21話 一応、ブリーフィング、的な・・・
トシが装備を持って外のテーブルセットに戻り、二人がまだ掛かりそうなのでお茶を入れにコテージに入り、お茶の用意をお盆に載せてまたテーブルセットに戻ってきた辺りで、ようやくタツヒロが我に返る。
その後、タツヒロと自分のお茶を淹れ終わったタイミングで、やっとナベが我に返る。
そのまま、コーヒーを淹れ、ナベに渡したところで初めてトシが口を開く。
「で? 結局、どうなったのよ?」
余りに無口な二人を見て、笑いが込み上げて来たのか、面白がる様に問い掛けるトシにナベが答える。
「え?、ああ、わりいわりい。何か、頭の中でやり取りしてた余韻でな、そのまま考え事に没頭してた。どうなったか・・・、うん、それなりに収穫はあったよ。それなりに・・・」
「おお、楽しみだな。で? タツヒロはどうだった?」
「ああ、俺の方もそれなりに収穫あったよ。やっぱ大事だな、こういう事は」
「そういや、二人の術適性ってどうなってんだ? 使えそうなの、あったか?」
ナベの問い掛けに胡乱げに答える二人。
「「術適性?」」
それを聞いてナベが、若干、ドャ気味に解説していく。
「ん? 何だね? 知らないのかね、チミ達。素人はこれだからねぇ・・・。この世界の術にはね、適性というものが存在するのだよ。その適性値次第ではね、術の習得がチビシイというのが、この術業界の常識で・・・」
「おお、これか。俺の術適性は、魔力が8.5、精霊力が3.3、法力が1.3、霊力が3.5らしいな。魔力が高めか・・・」
「トシ、俺の方は、魔力が6.8、精霊力が6.4、法力が1.3、霊力が4.7だったよ。程々に両方イケそうな感じかな」
ナベの小芝居を華麗にスルーして、技神に詳細を確認する二人であった。
「お、おう、・・・ふ、二人とも術系は、た、高めだねぇ、アハ、アハハハハハハハハハハハ・・・ハァ・・・」
「・・・ナベ、笑顔が引きつってるぞ?」
二人の術適性を聞き、自分の魔力適性に思いを馳せ、肩を落とさざるを得ないナベであった
「ナベはどんな感じだった訳よ?」
「おお、タツヒロ、よくぞ聞いてくれました。俺の適性は、魔力が1.5、精霊力が5.5、法力が1.3、霊力が10だった」
「他の数字はさておき、その霊力の10ってのがスゲーなあ。あとは全員一桁台なの考えると、なかなかの数字だよな。俺の最大で8.5だから、そこまでは到底届かないし」
「それを言うなら、俺のなんか最大が6.8しかないし・・・。器用貧乏とかにならないと良いんだけどねえ・・・」
「しかし、あれだな。全員、魔術か精霊術の適性が在るわけだ。そんで、揃いも揃って法力が低いってのが、笑っちゃうよな。あとは、霊力に関してはナベが抜きん出てるが、俺とタツヒロはそこまでじゃないな」
「ああ、霊力に関しては、注意して使えってヒメに言われたよ。・・・あ!?」
自分の失言に気付くが、時既に遅しのナベだった。
「ヒメ、だって。プッ」
「タツヒロ!、・・・いいじゃねぇかよ、別に・・・」
「!?、ってか、ヒメってナベん家で飼ってた、犬の名前じゃねーかよ。それもどうよ・・・」
「あと浮かばなかったんだよ! 適当な名前が! そういうオメーだってレイチェルだろ? 誰だよそれ」
「あー、レイチェルな。レイチェルってのは、実はウチの大学にいた留学生なんだよ。イギリス人だったかな?、確か。出来る感じの、落ち着いた綺麗な人でさあ、もうこれぞ、the秘書って感じで、すぐにイメージが湧いたよ。で、そのまま付けた」
「そのまま付けた、って・・・。そんじゃ、タツヒロの方はどうなんだよ?」
「あ、さっきのやり取りでは執事のギルマと言ってたよなあ。タツヒロもあれか? 誰かモデルいるのか?」
「ああ、ケニヤ時代に家にいた執事さんだよ。黒人だったけどロマンスグレーって感じでさ、執事の鑑みたいな人で、その当時、俺は坊ちゃまと呼ばれてたけど、親父が旦那様って呼ばれてるのに憧れてたんだよなあ・・・。それでイメージを借りた」
「なるほど、それで執事のギルマさんな。しかし、さすがタツヒロだな。そういうの聞くと、俺とかナベの人生なんて、極々普通なんだなとしか思えんは」
「トシ、技神ネタは、もうこの辺でいいんじゃねーか?」
「おっと、そうだな。肝心のスキルがどうなったか、それを聞きたい」
トシのリクエストに応え、二人はそれぞれのスキル構成の変化を報告し、トシがノートにまとめていく。
「二人のスキル構成聞いてたら、俺ももう一段磨けそうな気がしてきたな・・・。まあ、それは後からにするか。しかし、剣豪ねえ・・・。ナベの場合だと、なんかこう・・・“残念侍”って感じだなあ、あの“怒られ侍”的な・・・」
「残念侍・・・、当たらずも遠からずだなあ」
「残念て・・・」
「いやいや、ナベだって多少の自覚はあるんだろ? 嘘はいかんよ?」
「まあ、多少なら・・・、って何言わせんだ、トシ!」
「あれだな、トシ、ナベの二つ名に残念侍ってのを使うのはいいかもな。もっとも、侍がこの世界にいるのかどうかは知らんけど・・・」
「まあ、この辺で勘弁してやろうぜ、タツヒロ」
「うん、まあ、こんなもんかな。ってか、さっきから本題がそっちのけじゃん」
「うーん、ナベの悪い癖が移ってきたかなあ・・・」
「おいおい、その辺を人のせいにすんなっつーの。素質だよ、素質。トシが生まれ持った素質!」
「要らん素質だなあ・・・」
「まあまあ、コントはそんぐらいにして・・・。ナベのアビリティで俺が気になったのは、この警戒監視だっけ?、これ。範囲が1kmって、何気にスゲくね? ナベの感知で獲物探せば、俺、チョー楽じゃん。午後の狩りは、いい獲物見つけんの期待してるよ? 俺も、試運転の無尽弓で必ず仕留めるからさ!」
「その無尽弓も凄そうなんだが、俺は、ナベの絶界が気になる。・・・あのさあ、ナベ、その絶界・封ってさ、もしかして、このコテージ入るんじゃね?」
「「!!?」」
「・・・やっぱ、トシだな。俺にその発想は無かった・・・、後で試してみよう。もし入る様なら、俺達は、もうどうとでも動けるしな」
「ああ、場所に縛られずにこの生活を実現できるのは、非常に魅力的だからな。ぜひとも試そう!」
「よし、じゃあ後は装備とかだな。トシ、何か解体用に良さ気なナイフあった?」
「おお、装備な。ほら、これ見てくれ」
そう言ってトシは、先ほど用意した装備をテーブルに広げる。
そして、タツヒロには剣鉈の小さい感じのナイフを渡し、ナベには特性組み立て素槍を渡す。
「タツヒロはこれ。解体って言っても、現地で細かくはバラさないんだろ? だったらこいつで充分だよ。そんで、ナベにはこれ。山伏修行の時に洒落で作ってたんだよ。“一見錫杖に見せかけて、実は!”的なやつ。あくまでも洒落だったはずなんだがなあ・・・。まあ、ホントの槍には敵わんだろうが、そこそこ使えるはずだ」
受け取った槍を、振り、回し、扱き、感触を確かめるナベ。
「洒落で作ったっていう割には、結構本格的に槍だよ。若干、長さは短いが、バランスは悪くない。叩きは無理だろうが、これだけ根元を止めてれば、突きなら十分に使える。どうもな、トシ。・・・後は、俺の動きで何とかできるかどうか・・・」
そう言うや否や、突如としてナベの体が消える。
その直後、二人の右側から、槍を一振りする刃風が聞こえた。
「おい・・・、ナベ、今のって・・・」
トシの問いかけに、のんびりとナベが答える。
「ああ、剣豪スキルの瞬行ってやつだ」
「ナベ、もう一回やってみてくれ」
「ん? いいよ?」
ナベが答えた瞬間、ナベがまた消える。
今度は、トシだけが左を向いて、ナベと目が合った。
「知覚上昇使って、何とかかよ・・・。100倍だぞ?・・・」
「トシ、今の見えたのか? 俺は、さっきも今も、何が何だか、さっぱり・・・」
そんな二人を尻目に、ナベが暢気な声を上げる。
「お? そうだ、そろそろ昼飯作んねーとな。何かリクエストある?」
二人はさっきの、残念侍という言葉を思い出していた。