38話 旗揚げ
ナベ、トシ、タツヒロは休憩と称してコテージにいた。
ナベとタツヒロはコーヒー、トシは紅茶で一服しつつ、三人とも頭は休んでない。
ゴブリン達への名付けの方法を模索中だった。
「そういや、あいつら家族っているよなあ・・・」
「まあ、親子関係があるから、最低限の家族はいるんだろうけどねえ・・・、何か、全体で一族!ってなっても不思議じゃない気も・・・」
「あー、それもあり得るなあ・・・」
ナベとタツヒロがコーヒーを啜りながら、益体も無い会話を繰り広げる。
「なあ、二人は、こいつにこの名前付けたい!、とかあるか?」
トシの疑問にナベが答える。
「テキトーで恐縮だが、俺の助手やってたやつはジョシュアでいいかなあ、なんて・・・」
「助手だけに!ってか? ・・・まあ、それはそれで採用しよう。とにかく、数が多いの一言だ! 何か基準を決めて機械的に付けないと、日が暮れる」
意外な事に、ネタにマジレスされてしまった。
ナベはトシに、お、おう、と答えるしかなかった。
「そういうのいいんだったら、次長の娘、あれはマユミだな。真の弓で真弓。どうよ?」
「いいんじゃね? なるほど、兵種で名付けか、考えたな・・・」
「だろ?だろ? あとは村長はハルナガとかどう? 長く治めるで治長」
「いいねえ、それ採用!」
「待て待て、トシ、そういう風にやるんだったら、それ全部ノートに書いてた方がいいな。それなら忘れない」
「ナベ・・・、俺が記憶隷属持ってるの忘れたか? ・・・あ、でも二人は忘れるのか・・・、やっぱ書いとくか・・・」
その後もあーでもない、こーでもないと名前の基準や候補を出し合い、大まかなところは出来上がる。
“兵種で名付け”の案を拡げて、職種でも名付けを考えるようにした。
それに数や色、身長や体重等の見た目を考慮していけば、大丈夫か?、というところまで決まり、最後に番号札を作って三人はコテージを出る。
ナベがゴブリン達に話しかける。
「まずはみんなが、今やってることや得意なこと、これからやりたいことを教えて欲しい。剣が得意な者、弓が出来る者、機織りが出来る者、畑を見れる者、家を建てられる者、何でもいい。こちらで書き留めておきたい。それを基に、我々の新しい暮らしを支える部署を作っていきたい」
その声にワラワラと立ち上がり、ナベの周りに集まるゴブリン達。
「おお、一番手は次長か。次長、聞かせてくれ」
「私は次長をやっていますが、仕事は狩り組です。槍での止めをやってます。今後も狩りをしていきたいですね」
「なるほど、分かった。いいか、他のみんなも、今の次長の様に伝えてくれ。次長、これは後で使うから大事に持っててくれ。じゃあ、次だ」
「俺は狩り組にいます。弓を打ってますが、槍の止めをやりたいです。弓は中々当たらなくて・・・」
「正直でいいな。狩り組以外でもいいんだぞ? やりたいことはあるか?」
「それなら、家を作りたいです。もっと寒くない家を作ってみたい」
「分かった、考えておこう。じゃあこれ、後で使うから大事に持っててくれ。次」
「私は織り組で、服を繕っています。もっと暖かい服を作ってあげたいです」
「分かった。織り組ってのは服関係をやってるのか。よし、次だ」
こうして、大人と子供、合わせて八十六人分の進路調査?が終わる。
その結果を持って、三人はまたコテージに集まる。
「どうだ? 偏りがひどい処はあんの?」
ナベが、集計係のトシに確認する。
トシの方で、希望進路による一次振り分けをやっていた。
三人は組織を、大きく二つに分けて構築しようと考えていた。
兵務と内務に分け、兵務には哨戒、狩猟、防衛の役割を、内務には建築、縫製、調理、農業、採集の役割をそれぞれ与え、分業化による効率化を狙っているのである。
構成人員的に、人材のロスは影響が大きいので、その極小化が目的だ。
進路調査のヒアリングで、およその部分は人材を充て込めている。
その顔や風体を思い出し、名付けをしていくのだ。
「とりあえず、村長は無くして、族長という形で統治の実務を委任しよう。そもそも、他にいい土地があれば、そっちを開拓した方がいいからな。生涯住むのが、この村である必要はない。その辺の地理的状況も確認しないとな」
「お、トシ、それいいな。なら次長は兵務の責任者と狩猟の班長やってもらうか」
「ナベ、狩猟班は昨日みたいに帰りが読めなくなりがちだよ。次長さんには、防衛と兵務を兼ねてもらった方がいいよ」
「なるほど、そう言われりゃそうか。だな、タツヒロの案で行こう」
そして、誰をどこに充て込むかが決まり、名前も決まっていく。
三人の分担としては、ナベが兵務全般を見ることにし、トシが内務全般を担当、タツヒロは両方の補佐という形で動きやすくしておいた。
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準備万端でコテージを出た三人は、ゴブリン達を呼び集め、話しを始める。
「それではこれより、結団式、並びに任命式を行う。併せて命名の儀も行うので、そのつもりで」
ナベが高らかに宣言し、トシが続けて話しを始める。
「今ここに、我ら三名は、我が戦闘団の結成を宣言する。名は三ツ星戦闘団、またの名をオリオンと命名する。三つ星が有名な、我らの故郷の星座がその由来だ。各員、その名に恥じぬ働きを期待する」
トシが下がり、タツヒロが前に出る。
「我が戦闘団における職務の任命を行う。まずは15の札を持つ者よ、これへ・・・。そなたは戦闘団内のゴブリン族の族長を命ずる。そなたには、ハルナガ(治長)の名を与える。今日よりハルナガと名乗るがよい」
「ははー。このハルナガ、族長として、身命を賭してお仕え致します」
「次は、1の札を持つ者よ、これへ・・・。そなたは兵務部長、並びに防衛班長を命ずる。そなたにはタダツグ(忠継)の名を与える。今日よりタダツグと名乗るがよい」
「ははー、このタダツグ、生涯忠勤に励みます」
「次は、20の札を持つ者よ、これへ・・・。そなたは兵務部、狩猟班長を命ずる。そなたにはタカマル(鷹丸)の名を与える。今日よりタカマルと名乗るがよい」
「は!、このタカマルの腕前、存分にご覧下され」
「次は、5の札を持つ者よ、これへ・・・。そなたは兵務部、哨戒班長を命ずる。そなたにはウシワカ(牛若)の名を与える。今日よりウシワカと名乗るがよい」
「は、このウシワカ、ご下命如何にても果たしましょう」
「次は、32の札を持つ者よ、これへ・・・。そなたは内務部長、並びに縫製班長を命ずる。そなたにはオリヒメ(織姫)の名を与える。今日よりオリヒメと名乗るがよい」
「はい、わたくしオリヒメは生涯の忠誠をお三方に捧げます」
「次は・・・」
その後は、子供を含めた全員の職務と命名を続け、ついに最後の一人となった。
「そして最後は、61の札を持つ者よ、これへ・・・。そなたは内務部、調理班に配属とする。そなたにはジョシュア(Joshua)の名を与える。今日よりジョシュアと名乗るがよい」
「はい、俺は頂いたジョシュアの名に恥じぬよう、おいしい料理を作ります」
「最後になったが・・・。我ら三名は、それぞれが同格の主としてそなたらを導いてゆく積りだ。だがそれぞれで役目も持つことにする。俺、相田誠人は軍事部門統括だ。兵務部の仕事と、戦闘時の指揮官は俺がやる」
「続いて、俺、斎藤芳俊は内務部門統括だ。内務部の仕事全般と渉外、軍略を担当する」
「最後は、俺、竜沢弘樹は両務支援と医者をやる。戦時は遊撃隊の指揮を取る。誠人や芳俊がいない時は、俺が判断を下すから安心してくれ」
最後に、ナベが締めのあいさつをブチかます。
「野郎どもー! 我らが戦闘団の旗揚げだー! 気合入れていけー!!」
「「「おーー!!!」」」
ゴブリン達の雄たけびが、大きく、雄々しく轟いていた。