35話 スカウト
一服終えたナベが、同じく一服終えたタツヒロに時間を確認する。
「タツヒロ、獲物の冷却って、あとどのぐらいだ?」
「あと一時間無いな。三~四十分ってところか」
「やっと、そのぐらいまで来たか・・・」
そうこうしている内に、ゴブリン達も三々五々、戻って来る。
最後に次長が到着し、全員が揃った。
「遅くなりました」
次長の挨拶に、ナベが答える。
「お疲れさま。どうだった? 何か良いのあったかい?」
「そうですな、まずまずといった処でしょうか・・・」
「そりゃあ、何よりだ。・・・ところでなあ次長さん、ちょっと込み入った話があるんだが、いいかい?」
「? ええ、構いませんよ?」
「じゃあ、ちょっとこっちへ・・・」
ナベは次長を伴って、トシとタツヒロの元へやってくる。
そのまま、倒木に腰かけ、タバコに火を点けると、次長にも席を勧め、そのまま話しを始める。
「次長さん、さっきの話しだが・・・、君らは現在、主を得られていない、近々に得られる目途も立ってない、だが、主を得るのは種族の悲願である、こういった事を話してくれたよな?」
「確かに、お恥ずかしい話しですが、仰る通りです」
「単刀直入に聞こう、君らは我ら三人を主として迎える事が出来るかね?」
「え? 突然、どうしたんですか?」
「なーに、君らのいない間に、急きょ決まったからな。突然の提案になってしまっているのは勘弁して欲しい」
「え? ちょっと待って下さい。話が見えませんよ? 我らはただのゴブリンですよ? 力無き草ゴブリンの、小さな村です。100人にも届かない、数すら揃えられない、弱き集団です。それの主となる利がどこにあるんですか?」
「いや、そういう事は全部承知の上だ。それを言うなら、俺達だって、この世界に迷い込んだ異物なんだよ。この世界のあぶれ者という意味じゃお互い様なんだよ。それに加えて、この世界の常識を俺達はよく知らない。だから俺達は、俺達のやりたい様にやっていく事にしている。お前らを配下にするのも、同じ事なんだよ。弱いだの、数すら揃わないだの、そういう事はこの際どうだっていいんだよ。俺達がそうすると決めたんだからな。後は、お前らの意志だけが問題だ。付いてくるなら悪いようにはしない。どうだ?」
「「(出たー、ナベ得意の細けーこたあいいんだよ作戦ー!!)」」
熱弁?を揮うナベを余所に、トシとタツヒロは誰にも聞こえないような小声で、ナベにツッコミを入れていた。
それが聞こえる筈もない次長が、ナベの問いに答える
「・・・ですが、本当によろしいのですか? 我々のような者を・・・、その・・・、配下に加えるというのは、本当に大丈夫なんですか? 足手まといになるのではありませんか?」
「ああ、その辺はしっかり鍛えてやるから、安心しろ。甘く優しいだけの主でいる積りは無い。そこは勘違いするな」
「・・・判りました。私に否やはありません。村に帰り、村長や長老とも話をします。これは、お三方から与えられた望外の機会です。これを逃す手はありません」
「分かった、ゴブリン達への話しは任せる。もちろん、その場には俺らも立ち会おう」
「はい、よろしくお願いします」
「トシ、タツヒロ、そういう訳だから、村に一度向かうからな。オッケー?」
「「オッケー、オッケー」」
二人は返事をし、立ち上がる。
タツヒロは獲物の様子を確認したいと川へ向かい、トシはタツヒロから借りたであろうタバコを睨みながら、複製魔術を練習するらしい。
ナベはタエを呼び、典膳と話しをする。
「今回も全部聞いておったわ。委細承知じゃ」
「あ、もうお聞き及びでしたか。成り行きではございますが、そのような流れとなりまして、彼らを迎えることにしました。もちろん彼らに拒否されれば、それまでですが・・・」
「そなたらも物好きよのう・・・。まあ、儂の方から特に反対はせぬ。思うがままやってみなさい」
「はい。それで別件なんですが、タツヒロが弓を教えたい者がおるそうで、次長の娘だそうです」
「あー、あれか? タツヒロを迎えに来た者じゃな」
「何でも、自分で教えるのと、お師匠に教えを乞う間、そばで一緒に修行させたいのと、そんな事を申しておりました」
「それは構わん。一人でも弟子が増えるのは善き事じゃからな」
「分かりました。タツヒロにもお師匠から、正式に許可が出たと伝えておきます」
「それでな、これより一月ほどは、午前中に修行を行い、午後をそなたらの時間に使うがよい。暮らし向きを整えるのも、大いに大事じゃからな」
「ご配慮、恐れ入ります。では、明日からはそのように」
「・・・ところでのう誠人よ。先ほどの戦い、何故に飛燕撃を使わなんだ? そなたの力があれば充分に飛び道具足りえたであろうに・・・」
「師匠の技は師匠に習ってから、と思っておりましたので・・・」
「そんな事か・・・、律儀よのう、そなたは・・・。誠人よ、まずはそこより無事に戻って来なさい。そなたの剣が皆を守るのじゃ、良いな?」
「心得ました」
典膳との話しが終わったナベを、トシが呼びに来る。
「タツヒロが相談したいそうだ。川岸まで来てくれとさ」
「了解、ちょっと行ってくる」
トシの修行結果にほくそ笑みながら、川岸に向かう。
川岸では半身を打ち上げた、アイアンボアが五頭、仲良く?並んでいる。
「おお、ナベ、こっちだ」
「どした、タツヒロ、何かあったか?」
「いやさ、これくらいならもう大丈夫かなと思って、調理担当者の意見を聞きたかったんだよ。かなり粗熱は取れてるし、このぐらいまで下がれば、もう問題無いかな? どうよ!」
「どれどれ・・・、・・・うん、・・・うん、・・・まあまあ、いいんじゃね? 解体担当としては問題ないんだよな? なら、これでいいと思うぜ?」
「ああ、こっちは問題無かったからな。じゃあ撤収準備するか・・・、あ、アイアンボアは、直接取り込んでくれ」
「分かった、やっとく」
そのままタツヒロは、皆に撤収を伝えに行く。
ナベの絶界を見ていたゴブリン達は、見た目は次々とその手の中に消えるアイアンボアを見て、またもや呆気に取られていた。
帰り支度も終わり、早々に撤収する狩猟団一行。
今回は、半分採集団でもあったのだが、そのどちらも、大漁!と言ってよい成果だった。
ちょっとした凱旋気分である。
足取りも軽やかに、帰途に就く一行だった
ちなみに、レッサー・オーガの襲撃時に、近くをかすめていったアイアンボアは、結局戻っては来なかった。
ナベは、行方が気になっていたが、考えても判らない事なので、その内考えるのを止めていた。