11話 何も起きてない訳がない 1
トシが、その衝撃を受け止め切るまで、数秒かかった。
「・・・そっか、・・・判った。しかし、よくそれが判ったな・・・、魔力感知とかいうやつか?」
「ああ、それそれ。タバコ吸いながら話ししてる時にさ、俺とタツヒロと二人とも魔力感知持ってるから、どういう風になるのか使ってみっか?って流れになってな」
「ああ、発動して周囲を見渡したんだよ。そしたら、突然“魔力を感じる”っていう感覚がいきなり襲ってきてさあ、不思議な感覚だったよ。あと魔力が、何となくだけど見えたよ。それがコテージと車」
「そうそう、タツヒロに教えられてさあ、“コテージとか車とかおかしくね?”とか言うから見てみたら、ぼんやりと光ってる感じに見えたよ。俺ってさ霊感とかも無いからこういうの初めて見たからさ、今ちょっと感動してる」
「何がどうなって魔力を持ってるかは見当もつかないが、調べてみてもいいかもね」
興奮と困惑を足したような表情でしゃべる二人が、ようやく止まったのは、トシが歩き出したからだった。
「俺も二人に教えたいことがあったが、それどころじゃないな。ちょっと調べてみよう」
ついさっき、危ない道具類を仕舞いに来たときは、何ともなかった。
まあ、界渡り前なので、当たり前と言えば当たり前なのだが、あれから二時間も経ってないはずだった。
<レイチェル、目の前に立つコテージを鑑定してくれ>
<回答 畏まりました、マスター>
<告知 ・・・鑑定結果が出ました。あの建造物は全体で一つの魔道具のようです。使用されている術関連の詳細は不明ですが、ユニーク、若しくはディバインクラスと判断して差し支えないかと>
<ふむ、魔道具ねえ・・・。魔力感知がないからイマイチ実感が湧かないが、あのコテージに何かが起きた事は確かだな。レイチェル、あのコテージは界渡り前は普通の建物だった。空間ごとの界渡りに巻き込まれて、こちらの世界に来ただけなんだが、その過程で魔道具に変わる原因は何にあると思う?>
<回答 マスターの元いた世界を、地球世界として話を進めます。地球世界でのマスターの記憶を参照した結果、推論ですが“マナ濃度が、この世界と地球世界で著しく異なる”事が考えられます。マナのほとんど無い地球世界から、マナの豊富なこの世界へ界渡りしたことによって、“マナから、何らかの理由で影響を受けて、コテージがアーティファクトになった”、と考えるのが妥当かと思われます>
<うーん、これ以上は魔力感知とかがないと調べようがないか。魔道具ということは、何かすればその機能を使えるんだよな?>
<回答 はい。通常はその魔道具に触ってみれば、使い方が告知されますので、迷わずに使用が可能です>
<わかった、虎穴に入らずんば虎児を得ずだな、行ってみる>
コテージの前に立って二人を振り返り、声をかける。
「よし、ナベとタツヒロは魔力感知を起動したまま中に入ってきてくれ。で、何かあったらすぐに情報をくれ」
「了解」
「判った、が、入る前にそこの水道をチェックしてみよう。そいつからコテージ全体よりやや強めの魔力を感じる」
「ほう、この水道が?」
タツヒロの指摘で、建物の外にある屋外設置水道栓に近づくトシ。
さっき締めたはずの水抜栓を確認する。
当たり前だが締まっている。
おもむろに、水抜栓に手をかけ、捻ってみる。
その瞬間、何かが抜けていく感覚と同時に、水が出る。
「・・・何で水が出るんだ?」
トシの静かな驚愕に、一歩遅れてナベとタツヒロが付いてくる。
「この山奥にも水道って来てたんだ!、ラッキー・・・なわきゃねーわな・・・」
ナベのノリツッコミが弱々しい。
「トシ、今トシが栓を捻った瞬間だけ若干魔力が上がったが、今はさっきと変わらない魔力だな。どうやって出てきてるんだ?この水」
「俺が捻った瞬間だけ魔力が上がる?・・・。ナベ、他の感知アビリティって何持ってたっけ?」
「感知系か? あとは精霊力と法力と気配だな。どうした?」
「ナベ、精霊力感知でこの水道見てみてくれ」
「精霊力ね、了解! ・・・なるほど、さすがトシだな。水の精霊力が水道管の部分だけ周りと比べて強くなってる」
「!?、良く判ったな、トシ。the頭脳系、ってのは伊達じゃないな」
「水が、さっき捻ってから、止まらずに流れ出したままだ。そもそも、この水道管自体が水を生み出してるんだろう。それを可能にするのは、創造術の魔力じゃなければ、あとは水の精霊力しか考えられないからな」
「そういう事を推測出来るのが、スゲーよな・・・、よ〜し。トシ、中の水道も確認しようぜ。同じ状況なら水の心配だけはしなくて済むようになるし」
そう言って、我先にとコテージの玄関から中に入るナベ。
遅れてトシとタツヒロが続く。