来ないのが習わしである様だ。

 それぞれの町で通用する鑑札の種類が決められているのが普通で、その鑑札を持っている者のみが奴隷商として開業できる。

 また、扱う奴隷も契約奴隷と戦時奴隷の二種類以外は違法奴隷、闇奴隷であり、見つかった場合は奴隷は即時解放、また扱うものは捕縛されるらしい。

 仮に、と大きな声でわざとらしく付け加え、そういった違法奴隷やもぐりの奴隷商等を発見した場合、どういう対応をすべきかも聞いてみた。

 ギュンターは数瞬の思考の後に、捕縛や逮捕が可能なら実施し、速やかに衛兵(ルロの町では商工会が町の衛兵を組織している)に引き渡すのが望ましい、と答えた。

 他の町の冒険者ギルドからの依頼であれば、捕縛後に捕縛した町の冒険者ギルドへ報告してもらい、ギルドから町の衛兵に『ギルドが捕縛したもの』として通報するそうだ。

 亜人種に関しても同様か確認すると、少々雲行きが怪しくなる。

 端的に言って、亜人種の扱いはその町次第という事らしい。

 人間と同様の所もあれば、亜人種の違法奴隷は黙認されるところもあると言う。

 ちなみにルロの町では、亜人種も人間と同じ様に扱うらしい。

 

「奪還しに来られて、町を潰されたら適わないからね」

 

 肩を竦めてギュンターは本音を語る。

 トシが必要な情報は粗方集め終えた。

 ギュンターに礼を言い、冒険者ギルドに別れを告げると、今度はその足で衛兵の詰め所に向かう。

 場所は町の中心広場から東へ入ってすぐ、ギュンターに聞いてきた通りだった。

 中に入り、雑談中の衛兵と思しき兵士達にギュンターに聞いたのと同じこと(・・・・)を確認するトシ。

 わざと(・・・)やり取りを外へ聞こえるように、大きな声でしゃべっている。

 一通り聞き終えると、今度は衛兵に教えてもらい、商工会へと向かう。

 詰め所からさらに東へ行ったところに商工会の建物があった。

 ルロの町では商工会が町の統治を担っているらしい。

 だが、会頭が町の長という訳でもなく、町の事は商工会の町務会議が決定しているとの事で、衛兵たちもその会議が出動権を持っている様だ。

 トシは商工会に入るや、カウンターで会議の法務委員と言う役職者に面会を求め、そのカウンターで少し声高に、先ほどと同じ奴隷の話しを聞く。

 すると、一人の男が近づいてくる。

 

「何やら私の商売について話しをしていたようだが・・・」

「おお、フェビアン殿、こちらの冒険者殿がルロの町での奴隷の扱いを確認したいと申しておりましてな、今は概要を伝えておったところですよ」

「なるほど、今期の法務委員はレグス殿でしたなあ。そういう事なら私の出る幕ではありませんな」

「そうじゃ、冒険者殿、ついでと申しては何だが紹介しておこう。この街で、唯一の鑑札持ちの奴隷商であるフェビアン殿じゃ。フェビアン殿はああ言うが、三ヵ国の鑑札持ちなどそうそういない。奴隷の事なら儂よりよっぽど詳しい御仁じゃよ」

 

 トシはそう言われて、改めてフェビアンを見る。

 奴隷商という、暗さが付きまとうイメージとは程遠いフェビアンの朗らかな笑顔に、若干面食らいながら何とか表には出さずに持ちこたえる。

 そのまま四人で立ち話をしていると、浅黒い精悍な男が通りかかる。

 

「おお、ギャビン殿、お戻りですかな? 冒険者殿、この方が兵務委員のギャビン殿、違法奴隷や闇奴隷、もぐりの奴隷商を捕縛した場合は衛兵に届けて頂くが、その衛兵をまとめるのが兵務委員の役目でな、今期はギャビン殿にお任せしてある」

「レグス殿、その者達は?」

「ああ、冒険者の方々でな、この町の奴隷の扱いを確認したいとこちらに寄られたので儂が応対しておったわい」

「ああ、冒険者殿であったか。どうかな? この町は気に入ってもらえたかな? 奴隷の事なら詳しくはフェビアン殿が全て(・・)把握しておられる。何なりと聞くがよいぞ?」

「余り買い被らんで下され、ギャビン殿。所詮は浅学菲才の身、何なりとなどと余計な事を申されますな」

「またまたそのような戯言を・・・。いずれにせよ冒険者殿、この町はこの辺で随一の歓楽街もある。“換金馬車”の方々相手だけではいささか寂しい有様でしてな、ぜひお楽しみ頂きたいものです」

 

 そう言ってギャビンが事務室に入っていく。

 トシとヤシャマルもその後少ししてから、レグスとフェビアンに礼を述べつつ商工会を出る。

 そのまま二人は歓楽街へと向かった。

 その後を追うように一つの人影が商工会を出る。

 近くの屋台で買い物をして商工会の建物へ戻るが、それを見届けた屋台の男は直ぐに店仕舞を始め、そそくさと通りから消えていった。

 

 ---

 

 トシとヤシャマルは、冒険者達が屯している酒場に来ていた。

 酒を注文し、しばらく飲み食いした後、トシが店の親父にふと話しかける。

 

「そういやよお、この町に闇奴隷が運び込まれてるって話し聞いたかい?」

「どうしたってんだ、藪から棒に」

「いや、ここに来る途中にそんなことを聞いてよ、もしかしたらバカの捕り物(・・・・・・)が見れるかと思ってな?」

「闇奴隷なあ・・・、余り割に合う商売とも聞かねーがなあ・・・」

「そんなもんか?」

「他所ならよお、ゴブリンだとかオークだとかが闇奴隷に、なーんちゅう話しを聞くがなあ・・・。なんせここはアルゴーの森のド真ん前だろ? そんなことしようもんなら町が何回襲われるか分かったもんじゃねえ。そうなると換金馬車も寄らなくなって、金づる様がどっか行っちまうってー訳だ。多寡が奴隷でそうなっちまうってのは、余りにも割が合わねえ話しさ」

「なるほどなあ」

「それがエルフやドワーフだったらどうなると思う?」

「ゴブリン達とは違うのか?」

「ゴブリン達は頭が悪いから襲って来るんだよ。エルフやドワーフなら冒険者に頼んで、もぐりの奴隷商だけをキッチリ狙って来る。捕縛で済めばいいが、町の外に出た途端に背後からズブリ!、みてーなことになったらどーすんだ? そんなリスク犯すバカは、商売人には向かねーわな・・・」

「なるほど、ちげーねえ。何だよ、結局ガセだったのかよ・・・。期待して損したぜ」

「まあまあ、違法奴隷の噂はガセが多いが、それが無くならねーのも事実だ。もしかするとそ、そういうバカがどっからか湧いてくるのかもしれねーしな」

「さすがに、それを期待するほどヒマはねーな・・・。お勘定!」

「はい、毎度」

 

 トシとヤシャマルはその店から出ると、少し離れた別の酒場でも同じように闇奴隷の話しで、少々くだを巻く。

 二件目の店主からは、“ここだけの話”として面白い話が聞けた。

 怪しいと言われるのが何人かいるらしいのだ。

 挙げられた名前はどれも覚えが無いが、そう噂される存在がいたと言うだけで充分収穫(・・)だった。

 二件目の酒場を出て、トシとヤシャマルは一路、白銀の麓亭に向かう。

 

「ヤシャマル、早ければ今夜にでも動きがあるぞ?」

「芳俊様の撒いた餌にどのような獲物が引っかかるのか、非常に楽しみです」

 

 トシの乾いた笑顔に、寒気すら覚える極上の笑みで応じるヤシャマルだった。

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