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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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5話 もたらされた技 1

 昼寝を終えたかのように、現実世界で目が覚める三人。


 今度は、トシが最初だった。

 次にタツヒロ、ナベが最後という順番で目が覚める。

 それぞれで周りを見渡すと、そもそも夕暮れ時ではないし、鬱蒼と繁る木々に囲まれていた。

 夢で伝えられていた通り、三人は本当に異世界に来ていたのだった。


 目覚めたのは最後だったが、最初に口を開いたのはナベだった。


「えーと・・・、みんなも起きたようだし・・・、とりあえずは飯でも食いながら、現状の確認と認識の擦り合わせでもすっか・・・。二人とも調子はどうだ? 腹は減ってんだろ?」


 ナベの言葉に、二人が答える。


「・・・そう・・だな、何はともあれ、まずは食っちまった方がいいよな。ナベのせっかくの料理が冷めちまうし、タツヒロなんかは久しぶりだろ?」

「そうなんだよ、久しぶりのナベの肉だからな、旨い内に食いたい。あと、食いながら頭の中を整理したいよ。ちょっと理解が追いついてない・・・」


 二人の返答に、徐にナベが缶ビールを片手に掲げて答える。


「んじゃまあ・・・、してもいいのか余りにも微妙だが、改めてお疲れ様っつー事で、乾杯!」


 ナベの掛け声に、それぞれが、乾杯!、お疲れ!、などと返答しながらグイっとビールを口にする。

 皿の上に盛られた、まだ湯気が上がっているリブに噛り付き、無言でナベに頷きながらビールで流し込む。

 ナベも二人に負けじと、リブにむしゃぶりつく。


「・・・うむ、これこれ。・・・我ながら、これだけはメニューから外せねーな。旨すぎる・・・」


 ここが、異世界だということを忘れているかのようなナベの呟きに、苦笑いしながらも同意する二人。

 二人とも、リブが旨い事には異論はない。

 ナベが、旨いものを作る時に妥協しない性格、なのだけは昔からよく知っている。

 苦笑いは、完全にシチュエーションとのギャップから生じているモノなので、ナベも特に気にした様子も無く、リブに夢中で噛り付き、ビールで流し込んでいった・・・


 ---


 三人ともほぼ食べ終わり、トシがコーヒーの用意を始めながら二人に話し始める。


「ふう、食った食った・・・。さて。とりあえず“大変な事になった”、という事だけは二人も知っての通りだが、これからについてちょっと話しをしたい。 あ、二人共コーヒーでいいな?」


 ナベが、タバコに火を点けながら答える。


「ああ、コーヒーで頼む。そうだな、まずは現状の確認と、そこから見えてくる問題の洗い出しだな。それを、一つずつ潰していくっきゃねーだろうな」


 タツヒロも同じくタバコに火を点け、煙を吐きながら同意する。


「お、なんか刑事っぽい発言だ。まあ、確かに。この、周りの景色見りゃ、嫌でもここが異世界だと判るしな。とりあえず一服終わったら、調べてみようぜ。まあ、今夜の夜露だけはどうにか凌げそうだが・・・ あ、俺もコーヒーで」


 そう言ってタツヒロが見やる先には、泊まるはず(・・・・・)だったコテージの雄姿が(その駐車場に並ぶ2台の車も含めて)目に入る・・・

 

 空間の渡りがどうのこうのと技守りが言ってたのは、こういう事か?、としげしげとコテージ周りを眺めていた。


 コーヒーを配りながら、トシがタツヒロの視線に気付き、同じ方向を向きながら言葉を繋ぐ。


「しっかし、どうなってんだろうな、これ。コテージの周りの土地が、丸~く切り取られた様に着いてきてるけど、周りの様子は、どう考えても森の中だよな・・・」


 コテージや自分達の周りを、これでもかという勢いで囲む木々と、その中に突如として出現したかの如く、存在を主張する芝生の土地を見渡しながら、三人共に感慨に浸る。


「ところで、さっきの夢の話だけどさあ、“三人とも(・・・・)同じ夢の世界にいた”って事で間違いねーよな?」


 どちらともなしにナベが問いかけ、トシがそれに答える。


「ああ、まず間違いないだろうが、念のため俺からも二人に聞いておくか・・・。俺は、さっきの夢で界守りと出会って、界渡りの説明を受けている。二人はどうだ?」

「俺もそうだ。その後、儀式をやって、俺もそうだがナベもトシも四回光ったのも確認してる」

「そうそう。そのまんま、加護がどうとか言われてる内に、突如終わった印象だよな」


 タツヒロが答え、ナベが続ける。

 そして、それを聞いてトシが提案する。


「その、スキルとやらは、二人はどうなってる? 俺はイマイチ何なのかよく掴めてないんだが、これが判らないと、先に進まないか?・・・」


 トシがしゃべっていると、突然、三人(・・)の頭の中に、同時に声が響く。


<告知 個体名:相田誠人、個体名:斎藤芳俊、ならびに個体名:竜沢弘樹に、同一の加護が存在することを確認しました。同一の集合体に属するものと見做し、並行しての使用時説明(オリエンテーション)を開始します>


「「「え?」」」


 突然の出来事に理解が追い付かない三人に、同じ声が話しを始める。


<告知 こちらは、技守り様より皆様に対する“スキルの案内役”を仰せつかっております、技神というスキルです。このように言語を使用したコミュニケーションが可能なスキルとして誕生しております。思考でも音声でも対応しておりますので、必要な場合はお呼びかけ下さい。この能力により、スキルの内容の説明も含めまして、三人同時に言語による受け答えをしております。異界から渡られた方は、往々にしてこの世界のスキルに馴染みがありませんので、細かい使い方は後々として、ざっくりとした形での使用時説明(オリエンテーション)を開始させていただきます>

<告知 スキルとは、一連の技能体系とお考え下さい。ヒトの経験に応じて儀式により顕現、開花する形で取得が可能です。またスキルは、派生・関連するアビリティの集合、という体を成しておりますので、一つのスキルの取得は、複数のアビリティの獲得と同義となります>

<告知 スキルとは成長します。経験を重ねることで、各アビリティの効果や範囲などが広がり、上位スキルへの変成なども起こりえますので、ご承知おき下さい>

<告知 各アビリティは使用することでのみ、効果が発生します。使用に際しての制限や使用方法などは、アビリティ毎に存在しますので、個別に補足します。必要であれば随時ご確認下さい>

<告知 今後は、それぞれの所有者と個別のやり取りとなります。まずは取り急ぎ、スキル:技神、および派生しているアビリティの説明を行います。その後は個別の人称設定(イニシャライズ)に移行します>


 その後の、技神の説明によると、技神とは凡そ次のようになるらしい。


 ~スキル:技神~

 ・簡易式授与の儀(あらはし):スキル、アビリティの取得条件等が達成され、取得が決定された場合、即座に反映される

 ・分析鑑定(スキル):対象物(スキル)を分析、鑑定出来る。自分に顕現したもののみ分析、鑑定が可能

 ・能力連携:アビリティの連携を支援し、連携状態の定着化が可能

 ・能力変成:アビリティの昇格、創出が可能

 ・会話補助:会話可能な言語の習得を支援する


 その内容を聞いても実際のところ、半分も理解出来ていない。そういうことなんだ、と記憶に入れるので限界だった。

 三人が、それぞれに“覚えなくても後で聞けばいいか・・・”と後ろ向きの決断をしていると、また声が聞こえてくる。


<告知 これ以降は、各所有者との個別のやり取りに移行します>

<告知 次に、所有者による人称設定(イニシャライズ)を開始します>

<問 所有者、およびこちら、それぞれの人称設定が必要です。どのように設定しますか?>


---


 ナベは、問いかけの意味を理解できずに、思わず問い直す。


<その前に教えてくれ。人称ってなんの事だ?>

<回答 どのように呼ぶか?ぐらいにお考えください。こちらから所有者を呼ぶ際に、どう呼ぶか? 所有者がこちらを呼ぶ際に、どう呼ぶか? これを決めることによって、スキル:技神が所有者に帰属します>

<じゃあ、それを決めないとその先へは進めねーと、こういうことか?>

<回答 はい、その認識で間違いありません>

<じゃあ、ちゃっちゃと決めよう。お前の名前は・・・、そうだなヒメにしよう。お前をヒメと呼ぶ。お前は俺を、そうだな・・・なんとするか・・・。まあ、適当にご主人様、でいいか。お前は俺をご主人様と呼べ>

<告知 設定値を確認、ご主人様より敬称を除いて、ご主人として登録します。人称設定を開始します>

<告知 設定中>

<告知 設定完了しました。この時点を以って技神・ヒメとなりました。今後ともよろしくお願いします、ご主人様>


 ヒメと名付けた後、心なしか声に女性っぽさが出てきたような気がしたが、気のせいか?とスルーするナベ。

 勢いで、ご主人様呼ばわりさせてしまったのは、ちょっと早計だったか?と疑問を浮かべつつも、ヒメの元ネタになった飼い犬を思い浮かべながら、スキルやアビリティをヒメに確認し始めるナベだった


---


 トシは、問いかけの内容を確認するため技神に応える。


人称設定(イニシャライズ)とは、お互いの呼称の設定、という認識で合ってるかい?>

<回答 はい、その認識で間違いありません>

<では、何か決めないといけないんだが・・・。決めなかった場合はどうなる?>

<回答 初期値が用意されておりませんので、優先値の内容で了承を頂ければ、それが設定されます>

<その優先値とやらを教えてくれ>

<回答 はい、所有者が主(あるじ)、こちらが技神(わざがみ)、となっております>

<技神・・・じゃあ、芸が無いなあ・・・。秘書だな、君には秘書をやってもらおう。秘書のレイチェルだ。決まり! 後は、俺の事はマスターと呼んでもらおう>

<告知 設定値を確認、人称設定、ならびに追加インターフェース設定を開始します>

<告知 設定中>

<告知 設定完了しました。この時点を以って技神から秘書・レイチェルとなりました。今後ともよろしくお願いします、マスター様>

<レイチェル、様はいらない>

<回答 はい、マスター>


 もしやと思い、たまに大学で見かけてた、理知的な雰囲気の留学生をモデルにキャラクター設定をしてみたトシ。

 思った通り、追加インターフェース設定とやらが実行された。

 これで多少なりとも女性秘書っぽくなれば、頭の中だけのやり取りとはいえ、今の受け答えよりはもう少し潤いが出てくるのではないか?と期待していた。


---


 タツヒロは人称設定(イニシャライズ)とは何かを技神に尋ねた。


<そもそも人称設定(イニシャライズ)とは何のために行うんだ?>

<回答 人称設定(イニシャライズ)はお互いに呼称を決めることで結びつきを強くし、スキルを所有者に帰属させるために実施します。また、これを行わない場合、スキルの運用を開始できません>

<なるほど、名は体を表すとも言うしな、呼び名を決めることでイメージが強くなる、それによって結び付きも、より強くなるんだろう。・・・よし、ならこうしよう。君は執事のギルマだ、俺は旦那様と呼んでくれ>

<告知 設定値を確認、旦那様より敬称を除いて、旦那として登録します。人称設定、ならびに追加インターフェース設定を開始します>

<告知 設定中>

<告知 設定完了しました。この時点を以って技神から執事・ギルマとなりました。今後ともよろしくお願いします、旦那様>


 遠い昔、ケニヤで世話になった、誠実で聡明な壮年の男性を思い浮かべたタツヒロ。

 その白髪混じりで髭を蓄えたダンディな男からは、坊ちゃんと呼ばれていたが、今はもう坊ちゃんという歳でもないだろう。

 そのまま執事・ギルマに、自身のスキルの確認を(少し懐かしさを感じながら)行うタツヒロであった。

---


 三人は、それぞれのスキルと、しばし無言のやり取りを繰り返す・・・。

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