23話 邂逅
トシが前衛で藪開き、中盤にナベが警戒監視で周囲を感知、タツヒロが後方から弓で待機、この順番で森に入ることになった。
天気は上々、気温も少し暑さを感じる程度で不快指数は低めの、外歩きにはうってつけの状況だ。
木々が生い茂っており、最初の目的地である“力の気配”を感じる場所を見渡すことはまだ無理だが、下草は思ったより少な目で、切り開くトシの鉈はまだまだ勢いがある。
道行きは若干上り気味だが、息が上がるほどではなく、三人ともまだ余裕を持ってる様子だ。
「しかし、獣道すら無い完全な山探索は、春以来だなあ。時間があればキノコ狩りしたい感じの森だ」
山歩きの好きなトシは、機会があれば春の山菜取りは参加している。
春の山菜取りや秋のキノコ狩りは、基本的に道無き山探索になるので、こういった状況には慣れっこだ。
ナベやタツヒロはその限りではないので、素直にトシを称賛する。
「やっぱ、慣れてると違うなあ」
「鉈使いもさ、適当っぽいくせに、振るとスパッと正面が空くよね」
だが、そういう二人も、トシの後ろを遅れることなく付いて行く。
傍から見てると、とても山歩きとは思えない速さで進んでいく三人だが、本人達にその自覚はない。
目的地の方向は、コテージのあった場所から見ると東南東から東南の間ぐらいだ。
ずっと進んできたその方向に森の切れ目が見えてくる。
「あの辺で森が開けてるな。あの辺は岩場なのかな?」
トシが立ち止まって二人を振り返る。
まだまだ距離はあるが、二人にも様子が変わったのが見て取れる
「どれ・・・、山肌っぽいものが見える辺りで森は切れてるが、その脇の方には続いてるなあ・・・。あの山肌、なのか大きい岩なのか判らんが、その辺りだぞ、“力の気配”は」
ナベが、遠見で状況を確認する。
その結果を報告し、トシとタツヒロを見やると、トシが方針を伝える。
「10mぐらい手前までこのまま進もう。そこまで行ったら、ナベが先行、タツヒロ、俺の順であの山肌に近付く。ナベは“力の気配”の感知を怠りなくやってくれ。事態の変化が起きた場合は、全員すぐに報告して事態の共有、だな。じゃあ行こう」
トシの指示に二人は頷き、また山歩きを開始する。
交代予定地点に近付くにつれ状況が判明してくる。
山肌と見えていたのは大岩であり、その南側の方に森が開けていると思しき空間がある。
その周囲以外は森が続いており、その辺りだけが様子が違っていた。
ナベの警戒監視には、未だ生き物の気配は浮かび上がってこない。
息を潜めつつ、そのまま森の切れ目を抜けるナベ。
目の前に拡がるのは、大岩の根元から半円に広がる赤茶けた地面と、その地面の先に続く森、そして青く清んだ空だった。
それを見て、トシが真っ先に口を開く。
「切り取ったように、キレイに森が途切れてるな。地面も、死んじゃあいないが大分枯れてる」
それを聞いて、ナベが言葉をつなぐ。
「“力の気配”は、大岩の中の方からだな」
タツヒロも、動くものがいないことを確認し、弓を構えての警戒を解いて呟く。
「とりあえず、動くものはいなさそうだが・・・。またキレイに、ここだけ地面が見えるねえ。大岩が中心になってる感じだよね・・・、あれかな?」
タツヒロが言い終えて指差す先には、大岩に開いた洞穴のようなものが見える。
よく見れば、二つの大岩が人の形に寄り添っていたようだ。
その岩と岩の隙間が、穴の様に見えた様だ。
「うーん、あれだな。ってか、あの中だ」
タツヒロの指差す方法を見て、ナベも同意する。
「自然現象か、はたまた、鬼が出るか蛇が出るか・・・」
そう、嘯きながら近付こうとするトシを、ナベが止める。
「いや、俺が行く」
そう言って、トシを後ろへ追いやり、気合を入れた目付きで隙間に向かう。
見るものが見れば、爆発的なマナの循環がナベの周りに起きているのだが、三人とも気付いていない、というより気にしていない。
意を決して洞穴へ入るナベ。
暗闇に目が慣れるまでの間にも、力の気配は変わらず動きがない。
(やはり、何らかの自然現象と考えるのが妥当か・・・)
ナベは力の気配に注意しつつ、慣れてきた目で穴の奥を見やる。
奇妙なものが見えた。
三本の棒が壁に立て掛けられ、その根元に人骨らしきものが見える。
詳細を確認しようと足を踏み出そうとした途端、それまで何も感じなかった意思が、突然前方から迸り、声と思念が洞穴内に木霊した。
「<ここは主の眠る場所! 早々に立ち去れ!>」
「「「!!!」」」
「誰だ!」
「「ナベ!!」」
ナベの誰何の声と同時に、トシとタツヒロが洞穴中に突っ込んでくる。
「<もう一度言う。ここは主の眠る場所! 早々に立ち去れ!>」
「主とは誰のことだ!」
「<立ち去らぬというのであれば、妾が相手を致す! 覚悟は良いな?>」
「だから、お前は誰で、主は誰だと、聞いてるだろうが!!」
ナベの問いかけに答えず、臨戦態勢になろうとする相手に、ナベは勢いで優ろうと気を張る。
その瞬間、二人にすら判るほど、ナベから感じる気迫が言いようの無い圧力となって噴き出す。
「<くっ・・・、この気勢・・・、其方は何者だ!>」
「ほう、気迫で優れば話しも出来る、か。ならまずは確認したい。主の眠る場所ということは、ここは墓か? その亡骸が主とやら?」
「<・・・如何にも。ここは我が主の眠りし陵墓なり。この亡骸こそ我が主、小野次郎右衛門忠明様じゃ>」
「ここが墓所という事であれば、押し入った当方の不始末。まずは詫びを入れよう」
「<ほう、押し込みの類にしては殊勝な物言いよ>」
「そこだ、まずは誤解を解きたい。我らは押し込みの類に非ず。この洞穴内に力の気配を感じ、調査に参った次第。その点だけは特に念を押しておきたい」
「<物盗り以外がこの様な場所に来るとは、到底思えんな。妾が狙いではないのか?>」
「・・・そこで最初の問いに戻らせて頂こう。今、俺に話しかけているアンタは誰だ? 名乗れない、姿を見せられない理由があるのなら、言って貰えれば、こちらも善処しよう!」
「<先ほどから、そなたの目の前に居るは! 我が名は絶! 絶の守護者にして、この陵墓の守り人、絶じゃ!>」