42話 戦闘団の陣容 1
タダツグの言葉を受けて、ハルナガが徐に前に進み口上を述べる。
「では族長たる私から・・・。御三方様、ハルナガ(治長)でございます。族長として、今後も一族をまとめ、終生お仕え申し上げます」
そう言って臣下の礼を取る。顔付きが一段若くなり、髪の毛が濃い茶色に変わっていた。
体格も、もはや人と言っていい大きさで、ゴブリンの服が既に小さく、似合ってもいない。
そのまま、三人の言葉を待たずに後ろへ下がる族長。
脇からタダツグが、ゴブリン達に指示する。
「皆も族長の様に、役務と名前を申し上げ、その思うところを述べよ」
続いては、一番年かさだった、元長老が現れる。
「御三方様、相談役を仰せつかりましたナガヨシ(長慶)でございます。余生の全てを御三方様に捧げましょう。若い者達の事はお任せあれ」
そう言って臣下の礼を取る。薄かった髪の色が一気に抜け落ち、白髪となっていだが、総髪にした髪型と、大きくなった体格とが相まって、ある種の凄みを感じさせている。
「御三方様、兵務部長と防衛班長を仰せつかっておりますタダツグ(忠継)でございます。お陰を持ちまして、ロード種への進化を果たす事が出来ました。今後も兵務の長として、生涯に渡りお仕え申し上げます」
そう言って臣下の礼を取る。
その姿にゴブリンの面影を感じるのは、少々難しい。
筋骨隆々とした体躯と知性や意志を感じる眼差し。
ほんの僅かに緑が混じった肌の色と、耳の形にその名残を残すのみだ。
「防衛班第一分隊、前へ」
タダツグの呼びかけで四人が集まり、その中の美丈夫が前に出て口火を切る。
「御三方様、防衛班第一分隊で伍長代理を務めますジュズマル(数珠丸)でございます。我が第一分隊は、本来の伍長でもあるタダツグ様より、御三方の近衛の任を命じられております。また、私もお陰をもちまして、ロード種への進化を果たすことが出来ました。今後も、身命を賭して任務に当たります」
そう言って臣下の礼を取る。
細身の美丈夫となったが、腰の長剣に釣り合いが取れるよになっていた。
巻き目の加減か、濃い藍色の髪が左目にかかってミステリアスな雰囲気だ。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第一分隊のイオリ(伊織)です。まだまだ修行中の身ですが、精一杯お役目を務めさせていただきます」
そう言って臣下の礼を取る。
成人したばかりぐらいか、まだ大分若々しい。
見た目だけでなく身運びにもそれが見て取れる。
素質を感じ、抜擢してみた素材だ。
槍が得物の様だが、転向は大いに結構なので今はがむしゃらに槍の修行に励んでもらいたいものだ。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第一分隊のアワユキ(淡雪)です。過分なお役目ではございますが、身を粉にして努めます。よろしくお願いします」
そう言って臣下の礼を取る。
他のゴブリンより小柄で、髪の色が白に近かった為この名前にした娘で、かの折に狩猟班にいてアイアンボア戦を経験していた。
マユミの向こうを張って槍から弓に得物を変えたらしい。
切磋琢磨しながら向上していくのは、いい傾向である。
タツヒロも教え甲斐があるというものだ。
次の者が前に進み出る。
「・・・御三方様、ホタル(蛍流)でございます。・・・近衛の任に・・・恥じぬ働きを・・・、身命を賭してお仕え致します」
そう言って臣下の礼を取る。
素質はありそうだが今一つ殻が破れない、そんな部分を感じ思い切ってジュズマルに任せる事にした一人だ。
消え入りそうな喋り方と小柄な体躯に思わずホタルと付けたが、隠形に秀でたものがあり将来に期待が持てる。
四人が下がると、次は五人が前に出る。
「御三方様、防衛班第二分隊伍長、ヤシャマル(夜叉丸)でございます。お陰を持ちましてロード種への進化を果たしてございます。防衛班の正面戦力として、身命を賭して敵の撃滅に努めます」
そう言って臣下の礼を取る。
背丈でタツヒロを超える偉丈夫の一人だ。
ゴブリン時代より、兵士として活躍していたらしく、伍長を任せる事にした逸材の一人だ。
その気勢から察するに、三人に次ぐ戦闘力の持ち主であろう。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第二分隊、オニマル(鬼丸)でございます。伍長の元、この力を存分に発揮して皆を守ります。いつでもご下命下さいませ」
そう言って臣下の礼を取る。
ヤシャマルが大型の虎とするなら、オニマルは差し詰め熊だ。
上背は同じぐらいだが、肉の付き方が違う。
恐らくゴブリン一であろう胴回りと、黒髪が相まって中々の迫力だ。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第二分隊のムサシ(武蔵)でございます。頂戴しました名に恥じぬ働きを目指し、コジロウと共に精進してまいります。我が忠勤をご覧あれ」
そう言って臣下の礼を取る。
剣術を志し、コジロウと共に非力なゴブリンには不向きな長剣を使って技を磨いてきたと聞き、且つての剣豪の名を与えた。
師匠に口を利いてやらねばな、と思いを新たにするナベであった。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第二分隊のコジロウ(小次郎)でございます。わが身には過分な名を相応しいものとすべく精進いたします。ムサシ共々、宜しくお願いします」
そう言って臣下の礼を取る。
ムサシのゴブリン時代の同志だったらしい。
ムサシよりも長髪で少しばかり細身な上、身長も僅かに高くまさにコジロウと呼ぶに相応しいゴブリンだった。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第二分隊のケンタロウ(剣太郎)でございます。この身に過ぎた栄誉でございますが、一命を賭して任に当たります」
そう言って臣下の礼を取る。
長剣を使いたがったゴブリンの一人で、素質もそうだがその意気を買って防衛班に入れてみた。
ハイゴブリンになったおかげで、苦も無く長剣を振り回せる様になっている。
今後に期待が持てそうだ。
そのまま五人が下がり、第三分隊と思しき五人が前に出る。
「御三方様、防衛班第三分隊伍長のトモエ(巴)でございます。お陰を持ちましてこの身もロード種への進化を果たせました。まだまだ非才なるこの身に掛けられた期待に応えるべく、生涯を捧げ御役目に努めてまいります。宜しくお願い致します」
そう言って臣下の礼を取る。
第三分隊は槍使いを集め、第二陣としている。
女だてらに槍では一番の使い手だったのがトモエだ。
僅かに下がってインエイという状況なのではあるが、状況を見る目に光るものがあり分隊を任せるに至った。
名の由来を話して以来、長髪に鉢巻きを欠かさないなど可愛い処もあるのだが、凛とした美丈夫となっていた。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第三分隊、インエイ(胤栄)にございます。トモエ様に負けず、技に、役目に精進いたします。我が忠誠を捧げます」
そう言って臣下の礼を取る。
トモエかインエイか、と言える程の伯仲した実力持つ同士だが、部隊指揮という点で僅かに巴に軍配が上がった格好になってしまっているが、本人はさほど気にしてもいない様子だ。
兵としてその実力を遺憾なく発揮してほしい。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第三分隊、インシュン(胤舜)でございます。非才なる身なれど、ご下命に身命を賭す所存でございます」
そう言って臣下の礼を取る。
トモエとインエイに隠れて目立たないが、彼も他のゴブリンとは一段違う技の高みを目指して、日々上っている最中である。
そういう意味では第三分隊は善き修行場所ともなり、同時に最適な役務とも言えるのだった。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第三分隊のソウジ(槍次)でございます。もっともっと技を鍛え、伍長に続きます。よろしくお願いします」
そう言って臣下の礼を取る。
資質よりもやる気で宛がった人材だが、これもどうやら上手くいっている様子だった。
伍長を目標に、研鑽を積んでほしい。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第三分隊のソウゴ(槍伍)でございます。まだまだ拙い技しかございませんが、これを磨き込み更なる忠勤に励めるよう粉骨砕身いたします」
そう言って臣下の礼を取る。
これも、資質よりもやる気で宛がった人材だった。
それでもこのやる気は貴重だ。
それがあってすべては進むのだし、それが結果につながっていく。
それを是非示してもらいたい。
第三分隊が下がり、防衛班最後の第四分隊五人が前に出る。
「御三方様、防衛班第四分隊の伍長を務めますスズカ(鈴鹿)でございます。お陰を持ちましてロード種への進化を達成してございます。このご恩を生涯忘れず、忠勤を尽くして参ります」
そう言って臣下の礼を取る。
どうやらトシの見立て通り、魔術を得たらしい。
その兆候が見て取れていたので、この名を授けたがその話しは、本人にはしていない。
実は第四分隊はそう感じたメンバーで構成されているのだ。
そして、その期待通りに魔術が顕現したのだ。
術は、今後トシとタツヒロで教えていく必要があるのだが、魔術部隊は必要だったので、まさに渡りに船であった。
本人は、その妖艶なる空気を隠しもせず、歓喜の表情で三人を見据えている。
スズカを見てトシは、町へ行ったら彼女らの服を一番に調達しないとな、と心に誓うのであった。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第四分隊のタキヤシャ(滝夜叉)でございます。お陰を持ちまして、この身もロード種への進化を果たすことが出来ました。望外の喜びに興奮が冷めやりませぬ。このご恩を心に刻み、生涯をかけて忠勤に励みます」
そう言って臣下の礼を取る。
どちらかというと、可愛いと評すべき笑顔をこちらに向け、歓喜を溢れ出させている彼女だが、役目を与えていない唯一のロード種だった。
役目は、ゴブリン時代の資質や能力の片鱗等を見て決めたものなので、ロード種が出ても、まあ不思議ではないのだが、彼女はよもやの、無役でのロード種だった。
それ故に、第四分隊は予想外にロード種が二人もいる、超エリート部隊となってしまった。
もちろん滝夜叉にも魔術はしっかりと顕現しており、その大きな資質が窺える。
タキヤシャの場合、妹と弟もこの分隊にいる。
彼女らも含めて、第四分隊全員が程度の差はあるものの、魔術を顕現していたのだった。
タキヤシャに関していえば精霊術辺りも顕現するかもしれない。
その兆候も感じ取っているトシだった。
次の者が進み出る。
「御三方様、防衛班第四分隊のサツキ(五月)でございます。この空よりも大きなご恩に報いるべく、姉弟共に身命を賭してお仕え致します」
そう言って臣下の礼を取る。
女性ゴブリンの中では、実はサツキとサユミが群を抜いて大きい。
姉であるタキヤシャより、頭一つ大きかったし、弟のヨシカドもサツキには身長で負けているのであった。
実際に三人と比べてみても、タツヒロのちょっと下程度には大きく、ハイゴブリンの女性と言えど、異例の大きさだった。
その辺りを買われ、ゴブリン時代にはもう一つの狩猟組に居たそうだ。
姉であるタキヤシャとは系統の違う、凛とした美しさを持つ。
そんなサツキも、わずかではあったが魔術が使えるようになっていた。
予想外の自らの進化の成果に、驚くばかりのサツキであった。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第四分隊、ワカナ(若菜)でございます。身命を賭して忠勤に励みますので、よろしくお願いします」
そう言って臣下の礼を取る。
凛とした、よく通る声音で口上を述べるその表情は、あどけなさの残る綺麗な顔立ちだが、若干硬さが取れていない。
緊張もあろうし、慣れない力が身に宿ったのもあるのであろう。
もしかすると、この反応の方が普通のゴブリン達の素の反応なのかもしれない。
だが、進化は果たしているのだ。
その力を存分に発揮してほしいものだ。
次の者が前に進み出る。
「御三方様、防衛班第四分隊のヨシカド(良門)でございます。望外のお役目と力に緊張しております。姉共々修行に励みお役に立てるよう頑張ります」
そう言って臣下の礼を取る。
成人したての初々しさが残る、タキヤシャ姉弟の末弟である。
こちらも魔術が顕現し、それに対応しきれていない様子だが、ワカナと同年代とみられるのでお互いに修行仲間として支えあい、能力を開花させて行ってほしい。
こうして防衛班二十名を皮切りに、哨戒班二十名、狩猟班十名、内務部の縫製班五名、
建築班六名、調理班五名、農業班十名、採集班十名が自己紹介を続けていった。
人員表的なものを次回、公開することにします。
さすがにこれを全員分はやりません(苦笑)
細かい紹介は、登場時に都度々で行います。