40話 魂の繋がり
やっと投稿できました。
中三日と、かなり間を開けてしまいました。
やっと続きをお届けできます。
トシが外に出ようとして、タカマルとウシワカがまた四人組を連れてくるのが目に入る。
「タカマル、これで何人風呂に入った?」
「は、今まで20人入りました。これで今日は最後かと思います」
「分かった。明日もお前たちには皆の風呂指導をお願いするよ。全員が、一度は入るまで頼むぞ」
「畏まりました」
タカマルの返事を聞き、全員が入り終えるには、あと二日ぐらいかと推測するトシ。
そのまま、ハルナガとタダツグを連れて外に出る。
外では、最後のアイアンボアの解体の真っ最中だった。
「おお、トシ、話しは終わったのか? こっちも間もなく終わるよ。ついに、アビリティの解体からも、見習が取れたぞ。順調に狩人スキルは育ってるよ」
タツヒロが、若干のドヤ顔で報告してくる。
隣を見るとナベも同様に、若干のドヤ顔だ。
「俺は、料理人の解体基礎から基礎が取れた。やっぱあれだな、実地訓練に勝るものは無いな」
「そりゃそうだわな」
トシも同意する他無い、ド正論であったが、成し遂げたやつが言うと、やはり説得力がある。
そのまま、暗くなる前に夕飯の用意を始める三人。
今回はゴブリンの調理班の連中も一緒だ。
調理班は全部で五人になり、今後は戦闘団全体の調理を担当することになるのだが、その体制の確立に向け、今日から早速仕事が始まる。
班長のポール(Paul)を筆頭に、ゴードン(Gordon)、アラン(Alan)、ジョエル(Joel)、ジョシュア(Joshua)が集まって来る。
既に、ナベが食肉の解体で五人に指導しており、何となく刃物は使えるようになったが、火はこれからだ。
今日の処は、徹底的に見て覚える事に徹してもらう。
火加減、香り、焼き色、音、そういった情報から、料理の状態や出来上がりを把握する訓練だ。
昨日の今日であるので、酒は控えて食事に専念する三人。
タツヒロなどは、毒物耐性をどうやって弱めるかが判るまで、酒は飲まないと言い出す始末だ。
よほど悔しかったのか、酒瓶を全て自分の部屋に隠したらしい。
そんなタツヒロを余所に、宴とまでは行かないまでも、中々に盛り上がる会食となった。
全員参加の会食も、二回目ともなればかなり打ち解けあい、お互いに軽口をたたくまでになっている三ツ星戦闘団のメンバー達、人間三人とゴブリン八十六人。
そこかしこに人の輪が出来、昨日の宴の事やら、狩りの時の様子を肴に笑い声が続いていた。
お開きの後は、明日の朝の集合を指示し、ゴブリン達は一泊ぶりに自分たちの村へ帰っていく。
ナベ、トシ、タツヒロの三人もコテージへ戻り、夕食後の休憩に入っていた。
「しかし、ヤシャマルとオニマルのあの食いっぷりは凄いな。力の強そうな、体格のいい奴を防衛班に回したが、特に大きいあの二人を見てると、とてもゴブリンとは思えん。人間並みの胃袋だぞ、あいつら」
タダツグ指揮下の防衛班で分隊を任せている二人の伍長の名を出し、食事を振り返るナベ。
「まあ、多少食う量が多かろうが、誤差の範囲だよ。それよりも調理班はどうなんだよ、使えそうか? 本人の興味だけで選んだから、能力とかは二の次だったからな。今後は村じゃなくて戦闘団になっていく以上、分業は必須だしな」
「うーん、まあ昨日の今日だからなあ・・・。とりあえず、火には慣れて来つつあるが、調理となると夕飯辺りでしばらく特訓が必要だろうな。それには、俺が見習い取れねーと始まんねーよ」
「それは一理ある」
ナベの返答を、タツヒロが混ぜっ返す。
その後、トシがお茶淹れに立ち、ナベとタツヒロはコーヒーをリクエストする。
「そういやさ、どんぐりでコーヒーみたいな飲み物作れるって知ってる?」
タツヒロが、どっかで聞いた話をトシに振る。
「まあ、作って飲んだことはあるが、俺自身はもう飲まなくてもいいかな」
「え? 不味いの?」
「いや、不味くはないんだよ、不味くは。ただ、コーヒーか?って言われると、そうじゃないよな・・・、って答えるしかないシロモノだった。コーヒーっぽい何か、だな、どんぐりコーヒーは」
「それでも無いよりはましかあ・・・。今度、作り方教えてくれ。どんぐりが落ちてたら挑戦してみる」
「確かに、作るのはそれなりに面倒だけど、何もないよりはましだな。俺も注意して見とくわ」
タツヒロとトシの間で、どんぐりコーヒーの製作が決定した。
その瞬間、三人の脳裏に同時に言葉が響いた。
それは、それぞれの技神達の声だった。
<絆路の構築が完了しました。常時接続状態に設定、連携開始しました。なお、常時接続状態の実装は魂域の共有を利用しています。これより、従絆路の構築に入ります>
「おい、今のって何事?」
「わっかんね・・・」
「・・・解った、あれだな。まず、俺たちの魂の間に、何らかの繋がりが出来た。で、その後恐らくだが、ゴブリン達との間に、これも何らかの繋がりを作り始めた、ってとこだな」
ナベとタツヒロのやり取りに、トシがスッと答える。
呆気に取られ、トシを見つめる二人が口を開く。
「・・・、何でもわかんだね・・・。素直に感心するよ」
「博識、の名に恥じない分析だな。何か、ズルいとさえ感じそうだ」
「しかし、繋がりって一体何の事やら・・・。魂が繋がったって言われても、イマイチ、ピンと来ないというか、何というか・・・」
<タツヒロ、こういうことだ>
タツヒロの頭に、突如、トシの声が響く。
「は?、今の何?」
<お前もやれるよ。ギルマとレイチェルが支援してくれてる。普通に話すように、頭で考えてくれ>
「んー、待てよ? んー」
<こうか?>
<それそれ、出来てるじゃん>
<おー、これでいいのか。何だろう、念話的な奴かな・・・>
<俺も混ぜろ!>
トシとタツヒロの念話に、ナベが混ざって来る。
<あ、ナベ。・・・そうか、静かだなと思ったら、さては一人で練習してたな?>
<いきなり、トシの言葉が頭に入ってきて面食らってたが、そのままタツヒロみたいに反応したんじゃあ面白くねーからな。練習してみた>
<さっき聞こえたそれぞれの声の中で、魂域ってあったろ? そこを共有してると、そこ経由で意志のやり取りが出来るらしい。それが出来上がったんで、俺達もこういう芸当が可能になった訳さ>
トシが念話で説明し、会話を音声に戻す。
「それと、最後に始めるって言ってた従絆路の構築は、多分ゴブリン達の事だな。あいつ等の主になるってのはこういう事も含まれるって訳だ」
「ほう、あいつ等ともこうして念話とか出来るようになるってか?」
「ああ、それいいね。狩りの時に、すごく便利になるよ」
そこに、また三人同時に声が頭に響いてくる。
<従絆路の構築が完了しました。各個体より、進化の申請が出されております。受理されますか?>
「・・・トシ、進化ってあいつらが進化するって事か?」
「まあ、今の場合、そう考えるしかないな。分析でもそうなってる」
「そういう事なら、受理してあげるしか無いんじゃないの? 主はあくまでも俺らだし、今のままよりは、少なくとも強くとか頑丈にとかは、なるだろうしね」
タツヒロのまとめに二人が頷き、そのまま声をそろえて、許可を出す。
「「「申請を受理する」」」
三人が一斉に答えると、激しい勢いでマナが、三人の体から消えていく。
最初こそびっくりしていた三人だが、進化に必要な事なのだと咄嗟に理解し、負けじと三人もマナを循環させ、気勢を上げ始める。
ナベなどは、体の周りの景色が、一瞬歪むほどの気勢を張り、一声うなる。
「あんなちびっ子共が何ぼのもんじゃあ! おりゃあああああ!」
ナベの勢いに押されて、トシとタツヒロからマナが消えていく勢いが、僅かに衰え始める。
「タツヒロ、見ろよ。あいつはあいつでデタラメだ」
「うん、確かに」
自分達もそれなりに気勢を上げ、マナの消失に対抗しているが、ナベの場合、自発的にくれてやってる気がする。
タツヒロがそれに気付いてトシに話すと、トシも全肯定という勢いで首を縦に振る。
体感だけの印象だが、ナベの気勢は自分達の数倍に及ぶのではないかと感じていた。
トシなどは、感覚が鋭敏なだけに三倍から四倍に近いのではないかと、かなり正確に見抜いている。
マナが消えていく感覚が、徐々に鈍ってきた。
それに合わせて、トシとタツヒロは気勢を下げていくが、ナベは追いつかない。
そのまま、刀を取りに行き、鞘から抜く。
「タエ、残りは頼んだ。全部削ぎきれ」
「お任せあれ、誠人様」
そう承った途端、タエの体が光り始め、合わせて刀身の色が変わっていく。
夜空と思しき黒刀が、鈍く輝き始め、同時に白銀色になっていった。
「誠人様、この身に貯めた気勢は、刀技として使うことも出来ますので、ご承知置き下さいませ」
そう言い残して、タエは消える。
ナベの気勢は、既に収まっていた。
落ち着いた後は、風呂に入り疲れを癒し、明日の対面を楽しみに、早々に寝ることにした三人なのであった。