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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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36話 宴

 狩猟団一行は、一旦コテージに向かうことにした。


 アイアンボアを解体するためには、少々広い作業スペースが必要で、トシが木を切って新たに解体用テーブルを作る事にしたらしい。

 その作業の間に、次長はゴブリン達をここに呼び寄せに村へ戻る。

 どうせなら、ゴブリン達も一緒に飯にしようという事で、ナベの発案でアイアンボアでバーベキューをする事になったのだ。


 急いで、トシがテーブルを作り、タツヒロがアイアンボアを解体し、ナベがそれを肉にしていく事にした。

 残ったゴブリン達の内、二人のゴブリンはトシと共にテーブルを作っている。

 とは言っても、まともな作り方では時間がいくらあっても足りない。

 丸太を八本用意してそれを足と定め、設置予定場所に置く。

 長い丸太を半分に切り、切った面をテーブルの天板という体で、丸太の足の上に置いていく、即席テーブルだ。

 それが出来ると、タツヒロの出番だ。

 次長の娘ともう一人のゴブリンがタツヒロの解体を手伝おうと張り切っている。

 ナベにアイアンボアを出してもらい、三人がかりで解体していく。

 普通の猪なら、吊るして解体がセオリーの様だが、アイアンボアにそれは通用しない。

 地道に、寝かせたまま解体していく。

 もう片方のテーブルでは、解体された部位を受け取って、ナベが肉にしていく。

 最後に残ったゴブリンは、そんなナベの手元に興味津々で、助手よろしく、ナベが切り分けた肉を手際よく木の板に並べていく

 今回は人数も多いので、取ってきた塩と生の胡椒での味付けと決めていた。

 ナベ的には生の胡椒の味に興味があったので、とりあえず房から一つもいで口にする。

 普通の黒胡椒よりも、爽やかで抜けのいい辛味・・・、クセになる味というやつだ。

 ナベは、これをジューサーで、塩と一緒にトロっとしたペーストにして肉を漬け込む。

 それとは別に、塩と醤油と砂糖で味付けした、付けダレ胡椒ペーストも作っておく。

 バーベキューグリル三つに火を熾し、網を温めながら、肉の下拵えを続ける。

 テーブルを作り終えたトシが、そのまま丸太を切って、即席の椅子を作っていく。

 タツヒロは、解体を一頭だけにして、明りの準備を始めた。

 コテージの前庭の一角に明かりが灯るが、周囲も明るいためまだそれほど目立たない。

 そしてタツヒロが椅子作りを引き継ぎ、トシは食器の複製を始める。


 そんな宴の用意が終わるか終わらぬか位で、ゴブリン達がやって来る。

 次長を先頭に、村長や長老、子供たちも来ている。


(あの年老いた感じのが、長老とかいうやつか?)


 若干、失礼な感想を頭に浮かべながら、ナベはゴブリン達を観察する。

 サイズの小さいのは、子供という認識でいいのだろう。

 その前提で、子供が十五人、大人が七十三人。

 帰り道で次長に聞いたところ、ゴブリンの大人でも、人間の半分ぐらいしか食べられないとの事だった。

 なので、人間換算で五十人前を目安に用意すればいいか?と考えていたナベは、取り急ぎ、アイアンボアの試食をすることにした。

 いわゆる、バラとロース、モモに相当する部分を網に乗せる。

 焼き加減、味わい、それらを確認し、どの肉をバーベキューにするか決める為だ。

 炎が上がるほど脂が溶けたバラを箸で掴み、付けダレに浸し、口に運ぶ。

 柔らかい食感と、思った以上に脂が甘く、香ばしい。

 手伝いのゴブリンにも、その口に運んでやる。


「・・・旨い! これがアイアンボアですか! 生まれて初めて食べました」

「生まれて初めて、は俺も一緒だな」


 旨いものを食べたときの喜びに、種族の違いはあまり無いもんだな、と呑気な感想を頭に浮かべながら、ナベは他の肉も試す。

 モモは、ほぼ赤身で味が濃いのだが、歯ごたえが若干硬めだった。

 ロースは、その辺のバランスがいい。

 モモはタルタルステーキや、バラと混ぜて挽いてハンバーグが旨そうだ。

 今日の人数なら、バラとロース、ヒレ、肩ロースで充分だろう。

 肩とモモはしまっておくことにした。

 味見も終わったところで、ナベが改めて次長に挨拶する。


「おお、次長、着いたか。こっちももう少しで用意が終わるところだ。とりあえずその辺の丸太を椅子にして座っててくれ」


 その言葉に、次長と村長が連れ立ってナベの元にやって来る。


「誠人様、本日はお招きいただきありがとうございます。狩りの成果も上々だと聞いておりました。また、我が孫(・・・)の命も救っていただいたとの事、感謝してもし切れません、弘樹様には改めてお礼を・・・。誠人様からの申し出の件、次長、もとい息子(・・)より話しはお聞きしております。本当に、我らの忠誠を受けて頂けるのでしょうか? 我らの主となって頂けるのでしょうか? 我らに加護をお与え下さるのでしょうか?」

「ああ、すべてに応だ。だが、この話しはこの様な形でする話しではあるまい。まずは飯にしようではないか。その後でも遅くは無かろう?」

「仰せの通りに」


 ナベが逸る村長を宥め、次長が応じる。


「そうでしたな。逸りすぎておりましたわい。まずは皆との食事を楽しむとしましょう」


 村長も自覚があったのか、言葉通りにナベの提案に応じる。

 そのまま用意も整った皆の元へ戻り、村長がゴブリン達を見て告げる。


「今日は、剣神様のお弟子様であるお三方が、このように我らをお招きくださった。皆、くれぐれも粗相のないようにな」


 その村長の言葉を引き継ぎ、ナベが声を上げる。


「本日は、合同での狩猟、お疲れ様でした。成果も上々で大きなケガもなく狩猟を終えることが出来ました。お互いが協力して取った獲物を、分かち合おうというのが本日の趣旨です。では皆さん、楽しくやりましょう」


 ナベの声に、ゴブリン達の楽しそうな声がこだまする。

 ほとんどのゴブリンに取って、アイアンボアは未知の味だ。

 トシやタツヒロもそうだろう。

 ナベは、料理人見習いスキルの本領発揮とばかりに焼き方に徹する。

 実は持ってきた炭はこれで最後なのだが、大盤振る舞いだ。

 所詮、炭なら焼けば作れる(・・・・・・)ので、実はそれほど心配はしていない。

 そんなナベの前には、各自の皿を持ってゴブリン達が並んでいる。

 そんな皿という皿に、焼けた肉をどんどん放り込んでいく。

 トシとタツヒロも、付けダレと塩の二種類の味付けをゴブリン達に教えながら、自分達もアイアンボアを堪能している。

 ナベの隣には、先ほどのゴブリンがまたもや手伝いにくっ付いている。

 下味をつけた生肉をナベに渡し、焼けた後の網をブラシでこすり、もはや弟子状態だ。

 ナベも満更でもない様子で、手伝わせている。

 その内、タツヒロが缶ビールを出し始め、一部のゴブリンが酔い始めると、騒ぎは佳境に入る。

 食うもの、飲むもの、踊るもの、焼くもの、普段のうっ憤を晴らすが如く、皆が楽しむ、楽しむ、楽しむ。


 かくして夜は更け、一人、また一人と幸せな眠りに落ちていった。

20170427:大人が七十一人 > 七十三人

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