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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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31話 獲物追加で!

 歩き始めた矢先に、ゴブリンの次長が、思い出した様にタツヒロに問いかける。


「そういえば、村ではアイアンボアの解体が出来ないのですが、如何いたしましょうか」

「ん? それってどういうこと?」


 タツヒロが確認したところ、これだけの獲物は、村の近くの泉では(大きさ的に)入らないため、解体用の冷却が出来ないこと。

 冷やすには、川まで行かないとアイアンボアが入りそうな水場は、近くには無いこと。

 川は一番近いところで、東南東位の方向で、今から行って冷やすとなると、とても昼までには戻れないこと。

 これらを鑑み、どうしたらよいかの相談だった。


「それと、川の近くにアイアンボアの生息地があると聞き及んでおります。詳しくは行ってみないと分かりませんが、その様に言い伝えられており、我々は近付いた事がありませんでした」


 次長の言葉に反応したのはナベだった。


「さっきのをもっと狩れるって事か。なら行くしかねえだろ。タエ、お師匠に狩りが長引きそうなので、お昼より少し遅れると伝えてくれ」

<誠人、聞こえておるわ。まあよい、余り遅くならずに戻る事じゃ。留守は、このまま引き受ける故な、安心して行ってこい>

<お師匠、すみません。ではもう少し、遠出して参ります>

<うむ、気を付けてな>


 典膳とのやり取りを終えて、ナベが皆の方に向き直る。


「よし、お師匠には許しを頂いたので、川まで向かおう」


 その言葉を合図に、二人増えた狩猟団は川岸へ進路を変更した。

 ゴブリン達も、食料が増えるのは大歓迎なので、否やは無かった。


 進路が、少し下り気味になってきたところで、次長から声がかかる。


「この先の、坂が途切れた辺りから、アイアンボアの縄張りに入ると聞いております」


 聞くところによると、アイアンボアは、群れをしっかりと作る性質らしく、縄張り意識が他のイノシシより強いらしい。


「なら態勢を本番用にしておこう。トシ、先頭を頼む、次は俺が入るよ、俺の後ろがナベ。ナベはゴブリン達の盾も頼む。彼らではアイアンボアは(対抗するのは)無理だ」

「分かった、露払いは任せろ」

「よし、ゴブリン達は俺の陰に隠れてるんだ。いいな?」

「「「はい!」」」


 改めて狩猟の為の布陣を組み、接近を開始する狩猟団一行は、そのまま下り坂に入る。

 トシは、獲物への接近とあって、下りでも無用に速度を上げずに進んでいく。

 皆の目にも、森が途切れ始めて来ているのが分かる。

 アイアンボアの縄張りは、どうやら木々が疎らなようだ。

 疎らな理由も近付くにつれ、分かってくる。

 倒木が多い。

 倒れたのか倒した(・・・)のかの区別は付けられないが、とにかく倒木だらけだった。

 トシが、一度歩みを止めて皆を振り返る。


「あれは厄介だぞ?」


 トシが指し示すのは、色々な角度で横たわる倒木が、一行の行く手を阻む様だった。


「こうなると、無尽弓・爆穿しか打つ手がない・・・のか?」


 タツヒロは提案するが、やる気は無さそうだ。

 あんなモノ打ったら、獲物は諦めるしかないであろう。

 あの爆音に平気でいられる様な動物など、自然界にいる訳が無い。

 タツヒロの提案は、ほぼ最後の手段だった。


「音無しのヤツがあるにはあるが、出せるかどうかは判らんな。一発勝負だ。出せなかったら、タツヒロのでいくしかない」


 それでいいならやるぞ?、とナベがトシに確認する。


「いや、止めておこう。周りの森を見ると、北の方が近そうだ。北廻りに迂回しよう」

「よし、じゃあ北廻りに進路を取って、川に出る事にしよう。途中で襲ってきたら・・・、仕方が無いが迎撃だな・・・」


 トシの提案をタツヒロが了承し、北に向かって歩き出す。

 しばらくすると、倒木地帯の北側まで来たようだ。

 そこから、進路を東に転じて更に進む。

 少しして、ナベが声を上げる。


「俺の感知範囲に反応が出てきた。南東に三つ、東に一つ」

「前か・・・、前のヤツは俺がやるから、ナベは南東のヤツに気を付けてくれ」

「分かった」


 少し行くと、またナベが声を上げる。


「東が二つ、南東は七つ、南に新たに五つだ」

「お、前のヤツを感知した。始めるぞ」


 そう言い置いて、タツヒロが弓を構える。

 トシが脇にどけて、タツヒロの前を空けた。


「無尽弓・穿」


 短く呟き、目を瞑って矢を放つ。

 今度も、気配に当てるつもりだった。

 狙った気配が動かなくなり、二の矢を番える。

 しばし、狙いを定め、矢を放つ。

 二つ目の気配も動かなくなる。


「おいおい、タツヒロ、それで当たるのか?」

「ああ、気配でおおよその照準は付けられる。後は速度勝負だ。音速を超えないようにだけ、気を付けてるよ」


 ナベの問いをサラッと交わして、歩き始めるタツヒロ。

 トシが慌てて、露払いに戻る。


 その後、もう一頭捕獲し、都合三頭を仕留める内に、南側の倒木地帯の気配は三十頭を超えていた。

 日は、既に正午を回っている。

 次第に前方の木々が疎らになってくる。


「間もなく川に着くはずです」


 ゴブリンの次長が、三人に声をかける。


「さて、アイアンボアを沈める準備が必要だな。トシ、ナベ、その辺の木に絡まってる蔓草を集めてくれ。長めだといな」

「はいよ」

「頑丈なやつだな?」


 タツヒロの指示に、ナベとトシが返事をして作業に取りかかる。

 ゴブリン達も、同じように蔓草を集め始めた。

 それなりに蔓草の量が貯まり、それで簡易ロープを編みはじめるタツヒロ。

 それを五本用意して、ナベが隣接空間からアイアンボアを五匹取り出すと、タツヒロが器用に、それぞれの首に巻き付けていく。

 最後に、五本を束ねるロープを編んで、近くの木に結び付け、アイアンボアの腹に石を入れて、全てを川に沈めた。


「これが冷えるまでだから、それなりに時間が掛かりそうだな」


 タツヒロが、状況を説明すると、ナベが聞き返す。


「それなりにっていうと、どのぐらいだ? 二〜三時間か?」

「まあ、最低でもそのぐらいかかるな」


 タツヒロの返答に、ナベが顔をしかめる。


「失敗したなあ、昼の用意をしてこなかった。昼飯、どうする? 帰ってからでいいか?」


 ナベのしかめっ面の理由が分かり、タツヒロが笑って答える。


「俺は、多少遅れても構わないよ。狩りなんてそんなもんだ」

「俺も構わん。その分、夕飯が楽しみだし」


 トシもタツヒロも、杞憂だと返答する。


「なら、そういう事で勘弁してくれ。その分、夕飯は凄い事にするつもりだから」


 ナベは、早くも夕飯のメニューを考えているような素振りで、タバコに火を点ける。

 俺も、と言いながらタツヒロもタバコを取り出し始めた。

 この辺で休憩にしよう、とトシがゴブリン達に告げる。


「仕事の後の一服は、たまらんねえ」


 ナベの満足気な声が、辺りに響いていた。


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