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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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22話 力の気配

 昼食は、インスタントラーメンの麺を使った焼きそばになった。

 タツヒロからは、ラーメンのリクエスト(好きな銘柄の袋ラーメンだったらしい)を出されたが、これから動くのに、汁物を腹に入れるのは如何なものかとトシに諭され、折衷案として焼きそばにしたのだった。

 付いてきたスープの素を味付けに使ったため、タツヒロの食べたい味に近かったらしく、無言のサムズアップという評価を頂いたナベであった。


 早めの昼食にした為、ナベとタツヒロが一服し終わっても、まだ昼を過ぎたくらいだった。

 トシは、何やら棒を立てて影の長さを測っていた。


「トシ、何やってんの?」

「ああ、何でもない。データ取りだ」

「ふーん」


 トシとタツヒロの会話を後にし、後片付けをするナベ。

 そのまま、鍵もかけてきたようだ。


「念のためだが、ナベ、このコテージ一帯に絶界をかけることって可能か?」

「可能なはずだが・・・、うん、やってみよう。じゃあ、準備が終わったら外に出てくれ。渡りの範囲に重ねるように絶界をかけてみる」

「オッケー」

「大丈夫だ、やってみてくれ」


 二人から、外に出た旨の声がかかる。


「絶界・透」


 ナベは、間違いの無いよう、音声で絶界・透をかける。

 自分だけなら、かけた座標を空間的に記憶(・・・・・・)してるので、視覚的に見えなくても問題ないのだが、二人のその辺の加減が判らず、コテージが見える方を選択した。


「これが絶界かあ・・・。力場があるというが、良く判らんな・・・。少なくとも、術系統の力ではない事だけは確かだ。まあ、術なら術で破られる可能性があるから、これでいいんだろうが・・・」

「力場に囲まれた空間には入れないんだよね? どうなるんだろう・・・、(うわ!)」


 そう叫んだタツヒロの体が、半分だけ空間に消えていた。

 そして、コテージの向こう側から声がする。


「(こっちに出てきた! ホントに入れないんだ・・・。これで戻ると?・・・)、おお、戻れた。普通に一歩踏み出しただけなのに、向こうの景色が見えたよ・・・」

「なるほど、結界としては充分だな」

「じゃあ、俺も試運転しとかないと、だな」


 そう言って、タツヒロが無造作にアーチェリーを構える。


「無尽弓」


 そう言いながら、矢を引く動作を始めると、同時に矢のような光が現れ、それが弓の引き終わりと同時に、矢として結実する。

 そのまま矢を放ち、それは遠くの木の幹に吸い込まれるように刺さる。


「もう一丁、無尽弓・穿(せん)


 今度の矢は、先ほどより矢じりが長く太い。

 それが、先ほどの矢と同じ軌道を通り、同じ木に刺さる。が、その勢いは先ほどと比較にならない。

 先ほどの矢は、矢じりが埋まる程度だったが、今度の矢は、その身の半分近くまで木の幹に埋まっているのを、ナベが遠見で確認している。


「最後はこれだ、無尽弓・爆穿(ばくせん)


 最後と言っていたその矢は、明らかに異形の矢だった。矢じりが存在せず、先端部分は削られたように、尖っているだけだった。

 そして()(アーチェリーでいうアローのシャフト)の部分が太く、矢羽も含めて金属らしき材料で出来ていた。

 石弓のボルトに似た構造だが、長さが違う。

 さらに異様だったのは、その矢が放たれた後だった。

 先ほどと同じ木に向かうその矢が加速(・・)するのを、トシだけ(・・・・)が捉えていた。

 もちろん、その直後に発生した爆音(・・)はナベにも判った。

 標的のはずの木は爆散していた。

 しかも、その惨状は(後で調べて分かったが)標的の木の後ろに100m近く続いていたのである。


「・・・おい、タツヒロ・・・、お前、何を(・・)しようとした?」


 トシの顔から表情が消えていた。

 トシは、タツヒロがやりたい事が判っていて(・・・・・)、確認を取っていたのだ。

 悪戯がバレた子供のように、挙動不審になるタツヒロ。


「いや~、ほら、何ていうのかな、その~、イメージの確認というか、アビリティの確認というか・・・、あれだよ、ちゃんと出来てるかな~、的な?」

「今の最後のやつ、APFSDS(・・・・・・)だろ、違うか?」

「おお、さすがトシ、スキル通りの博識~」

「・・・やっぱりな、ってゆーかなあ・・・、やり過ぎだ! あの向こうに、もし人がいたらどうするつもりだったんだよ!」

「そりゃあ、俺だってちゃんと仰角つけて打ったし、大丈夫、大丈夫」

「ともかく、あれは禁止! しばらく禁止! あんなの打ったら、獲物が獲物になんねーよ! 獲物を爆散させてどうするつもりだったんだよ!」

「いや~、だからテストじゃん、テスト。狩りじゃあ使わないからさ、なあ、ほんのちょっとした出来心だったし、勘弁してよ」

「ホントに使うなよ? あんなの戦争ぐらいしか出番ねーからな?」


 二人の言い合いに珍しく参戦しなかったナベが、頃合いを見計らってトシに訊ねる。


「まあ、タツヒロもさ、もうしないって言ってるし、許してやれよ。・・・しかし珍しいな、すごい剣幕だったぞ? あれってそんなにヤベー(・・・)のか?」

「・・・ナベ、タツヒロが出して打った最後のアレな、・・・最新型の対戦車徹甲弾と言ったら、どう思う?」

「はあああああ? 対戦車徹甲弾?」

「ああ、APFSDSって奴だろうな。魔力のおかげで炸薬とか必要無いからな、最初見た時はピンと来なかったよ。音速超えた(・・・・・)時点で判ったけどな」

「音速って?」

「ナベも爆音聞こえたろ? あの時点で音速超えてるんだよ。APFSDSとして機能させるテストなら着弾時は、秒速千五百とかだよな?タツヒロ」

「ああ、そうなるようにイメージした。挙動テストとしては大成功だよ。俺って意外にイメージ力あるもんだってのが判ったよ」

「イメージ力で人間戦車かよ・・・」

「でも初速が弓ベースだからさあ、加速でどう頑張っても150m使うなあ・・・、標的までの距離としてそれ以上の距離が無いと、威力が出ないのが判った。これは大きい収穫だ」


 どうやら、医学部の同期の一人にミリオタがいたらしく、FPSやら動画やらで色々とミリ知識の薫陶(・・)を受けたらしい。


「まあ、なんだ・・・。いざという時の為には、準備は必要だからな・・・」


 トシも、タツヒロを注意しつつ、自分達に取って、万が一の時に役立つアビリティであることはしっかりと認めているのだった。


「う~ん、どうも変だなあ・・・」

「どした、ナベ」


 ナベの呟きに、タツヒロが応じる。


「うん、さっきから俺の警戒監視で、獲物の当たりを付けてんだが・・・。状況がイマイチ掴めん・・・」

「どういう感じなんだ?」

「まず、動物らしき気配は無い(・・)、はずなんだが、でかい力の存在を感じる。そしてそれが生き物かというと、生き物に有るはずの意思(・・)が見当たらない」


 ナベの感知結果に、タツヒロが落胆する。


「って事は、周囲1kmの範囲で、獲物は見つからないのか・・・。探索範囲を拡大しないといけないなあ・・・」

「ナベ、その力を感じるところって近いのか?」

「近くはないが、遠くもない・・・はず!、途中で川とか谷とかあったら勘弁な。トシ、行ってみるか? 少なくとも獲物にはなりそうもないぞ? ただの自然現象なのかもしれん」

「いや、それならそれで、特定しちまった方が後々役立つ。少なくともその気配以外を探せばいいんだからな」

「まあ、そういう事なら調査して状況を確定させるか・・・」


 調査の工程が決まって、すぐに行こうとタツヒロが急かす。


「じゃあ、その力の気配(・・・・)経由、獲物行きで出発だ~」

「タツヒロは、試運転が上手く行ったからか、何かやる気が違うな」

「まあ、そういう意味じゃ、俺も似たようなもんだけどな」


 ここにも、足取りが軽めのやつがいたなと、改めて思うトシであった

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