表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
16/84

16話 そして、異界の夜は更け行く 1

 夕飯は豪華焼き肉大会になっていた。


 最初は、しっかり節約して一食でも多く備蓄から捻り出そう、という案も出たが、生肉などはどっちにしろ持たないので、保存の効かなそうなものは食ってしまえ!で結論が出て、飲めや歌えの大宴会になったのである(歌を歌ったとは言っていない)。

 タツヒロの、(寮での備蓄目的の)買い出し物資も、保存が効くものが主だったので二人からは先見の迷?を褒められ、全てコテージの食糧庫に仕舞われた。


 すっかり日も落ち、コテージの明かりと焚火の火に照らされたコテージ前は、振ってくるような見覚えのない星空と相まって、得も言われぬ雰囲気を漂わせている。虫が寄ってこないことを不思議に思いつつ、その“兵どもの夢の跡”を片付け、今は焚火を囲んだ食後のティータイムになっている。

 三人ともコーヒーとなり、甘いものを摘まみながら、先ほどの話しの続きが、始まろうとしていた。


「いやー、食った食った。ビールも飲んだし、肉も食べ終えたし、満足満足」

「食った食った。一家に一ナベ、だな」

「あ、それ賛成。一家に一ナベ」


 旨かった、の表現がそれかよといった表情で、ナベがタツヒロにお返しとばかりに、明日からの非常なる現実を告げる。


「そういやタツヒロ、明日から担当業務の狩りだからな? さすがの俺も材料無いと、何も出来ねーから、材料よろしくな~」

「ああ、それな・・・、いきなり明日からかあ? まあ、狩りが必要なのは理解してるんだが、そっかあ・・・、明日からかあ・・・、俺、医者だったはずなんだけどなあ・・・」

「おお、そうだ、その辺の話しようと思ってたんだ。ナベ、タツヒロ、明日以降の生活というか、やる事というか・・・、どうするんだ?」

「ん? どうするって?」

「何のこっちゃ?」


 トシは二人を向いて口調を改める。


「いや、文字通りのどうするか(・・・・・)、だよ。まず、今俺達に必要な事は、周囲の探索と食料の確保だ。これは外せないってのは判るだろ? ここがどういうところなのか、俺達は全く知らない。ここが平地なのか、丘の上なのか。どこまでも森なのか、すぐに森は途切れるのか。周りに人は居るのか、人跡未踏の地なのか。そもそもこの辺は気候が温暖なのか、寒冷なのか。そういった俺達を取り巻く周辺情報が、ほぼ不明なままだ。で、その上でだ、ここを拠点に生活するのか、ここを出て他所に拠点を探すのか・・・、その辺りをまず決めないといけない」

「ああ、なるほどな。そうだよな。今後の方針というか、方向性というか、それは決めないとな」


 タツヒロの返事を聞いて、ナベは珍しくトシに異論を唱える。


「いや、トシ、タツヒロ、その結論はもう少し先でいいと思う。まずは一週間、この辺の狩りと調査に専念する。周りの状況と、狩りの出来高を見て決めてからでも、何も遅くはねえ。その間に、俺たちはそれぞれのスキルを、使いこなせるようになってねーとな。どうするか(・・・・・)、はその状況も加味して決めねーと、色んな前提を見誤る事になんじゃねーかな・・・」


 言葉の勢いだけではない説得力に、トシはあっさり前言を翻す。


「ナベから意見とは、飯以外では珍しいな。そういう事なら分かった、それで行こう」

「ほう?、まあトシがそう言うなら、俺も特に異論はないな。ナベの言う通り、特にスキル周りはなるべく高めておかないと、ここでは生死に関わるんだろうからな」

「そういう事だ。まだまだ俺達なんざ、高める前(・・・・)の段階だからな、練習あるのみだ。トシはトシで今日、既にアビリティを獲得してる。そういうことをしっかりやってく中で、まずは一週間やってみよう。一週間後の時点での情報を基に、それ以降の方針を決めようぜ」

「それなら後で、ナベとタツヒロに少し見てもらいたい記憶がある。スキルの連携を設定したときのやつだ。二人に何らかの参考になればと思ってる。後で時間を取ってくれ」


 トシの提案を、タツヒロが了承する。


「分かった。しかし、あれだな、調べてないから当たり前だが、情報が足りな過ぎるな。この世界に来て、たったの一日目じゃ高望みなのかも知れないが、判断を下せないってのは、正直言うと困りもんだよ」


 ナベも同様な様子で、言葉を引き継ぐ。


「自分のスキルやアビリティさえ似たような状況だからな。ある意味、しょうがねえっちゃしょうがねえよ」


 そこでトシが話題を変えるようにスマホを取り出し、二人に見せる。


「それと、これ(・・)に関しても結論が出そうだ。良かったら。タツヒロもナベも、スマホ見てみろよ」


 そう言って、自分のスマホを触り始めたトシの言葉に、ナベもタツヒロもそれぞれ自分のスマホを確認し始める。


「いろいろあって、スマホをそんなにゆっくり見てなかったから、気付くのが遅れたが、これも、実はアーティファクトになってたよ。だが、機能は一部だけの維持に留まってるな。少なくとも、ネットには繋がらなかったな。ネットに関わるアプリは全滅だったよ」

「どれどれ、うお!?、ダメだ・・・、これは?・・・ダメだ・・・、うげ・・・これもかよ・・・」


 肩をすくめるトシの言葉に、慌てて、いくつかのゲームを起動し、落胆していくタツヒロ。

 それを、ナベが諦めさせようと説得し始めた。


「いやいや、タツヒロ、トシがネットは全滅だって言ったじゃん、ゲームは無理だって。男は諦めが肝心だ、って言うだろ?」

「そう言うけどなあ、ナベ、このゲームなんかさあ、それなり(・・・・)に課金してたんだよ俺・・・。診察時間の隙間を見つけてはさ、シコシコと頑張って育成してたんだがなあ、全部ダメかあ・・・」


 そこに口調を変えてトシが混ざってくる。


「タツヒロには残念な結果になっちまったな。でもなタツヒロ、ネットはダメだが、生きてる機能も一部あるんだ」


 そう言って見せて来たのは、八月三十二日(・・・・・・)を指す、横に八マス並んだカレンダーだった。

 曜日の色分けの無いカレンダーで、日付は基本的に黒、十日、二十日、三十日のみ、背景に赤地の丸があるり、今日の日付らしきところが、青くなっていた

 タツヒロもナベも、それを見て固まる。


「明日は九月一日らしいよ。そして、この機能も生きてる」


 今度は四つの数字の並んだデジタル時計だった。

 それを二人に掲げながらトシが説明を始める。


「最適化、と言っていいのか、この世界に合わせて調整されているがな・・・、と言ってもここの文明度次第では、これほどの正確な情報はこの三人しか知らない事になるが・・・」


 ナベが時計表示を見て呟く。


「時、分、秒までは分かるが、瞬ってなんだ? しかもこの瞬て、何気に速くね? ・・・しっかし、秒の下の時間があんのかよ・・・、っつーか八月三十二日って何だ? しかも一週間が、八日になってね? ・・・こういうの知ると、ここってやっぱ異世界なんだなあ、としか言えねーよなあ・・・」

「このペースだと、1瞬って0.5秒ぐらいか? それと1秒が10瞬だな、およそ、地球の5秒ってとこかな?」

「まあ、ナベもタツヒロもそんなに心配しなくてもいいはずだ。時間に関しては今まで通り、時分でいけるよ」


 そこでトシがスマホを操作して耳に当てる。

 突然、タツヒロのスマホの通話の着信音(・・・・・・)が鳴った。


「おい、これって・・・」


 タツヒロが恐る恐るスマホの通話ボタンを押すと、聞きなれたトシの声がスマホからも(・・・・・・)、トシの口からも聞こえてくる。


『これも生きてるな、タツヒロ』

『ああ、ちゃんと通話になってるな、トシ』


 タツヒロの返答を確認して、トシはスマホの終話ボタンを押す。


「じゃあ、今度は俺な」


 ナベがひとしきりスマホを操作した後、トシのスマホのSMSの着信音が流れる。


「ほう、やっぱりこれも生きてるんだな。番号での通信が出来たから、出来るかな?とは思ってたんだが・・・。SMSも大丈夫だと、応用範囲が格段に広がるな」


 トシがそう言いながらスマホのSMSを立ち上げると、短く『相田誠人 参上』という文面が確認できた。


「いや、族じゃねーんだから」


 お約束のツッコミを入れるトシであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ