53話 行動開始
何とか時間が取れました。
土日、二日分の投稿です(^^;。
トシが宿屋に着く頃には昼を過ぎていた。
扉を開けて宿屋に入ると、戦闘団の面々ともう一つの見知らぬグループが、それぞれのテーブルで食事を取っている。
見知らぬグループの方は同じ宿に泊まる客なんだろうと見当を付けるが、戦闘団の方に見慣れぬ客がいる。
オークの子供だった。
「おい、その子は?」
「おお、トシ、戻ったか。まずは何か頼んで昼飯を済ませてくれ。食べながら説明する」
ナベが応じた傍から、ナミルが飯を運んでくる。
「おお、戻ったかい? どうしようか、日替わりならすぐに出せるけどねえ」
そう言いながら、持っていたトレイを上げてみせる。
「じゃあ、日替わりをもう一つ」
「はいはい、日替わりね、少々お待ちを」
そう言って厨房に戻るナミルが持って来たのが、どうやら今日の日替わりの様だ。
猪を細切りにして、野菜と一緒にソテーしたものにソースが掛けてある。
脇には黒パンとチャウダーの様な汁物が付いていた。
そのメニューの内容を見ながら、トシはナベに自分の見解を伝える。
「グレインがいた村の子、だな?」
食べ始めようとした者達が、口を開けたままトシを見て固まる。
タツヒロだけが口を肉と野菜で膨らませながら答える。
「正解~。トシにいちいち説明は不要だね」
「いや、そんな事は無いぞ?」
心外だ、というニュアンスを込めてタツヒロを見るが、タツヒロは意に介さず食事を続ける。
「トシは俺の気勢を出鱈目とかいうけど、トシの頭の中身も、大概出鱈目だよな」
改めて呆れて見せながらナベがコメントしてくるが、今度はトシが意に介さず、厨房を見ながら注文が届くのを待つふりをしている。
そして、全員の注文がそろい、鬼人達ーー食おうと思えば昼飯も食えるらしいーーや件の子供も食べ終えたところで、ナベがタバコに火を点けながら話しを始める。
「さて、昼も済んだことだし、午後の予定を決めようかと思うんだが・・・」
「ああ、あれだろ? 大方、奴隷になってるその子の仲間をどうするか?、もっと言えばどうやって助けるか、の算段だろ?」
「・・・。まあ、なんだ、話しが早くて助かる・・・」
「そういう事なら、俺から確認したい点があるんだが、いいかな?」
「ん? わかる範囲なら構わねーが・・・」
「その子は、逃げて来たのか? だとしたら、奴隷市場から来たのか?、それともそうではない場所から来たのか?、その辺は?」
「・・・動物が飼われてたところの建物に、村の皆と見た事無い茶色いゴブリンと一緒にいたの・・・」
若干の怯えを見せながらも、グレインが側にいたからかトシにしっかりと説明するオークの子供。
「芳俊、ジャレンの為にも捕まってる本人達の為にも、儂は、ちょっとその建物に行ってこようと思っておる」
グレインは自分のバトルアックスを見やりながら、トシに向き直り、強い口調で言い切る。
「それで、俺らも一緒に行こうと話をしてたんだけどさ、問題はどうやるか、なんだよねえ」
「俺的には、違う意味でどうやるか、なんだよな」
「ん?」
タツヒロの話しを、トシは切り返す。
「俺の言うどうやるかってのは、そもそもの所からの話しだ」
「そもそも、というのはどういう意味じゃ?」
「グレイン、言葉通りだよ。まずその子たちが奴隷になった経緯によって、押し込んでいいのか、強襲は避けた方がいいのかが判る。その上で秘密裏にやるのか、この地の治安維持機関を巻き込んで派手にやるべきかを決める。実際の行動はその後だ」
「そんな悠長な事は言ってられんかもしれんぞ?」
「その辺は、その建物とやらを見張ってればいい。もっと言うと、ナベの協力があれば気配で監視出来る。だろ?ナベ」
「・・・まあ、確かに可能だな・・・」
トシの指摘に、完全に忘れていた体でナベが答える。
その返答を聞いて、トシは改めてグレインに向き直り説明を続ける。
「ならば、この町から動かそうとするタイミングで後を付けて、そのまま町の外で強襲するのが一番スマートだ」
「ふむ・・・なるほど、それも一理あるのう・・・」
「急病人などがいないのであれば、それほど焦る状況じゃない。それよりも状況の把握の方が大事だ。グレイン、ここに連れて来られた状況は聞いてるか?」
「さっきもその辺りの話しを聞いたんじゃが、奴らの襲撃で森に逃れた際に、上から網が降ってきたと言っておるので、どうやら罠にかかったらしいのう。そこからが気になるのじゃが、その後皆を罠から回収して回っていたのが、どうもノールの様じゃ」
「ノール・・・。確か、獣人とは違って直立した犬、あるいはハイエナって感じの種族だよな?」
「ああ、じゃが奴らは普段、草原や荒野に十から二十程度の群れで生活しておる。偶にデカい群れもおるが、本来は森にはあまり入って来ない連中よ。そやつらが森にいた段階で既に普通ではないんじゃが、集められて場所にはヒトもいたらしい・・・」
「そのヒトがノールを使っていた、ということか?」
「儂はそう睨んでおる。その後は袋に入れて運ばれた様でな、袋から出されたのが、さっき言った、その建物の中らしかった」
「・・・今回の、ジャレンの村が襲われた件は、たまたま発生した事故という話しでは無くなって来てるな・・・。存外、計画的に為された事件なのかもしれないな。完全に襲撃から奴隷の確保までが、流れになってるとしか思えない」
そう言ってグレインから皆に向き直り、トシが表情を改める。
「ナベ、タカマルとグレインを連れてこの子が囚われていたという建物に行って、他のオーク達に接触して欲しい。グレインは彼らに渡りをつけてくれ。ナベはオーク達の気配をしっかり覚えてきてくれ。タカマルは場所と周りの状況の把握だ。何と言ってもナベのアビリティの警戒監視が救出の決め手になるはずだからな、しっかりと段取りしておこう」
「分かった」
「は!」
「心得た」
「オリヒメとタツヒロは宿で待機、この子を頼む」
「了解」
「畏まりました」
「俺はヤシャマルと町の中を動く。今回の件の下調べをしてくる。ヤシャマル、荒事は頼むぞ?」
「は、お任せを」
各役割が決まり一斉に行動を開始する。
「思ったんだけどさあ、・・・トシの方が強くね?」
「・・・、向き不向きの問題だな」
居残りのタツヒロの突っ込みを冷静に躱すトシだった。