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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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41話 成就

 次の日の朝、食後のお茶もそこそこに、三人は外へ向かう。

 日が昇ってからちょっと経つが、ゴブリン達はまだ着いていなかった。


「あいつらが遅くなるとは珍しいな」


 タバコを咥えつつ、ナベがテーブルをもう一度洗いながら呟く。


「進化が起こっているのだとしたら、普通の状態じゃないからな。遅れることもあるだろうさ」


 トシは、丸太で作った椅子の内、要らない分を片付けながらナベに応じた。


「あんまり遅いようなら、俺が様子を見てくる。具合が悪い様なら、治療が必要だろうし」


 隠形の練習で、気配を消し(・・・・・)声だけとなったタツヒロが言葉をつなぐ。

 三人とも、会話に関する初期値(デフォルト)音声(・・)らしく、普段の会話で念話を使うことを三人ともナチュラルに(・・・・・・)思い付かないらしい。


 今朝の食後の時間で、トシは典膳に少しの間出かけてくる旨を伝えている。

 状況把握、食料調達、情報収集と幅広く町でやりたい事を計画していたので、師匠の承諾を得ようと相談したのだった。

 典膳の口からは、気を付けて行ってこいとの言葉をもらい、いつ行くかを決めるだけになっていた。

 トシとしては、なるべく早く行っておきたかった。

 冬の準備に必要なものの入手、それの原資、必要なら更なる狩猟で原資に出来そうなものを狩って来なくてはならない。

 まだ九月に入ったばかりだが、油断はしたくない。

 なるべくなら十月中、遅くとも十一月半ばには終わらせたいのだ。

 地勢も、アルゴー大森林内の政治状況(・・・・)も判らぬ為、『うかつには動けないな』というのがトシの今のところの感触である。

 その為にも、あの広場周りに戦闘団の拠点を設営し、この冬はあの広場で越冬して来春に動き出そうと思っていた。

 あの広場周りに一切合切を移転・設営出来れば、最悪の場合(・・・・・)でもナベの絶界で守り切れる、その算段がトシには有った。

 その為にも広場への移転は、何が何でもやろうと思っていた。


「さて、テーブルも洗ったし、ちょっとイメトレしてるから」


 トシの思考をナベの一言が破り、そのまま広場をコテージと反対側へ横切っていく。

 手には、ちょうど絶剣と同じような長さの、木の棒が握られている。


「示現流じゃねーけど、・・・まあ臨機応変って事で」


 ナベが独り言と共に去っていくと、トシは周りの木々の伐採準備を始める。

 チェーンソーで切り込みを入れ、楔で割って倒していく、その切り込みだけ先にやりたかった。

 チェーンソーを取りに行く間も、タツヒロはずっと隠形をしているらしい。

 ちらちらと、トシ自身も気付いた時に気配を探っていたが、だいぶぼやけて(・・・・)来ている。

 練習の成果なのだろう。


 その後、チェーンソーで切り込みだけ入れた木が五本出来上がった頃に、ナベが話しかけてくる。


「トシ、どうやら、あいつ等も起きた様だ。気配が動き出した・・・、んだが何だこりゃ? こいつ等ってあいつ等だよな?」


 ナベにしか判らない事を聞かれても、どう答えていいか見当が付かないトシであった。


「ナベ、そう聞かれて俺が答えられると思うか? 何がどうした訳?」

「ん、いやあ・・・。気配の気質も感じ(・・)もあいつ等なんだが、存在感が桁違いなんだよな・・・。大人と子供くらい違うっていうか、そんな感じ」

「進化とやらが文字通りなら、そういう事が起きても不思議じゃないしなあ・・・」

「まあ、そりゃあそうなんだろうけど・・・。ま、あれだな、こっち来りゃー判るか」


 そう言い終えて、イメトレに戻るナベ。

 トシも切り込みの作業に戻る。

 タツヒロは、特に会話に混ざる気が無かったのか、隠形のままで森の中をうろうろしている様だ。

 切り込みを入れながら、ナベやタツヒロの気配を何とはなしに探るトシ。

 時折、ナベの気勢が上がるのを感じたり、タツヒロを捉えたり見失ったり(・・・・・)しながら、つらつらと切り込み入れの作業を続ける。

 切り込み作業が終わった木が二十本を超えた処で、トシは休憩を取る。

 それを察したか、タツヒロも姿を現した。


「隠形での移動は、まだ速度が出せないな・・・、走り出すと隠形が解ける(・・・)よ」


 水道から水を飲み、タバコに火を点け、どっかりと腰を下ろすタツヒロに、トシもお疲れと声をかけながら体に着いた木屑を払い、チェーンソーをテーブルに放り出して水を飲みに行く。


「タツヒロの隠形もサマ(・・)になって来たんでない? 時々、気配を見失ってたよ。あの短時間でたいしたもんだ」

「お、そう? トシが見失う様なら、上達はしてるんだな。狩場でももっと隠形を意識して使っていかないとなあ」


 そこへ、汗を拭き拭きナベが加わる。


「お、みんなして休憩か。俺も一休みだ」


 ナベも水をガブ飲みした後、タバコに火を点ける。


「汗が引くころには、あいつ等も到着しそうだ。動きが活発になって来たからな、間もなく村を出るんじゃないか? ただ、気配が違う意味でヤバいな。喜びが爆発してる(・・・・・)感じだ」


 ナベが苦笑いしながら、ゴブリン達の気配の様子を伝える。


「まあ、悲願達成、満願成就ってとこだからなあ。そりゃ気持ちも盛り上がるさ」


 トシも進化とやらを果たしたゴブリン達が、どれだけ嬉しかったか想像しながらナベに応える。


「どういう風になってるのか、俺らも楽しみだな」


 タツヒロも、その変化を楽しみにしている様子だった。


「お? 俺の感知範囲に入ったな。間も無く、かな」


 トシが反応すると、ナベが黙って頷く。

 少しすると、ガヤガヤとゴブリン達の声が聞こえ始める。

 目で見える処まで来ると、先頭にいた筋骨隆々とした見知らぬ男(・・・・・)が声を上げる。


「これは御三方様、少々遅れまして申し訳ありません。何せ、このような次第でございまして・・・」


 背後の面々を振り返り、苦笑いしながらこちらへ挨拶に来る。

 ナベの記憶なら、この気配(・・・・)はタダツグのはず(・・)だ。

 だが、目の前にいるこの男は、どう見ても昨夜分かれたタダツグではなかった。

 後ろに並ぶ皆も、同様だった。

 まず、特徴的だった薄緑の肌の色が、大半の者は緑混じりのベージュといった具合にまで変化しており、ほとんど緑が判らないレベルに変化した個体も何人かいる。

 髪の毛も、まさに色取り取りといった具合になっている。

 赤や茶色、黒、藍、薄緑、金、銀と、まさにあらゆる髪色が揃っている、と言っても過言ではない。

 その上背も大幅に伸びていた。

 子供たちはそうでもないが、大人達は大きく伸びている。

 大半が、人間と遜色無い状況であり、オニマルやオニワカの気配を持つ者に至っては180のタツヒロを超えているのだ。

 呆気に取られて、ゴブリン達を見つめる三人に、改めてタダツグらしきゴブリンとハルナガらしきゴブリンが跪き、挨拶を述べる。


「到着が遅れまして、申し訳ございません。我らゴブリン族一同、無事に進化を果たしまして御座います!」


 その言葉に合わせて、全員が跪き、ハルナガの口上が続く


「我ら一同、ゴブリンよりハイゴブリンへと進化を果たしました。一部の者達は更なる進化を果たし、何と!、我らの一族よりゴブリンロードが誕生いたしました! ゴブリンロードは、かの(・・)オーガロードにも匹敵する上位種でありますが、その誕生に至る道のりは余りに厳しく、幻の上位種と伝えられ続けておりました・・・。これも全ては御三方様のお陰で御座います。改めまして、我ら一同!、身命を賭して忠誠を誓います! 我らをお導き下されませ!」

「相分かった! 今後ともよろしくな」

「大変なこともあるけど、皆で頑張っていこうぜ」

「君らの忠誠は非常に嬉しいので、肩の力は抜いて行こう」


 三者三様の言葉で、元ゴブリン達の忠誠に応える三人。


「それでは、改めて自己紹介をさせて頂きます!」


 タダツグが声を上げ、ゴブリンだった(・・・)者達の自己紹介が始まった。

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