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絶剣 ~世界を切り裂く力~  作者: 如月中将
第1章 渡りを経て
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15話 アーティファクト

「さて、まずは茶でも飲むか。ナベはコーヒーだな? タツヒロは?」

「俺は・・・、お茶にしよう」

「コーヒーなんだが、ちょ薄目がいいなあ」

「濃度指定とは珍しいな、では少々お待ちを」


 そんなやり取りの後、トシが、淹れたお茶やコーヒーを持ってテーブルに着く。

 コーヒーを受け取り、タバコに火を点けながらナベが尋ねる。


「で? さっきの話しの続きだが、何が判ったって?」


 タツヒロもお茶を受け取り、同じようにタバコに火を点けながら答えを待つ。

 トシは、ゆっくりとお茶を一口啜り、話し始める。


「車がどう変わったかの答えと、そもそも車もコテージも、アーティファクトに変わったのは何故なのか?の答え、というか推論だな」


 煙を吐きつつナベが促す。


「じゃあ、まずは車の方から聞きたいな」

「車に起きたことは二台とも同じだと思う。タツヒロ、さっきガソリンや軽油も創成出来るか、検討してくれって頼んだよな? あれいいや、解決した(・・・・)

「ん? どういうことだ?」

「実はな、あの二台はもう燃料が変わってる(・・・・・)。違うもので動いてるって話しだ。排気ガスの臭い、嗅いだか?」

「いや、特に臭いは気付かなかった(・・・・・・・)な」

「トシ、それって、俺がタンクに魔力感じた事と何か関係あんのか?」

「ナベ、勘がいいな。あのタンクからはコテージの分電盤と同じで、魔力を変える力を感じた。仮想転換炉(バーチャルリアクター)とでも名前を付けておくが、そういった術がかかっている様だ」

「バーチャ・・・なんだって?」

仮想転換炉(バーチャルリアクター)、ある種の力を他の力に転換する術式、とでも言おうか・・・。魔術を使う者なら、無意識でやってることを、その部分だけ切り取って術にして与えた、って感じなのかね・・・。今までは、ただの燃料タンクだったが、ガソリン風の何か(・・)と軽油風の何か(・・)に魔力を変換する機能、それと変換したそれを安定して溜めておく機能、この二つが付与されたタンクに生まれ変わってる。蓋の術については、放置されてる間に周りからマナを吸引する機能と、エンジンを掛けた瞬間に発動して、使用者の体からマナを吸引する機能の二つが設定されてたよ」

「ならトシ、中のガソリンや軽油はどこ行ったんだ?」


 ナベが至極当然の質問をする。

 が、トシの答えが少々澱んだものになる。


「そこがまだ、今一つ判んないんだよなあ。ガソリンも軽油もなくなったのか、何かに変わったのか・・・。一つ謎なのが、この世界で石油はまだ(・・)発見されてないっぽいんだよ」


 タツヒロが思い出したように問いかける。


「日本でも新潟の方で、臭水(くそうず)とか言って地表に湧き出てたよな? そういうのすら無いのか?」

「まあ、スキルに聞いてるだけだからなあ・・・、この世界の知的生命体に聞けば、また違うのかもしれんが、分析鑑定(万象)は既知の事象なら確実な分析鑑定が可能だ。少なくとも石油に関しては、とても既知とは言えない状況の様だな」

「そっか、車が変わった部分はそれだけか?」

「ああ、大きく変わったところはその辺だ。細かいところで変わった部分もあるかもしれんが、パッと見は燃料周りだ。後は全体に、修復と強化が施されてる。製品としての出来が良くなって、強度も上がってるのと、壊しても自己再生するな、これは」

「まあ、そういう意味じゃ俺の車は、所詮レンタカーだからな。変化を見逃してる部分なんて、いくらでも出てきそうだ。逆に、タツヒロの方が車の変化を見極められんだろ」

「あ!、・・・思い出した、二人も一緒に来てくれ」


 トシが一言叫んだあと、二人を連れ立ってコテージに向かう。

 コテージに着くと、トシがチェーンソーと赤い缶を持って出てくる。


「こいつがあったのを、すっかり忘れてた。まあ、こいつの場合は2ストエンジンだから、参考までに、ってとこか。まずは、燃料の確認だな。この缶の中身は、もう既に混合燃料にしてある。さて、どうなってるか・・・、いや、まずはこっちか」


 そう言って、チェーンソーのタンクを開けると、中を覗いて頷く。


「そうか、こうなってたか。ほら、中が見えるか? これは、ガソリンじゃない(・・・・)。混合燃料だった何か(・・)だ」


 そう言いながら見せてくれたタンクの中身は、銀色の粉が混じった様な赤い液体が中で動いている、十数個の赤い塊(・・・)だった。

 タンクを傾けると、赤い塊の中身と同じ様な銀粉入りの赤い液体が、その周囲を満たしていく。


「この液体と、この塊の中身って同じモノっぽいけど、どう思う?」


 誰とは無しに、タツヒロが疑問を投げかける。


「俺にも、そう見えるが、トシはどう思う?」

「ああ、同じモノだろうな。恐らくだが、この塊が周りの液体を生み出してるんだろう。そしてこの塊がこの中に入ってたガソリン、ってか混合燃料のなれの果て(・・・・・)だろうな」

「確かに、チェーンソー本体やタンクの部分から魔力を感じるが、そう言う事か。これもアーティファクトになった(・・・)のか」

「ああ、あの塊は魔力であの液体を生み出す為のコピー元の様な存在なんだろう。ナベ、ちょっとチェーンソーのエンジンかけてみてくれ」

「おう、ここ引くんだよな。・・・ふん!、・・・ふん!」


 グルルルーン・・・グルングルングルングルン・・・


「おお、トシの読み通りだ。今少し、液体が増えた!」

「そっか、こっちも少し持ってかれた。その分が液体になったのか?」

「そう考えてもらって、まず間違い無い。これが車のタンクでも起きてるはずだ」


 ナベとタツヒロが、得心のいった顔でトシを見る。

 トシがそのまま、言葉を続ける。


「ここがマフラーなんだが、排気ガスが見えない(・・・・)。これは2ストエンジンでは考えられない事態だ。もちろん、何らかのガスは排出されてるが、本来の混合燃料を燃やすとこんなもんじゃない、色も匂いも無し、とはいかないんだよ。これは、燃料自体が変化し、それを燃やすエンジンも微妙に変化してる結果だろう。そしてこれも、ご多分に漏れず全体に修復の術が付与されている」


 言い終えて、トシはチェーンソーのエンジンを切り、二人に問いかける。


「ここにあるアーティファクトに、ある共通点があるんだが、気付いたか?」


 ナベとタツヒロを見やり、トシが訊ねる。

 二人は顔を見合わせ、答えを探る。


「共通点? 修復の術、は全部に付与されてたよな、それか?」


 トシが、タツヒロの回答に応える。


「タツヒロ、全体だとそうだが、個々のアーティファクトについては、必ずしも当てはまらないよな」

「まあ、確かに」


 それを聞いて、ナベが答える。


「判った! 全部アーティファクトになった、だ! どうよ」


 言った本人は、答えが出ず、ネタで勝負に来たが、トシの反応は期待と違っていた。


「そう!、そこだよ! 何故(・・)、アーティファクトになったのか? それが問題なんだよ」


 そこで、トシは言葉を切って二人を見やり、再度、説明を続ける。


「同じように界渡りしたはずなのに、アーティファクトになってるものとなってないものがあるよな? 例えば、二人のその使い捨てライター、それがアーティファクトになってるの気付いてたか? それでいて、バーベキューコンロやテーブルなんかは元のままだ。つまりこういう事だ。“界渡りで失われそうな機能が代替手段で実現された結果、アーティファクトとなった”。この場合の代替手段は主に術の事だ。ありとあらゆる術を考慮し、地球での機能を実現する為に付与されていく。それが、これらのアーティファクトが出来上がったカラクリだ。・・・ただなあ、変化した過程とかまでは、まだ詳細不明な状況でな。神の見えざる手が働いた結果、これが起きたと言われても今なら信じるよ。ま、何はともあれ、実際のアーティファクトとその構成の詳細、これらを総合して分析した結果この結論に至ってる。二人も、これらのアーティファクトは、そうやって出来上がったものと思っててくれ。俺たちにとって全てのアーティファクトがこの世界を生きる上での生命線だ。細かいものなんかはもっと出てきそうだが、それはその時に調べよう。さて・・・、今日はこの辺で飯の準備に入らないと日が暮れそうだ、話の続きは飯が終わってからだな」

「確かにな、大分傾いてきた。俺は火を熾してくる。二人は食べるものを持ってきてくれ」


 食べ物の話になって、俄然仕切りだすナベの声で、三人は夕飯の準備に動き始めのだった。

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