2話 プロローグ 2
コテージで待つナベの元へ、二人が現れたのは、4時を過ぎた頃だった。
「いや~、終わった終わった」
そんなトシの言葉と主に、二人が車から降りてくる。
「お疲れ~。ケガとかは大丈夫な様だな」
ナベが二人の方を向きながら、出迎えの言葉を掛ける。
「ナベ、色々と仕入れてきたぞ」
タツヒロが企み顔でそれに答え、荷物を降ろし始めた。
「ナベ、タツヒロに何て買い物頼んだ? 何か、とんでもないことになってるぞ?」
呆れた声音で問いかけつつ、トシも同じく荷物を降ろし始めた。
トシの方は、自分の荷物もあるので、専らそっちを降ろしている。
「ん? タツヒロ、何を仕入れて・・・っておいおい・・・、なんだこの量は・・・」
トシの声を聞いて、ナベは怪訝そうに荷物を確認し、唖然としながらタツヒロに突っ込んでいる。
とても、一泊のコテージキャンプの必要量とは思えない数の買い物袋を見て、ナベも呆れ顔だ。
そんなナベを余所に、タツヒロは余裕の表情で答える。
「まあまあまあ、中身は後で説明するけど心配ないって、俺らなら何とかなるから。で? 飯の具合はどうよ? においはすげー旨そうなんだけど・・・、もうちょっとかかるか?ナベ」
「頼んだものは、揃ってそうだが・・・、まあ、余る分には問題ねーか・・・ 飯の方は、リブがもう少しで出来上がる。焼き肉用の野菜は切ってあるし、焼く方の肉も準備は出来てる。あとは、外で食うか、中で食うか聞こうと思ってたんだよ。このまま外で食うんなら、そろそろ照明を準備しないとな。それが終わればすぐ焼けるぞ?」
ナベの返事を聞いて、二人が抗議の声を上げる。
「ナ~ベ~、これだけの景色が外にあるのに、今更コテージの中で食うと思うか~?」
「ナベ、多少寒かろうが、外で宴会するために、俺は上着買いに行ったんだぞ? その努力を汲んでくれよ。絶対、外な」
どうやら、二人とも外で食う気満々である。
タツヒロもしっかりと、外での宴会の準備を整えてきたらしい。
午前中に、トシを送りに行く時は、
「寒いんだな山って・・・」
などとぼやいていたが、どうやら冬用の上着を仕入れてきた様子で、アウトドアショップの袋とは、そういう訳だったようだ。
「なら照明を設置すっか。明るくねーと飯が旨くなんねーからな。トシ、その辺に電源ドラムが転がってるから、コテージから電源取ってきてくれ。俺は、車から照明関係の荷物取ってくる」
ナベが車に向かおうとすると、トシが答える。
「ナベ、チェーンソーのメンテを、暗くなる前に終わらせたいから、先にそっちやっていい? タツヒロ、悪いんだけど、ナベの車に積んである、俺が持ってきたランタン出してくんね? で、火点けてくれてると助かる」
「ああ、先にメンテやっちまうか。オッケー。じゃあ電源はこっちでやっとくよ」
「トシ、そのランタンって車のどこに入ってるんだ?」
「運転席の後ろの窓の下の辺り。売ってる箱のまま置いてあるから、そのまま2箱共持ってきてくれ」
「わかった、2つともね」
「悪いね、タツヒロ」
タツヒロはナベの車の後ろのドアを開けながら、今朝、寮にこの車が現れた時の衝撃を思い出していた。
(マローダー、って言ってたっけ・・・。何でこんなもんが日本にあんのかねえ・・・。あいつの悪乗り好きも、ここまで来ると天晴れって感じだな・・・。開いた口が塞がらない、ってのを体験できたのは貴重だったけどな)
今朝、この車に乗ってきた時のナベの言葉からすると、この車は日本に一台しかない貴重な車種で、たまたまキャンプ予定日を含めて五日ほどスケジュールが空いていた、らしい。
レンタカー料金は高かったが、どうせ刑事なんて金使うヒマなぞ有る訳がない、だったら一世一代のネタに、パーッと使おうじゃないか!、らしい。
普段はイベントや撮影などで引っ張りだこらしく、借りれた俺たちは超ラッキー以外の、何物でもない! と喜々としたドヤ顔で力説され、トシと二人で引きつり笑いを返すのがやっとだった。
「あ、変な事思い出してる場合じゃないよな、ランタン、ランタン、と・・・」
車を見て思い出してしまった今朝の衝撃を、振り払うかの様に髪を両手で掻き上げ、タツヒロは荷室に入りランタンを探し始める。
荷室の中は、人が一人通れる位の隙間が空けられ、両側は荷物がネットで固定されている。
右側にナベの荷物、左側にトシの荷物という振り分けで積んで来ている。
今、外に出ている、パット見の調理器具の量だけで見れば、断然ナベが持ち込んだ分の方が多いのだが、実際の荷物の量は、ナベがレンタカーから借りたマローダーの、右側半分ぐらいの量しか持ってきてない。
トラック並みであるマローダーの荷室のもう半分と、タツヒロのステーションワゴンの半分はトシの荷物で埋められていた。
マローダーの中で眠っている本格的なキャンプ道具は、全てトシの荷物であり、それに加えて、ワークショップ用の伐採用具やら何やらも分けて積んで来ているので、荷物がかさばるのも当然と言えば当然だった。
トシの場合、ワンゲル部だった事や山登りの経験もあって、寮の一室を使ってガチのキャンプ道具を一通り揃えて管理しており、今回の荷物の中には四人用の二室のテントと寝袋まで入っていた。
今回はコテージ泊まりなので、本来であればほとんどのキャンプ用品は不要なはずだったのだが、マローダーショックから立ち直ったトシが、荷室を見て小躍りしながら、
「念のため!ってやつさ」
という呪文と共に積んで来たのだ。
ナベ、タツヒロとやり取りしつつ、トシはワークショップで使ったチェーンソーを持って、コテージ前の水道のところへ向かう。
パッと見で目立てまでは必要なさそうだったので、各部のゴミ取りだけを行う。
一通り終わったら、盗まれないようにタツヒロの車のトランクへしまうだけだ。
メンテが終わったトシとタツヒロでランタンを点けている間、ナベは電源ドラムをクルクル回しながらテーブルの近くにやって来て、持ってきた屋外ライトをスタンドに取り付け、ドラムに結線している。
宿泊客など、ほとんど居ないはずなのだが、一応、他のコテージに迷惑にならないよう、念入りな角度調整は欠かせない。
「・・・ふう。これだけ照明があれば、まあ暗くなっても何とか見えんだろ」
ナベの雑な見積もりに、ナベが炊いていた屋外ストーブから、火のついた薪を取り出しタバコに火を点け、タツヒロがさらに雑に返す。
「まあね、なんとかなるっしょ」
トシも判ってるよという顔をして、
「どうせいつも通り、飽きるまで焚火もすんだろ? 何とかなんじゃね?」
と同意しながら缶ビールを配る。
一段落だな、という空気が流れ、ナベも一服し始めたが、思い出したようにトシに向き直る。
「トシ、ちょっといいか?」
「何だ?」
「さっきのチェーンソーもそうだけど、斧とか鉈とかも持ってきてんだろ? タツヒロの車じゃなくてコテージに入れて、人目に付かねーようにしねえ? 流石に一警官として、あんなのを外に置いとくのはちょっと・・・な」
ナベが気になってたことを伝える。
曲がりなりにも警察官としては、事件・事故発生の可能性を潰す事は、出来る限りやっておきたい。
車の中にドン積みは、イマイチ不安が残る選択肢だったのだ。
「うーん、そんなもんか? まあ現役の言うことならその通りにしとくか・・・。 じゃあ、飲み始める前にやっちゃうか!」
トシがナベに同意を示すと、タツヒロも頷き、車に向かいカギを開ける。
「トシ、俺の車にある分で危ないやつって全部だよな?」
「ああ、ナベの車の方にはキャンプ道具だけだ」
タツヒロの問いかけにトシが答え、ナベと二人で大き目の箱を持ってコテージに向かう。
タツヒロは、残った小さめの箱を持ってそれに続き、コテージの中の外から見えなそうな処へと荷物を運ぶ。
「トシ、ついでだから切ってある野菜なんかと、焼き肉用のタレを持ってってくれ。俺は肉と皿持ってく。タツヒロは買ってきた酒類のセッティングよろしく」
ナベからの指示で、いよいよ屋外焼き肉大宴会(仮)の準備が始まる。
それぞれが担当のモノをいそいそと準備し、ついに三人とも椅子に座り、開始の合図を待つ様な空気になった。
ナベが、バーベキューグリルから出来上がったリブを3つ取り出し、それぞれの前の皿の上に置いていくと、そのボリュームに否が応にも雰囲気が盛り上がる。
「さて、んじゃあ冷めない内に始めよう。とりあえず!」
プシュ!!!
「「「お疲れ~」」」
お互いが缶ビールでの乾杯のため、缶同士が当たった音こそ締まらないが、味には何も影響はない。
グビッ、グビッ、グビッ・・・
「あ~、旨ぇ~、ただただ旨ぇ~!」
「あ~、これこれ。労働の後はやっぱコレなんだよなぁ、俺は学生だけどな!」
「こういう外で飲むビールって、何か旨さのケタが違うよなぁ!」
三人がそれぞれで(ちょっとオッサン臭い)感想を吠えあっていると、唐突に周りの空気が変わった。
それに合わせて、三人にも異変が生じる。
「あれ? なんか変だな・・・、目が回る?・・・」
「ん? 疲れてるのかな、目眩が・・・」
「う、フラフラする・・・、具合がおかしい・・・ あれ?」
その瞬間、世界は暗闇に包まれた気がした
そして、その暗闇は始まりと同様、唐突に晴れる・・・
きれいさっぱり、何も残さずに、暗闇は晴れる・・・