12話 何も起きてない訳がない 2
トシとタツヒロが玄関から上がると、早速、キッチンで水音を立ててきたナベが、こちらにサムズアップしながら歩いてくる。
「予想通りだな。魔力を少し取られたが、ちゃんと出た。勢いも地球と変わらずだ」
それを聞いてタツヒロが、何の気なしにキッチンの照明スイッチに触り、照明を点ける。
「うお? こっちも生きてるのか? トシ、ナベが言う通り、スイッチを触った瞬間、魔力を取られた。ってか結構抜かれたな・・・何だこりゃ。ざっくりとした感だが、八割くらい?って感じで持ってかれたな。・・・どれどれ、蛍光灯の辺りの魔力はっと・・・、ん? 特に強くなってる感じがないな・・・、どうやって光ってるんだ? 明るさまで無駄に地球と同じぐらいだし・・・」
「八割? ・・・ナベ、魔力感知と精霊力感知で分電盤辺りを調べてくれ」
「了解、分電盤ね、・・・この箱だな、ってか一目見て分かった。分電盤の魔力がものすごいことになってるが、精霊力で特に強いものは感じないな」
脱衣所の上の方に在った家庭用の分電盤の前に立ち、ナベが少し大きな声で報告する。
「ナベ、試しにブレーカー落としてみてくれ」
「ブレーカー? ああ、・・・ほらよ」
「・・・トシ、蛍光灯が消えたぞ?」
「ああ、そういう事だタツヒロ。この蛍光灯は電気で点いてる」
「ナベ、分電盤辺りの魔力はどうなってる?」
「ああ、それは変わらん。かなり強く感じるままだ」
「よし、じゃあブレーカーは上げておいてくれ」
ブレーカーを上げたナベが、二人の元へ戻ってくる。
揃ったところで、トシが口を開く。
「何となく仕組みは分かった、後は風呂とトイレだな。そこの機能を確認しよう。それとタツヒロ、さっき、八割ぐらい魔力持ってかれたとか言ってたけど、体調は? 具合悪いとかはどうだ?」
「今は問題ない。魔力が無くなった直後は、多少、魔力が体を駆け巡る感じがあったが、今は落ち着いたよ」
「ホントか? 無理してないか?」
「無理? 全然? 全く問題無いな、無問題だ」
昔見た映画のタイトルを口にしながら、サムズアップを返すタツヒロ。
その様子に一安心しながら、トシは風呂場に二人を誘う。
「まずはシャワーを出してみるか・・・。ナベ、シャワーのスイッチ捻ってみてくれ」
「分かった、・・・よし、出たな。また少し魔力持ってかれたな。少しだが」
「魔力感知と精霊力感知はどうだ?」
「トシ、シャワーのスイッチの辺りから、シャワーヘッドの先端まで魔力を感じる、がパターンは他の水道と同じだな。捻った瞬間に若干強くなって、すぐに元に戻ってる」
「じゃあ、俺は精霊力を見るか。うむ、タツヒロが言ったのと同じ場所で水の精霊力と火の精霊力を感じる」
「なるほど、こっちは火と水の両方とも精霊力を使ってるのか・・・。じゃあ今度は風呂を沸かしてみよう。ナベ、この“自動”のボタンを頼む」
「ああ、そういや寮のやつと同じメーカーだったな・・・、ポチッとな。おお、今度はシャワーと比べて、結構取られたな。おおよそ三割、って感じだな。でも精霊力は感じないなあ・・・お? ちょっと外に行ってみる」
ナベは、そう言い残すと玄関へと走り出した。
「タツヒロ、魔力感知はどうだ?」
「ああ、風呂沸かしもさっきのシャワーと一緒だ。スイッチ入れた瞬間だけ増えて。また元に戻ってる」
「そうか・・・」
すると、外からナベの呼ぶ声が聞こえる。
「おーい、二人ともちょっと外に来てくれ。これ見てみろよ」
その声に、二人もコテージを出て、声のする方へ向かった。
ナベは給湯器の前に立って、給湯器を指さし、こっちこっちと呼んでいる。
「そいつが、このコテージ全体のボイラーか・・・」
トシの質問にナベが頷き、言葉を続ける。
「キッチンにも湯沸かし器は無かったから、本来ならこの給湯器で全てのお湯を賄っているはずだ。場所もちょうど風呂場の処だし、追い炊きも可能だろうな。でだ、この給湯器からもシャワーと同じく火と水、両方の精霊力を感じる。ということはだ、推測だが、こいつは直接繋がってる風呂だけで機能してるのかもしれない。まあ、このままキッチンのお湯でも出してみれば判るんだろうけどな」
「確かに、今までの状況からすると妥当な推理だ。タツヒロ、ちょっとキッチンでお湯出してもらえるか?」
「オッケー、ちょっと行ってくる」
しばらくしてタツヒロが戻ってきたが、予想通りキッチンのシャワーヘッドで魔力を取られたらしい。
こちらでも、精霊力が増えた気配はしなかった。
「おおよそ掴めてきたが、最後にトイレだ」
「ああ、それなんだがなトシ・・・、あそこ、あのマローダーの後輪辺りからこっちに向かってモルタルの床に蓋が並んでるだろ? おそらくあの辺が浄化槽だ。トイレの位置的にもあってると思う。でだ、その浄化槽と思しき辺りから、魔力と神法力を感じる。タツヒロ、何回もで悪りーが、トイレに入って水流して見てくれ」
「水流すだけでいいのか?」
「ああ、今はそれだけでいいだろ」
「オッケー、行ってくる」
タツヒロがコテージに入って少しすると、浄化槽の方から魔力と神法力の増大を感じた。
「うん、トシ、魔力と神法力、どっちも増えたな。増え幅は神法力の方が大きかった」
「そうか、これで一通り動作確認が出来た」
そこへタツヒロが戻ってきたので、トシがすぐに確認をとる。
「タツヒロ、トイレの水はどうだった?」
「ああ、地球と同じように流れてくれたよ。ちょっと安心した」
「水流した時に、魔力取られたか?」
「それも他の水道関係と一緒だった。レバーを引いた瞬間に魔力を抜かれた感じだな」
「そうか、すっかり他のと同じ感じだな」
一段落したところで、ナベが二人に告げる。
「トシ、タツヒロ、コテージ調査も終わったし、一休みしねえ? 車見るのはその後が良いなあ」
「あ、俺も賛成、一服しよう」
「だな、喉も乾いたし、休憩だな」
三人は休憩で合意し、コテージ前に広げたテーブルセットに向かっていった